キス高校何年生だったろう。
毎日つるんでいた友達のうち1人。山田。
急に付き合いが悪くなった。
一緒に帰らない。
マックも付き合わない。
ゲーセンで無駄遣いもしない。
地元の床屋じゃなくて美容室に行って、ある日、鼻の穴を膨らませ、胸を張って宣った。
「彼女ができた」
仲間内で、マジかよーとか、ムカつくとかふざけて笑っていじり倒しながら、内心ショックを受けていた。
おれ達は、進級するみたいにせーので大人になるんだと思っていた。
突然そいつが大人になったようで、置いていかれたような、裏切られたような気分だった。
「キスした」
「セックスした」
おれの(俺達の)ショックに気付くこともなく、山田の報告はあっという間に行くところまで行き着いた。
しかしその後、最初は興奮気味に語られ、聞いていたその話は、だんだんと温度をなくしていった。
「キスもさ、初めてん時はどうしていいかわかんなくて、めちゃくちゃドキドキしたけど、もう慣れ?作業っつーか、ヤる前の儀式みたいな?ぶっちゃけキスはやんなくてもいいや」
ふーん、そんなもんなのか。とよくわからないまま聞いていた。ただ、初めて聞く生々しい性の話は魁斗の記憶に深く刻まれていた。
(んなの…嘘じゃん)
剣だこのある、硬い手の平がこちらへ伸びてくる。頬に優しく触れて、耳たぶを擽り、耳の穴をするりと撫でられればこそばゆさに体が震えた。
逃がしていた視線を上げれば、紫色の宝石がこちらを見つめている。
勇ましい眉の下で、慈愛を固めたような柔らかい目線。
いつも一緒にいる。話す時は目が合うし、それに慣れている。だが、常時の視線とこの視線は違う。
求められている。
これからの展開を予感させる、熱の籠もったそれ。
整った顔が近付いて、目を伏せれば当然のように唇が啄まれた。
薄く、柔らかく、薄い皮と湿度を感じるそれが、つんと唇を食む。
舌先が歯列をなぞるので、少し口を開けば、ぬるい舌が侵入してくる。
キスに味なんてない。
ただ、柔らかくかたい舌が、本来ものを食べるために蠢くそれがまるで味わうかのように、口の中を乱してゆく。
食われる。
食われたい。ぜんぶ。差し出したい。
敏感な箇所をなぞられれば背筋が粟立つ。
震える背中を大きな手の平がなぞり、腰に周り、引き寄せられる。
体と体でキスしてるみたいに擦り寄せあえば、下半身にダルい熱が募った。
したい。
羞恥心で伏せていた瞼を持ち上げれば、欲を孕んだ瞳とぶつかる。
おい、山田。
キスって何回すれば慣れるの?
やんなくていーや、ってマジで?
お互い吐息が混ざるような距離でルカが「魁斗」と囁けば、ぞくぞくと興奮が駆け上る。
なぁ、見てる?(わけねーけど)
なぁ、すごくない?
この距離で、他の誰でもないおれだけを見つめて、求めてるんだぜ?
腕を持ち上げ、褐色の鍛えられた首にそっと絡める。少しだけ背伸びをし、その唇に噛み付いた。
きっと、今の自分はあの時の山田のように鼻の穴を膨らませてドヤ顔してるのだろう。
そして記憶の中の彼らに対し、高らかに宣うのだ。
「ルカ相手にキスなんて、一生慣れるわけねーじゃん」