4枚目
おとうさん=藍渙 パパ=江澄
わたしは、大きいおとうさんと小さいパパと一緒に暮らす猫です。二人がああでもないこうでもないと丸一日話し合いながら決めてくれた名前がありますが、かわいいねって言われるほうが多いからもしかしたら「かわいい」がわたしの本当の名前かもしれません。
大きいおとうさんはいつも白いシャツを着てわたしのご飯を用意してくれます。けれど撫でるのはおとうさんより、小さいパパのほうが上手。時々パパは知らない犬の匂いをぷんぷんさせて帰ってくるので、よその子に浮気して撫でているんだと思います。そんなときはおとうさんの膝に乗って抗議すると、パパは悪かったって、と言いながらわたしを抱き上げて代わりに空いた膝の上に座ります。そうやってソファの上でみんなでぎゅうぎゅうくっついて抱っこしてる時、わたし達はとてもしあわせです。
ある夜、わたしがベッドでぐうぐう寝ているとリビングからがたん、と音がしました。なんだろうと思ってそっと覗いてみると、パパが床の上で腹をみせて仰向けになっています。わたしもパパに可愛がってほしい時はそうするし、思ったとおり上に乗ったおとうさんがパパを撫でてあげていたので、やっぱり、と嬉しくなりました。
それからおとうさんは顔を寄せてパパのことを舐めていたので毛づくろいもしてあげているに違いありません。唇から耳の後ろ、首から腹まで丁寧に舐めたり触ったり、忙しそうに手を動かしています。そのたびにパパの足がびくびくと跳ねるので、思わず飛びかかりたくなる衝動をぐっとこらえました。だってわたしはかわいいだけじゃなくて、おりこうな猫なので。
それにしても、パパがとても気持ちよさそうな声をあげているので、本当はおとうさんも撫でるのが上手なんじゃないか、わたしには手を抜いてるんじゃないかと疑ってしまいます。
わたしも混ぜて、とふたりのほうに行こうと思ったら目の前にぽいっとパパの靴下が落ちてきて、一気にそちらに気をとられてしまいました。わたしはパパの靴下が大好きなのです。靴下ひとつもらっていくね、と小さな声でにゃー…と声をかけると、パパは毛づくろいが気持ちよくてそれどころではなさそうでしたが、おとうさんがちらりとこちらを見て一回だけ瞬きしたので、いいよって合図かなと靴下を片方だけ咥えました。
そうしてる間にパパの服はぽいぽいと散らかって、おとうさんももうわたしの事を見てはいなかったので、わたしは手に入れた靴下を大事にベッドに持ち込んでもう一度眠ることにします。リビングから聞こえてくるパパの気持ちよさそうな声は、ちょっとだけ、春先に外から聞こえる盛んな猫の声に似ているような気がしました。
次の朝、服が散らかったままの部屋を横目にソファで狭そうに眠る二人のところに行って、そろそろ構ってよ、と鳴くと、目を覚ましたおとうさんが撫でてくれました。やっぱりあんまり上手じゃなかったので、この人はパパのことしか気持ちよくできないんだなあと、すやすや寝ているパパの顔をみながらほんの少し羨ましい気持ちになったのでした。