そばにだっていさせてよ福沢諭吉side
武装探偵社の朝礼。
あくまで形式上であるため、太宰や乱歩はほとんど顔を出さない。まぁ、乱歩の場合は駄菓子を用意しておくと必ず参加しているのだが。
「今日は人が少ないな」
「あぁ、今日はナオミさんが学校でお休みなので」
私の疑問に答えるのは敦。確かに、ナオミの姿は見受けられないが、、。誰かが足りない。太宰も乱歩も今日はいる。二人ではない、、誰かが。
「あとは、与謝野女医から急遽休みの連絡がありました」
「休み?」
「?はい。体調でも崩された様子でした」
国木田の言う通りだ。確かに、与謝野がいない。
体調不良…として心当たりは一つ。女子社員にばれてしまえば変態社長と言われてもおかしくないかもしれないが、わかってしまうのは、仕方がないのだ。何年も一緒にいるから、とかそんな不純なことではなく。
「しゃちょ~、僕行きたいところあるからさ、会議さぼってもいい?」
名探偵の乱歩には、お見通しなのかもしれない。それもそのはず、与謝野と初めて話した武装探偵社の社員は乱歩だったわけだしな。
「あぁ、許そう。巾着持っていくの、忘れるなよ?あと、休みの件も」
「もっちろん!僕を誰だと思ってるのさ」
「そうだったな、」
乱歩はその場でくるりと一回転すると、扉を開けて会議室を出ていった。
「…社長、行かせてよかったのですか?」
「あぁ、元から行かせるつもりだったしな」
「はぁ…?」
国木田も与謝野の次に入ったのだからほかの社員と比べれば距離が近いと言えないこともないが、理解はしていないようだ。まぁ、そっちの方が普通だろう。
どっちみち、今回の件は乱歩が一番適している。本人たちは、無意識なのかもしれないがな。
***
与謝野晶子side
あぁ~、、本当に腹が痛い。
いや、分かってるんだ。原因が「生理」だってことくらい。
予定は確か4日後だったはず。だから油断していたのが悪かった。
妾は生理が重い。
初潮の時に気絶してしまい、社長に病院まで連れていかれた、らしい。実際のところはあまり覚えていないのだが。
だからこそ、自分の体調には気を付けるように言われてきているし、かかりつけ医も見つけてくれて、十代の頃は薬だって買ってもらっていた。
今だって、生理の期間の初めの3日間は月の休みをすべて使ってわざわざ連休にさせてもらっている。妾にできることは少ないが探偵社に医者がいないことが良くないことは分かっているし、連休を取ってみんなに迷惑をかけるのも本当に嫌だ。
しかし、医学を学んでいくと分かってくる。これは、仕方がないことなのだ。
もっと強い薬を飲めばいいのかもしれないが、社長からは副作用で何があるかわからないからと止められている。
ほかに可能性があるとすれば、病気くらい。だけどその検査にだってお金がかかる。お金がない訳じゃぁないけれど、それで何もなかった時に一番落ち込むのは妾。そうしたくないから、何となくの言い訳を並べてしまっている。
ピーンポーン
「よさのさーん」
うっすらと聞こえる声は、乱歩さんだろう。
いつも妾が休むときに来てくれるのは、乱歩さんだから。しっかりしたところもあるけれど、だらんとしているときの方が多いような気がする乱歩さん。そんな彼が毎回来るのには、何か理由でもあるのだろうか。
「おきてる?あけられるならあけて~」
聞こえているには、聞こえている。が、ドアは開けない、開けられない。体調が悪いことは分かっているだろうに、そんな人の家の前で声をはるのは非常識だろう。なんて、言いたいのではなくて。
普通に、ドアまでたどり着けない。
多分動いたら布団に血がついてしまっているのだろう。まぁ、普段仕事で血くらい見られているわけだからそこについては少しも気にしていない。
最初に言ったとおり、腹が痛くて、動けない。
そう、あけてあげたくても、開けられないのだ。
「と、りあえず」
すぐに手に届く位置に置いておいた携帯電話を手に取り、乱歩さんに電話をかける
と、ワンコールもせずに応答してくれる
『与謝野さん?どしたの?』
『かぎ、。あけたいけど、うごけない、ンだ。あいかぎ、か、ピッキングでもい、いから、』
『合鍵…、あっ、あった!じゃあ入っちゃうよ~』
『あ、あぁ』
ガチャ
すぐに、鍵が開く音がする。自分で開けられないのは、本当に申し訳ない。
「与謝野さん、ここ?」
乱歩さんはぴょこっと扉から顔を出してくる。
「あぁ、」
「まぁ~た朝ごはん食べてないでしょ!薬も飲んでなさそうだし…、あっ薬は僕が持ってるからご心配なく。何なら食べれそう?」
今回も、薬を持ってきてくれたのか。多分、机の上に置いたままになっているのを見つけて持ってきてくれたのだろう。
そして、正直に言えば、食欲はない。
が、こんなに優しくいってくれている人に対して、いらない、はないだろう。
「じゃぁ、わがし…、」
「ん~、わかった。ちょっと待ってて」
納得は…、してくれていないだろうがしょうがない。名探偵には食欲がないことくらいお見通しだろう。でもそしたら、何を持ってきてくれるのだろうか?
「与謝野さーん、起きてる?持ってきたよ」
「んん、」
起きているには起きてる。こんな腹痛で寝れるわけないじゃぁないか。
それはそれとして、とてもいい香りがする。前に看病に来てくれた時と同じ香り。これは…、
「卵雑炊だよ!ちょっとでいいから食べてほしいな?お薬飲めないんでしょ」
やっぱり正解。そして、薬を飲んでいないことだけじゃなくて空腹で飲めないことも知っているのは、きっと妾とずっと前から一緒にいるからなのだろう。
「ぁ、あ。ありがとう、らんぽさん。じゃあ、すこしもらおうかな」
鉛のような体を起こして、後ろの壁にもたれかかる。こうしなければ、体を保てないだろう。そんな気がする。
食欲はない、とさっき言ったが、この香りにはさすがに勝てない。こんなに良い香りをかがされたら、食べる、という他ないだろう。
「じゃあ、口あけて!食べさせたげる」
そう言ってフーフーと卵雑炊に息をかけている。
ん?今なんて言った?「食べさせたげる」⁈
「い、いや、さすがにじぶんでたべられるよ…、。」
「そんなにつらそうな顔してるのに?頼れる人には頼っちゃいなよ」
「で、でも、」
もう成人をした大人だからプライドがある。それに、相手は大人の男性。恥ずかしいのは仕方がないだろう?
でも、それだけじゃない。
忘れもしない、11年前。病んでしまって自分に居場所なんかない、とそう思っていた妾を救ってくれたのは、乱歩さんだ。そんな彼に、何度も何度も頼るわけにはいかないだろう。妾だってもう、あのころとは違うのだ。
「どうせ与謝野さんは迷惑とか、そういうこと考えてるんでしょ?」
「えっ、」
「そんなわけないじゃん、。いっつも優しくしてくれてる君のことを助けたいって何度思ったか。僕だけじゃない、みんなもだよ。だから、社長も今月の休みは今日からの三日間に移すから有給は使わなくていいって言ってくれてたし」
「それってどういう…、」
「頼るのに理由なんていらない、ってこと!」
社長、そんなこと言ってくれていたのか。体調が戻ったら、お礼を言わなきゃだな。
そして乱歩さんの言葉も確かに、そうなのかもしれない。でもこんなに頼るのが苦手な妾にそれを言われたって、というところもある。
「じゃあ、どうすればいいのさ。あたしは、ひとを、たよるのがにがて、だって、しってるだろう」
「じゃあせめてさ、僕がしてあげてること、受け止めて?」
「ぜんぶ、かい?」
「そういうことになるよね」
ぜんぶ、とすれば確かに行動としても理解としても簡単ではある。だがしかし、こちらにもプライドとかそういうものもあってすべてできるわけではない。
「さすがにそれは、」
「もうっ、与謝野さんったらわがままだなぁ」
それは、乱歩さんには言われたくない。が、そんなこと言ったらへそ曲げちゃうから言わないでおこう。言う気力ももう残っていないし。
「わかった!慣れるまでの最初はさ?そばにくらいいさせてよ」
それって、、
告白?
いや、それは大きく受け取りすぎか?
妾には、もうわからない。