好き与謝野side
数日前の依頼の時に使った車いす。それを片付けているときだった。
ふと思い出したのはあの日のこと、社長と乱歩さんが妾を森医師から離してくれた時のことだった。
『君の優しさが欲しいんだ』
その言葉にどれほど救われたか。数えきれないくらいだ。でも、そのことを彼がしっかり覚えているかはわからない。妾にとって車いすは、乱歩さんとの出会いが詰まっていると言っても過言ではないが、彼にとったらそんなこと、覚えていないかもしれない。
「はぁ、」
「与謝野さーん!ため息なんてついて、どうしたの?」
今日も今日とて手に棒付きキャンディーを持った乱歩さんが声をかけてくる。
「ん?あぁ、何でもないよ。乱歩さんこそどうしたんだい?もしかして怪我でもしたとか…」
「怪我はしてない!治療やだもン!暇だったからお話ししようと思って」
「ほんとにみんな治療を嫌がるよねェ」
「だって、」
「ははっ、まぁいいさ」
暇だから話し相手を求めて、ここまで来る。本当に乱歩さんは面白い人だ。ここに来たって妾がいなかったら話し相手なんていないじゃぁないか。
「とりあえず、そこすわってな。これ片付けたら話し相手、なってやるさ」
「ねぇ、与謝野さん?」
「ん?なんだい?これ終わってから聞くんじゃだめかい?」
「うん!今がいい」
ほんとにわがままだなぁ、乱歩さんは
「じゃぁ仕方ない。そっちは向けないが、話してくれても、」
「大好き!」
「へ?ど、どうしたンだい?」
唐突すぎないか、、告白⁈
い、いや、そういうんじゃぁない。乱歩さんの言う「大好き」はあくまで友情とか、そういう類のもの。それくらい、わかってる。
妾の「大好き」と違うことくらい。
「なんか、伝えたくなったから!」
「そ、そうかい…」
「あれ?理解してない?」
「?妾のことが好きなのだろう?」
ん~、何が言いたいのだろうか。
「僕は、与謝野さんに出会ったあの日から、ずっと好きなんだからね」
ぷくっと膨らんだ頬にはあの頃の、面影があるような気が、した。