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    kana_ta1001

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    既婚♀主人公の自宅にするりと入り込む宅急便のお兄さん桑名のアブナイお話

    宅配便のオニーサンな桑さに四月になって彼女の家に来るチャネコ配達の配達員が変わった。今まで気のいいおじさんだったけれど、二十代と思われる若い男性になったのだ。とは言っても、前髪で顔半分隠れているから本当に二十代なのかは分からない。
    「こんにちは。荷物届いてますよぉ」
    いつも穏やかな声で挨拶をしてくれる彼。桑名、というらしい。共働きの彼女は買い物代行を利用していたので、週に一度は桑名と会話をした。それ以外に通販も利用していたので顔見知りになるのも必然的だった。
    「今日から梅雨に入ったそうだよ」
    「そうなんですね」
    またある日は。
    「いつもより帰りが遅かったねぇ、お疲れ様」
    「再配達ありがとうございます。桑名さんもいつもすみません」
    「大丈夫だよぉ、仕事だから」
    じわじわと、距離が近付いていた。彼女の左手の薬指にあるシンプルな鈍色の指輪は何度も危険信号を出していたのに、彼女は気付かない振りをしたのだ。その日は突然やってきた。季節は巡り、夏真っ盛り。伴侶が長期出張である為に、休日をのんびりと過ごしていた彼女の自宅のチャイムが鳴る。
    ピンポーン
    「誰…?」
    インターホンの画面を確認した彼女は息を飲む。桑名だ。いつものキャップを被り、いつもの制服に身を包んだ彼が立っていた。
    「頼んでないけど…」
    首を傾げながら応答する。
    『こんにちはぁ。荷物届いてます』
    「荷物、何も頼んでないですけど…」
    『“奥さん宛に届いてます”よぉ。確認お願いします。あとトイレ貸してくれないかなぁ』
    相変わらずのんびりとした口調だった為に、彼女は吹き出して玄関の鍵を開けた。
    開けてしまったのだ。
    「どうしたんですか、珍しい」
    「荷物確認する前にトイレ貸してくれたら嬉しいんだけれど」
    ずっと我慢していたんだ、と口元を大きく開けて笑う桑名に、不信感など微塵も湧かなかった。どうぞ、と彼女は部屋の中へと誘う。トイレくらい、貸そう。それくらい距離が縮まっていた。
    「ありがとう」
    桑名はそう言って後ろ手で鍵をガチャ、と閉めた。一瞬の静寂の後、彼女は桑名を見る。
    「…桑名さん?」
    玄関に立っている桑名はいつものにこやかで爽やかな宅配の人間ではなかった。外は三十度を越え、立っているだけでも汗が吹き出す気温。桑名のこめかみから汗がたらりと流れて顎を伝い、ぽとりと制服に落ちた。
    「無用心だね、“奥さん”」
    荷物など最初から持っていなかった。密室には自分と伴侶以外の男性の二人だけ。彼女は初めて自分の置かれている立場に気付いたのだ。クーラーがきいているにも関わらず、彼女の背筋に汗がたらりと流れ落ちた。桑名がゆっくりと近付いてくる。言い様のないぞわぞわとした恐怖が彼女を襲う。
    声をだせば、助けを、いや、自分から招き入れてしまっている。桑名の手が彼女の頬に触れた。その手を払おうとした彼女の左手の薬指の指輪が鈍く光る。いつもは見えない、厚い前髪に隠れた瞳が初めて見えた。後戻りは出来ないよ、と言われているようで、彼女の左手が力無く空を切る。
    「“お届け物ですよ、奥さん”」
    そう言って、桑名はそっと顔を寄せた。
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