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    ryonaka220679

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    ryonaka220679

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    けんちゃんが生前の傑に会いにいく話。五夏。
    傑が信者を養分としかみてない。

    アゼレアに捧ぐ生前の夏油傑に会ったことが一度だけある。
    彼の呪霊躁術に興味があった。いずれその身体が終える時、是非とも私のものにしたいと常々思っていた。その下調べといったところだ。
    そして、何より五条悟が惚れた相手というものが、どんな男なのか知りたかった。
    いずれ私の目的のために、立ちはだかるであろう障壁。せっかく何百年もかけてコツコツと準備してきたものが、こいつ一人に台無しにされる可能性は大いにあった。
    夏油傑の存在は、彼が高専に入学する前から認知していた。
    どうやら呪霊を喰らう術師がいるらしい。
    そんな噂を耳にしてから、私は彼の動向を密かに追っていた。呪霊操術の出現は稀で、いつかは欲しいと狙っていたのだ。夏油の前の呪霊操術の使い手は、百年ほど前に遡る。日清戦争が始まる少し前。大正時代に存在していた。その術師は、その術式を後世に残すことなく若くして亡くなったようだ。呪霊を胎に収める術師は他の術師から嫌悪され、誰ともつるむことなく、その生涯を終えたという。
    男性なのか女性なのか、どこの生まれでどのように死んだのかも記録されておらず、ただ、そのような術式を持った術師がいたという伝承と文献が残されているだけだ。


    夏油傑が高専に入り、五条と同級生になったと聞いた時は、なんて数奇な運命なのだと思った。
    あまつさえ、彼たちは相思相愛の如く、共に歩み共に生きるような存在になった。
    そんな様子を聞いて、もしかしたらこれは使えるかもしれないという可能性を思いつくに至り、夏油が高専から離反し、新興宗教の教祖になった頃合いを見て近づこうと考えた。
    彼の身体を奪えたタイミングによっては、彼のフリをして五条と接触する可能性もあるのだ。生前の彼の姿を一度見ておく必要があった。

    当時の私は地方の女子校に通う生徒だった。
    額の傷は前髪で隠し、セーラー服を着こなす私は、ごく普通にクラスに溶け込んでいた。女子高生という存在は実に面白かった。
    妬み、哀れみ、愛憎、承認欲求。思春期の女子は、さまざまな感情を内に抱いていて、私を楽しませてくれた。
    そんな折に、一人の使えそうな少女がクラスメイトの中にいた。
    学校で1番美人だと称される少女はクラスメイトから疎まれる存在だった。担任である男性教師の覚えが、特別良かったからだ。贔屓されている。そう陰口を叩かれ、仲間はずれというのは優しい表現すぎる。要はいじめられていたのだ。
    彼女に開き直れるほどの度量があれば、良かったのだろうが、見た目以外はごく普通の少女だった。普通に傷つき、普通に今の現状に耐えられない。だから、普通でない私は少女に声をかけた。

    「森さん、なんだか最近困ってるみたいだよね? 私、他の子が見えないものが見えるんだ。クラスの子が森さんに意地悪するのも、それのせいなの。私森さんについてるものを祓ってくれるところを知っているんだ。一緒にいこうよ」

    何度もいうが、彼女はこのとき大層追い詰められていた。
    通常のメンタルならば、私の言葉など流して終わりだ。こんなオカルトチックなことをすんなり受け入れるほうがおかしい。
    しかし、追い詰められていた彼女は私の言葉に耳を傾け、藁をも掴む気持ちで私の手を取った。自分に話しかけてくれたクラスメイト、その要素が大事であって私の話した内容はどうせも良かったのだろう。
    当然ながら、彼女に呪霊なとついていない。
    呪霊のついていない普通の人間を、彼はどう対処するのか。そこが知りたかった。

    「本当にここであってるの?」

    「うん、立派な建物だよね」

    夏油の所有する宗教団体。私の美的センスからするとあまり趣味の良い外観とは言えなかったが、素人のハッタリには精錬られてデザインよりも、奇抜な建物の方が目を引くのだろう。
    率先して歩く私の腕にしがみついて、少女も中に入る。
    外観とは異なり、エントランスは装飾品も少なくさっぱりとした作りになっていた。程なく約束の時間になると、髪を片側に流した、見目麗しい女性が受付をする。男性ならば、この時点でだいぶこの宗教団体に興味を惹かれるだろう。

    「佐藤様のご紹介でいらした方ですね。今日はどちらのお嬢さんを診ていただきたいのですか?」
    「私が佐藤さんの知り合いで、診てほしいのは友達です。この子、最近、不幸なことばかり起きるんです。何か悪い憑きものが憑いてるんじゃないかって思って診てもらいに来たんです。森さん、そうだよね?」

    コクコクと彼女は無言でうなづいた。診てもらうがどういうことなのか不安はあるようだが、私に友達と言ってもらったことが嬉しいようだった。

    「そうですね……教祖様に確認をします。お部屋へご案内しますので、そちらでお待ちください。教祖様はお忙しいお方ですので、謁見が叶わないこともあります。ご承知お気を」

    案内された部屋はあまり広くはない和風の一室だった。どれだけ待たされるのかも分からないし、もしかしたら会えないかもしれない。少し様子をみようと、「ちょっとお手洗い。すぐ戻るからここで待ってて」そう言って、部屋をでた。
    他の人に見られないように、コソコソと身を隠しながら、施設内を探索する。大人二人の会話の声が聞こえて、さっと観葉植物を影にしてしゃがみ込んだ。

    「……それで、呪霊は?」
    「ついていません、でも、佐藤氏の紹介となると、無碍にするのも……」
    「あんなハゲおやじでも、県会議員だからねぇ」
    「とても美人な少女でしたよ。警戒心は強そうでしたが」
    「ふぅん」
    「お会いになられますか」
    「そうだね、会っておこうかな」

    思ったよりも、落ち着いた声の持ち主だった。見た目は塩顔のイケメン。上背もあるし、男性としては魅力的な部類だ。
    これなら、私が身体を貰い受けるのも悪くはない。こう見えて、私は面食いなんだ。
    以前、写真で見た五条悟は、甘めな顔立ちのイケメンだったから、種類が違うようだ。
    二人が並んでいれば、さぞ目の保養になったことだろう。
    数年前までそれが実現していたのだから、一度何かしらの用を立てて、見に行けば良かった。

    私は慌てて、友人がいる部屋に戻る。そこからたっぷり1時間は待たされて、ようやく勢いよく引き戸が開かれる。

    「お待たせしたね」

    ……まったくだよ、この私をこんなに待たせるなんて。待つのは苦ではないが、決して好きなわけではないのだ。
    ふと、隣の少女を見ると、ポカンと口を開けて呆けている。
    怪しい宗教団体の教祖というから、おじさんとかお爺さんみたいな男を想像していたのだろう。それが塩顔イケメンの美丈夫が現れたのだから、良い意味でギャップを感じたらしい。人は期待値が低いほど、上回った時の感情の振れ幅が大きい。逆もまた然り。
    やはり外見が良いというのは、この世で最もアドバンテージが高い。私が千年生きたなかで得た1番の知見だ。時代の流行りで好まれる美醜は変わるものの、人の本質は変わらない。見た目で得をするというのはあるのだ。今、隣にいる少女は得ばかりではないようだが。

    「髪の短い子の方が今日診てもらいたいのかな」
    「は、はい」

    黙る少女を右肘でこづく。と呆けていた彼女が現世に戻ってきたようで、小さい声で返事をした。
    私は夏油が来たら絶対に声を出すまいと決めている。こんな若造が私の正体に気がつくとも思わないが、用心しておくに、こしたことはない。

    「最近嫌なことばかりが周りで起きるとか」
    「…………」
    「言いづらいこともあるかもしれないね。でも、見ず知らずの人間に話すことで楽になることもあるんだよ。良かったら、話してみてくれなかな」

    黙り込んだ彼女に、夏油がもう一度優しい言葉を与えると彼女はおずおずと現況を語りだした。

    「初めては、クラスの中心みたいな女の子グループの無視から始まりました。そのすぐあとに、有る事無い事書かれた紙が、黒板とか掲示板に貼られるようになって、その、私と担任の先生が、とか、ウリやってる、とか、そんな、そんな私、そんなことしてないんです。そしたら、他のクラスの子達からも、嫌なこと言われて」
    「それは、辛かったね。きっと私にも言えないようなこともされたんだろう」

    そう言って、夏油はスッと彼女の近くにきた。そして、彼女の背中に手を回すと、ぽんぽんと優しく2回叩いた。彼女の拙い説明だけで全てを理解したのだろう。実際、彼女はダイレクトに死ねだのインバイだの人権を否定するようなひどいことも言われている。それを理解して飲み込んで、包み込んで言葉で返す。実にスムーズなフォローだ。

    「泣きたいこと、反論したいこと、いっぱいあっただろうに、我慢してきたんだね。もう我慢なんてしなくてもいい。君が君らしくあること、それを何人たりとも侵害する権利なんてないんだ」
    「で、でも、どうしたら」
    「特別なおまじないをかけてあげようか。このおまじないで、君にかかっている呪いを祓ってあげよう」

    そういうと、夏油は彼女の右手をとり、自分の右手の指を絡ませた。

    「私の手には力が宿っている。辛くなったら私を思い出して。そして声をあげるんだ。やめて、やめろと。そして、机や椅子の一つでもぶん投げてあげればいい。でもね、もうひとつ出来ることがあるんだ」

    もう少女は夏油の琥珀色の瞳に捉えられて、一瞬たりとも目を離さず、その言葉に耳を傾けていた。

    「それは、他者に無関心になること。君を見下す人間はその実、君が羨ましいんだ。自分はもっと高次元の存在である。そう認識すれば、もう何も気にならなくなる。だから、辛くなったら、私を思い出して。自分は下賤の者たちとは違うと思えるだろう?」

    ああ、こうして五条もこいつにハマったのか。これはとんでも無い毒だ。いや、麻薬か。
    自分を心の支えとさせることが、こんなにスムーズに出来る人間など、千年生きたなかでも会ったことはない。
    それにしても、五条悟のことが少し不憫に思える。ズルズルと深みにハマって戻れなくなったところで、梯子を外しもう会わないなんて、夏油はとんでもない悪人じゃないか。
    非術師を殺しまくっている悪人に違いはないけれど、そうではなくて。きっと五条は夏油が離れてから、ずっと飢えていることだろう。それを自覚している気配がないのが、本当に悪い。悪い男だ。

    「あ、あの、私はあなたのことをなんてお呼びすればいいのですか」
    「私は夏油、夏油傑」
    「げ、夏油、さま……?」

    彼女が自分に心酔する様子をみて、夏油は営業用と思わしき笑みを浮かべた。

    「また、いつでもおいで、待ってるよ」

    ごく軽い口調で言ってくれるが、今日、夏油に会う為に20万円も支払っている。流石に少女に20万円を払わせるには無理があったため、半額は私が出した。
    もし、また来ることになれば、彼女は自腹で20万円を払うことになるのだが……。
    会いに来るのだろうな。少女の心はもう教祖様に囚われてしまっているようだ。
    騙されると分かっているのに、自ら進んで堕ちていく。
    ーーーーこれだから、人間は面白い。

    「さて、隣にいる君も私に用事かい」

    急に私に話しかけられて、流石に多少の動揺が出た。慌てて、首を横に振る。

    「そうなのかな。私には、何か悩み事を抱えているように見えるのだけれど」
    「…………」

    じんわりと額から汗が流れた。流石特級術師。私相手に相対する胆力を持つとは。並大抵の術師が浴びたら、生きた心地がしないだろう。
    黙り固まった私に、隣にいた少女は申し訳ないと思ったのか、夏油に後ろ髪を引かれつつも、「今日はこの辺でお暇いたします。行こう」と私の手を引いてくれた。
    正直、助かった。
    夏油は、気がついていた。私が夏油の肩に乗っている六つ目の呪霊を見えないフリをしていたことに。
    ……なんて、食えない奴だ。時が来るまで、しばらくは身を潜めていよう。この少女の身体ともお別れだな。気に入っていたのに。
    そして、私は時を空けずに女子高生の身体は捨て、別の肉体へと移った。

    その後、件のクラスメイトは学校を辞めたらしい。
    とある新興宗教にのめりこみ、多額のお布施を納めるために、身体を売るところまで落ちた。という噂を耳にした。清純無垢な彼女がまさかと皆が言い、信憑性がない噂だという人もいたが、私はまあそうだろうなと思った。
    可哀想に、夏油に出会わなければ、イジメを乗り越えていずれは普通の女の子として幸せになる未来もあっただろうに。


    「……キッショ」

    念願の夏油の身体を手に入れて、初めて口から出た言葉だ。
    五条の一方的な片想いだと思っていたのに、夏油も大概だ。目を閉じると浮かんでくるレベルで五条の若い頃の記憶ばかりが鮮明に残っている。
    相思相愛ってやつか。
    それ以外は、家族と称し愛でていた呪詛師の連中と、高専時代の友人たちの記憶。そして、星漿体だった少女の笑顔。それだけが、夏油の記憶に残されている。
    無論、過去出会ったはずの女子高生だった少女、全てを犠牲にして夏油に貢いだであろう、彼女の記憶など、一ミリも残されていないのだった。

    「やっぱ、使われる側より使う側にならないとね」

    ようやく馴染んだ体。
    もう間も無く、私の望んだ世界が実現する。
    懐に忍ばせた獄門疆。そして、最強の男が唯一愛した男の肉体と魂。
    そう、全てのピースは私の手の中にあるのだから。


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