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    ヲしお

    @310osio
    メモとかプロット、デジタル(ペンタブ&クリスタ)自主練とか。
    ※一次&二次創作、今は二次創作が多いです。

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    ヲしお

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    #イラストを投げたら文字書きが引用RTでSSを勝手に添える

    『今度の連休、お時間を頂いても?』
     恋人の入間銃兎に電話口でそう告げられたのは、つい2週間ほど前のことだ。
     その後もメッセージアプリでやり取りし、今日は連休のせまった木曜の夜。
     いつもなら「無理しないでください」「気にしないでください、また今度」なんて俺を気遣う言葉ばかり言うくせに、今回に限っては「金曜日の夜にお迎えに上がりますので、お仕事、必ず終わらせてくださいね」なんて念押しされてしまった。
    (珍しいな。入間さんがそんな風に言うなんて……)
     絶対にリスケしたくない。だから、今週はめちゃくちゃ仕事を頑張った。そして同僚や後輩にも「今度の週末は用事があるから!」と前もって伝えていたからか、スムーズに仕事が進んだ気がする。
    (まぁ、連休はみんなちゃんと休みたいよな……ははは……)
     とはいえ俺は、まだ会社のデスクへ座っているわけだが。
     23時も過ぎ、フロアの照明はほとんど落とされていて、光源といえば目の前のディスプレイ画面からの光りのみ。明日の午前中に必要だと言われた資料の確認が済めば、今週の大きな仕事はほぼ終わったようなものだった。
     資料の最終確認を始めようとした矢先、傍らのスマホが振動して、ロック画面にメッセージの一部が表示された。
    ―― こんばんは、観音坂さん。 ――
     差出人は、愛しい恋人。
     おそらく労いの言葉を送ってきたのだろう。すぐに応えてもいいのだが、終電に間に合うかどうかの瀬戸際だ。うっかりメールに気を取られて終電の時間が過ぎて「家まで送ります」なんてヨコハマから飛んでこないとも限らない。
     俺は心の中で入間さんに手を合わせながら、大急ぎで資料の確認を進めたのだった。

     メールは、ちゃんと終電の中から返した。

     翌日、金曜日の夕方。
     最後の訪問先であるシンジュク中央病院の玄関を定時に出た。同時に尻ポケットのスマホが鳴り、俺はすかさずそれを取った。
    『観音坂さん、お仕事お疲れさまです――で、よろしいですか?』
    「はい! さっき最後の仕事が終わりました」
    『ふふっ 頑張りましたね。では、待ち合わせの時間までは間(ま)がありますので、着替えを準備しておいて頂けますか?』
    「着替え……?」
    『はい。泊まりがけで出掛けましょう』
    「えっ 出掛ける、ん、ですか?」
    『お嫌ですか? せっかくの連休ですし、ちょっと遠出しましょう?』
     週末の約束だったし、入間さんの家かホ――ホテルへでも行くのかなとは思っていたが、『遠出』とは。
     着替えの準備をしろと言われた俺は、時間に余裕があったので一度帰宅することにした。
     一二三はすでに出勤して不在で、いつもならある夕食の準備はされていなかった。テーブルの上には旅行鞄と、『お土産ヨロシク!』なんて書き置きがある。
    「アイツまた入間さんと勝手に連絡を……!」
     書き置きの内容から、事前に一二三には週末の予定が入間さんから伝わっていたことが分かる。そして、寂雷先生から金曜の定時間際に来院を告げられたのは、今考えると一二三の手はずだったのかも知れない。
    (そういえばものすごくニコニコしてたわ、寂雷先生……)
     ああ、恥ずかしい……!
     俺は弛む口元をどうにか結んで、一二三が用意した鞄の中へ下着やら着替えを突っ込んだのだった。

     合流場所は俺のマンション前へと変更になり、時間通りに車が停車する。助手席の窓が下がり、入間さんが小さく首を傾けた。
    「お待たせしました」
    「いえ、こちらこそ……! いつもありがとうございます、入間さん」
     助手席のシートベルトを締めて顔を上げると、入間さんの視線とぶつかった。レンズ越しの瞳は街灯の明かりを反射して、艶っぽく輝いている。
     その視線に既視感があり、俺はとっさに顔を背けた。
    「……あ、あの! さすがに、家の……前、なので……!」
     おや残念、と入間さんが言いながらギアを切り替えると、夜の街を静かに車が発車した。
     首都高から中央道へ入り、車は1時間30分ほど走った(らしい)。
    「観音坂さん、着きましたよ。起きてください」
     肩を揺すられ目覚めれば、暗闇にひっそりと佇む宿が目の前にあった。建物自体は古めかしいが、部屋へ案内される道すがら、ひと目見て歴史のある由緒正しい宿なのだろうと知れた。
     部屋にはすでに食事が用意されていて、案内係が固形燃料に火を点す。その傍らで入間さんは飲み物を注文しているようだった。
     案内係が静かに戸を閉めると、俺は入間さんへ向き直った。
    「いっ 入間さん?!」
     思わず声がひっくり返る。俺の声に目を一瞬見開くと、入間さんはくすりと笑った。
    「どうしたんですか。ほら、食事にしましょう」
     観音坂さんも座ってくださいと促される。上着をハンガーへ掛けて、俺も入間さんと同じように胡座をかいた。
     しばらくすると飲み物が運ばれてきて、部屋の中はまたふたりだけになった。しばらくはもうだれもやってこないだろうと踏んだ俺は、再び口を開いた。
    「入間さん、なんでこんなところに……?」
    「遠出しましょうって言ったでしょ。ほら、グラスをこちらへ」
    「いやいやいや、待って。まず先に入間さんにでしょ。いや、そうじゃなくて!」
     なんでこんな高そうな宿へ連れてこられたんだ、俺は! 
     値段の高そうな場所へ連れてこられたのはこれが初めてではないが、それにしたって宿なんて。それに、さっき受付で二泊と言っていた気がする。
     グラスへビールを注ぎ合って、もう一度俺が「入間さん!」と呼んでも、楽しそうに「乾杯」と笑うものだから、俺もついグラスを掲げてしまった。
    「プハッ うま……! ねぇ、聞いてます?」
    「金曜日の夜のビール、最高ですね」
    「そうですね! いやあの入間さん、ちょっと!」
    「料理、温かいうちに戴きましょう」
     え、なに? なんで無視される? もしかして入間さん、怒ってるのか……?
     俺、何かしたっけ?
     頭の中をぐるぐるとさせながら考える。
     ……思い当たる節が多すぎて、どれに気を悪くしているのか皆目見当が付かない。分からん。
    「観音坂さん」
     ちびちびと熱燗に口を付けながら思いを巡らせていると、名を呼ばれた。顔を上げると、入間さんが困ったように眉を下げている。
     いや、困ってるのは俺の方なんですけど。
    「私が勝手にあなたを甘やかせたいだけです。お気になさらず」
    「甘やか、せ……。俺を?」
    「ええ。年末、お仕事大変だったんでしょう? 労わせてほしいんです」
    「えっ あ、そう……ですね」
     年末――本当なら入間さんと一緒に年越しするはずだったのだが、病院からの急な呼び出しに俺は対応したのだった。
     お猪口を回し、中に残った水分の揺れを見る。
    「でも……予定を飛ばしてしまったのは俺の方ですし、本来だったら俺の方が埋め合わせをしなくちゃならないのに」
    「今日は約束を守ってくださったじゃないですか。ありがとうございます、嬉しいです」
    「…っ…ん……」
     アルコールが回ってきたのか頬を赤らめさせて言う入間さんに、俺は息を飲んだ。潤んだ瞳が別のなにかの時を連想させて、思わず下腹に力が入る。
    「だ、だって……」
     じっと見つめてくる入間さんから目が逸らせずにいると、言い淀む俺に、促すように同じ言葉を繰り返す。
    「だって?」
    「……年末から、ぜんぜん会えなかったから……俺、頑張りました。公私混同もいいとこだ。そうだよ、アンタのために頑張りました、不純だけど」
    「誰かを危険に晒したり、犯罪を犯したわけじゃないでしょうに。別に、公私混同しても良いのでは? 良い結果だったんでしょう?」
    「この、悪徳警官……!」
     首を竦ませてくつくつ笑う入間さんに「褒めてないですから!」と俺はおしぼりを投げ付けた。

     連勤終わりの身体に入ったアルコールは、またたく間に全身へ回る。良い気分になって、そのあともグイグイ呑んだ。
     けっきょく温泉は入らずじまいになってしまった。
     浴衣へ袖を通していると、
    「朝風呂に入ればいいですよ」
     そう言いながら俺の腕を掴んで、布団の中へ引きずり込む。
     この人こんなに笑い上戸だったっけ、と思うくらい入間さんはずっと笑っていて、ご機嫌だった。
    「ねぇ、かんのんざかさん」
     舌っ足らずな声で俺の名を呼び、くすくすと笑って、指先が俺の頬を撫ぜる。
     入間さんの酔った姿を見たことなんて、ほとんど無い。
     俺もそこそこ呑んでいて、身体がフワフワしたように感じているけれど。痴態にも似た入間さんの様子から目が離せなくて、頭の中は冴え渡っていく気がした。
    「あなたの顔、もっと近くで見せてください」
     眼鏡をしていないので、見えないんです。
     俺の頬を擦っていた手が後頭部へ回り、ぐいっと引き寄せるように力を込めてきた。
    「………ッ…!」
     あ、そういえば。今日は、まだ――。
    「キス、しましょう?」
     ああ、同じことを考えていた。
     俺がまぶたを閉じると、唇に柔らかい感触が触れて、そしてすぐに離れる。再び訪れるであろう接触に備えてそのまま待っていたが、第二波が来る様子は一向に無かった。
    「いるま、さん?」
     ゆっくりと目を開けると、瞳を細めてじっと俺の顔を見つめていた。
    「……ねぇ、入間さん」
    「はい」
    「あの、なんだか……入間さんの方が甘えてるみたいな感じなんですけど」
    「そうですか?」
    「そうですよ」
    「…………会いたかったです」
     入間さんがまるで拗ねたように顔を歪ませる。
     その表情にどきりとして、俺は思わずこくりと喉を鳴らした。
     いつ見てもその姿はカッコ良くて、どんな場所へ行っても所作はスマートなのに、今そんな表情をさせているのがこの俺なのだと思うと堪らなかった。
    「俺もですよ、入間さん」
     笑ってみせると、入間さんも安心したように再び笑みを浮かべる。
    「あした、いっぱいしましょうね?」
     頬へ添えられた指に手を重ねると、とろりとした目がゆっくりと瞬きした。そして入間さんは満足そうに息を吐いた。
    「おやすみなさい、どっぽ……」
     俺の額にキスをして、入間さんはそのまま動かなくなる。
     互いの身体の隙間を埋めるように抱き締めて「おやすみなさい、銃兎さん」と声を掛けると、もう一度だけ額へ唇が触れる。
     しばらくすると規則正しい呼吸の音が聞こえてきて、彼が寝入ってしまったのだと知れた。
     俺は銃兎さんの胸に耳を寄せ、とくとくと心臓が鳴る音を聞きながら、ゆっくりと目蓋を閉じるのだった。
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    DONE #イラストを投げたら文字書きが引用RTでSSを勝手に添える『今度の連休、お時間を頂いても?』
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     その後もメッセージアプリでやり取りし、今日は連休のせまった木曜の夜。
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     絶対にリスケしたくない。だから、今週はめちゃくちゃ仕事を頑張った。そして同僚や後輩にも「今度の週末は用事があるから!」と前もって伝えていたからか、スムーズに仕事が進んだ気がする。
    (まぁ、連休はみんなちゃんと休みたいよな……ははは……)
     とはいえ俺は、まだ会社のデスクへ座っているわけだが。
     23時も過ぎ、フロアの照明はほとんど落とされていて、光源といえば目の前のディスプレイ画面からの光りのみ。明日の午前中に必要だと言われた資料の確認が済めば、今週の大きな仕事はほぼ終わったようなものだった。
     資料の最終確認を始めようとした矢先、傍 4314

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    tsuka_mori

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