「…つや!、三ツ谷!」
ゆさゆさと小さな手に肩を押されて三ツ谷は緩やかに覚醒する。カーテンの隙間から見える空はまだ薄暗い。もう少し寝ていようよと寝ぼけ眼で呟いて、隣にいる妹を抱きしめた。……ん?妹?
抱きしめた体の大きさから、つい妹と判断したが三ツ谷は昨日大寿の家にお泊まりしているはずで、したらば、同じベッドで眠っているのも恋人の大寿であるはずだ。でも抱きしめている体はやはり子供サイズである。
現状が理解出来ず、三ツ谷が動かないでいると腕の中の子供はバタバタと暴れだした。
「いつまで寝ぼけてんだ!起きろ!」
「え、あ、ごめん」
三ツ谷が腕を解くと子供はやっと解放されたとばかりに起き上がる。目尻の上がった金色の瞳に、グッとつり上がった眉。外にはねた暗色の髪は子供特有の柔らかさを持って光の輪がつやめいている。以前写真で見せてもらった小学生の頃の大寿くんそのものが、なぜかベッドに座っていた。
「た、いじゅくんでいいんだよね?」
「…ん」
「えっと、どういう状況?」
「…お前が何かしたんじゃないのか」
「なんで俺!?」
いや、確かに三ツ谷には前科がある。というのも、だーーーいぶ前、初夜終えてすぐの頃に媚薬を盛ろうとしたことがあった。大寿の類まれなる危機回避能力によって結局未遂に終わったが。
そもそもコ○ンくんの世界じゃないんだから薬で体小さくとか無理でしょ。大寿くんに体の構造変えるような危なそうな薬飲ませるわけないじゃん。と三ツ谷は思いつく否定の言葉を並べ連ねる。
大寿は嘘じゃねぇだろうな、とじっとり睨んだが、三ツ谷のいやいや違いますと首を振り慌てふためく姿を見て本当になにもしていないようだと分かると、元に戻る頼りがなくなった為か打って変わって不安げな表情になった。三ツ谷は大寿を引き寄せ不安を拭うように優しく肩を抱きしめる。
「中身は変化ない?昨日の記憶とか」
「多分。昨日お前とシチュー食ったことは覚えてる」
「良かった。体調は?しんどくない?」
「しんどくはない。けど、」
言い淀んだ大寿に、やはり何か副作用があるのではと三ツ谷が額や首に手を当て体温を確かめようとすると大寿が三ツ谷の手を引き止めた。
「、、腹の奥が、」
「痛い?気持ち悪い?」
上も下もサイズのあっていない服を着ているのだ、体が冷えたのかもしれない。子供の体調なんてすぐコロコロ変わるものなのだから。とりあえず温めるべきだろうと三ツ谷は掛け布団を大寿に巻き付けようとしたが、大寿によってそれも止められる。
「ちがっ、だから、…後ろが疼いてて、」
細い首と小さい耳を真っ赤に染めて大寿は確かにそう言った。三ツ谷は大寿が顔を見れずに俯いたまま小さく呟いた言葉を何度も反芻する。
「そ、れは、えっちな意味ですか」
自分でも阿呆な質問だと思いながらも聞かずにはいられなかった。大寿は顔を上げないまま、こくんと頷いた。