私はカフェラテに砂糖を入れる。普段はまぁ、コンビニのカフェラテにも入れるし、家でも温めた牛乳に粉コーヒーを入れて、たっぷりはちみつを入れる。でもある時だけは入れない。願掛けのようなものだ。
目の前の肥前は気難しそうな顔をしている。そんな顔で飲んでいるのは砂糖とミルクがたっぷり入ったカフェラテ。更に喫茶店のマスター手製のベイクドチーズケーキに舌鼓を打っている。失礼ながら顔に似合わないなと思うことは黙っていよう。私はブラックコーヒーを啜る。鼻を抜ける香りと目の覚めるような苦味が口の中で主張しながら腹の中に落ちていく。
「…何見てんだ」
「いいえ。美味しそうに食べるなぁと思いまして」
「…」
私の言葉にチッと舌打ちをした肥前はまた、視線をチーズケーキに戻す。
「やんねえぞ」
他愛も無い話をする私たち。
肥前と私はいわゆる友人同士。
不透明で、不明確な一本の糸で繋がっている私と肥前。たゆんだ糸はまだ繋がっているけれど、どちらかが反対側を向いたら即切れてしまう。切ってしまう事は簡単なのに、お互いしない。
そんな、不安定な関係性の私たち。
「そういや休みにおれと会ってていいのか?」
「こうなるの、分かってて連絡したんでしょ」
「まぁな。聞いてみただけだ」
「肥前は?」
「…別にいいだろ」
少しの沈黙の後、肥前は乱暴に視線を逸らした。嘘が吐けない肥前。ズキリと、胸が痛む。それも、分かっていた答えではあったけれど。
「…そう」
私はそれだけ言うとコーヒーに口をつけた。苦い苦いブラックコーヒーは私を落ち着かせてくれる。