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    ふう。

    @fuu_fwfwnyannko

    翠千アカウント作りました
    小説とか上げるかもしれない
    ※ハマりたてのド新規なのでストーリーなど追えてない部分多いです。ミスがあったらごめんなさい🙏

    翠千/守沢千秋最推し/成人済

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    ふう。

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    翠千ワンライより
    お題『 灼熱』書かせていただきました!

    ※ズ!軸

    「守沢先輩!」
    「む?」

    ユニットの練習が終わり、カバンを持って帰ろうと練習スタジオの扉のドアノブに手をかけた守沢先輩の背中に声をかける。守沢先輩は俺の言葉に反応して振り向いた。

    声、震えてないかな……。

    まだ声をかけただけだというのに手はじんわりと汗ばんでいるような気がするし、心臓もうるさい。

    「あの……俺と一緒に……」

    守沢先輩が不思議そうに俺を見ている。口ごもってしまう俺の言葉の続きを待ってくれているけど、それが逆に早く言わなきゃ……って俺の気持ちを焦らせる。俯いてしまって守沢先輩の顔が見れない。それでもずっとそうしているわけにはいかない。守沢先輩がいつまで待ってくれるかも分からない。

    何度も何度も頭の中で繰り返したイメージトレーニングを思い出す。頭の中の守沢先輩は俺の言葉に笑顔になって頷いてくれている。大丈夫……。勇気を出すんだ……!

    スーッと一つ深呼吸をしてから、掌をギュッと握り、目を瞑って、喉の奥から絞り出すように声を出した。

    「守沢先輩!俺と一緒に、花火大会に行きませんか!?」

    俺が今まで生きてきた人生の中で、一番緊張した瞬間だと言っても過言ではないだろう。







    守沢先輩に恋をしている。
    いつからだなんて覚えていない。俺の閉ざされた世界に突如として飛び込んできたこの人はあっという間に俺の世界を変えてしまった。気がつけば、守沢先輩の声に、表情につられて笑顔になってしまう自分がいることに気がついた。恋がなんなのかは俺もよく分かっていないけれど、守沢先輩と一緒にいると今まで感じたことのない気持ちになるのだ。きっとこれがトキメキってやつなんだろう。明日も、明後日も、一ヶ月後も、来年も守沢先輩と一緒に居られたな……なんてふとした瞬間に思ってしまうのだから、これが恋でなかったら何なのだろう。俺にとってそれは十分に恋と呼べる感情だった。





    「高峯!」

    俺を見つけた途端、顔をパッと輝かせ、手を振る守沢先輩に心臓が高鳴る音がする。無邪気な笑顔がかわいいな……なんて、こんな些細な瞬間ですらトキメキを感じてしまうのだから恋というのは恐ろしいものだ。

    「守沢先輩……あんまり目立つことしないでくださいよ……。恥ずかしい……」

    思わず出た言葉に相変わらずかわいくないな……と少し落ち込む。守沢先輩への恋を自覚したはいいものの、これが初めての恋である俺は好きな人にどうやってアピールすればいいのかなんて分かるわけもなく。守沢先輩に好かれるようなことは何一つ出来ていないし、むしろ自覚してしまった恋によって照れ隠しでつい素っ気ない態度を取ってしまうのだ。

    「すまんすまん!高峯を見つけて嬉しくなってしまった!」

    ごめん!と手を合わせて眉毛を八の字にして笑う守沢先輩に心臓を掴まれる。少女漫画で見たことがある「キューン」って効果音はもしかしてこれのことだろうか。

    守沢先輩はいつも無自覚に俺が嬉しくなる言葉をくれる。きっと守沢先輩にとって俺はたくさんいる後輩の中の一人にすぎない。俺が問題児だから少しは目をかけてもらえている自覚はあるが、基本的に守沢先輩は博愛主義の人なのだ。俺以外の誰に対してもこんな感じだから、守沢先輩のこういう言葉にいちいち反応していてもしょうがないと頭では理解している。しかし頭で理解はしていても、実際にそうできるかはまた別の話で。俺は守沢先輩の何気ない言葉や表情にいつも心を揺さぶられるのだ。

    「…………まぁいいです……。じゃあ行きましょうか」
    「ああ、そうだな!」

    守沢先輩と二人並んで屋台がたくさん並んでいる通りを歩く。夜とはいえ、夏真っ盛り。歩いているだけでもじんわりと汗ばむような暑さなのに、この人混みと、隣で目をキラキラさせながらはしゃぐこの人の熱さで体感温度は灼熱のような暑さだ。

    花火大会まではまだ時間がある。それまで二人で一緒にお店を見て回るのも俺の計画の一つだ。

    チラリと隣を歩く守沢先輩を見た。特に服装の指定はしていないので、よく見る私服を着てきている。守沢先輩が浴衣着たらどんな感じなんだろう……。ふとそんなことを思ってしまい、頭の中に浴衣を来た守沢先輩が俺の名前を呼ぶ映像が流れ込む。隣に本人がいるのに守沢先輩で妄想してしまったことが恥ずかしくて、守沢先輩から思わず視線を逸らした。今守沢先輩に俺の頭の中を見られたら終わりだな……なんて、絶対にそんなことあるはずないのに考えてしまう。

    隣で目を輝かせているこの人は、俺がそんなふうに頭をぐるぐるさせながら歩いているだなんて全くもって気づかないらしく。俺が何を考えてるのかとか絶対にバレたくないけれど、俺のことよりも屋台に夢中になっているのも、それはそれで何だか嫌で。結局守沢先輩を拗ねたように見つめてしまう。

    屋台に夢中になっている顔もかわいいけれど、少しは俺のことも見ろよ……なんて子供みたいなことを思いながら守沢先輩を見ていれば、ふいに守沢先輩がこちらに振り向いた。ドキッとして、思わず目を逸らしてしまう。

    こっち見ないかな……なんて思いながら見ていたからもしかして俺の思いが伝わっちゃってた……?まさか声に出してたとかじゃないよね……?だとしたら恥ずかしすぎる……。そんなことを考えていたら、守沢先輩が俺に声をかけた。

    「高峯!」
    「ふぃっ!?な、なんですか……?」

    守沢先輩が俺に声をかけてくるので、仕方なくそちらに向き直る。どうしよう……。「さっき俺のこと見てたか!?」とか言われたら恥ずかしさで死ねる自信ある……。

    期待と不安を込めて守沢先輩と目を合わせれば、守沢先輩は「ふふん!」と顔をドヤ顔にする。あ、その顔もかわいい……って思ってる場合じゃないな……。守沢先輩、どうしたんだろう?

    「高峯、お祭りに来て一番に行くべきお店はどこだ!?」

    妙にテンションの高い守沢先輩からそんなことを言われて思わず目を丸くしてしまった。お祭りに来て、一番に行くべきお店……?特に思い当たるものがなくて一瞬考え込んでしまう。頭の中では様々な屋台が登場して、これじゃない、これでもない……と右から左に流れていく。

    もしかしてチョコバナナのお店とか……いやいやそれはあまりにも俺に都合が良すぎるな……。

    一瞬、本当に一瞬だけ、守沢先輩がチョコバナナを食べている姿を想像してしまって、かき消すようにフルフルと首を振る。思いついたお店が自分の欲望丸出しすぎて恥ずかしい……。頭の中ではとりとめもないことが右から左へと流れていき、先程の欲望を消そうと必死だ。きっと守沢先輩はたった一つの質問で俺の脳内がやかましくなっていることなんて全く気づかないんだろう。気づかれたくはないけれど。数秒そうして考えていたけれど、守沢先輩が考えていることなんて俺に分かるわけがない。

    「えー……。分からないです……」

    素直にそう言えば、俺の言葉に再び「ふふん!」とドヤ顔をする守沢先輩に、やっぱりかわいいな……なんて、相変わらず脳内を忙しなくさせながら、ほぼ無意識でそんなことを思った。

    「フッフッフ……。教えてやろう高峯!あそこだ!」

    「あそこ」と言われ指さされた先がどのお店か分からずにいくつかのお店を見渡してしまった。やきそばの屋台?それとも射的?わたあめ?どれのことを言っているのか分からずに思わず守沢先輩に視線を戻せば、意図が伝わらなくて少し照れたのか、「こっちだ!」と強引に手を引かれる。

    守沢先輩の手の温度はとても高い。この人何でこんなに体温高いんだ……。真夏だというのに守沢先輩の体温の高さで余計に暑くなってしまう……。

    ……なんて考えていないと心臓が爆発してしまいそうなくらい胸がドッドッドッと激しく脈打つ。これもきっと守沢先輩からしたらなんてことないスキンシップの一つ。散々守沢先輩から抱きつかれたので、抱きつかれることには耐性がついたが、手を繋ぐことには耐性がない。守沢先輩と繋がれた俺の手が、守沢先輩の体温の高さもあってじんわりと汗ばんでいく。

    最悪だ……。恥ずかしすぎる……。守沢先輩に手汗かいてるとか思われたくない……。

    そんなことを思いながら守沢先輩に手をひかれ、人混みの中を抜けた先にあったお店は、子供が好きそうなお面がたくさん売っている屋台。蓋を開けてみれば、あまりにも守沢先輩らしさ満載のチョイスに思わず笑ってしまった。それはそれとして繋いでいる手は早く離して欲しいけれど。

    「お兄ちゃんたち、何か気になるものでもあるのかい?」

    屋台のおじさんに話しかけられ、どう返そうか迷う暇もなく、守沢先輩が俺の手を繋いだまま屋台に近づく。先程よりも余計に汗ばみ出した気がする手のひらが気になってしょうがないし、何よりも男二人が手を繋いでいることを屋台のおじさんに見られて、何か言われたらどうしようと焦りが俺の頭を支配する。俺がそんなふうにパニックになっていることなんてお構い無しの守沢先輩はずんずんと屋台の目の前まで俺の手を繋いだまま引っ張っていき、「これ!」と一つのお面を指さした。

    「このスーパー戦隊のレッドのお面ください!」

    晴れやかな笑顔でそう言う守沢先輩の横顔を見る。手を繋がれたまま引っ張られたことで体感温度が急上昇し、もはやじんわりと汗ばむ感覚は手のひらにおさまらない。

    少し顔が赤くなっていることを自覚しながら、「この人何歳だよ……」なんて思う。高校生にもなってお祭りでお面買うなんて恥ずかしいと思う俺と、今までも毎年こうやってお面買ってたのかな……。そう思うとかわいいな……なんて思う俺がいた。ごちゃまぜになった感情のまま守沢先輩の横顔を見つめていればふいに声をかけられ驚いてしまった。

    「そっちの兄ちゃんは何にすんだい?」
    「ふいっ!?俺……?」

    驚いた拍子に一瞬守沢先輩の手をギュッと握ってしまう。握った瞬間に明らかにベタっとした感覚があり、恥ずかしさのあまり今すぐにこの手を振り解きたい衝動に駆られた。
    手のひらのベタっとした感覚に気づいているんだかいないんだか、守沢先輩は俺をキラキラとした瞳で見つめる。明らかに期待されている……。

    俺、高校生にもなってお面買うの……?でも守沢先輩がめちゃくちゃキラキラした目で俺のこと見てるし、何だか断りずらい……。

    守沢先輩の俺を見るキラキラとした瞳に耐えられなくなって、 「えー……?」なんて言いながら屋台に飾られているお面を一つずつ見ていく。中段くらいまで見たところで一つのお面に目が止まった。

    「あ、これはかわいいかも……」
    「どのお面だ?」

    守沢先輩が俺に一歩近づいて俺と守沢先輩の距離がぴったりとくっつく。突然詰められた距離に驚いて俺は思わず守沢先輩の方を見てしまった。パチッと目があって、まるで時が止まったような感覚になる。ただでさえさっきからずっと手を繋ぎっぱなしでもういっぱいいっぱいだというのに、さらに距離を詰められてしまえば余計に顔が熱くなったような気がした。きっと赤くなっているであろう顔を守沢先輩に見られたくなくて、サッと目を逸らしながら尻すぼみに返事をする。

    「この……ゆるキャラのやつ……」
    「おお!かわいくていいなぁ!おまえに似合いそうだ!」

    もう俺はとにかくこの場から逃げ出したい衝動でいっぱいだった。先程よりもさらに生温く、ベタっとした感覚がする手を早くなんとかしたくて、守沢先輩に繋がれている俺の手を守沢先輩の手に触れないようになんとかしようと試行錯誤することに夢中になっていれば、ふいに守沢先輩から声がかけられる。

    「高峯、手」
    「…………手?」
    「手を繋いだままだとお会計出来ないぞ?」
    「あ、す、すす、すみません!」

    困ったように笑って俺を見る守沢先輩に顔から火が吹き出るんじゃないかってくらい一気に体温が上がって、勢いよく手を離す。明らかに手汗まみれの手のひらが気になってしょうがなくて、守沢先輩にバレないようにズボンでサッと拭いた。拭いても拭いても中々消えてくれない汗にどれほど自分の体が熱くなっているのかを自覚せざるを得ない。守沢先輩はそんな俺の焦りには気づいていないのか、スっと屋台のおじさんに向き直ってしまった。


    さらっと俺の分のお面のお代まで払っている守沢先輩を見つめながら、俺は呆然と立ち尽くしていた。

    最っ悪だ……。間違いなく手汗でベタベタの手に気づかれたに違いない。しかも動揺で挙動不審に謝っちゃったけど、先に手を繋いできたのは俺ではなく、守沢先輩なのだ。それなのに「お会計ができない」とか、まるで俺が守沢先輩の手を離してくれなかったみたいな言い方だ。ひどい。こんなのあんまりだ。守沢先輩は恋する俺の気持ちなんて微塵も知らずにそうやって俺を振り回すんだ……。

    加速しだした俺の鬱思考を止めるように守沢先輩が俺の元へ駆け寄ってくる。もうさっきまでのことなんて忘れてしまったか、そもそも守沢先輩にとってはいちいち気にするほどのことでもないのか、お面を買えてウキウキの顔だ。

    「高峯!お面買ってきたぞ!」
    「ありがとうございます……」
    「ええっ!?どうした高峯!?何か怒っているのか!?」
    「べつに……怒ってなんてませんよ……」
    「本当か……?」

    守沢先輩の行動や言葉に振り回されてはいけないと散々学習したはずなのに、結局振り回されて露骨に不機嫌な態度を取ってしまい、こういう自分が嫌になる。今日は守沢先輩に楽しいと思ってもらえるような一日にしようと意気込んでいたはずなのに、結果はこれだ。これではまた守沢先輩になだめられて、手のかかる後輩のままだ……。何やってるんだろう、俺……。なんて思っていたら、守沢先輩が俺の目の前まで来て下から俺の顔を覗き込んでくる。いきなり視界に飛び込んできた守沢先輩に思わず俺は顔を逸らしてしまった。

    「高峯……?」

    俺が顔を逸らしてもすぐに守沢先輩が俺の視界に入ってくる。また視界を逸らしても、守沢先輩もそれについてくる。何度も何度も視線を逸らしても、守沢先輩が俺を見上げる上目遣いのかわいい顔が目に入ってくるからこんなことで絆されてはダメだと思うのに、結局俺は思わず笑ってしまった。

    「ふふっ。……あーもう!分かりましたよ!もう怒ってないです……」
    「さっきまでは怒ってたのか……?」
    「そうかもしれませんね。でももう理由は忘れました。守沢先輩が面白い顔で俺のこと見てくるから」
    「面白い顔!?」

    自分の顔をペタペタと触って、さっきまでの自分の顔を思い出そうとしているらしい守沢先輩に思わず笑みがこぼれる。


    この人は出会った時からずっとこんな感じだったな……。俺がどれだけ視線を逸らそうと、諦めずに視界の中に入ってくるのだ。そうして諦めて顔をあげて見えた世界は驚くほどキラキラしていて。守沢先輩が見せてくれた景色。モノクロだった俺の世界は鮮やかに染まって、そうして変わり果てた俺の世界の中心にはいつだって守沢先輩がいた。いつもいつも振り回されてばかりだけど、振り回された先に見える景色はどれも俺にとって特別なものばかりだった。

    守沢先輩への愛おしさが俺の中で溢れて止まらなくなって、思わず胸の奥に秘めていた言葉を声に出してしまいそうになる。慌てて溢れて止まらない感情のままに口から出た言葉を他のものに置き換えた。

    「ふふっ。守沢先輩、いつまで自分の顔触ってるの?そんなことより他の屋台も見に行こ?」
    「ん?ああ!そうだな!」


    お祭りはまだ始まったばかりだ。これからゆっくり挽回していこう。そう思いながら、再び二人一緒に並んで歩き出す。お面をつけるのは少し恥ずかしかったけど、横を見れば戦隊ヒーローのお面をつけてルンルンの守沢先輩が見られるからそれもまぁいいかな。





    それからの俺はできるだけ守沢先輩に対してつっけんどんな態度をとらないように気をつけた。そんな俺に対して守沢先輩は「高峯、あれが食べたい!これが見たい!」と子供みたいに目をキラキラさせながら無邪気な顔でお祭りを楽しんでいる。俺よりも二個も年上のくせに、まるで年下の子みたいに見えるから、そんな守沢先輩に手を引かれながらも、俺の気分は上機嫌だった。きっと守沢先輩を見つめる俺の目は愛おしいものを見る時のように、甘く溶けていたことだろう。


    そうして二人で色々な屋台を見てまわっていれば、もうそろそろ花火大会の時間だ。あらかじめリサーチをして下調べまでした、花火がよく見える穴場スポットに守沢先輩を連れていく。思ったとおり、そこはまばらな人で落ち着いて花火が見れそうでホッと一息ついた。横の守沢先輩を見れば「おお〜」と感嘆の声をあげている。

    「高峯、よくこんな穴場の場所を見つけたな!」
    「まぁ、たまたま聞いたんで……」

    本当はたまたまじゃなくて、バスケ部の同期とか数少ない友達とかに聞いてまわったんだけど。「すごいなぁ高峯!」なんて、こんなことで俺の頭をわしゃわしゃと撫でる守沢先輩に照れくさくなって、思わず顔を逸らした。

    「そんなことより、そろそろ花火始まるよ」
    「おお、そうだな!しっかりと目に焼き付けなければ!」

    守沢先輩が夜空を見上げるのを見て、俺も空を見上げる。数秒の後、ヒューという音がして一発目の花火が打ち上がった。まばらな人の中から歓声があがる。横の守沢先輩も「おお!」と声をあげて花火に釘付けになっている。良かった……守沢先輩楽しそうだ……。


    花火が始まってから十五分ほど経ったのだろうか。夜空には色とりどりの花火が咲き乱れている。空中で花火が咲く音が聞こえる度に歓声と拍手が起こる。

    誰もが夜空を彩る花火に夢中になっている中、俺は横にいる守沢先輩の顔を見つめていた。守沢先輩は目をキラキラと輝かせ、ニコニコしながら花火を見ている。その無邪気な表情がかわいい。俺の横で花火を見る守沢先輩を見つめながら俺は感慨深い気持ちになった。

    まさか本当に花火大会を二人で見に行けるだなんて思ってもみなかった。守沢先輩のことだから既に誰か一緒に行く人がいるのかと思ったのだ。それでなくとも守沢先輩なら「せっかくなら流星隊のみんなで行こう!」とか言い出しかねなかったのに……。今こうして守沢先輩と二人で花火を見れていることが嬉しくて再び胸の中に秘めていた想いが溢れ出す。その時一際大きい音がして、夜空を大輪の花が明るく照らしだした。大きな歓声と拍手があがり、守沢先輩も先程よりもさらにキラキラとした目でパチパチと拍手をしている。


    花火の音に掻き消されるように、守沢先輩に聞こえないくらい小さな声でそっと声にした「好きだよ」の言葉。今はまだ届かなくていい。だけどいつかはこの言葉の続きを伝えさせて。





    「いや〜本当に綺麗な花火だったなぁ!」
    「そうですね」

    花火大会が終わったあと、俺たちはお祭り気分が抜けきらないまま帰路についていた。守沢先輩が俺を家まで送っていくというのでありがたくお言葉に甘えたのだ。特に話すようなこともないくせに、自然と足取りが遅くなる。きっと守沢先輩は俺に歩幅を合わせて歩いてくれている。こういうさり気ない優しさにまた胸のトキメキを感じるのだ。

    「本当に綺麗でした……」

    ……花火も守沢先輩も。後に続く言葉は口から出ることはない。口から出す勇気がない。


    そうして二人でゆっくりと歩いていたら、とうとう俺の家の前まで着いてしまった。何となく離れがたくて、何か話して少しでも守沢先輩を引き止めたいと思うけれど、こういう時に限って何も話す話題が思いつかない。そもそも俺は口下手なんだ。守沢先輩と一緒にいる時だって、ゆるキャラ以外はだいたいの話題の発信源はいつも守沢先輩で。何か話さなければと思えば思うほど頭がからっぽになってしまう。そうして黙ったまま俯いてしまった俺に、ふいに守沢先輩が声をかけた。

    「高峯、今日は俺を誘ってくれて本当にありがとう。嬉しかった」

    夜だからだろうか。いつもよりもかなり声を抑えてそう言う守沢先輩の顔を見る。守沢先輩の顔はいつもの熱苦しい顔とは違って、とても優しい顔をしている。俺は何だか胸がいっぱいになって言うつもりもなかったことを聞いてしまった。

    「別に……。たまたま暇だったので……。それよりも守沢先輩はどうして俺と二人で来てくれたんですか……?」

    考えるよりも先に口から出た言葉に「しまった」と後悔してももう遅い。守沢先輩はキョトンとした顔で俺を見ている。


    花火大会という一年の一大イベントに守沢先輩が一緒に行く相手は俺でいいのか、本当は不安だった。守沢先輩は友達がたくさんいるし、後輩にだって慕われている。そんな守沢先輩が本当に俺以外の誰からも花火大会に誘われていないとは思えないのだ。そんな中で守沢先輩にとってたくさんいる後輩の中の一人であろう俺と一緒に花火大会に来てくれたのが、嬉しいけれど不思議で仕方なかった。けれど俺のこんな不安な感情は守沢先輩には見せたくない感情で。ふいに漏れ出てしまった感情に、心の中が黒く塗りつぶされていく。俺はまた俯いてしまって、俺の視界は真っ暗闇のモノクロの世界。


    「高峯」

    ふいに視界の中に守沢先輩が入ってくる。守沢先輩が俺を下から見上げている。身長差があるとはいえ、それほど大きい差ではない。俺の目線のすぐ下に守沢先輩の大きな紅茶色の瞳があって、驚いて俺は思わず一歩後ずさってしまった。

    「え、あ……。や、やっぱ今のなし!」

    ほんの少しうるさくなった心臓を誤魔化すように俺は声をだした。守沢先輩は「?」を頭に浮かべている。至近距離で守沢先輩の顔を見てしまってほんの少し赤くなった顔を隠したくて俺は守沢先輩から目を逸らした。

    「高峯?」

    すかさず守沢先輩が俺についてくる。もう一度目を逸らしてもまた視界に入ってくる。あれ……?この流れはお祭りでもやったような……?

    「あーもう!すみません……。ここまで送ってくれてありがとうございました。それじゃあ俺は帰りますね。おやすみなさい」

    このまま守沢先輩と二人でクルクルと回っていては、恥ずかしさのあまり余計に顔が赤くなりそうで、俺は早口でそうまくし立てた。勢いのままに後ろを振り向き、我が家に帰ろうとしたところで、守沢先輩が俺の腕を引いて引き止める。

    「高峯!待ってくれ!」
    「………………なんですか?」

    本音を言えば今すぐに家に帰りたい。さっきまでは守沢先輩を引き止めたいとか思っていたけど、今はこれ以上守沢先輩と一緒に居たくなかった。これ以上一緒にいたら言わなくてもいいことまで守沢先輩にベラベラと喋ってしまいそうで。しかし腕を引かれて呼び止められてしまえば、無視するわけにもいかず。俺は仕方なく守沢先輩の方に振り向いた。

    「さっきの質問に答えさせてくれ!」
    「もういいですよ、さっきの質問は……。ついうっかり口から出ちゃっただけです……」
    「俺が答えたいんだ!」

    そう言われて仕方なく守沢先輩の顔を見る。聞きたいけれど、わざわざ掘り返してまで聞きたいかと言われるとそうでもない。それくらい本当に取るに足らない質問だ。あんな俺のめんどくさくて、子供じみた感情は守沢先輩みたいな人には似合わない。


    そう思いながら、守沢先輩とおそるおそる目を合わせると、守沢先輩はパッと笑顔になった。

    「高峯が俺を誘ってくれたんだぞ?行かないわけがないだろう!嬉しすぎて、誘ってもらってから今日までずっとソワソワしてたんだ!むしろ俺の方が驚いたぞ!てっきり俺以外の人も誘っているのかと思った!」
    「…………え?じゃあ俺と二人で来てくれたのは俺に誘われたからってこと?それだけ……?」
    「?それだけだぞ?俺が高峯と一緒に行きたかったんだ!」

    守沢先輩からのこれ以上ないほどの言葉に胸がいっぱいになって、口から叫び出しそうになる。こんなのって、いいのかな……。だって守沢先輩には友達がたくさんいて、守沢先輩を慕っている後輩もたくさんいて……これじゃあまるで俺が守沢先輩にとって特別なんだって、そう思ってしまいそうで。いつもは賑やかな商店街もこんな時間ではシンと静まり返っていて、胸の音をかき消してくれない。胸の中に秘めていた「好き」の感情が溢れ出してそのまま口から出てしまいそうで、口をつぐんで物理的に蓋をする。そうやって俺の中の溢れ出そうな感情を必死に抑えようと顔を顰める俺を見て、何を勘違いしたのか守沢先輩が俺に近づいてきて俺の頭をわしゃわしゃと撫でた。

    「どうしたどうした高峯!先輩と離れるのが寂しいのか?」
    「はっ!?違っ……!頭撫でないでください!」
    「まぁまぁそう照れるな高峯〜!素直になってくれていいんだぞっ?俺はいつでもウェルカムだ!」
    「だから違いますって!」

    ニコニコしながら俺の頭を撫でてくる守沢先輩から逃げたくて、体の向きを変えれば守沢先輩もそれについてくる。また向きを変えればそれでもついてくる。そうして二人でクルクル回って……ってこれ何回目だよ……。

    「ちょっとついてくんな!」
    「高峯が本当に嫌がってたらやめるぞ?」
    「〜〜〜っ!」

    守沢先輩の図星の言葉に俺は体温が急上昇するのを感じる。ダメだ、このままこの人といるのは非常にまずい気がする。


    「ええっ!?高峯!?急にお面つけてどうしたんだ!?」
    「別にいいでしょ。付けたくなったんです」
    「で、でも別れの時くらい高峯の顔が見たいんだが……」
    「あんた最近休日でも俺の家来るんだし、顔なんて飽きるくらい見てますよね?っていうかいつまで俺の家の前に居座るつもりですか?早く帰れ」
    「ええっ!?高峯が冷たい……」

    名残惜しそうに俺の顔(お面)をチラチラ見る守沢先輩に腕を組んで断固として動かなければ、さすがに諦めたらしく、しおれた声を出す。

    「うぅ……。分かった、今日はもう帰るとしよう……」
    「早く帰ってください。もう夜も遅いんで」
    「高峯、明日も迎えに行くからな!ちゃんと朝起きてるんだぞ?」
    「分かってますよ」
    「今日は早く寝るんだぞ?」
    「分かってますって!親みたいなこと言わないでください」
    「じゃあ俺はもう本当に帰るぞっ?」
    「分かってるよ!いいから早く帰れ!」
    「ああ。高峯、今日は本当にありがとう。おまえに誘われて本当に嬉しかったし、すごくすごく楽しかった!」

    守沢先輩がパッと笑顔になって俺を見る。その笑顔は、世界は、キラキラと輝いて見えた。

    「俺も……守沢先輩と行けて良かったですよ……」
    「たかみねぇ……!」
    「あーもう!いいから早く帰れ!」
    「ああ、じゃあまた明日な。高峯」
    「はい」
    「おやすみ」
    「おやすみなさい」

    守沢先輩が俺から見えなくなったことを確認して、俺もようやく家の中に入る。お面を付けたまま喋ったせいで、顔はじんわりと汗ばんでいた。お面を外せば、室内の冷えた空気がのぼせた顔にあたって気持ちがいい。

    なんなんだあの人……。俺と離れたくないのは守沢先輩の方でしょ……。本当に子供みたいなんだから……。

    そんなことを考えながらリビングに入ればちょうど母さんがいたので、これ幸いと声をかける。

    「母さん、冷たいお水かお茶ある?」
    「あ、翠おかえり!守沢先輩と花火大会行けて良かったね!」
    「うん……」

    母さんが渡してくれた冷たいお茶を一気に流し込む。熱い体に冷えたお茶が染みわたっていく。

    「あら?翠、顔真っ赤じゃない?もしかして……」
    「そういうんじゃないから!」

    口には出さないがニヤニヤと俺を見てくる母さんの視線から逃れるように、俺は自室に向かう。最近守沢先輩が平日だけじゃなくて、休日にまで俺の家に来るようになったから勝手に俺と守沢先輩の関係を勘ぐっているのだ。俺と守沢先輩のあいまいな距離感を見守ってくれるのは嬉しいが、守沢先輩が俺の家に来る度に露骨に嬉しそうにする家族に、守沢先輩に何か勘繰られるんじゃないかとドキドキする俺の気持ちも考えて欲しい。


    自室に入り、俺は勢いよくベッドに倒れ込んだ。仰向けになって、枕元に置いてあった俺の一番お気に入りのゆるキャラのぬいぐるみを掲げる。先程のことを思い起こせば胸がいっぱいで。胸の高鳴りを自分の中だけで抑えておくのは難しそうで、お気に入りのゆるキャラぬいぐるみに話しかけた。

    「守沢先輩も俺と一緒に花火大会行きたかったんだって……」

    口に出してしまえば、今まで押さえ込んできた感情が堰を切ったように溢れ出す。感情を爆発させるかのように強く強くぬいぐるみを抱きしめる。口から熱っぽいため息が一つこぼれ落ちた。

    「明日も守沢先輩来るのか……」

    熱苦しいし、俺を振り回すけど、優しい先輩を思い浮かべれば、口元は自然と笑顔の形を作っていた。

    よし、お風呂に入ろう。それで今日はもう早く寝よう。冷房が効いた部屋だというのに、熱くなっている体のままで寝られるかは分からないけれど。


    パジャマを持って、お風呂場に向かう。心なしか足取りも軽い。頭の中で俺の名前を呼ぶ守沢先輩の声が聞こえたような気がして、俺は思わず笑い声をこぼした。
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    Replies from the creator

    ふう。

    DONE翠千ワンライより
    お題『イルミネーション』

    翠→千
    クリスマスに守沢先輩と会いたいと思う片思い中の翠の話です。
    夜空を覆い尽くしてしまうほどの輝きが、眼前に広がっている。
    右を見ても左を見ても視界に入るその眩い光は、今の俺には眩しくて、俺はそっと目を細めた。
    凍えるような寒さに身体を震わせて、俺は一つ息を吐く。ため息と一緒に吐き出された鬱は、白く変色して夜空に溶けて消えていった。それでも俺の心は晴れないままで、街を行き交う楽しそうな人々の中、まるで俺だけが違う世界にいるかのようだった。


    かれこれ三時間、俺はベンチに一人座って、ぼうっとイルミネーションを眺めていた。どこまで続いているのかと思わせるほどの並木道が、無数のLEDに彩られ、街を華やかに照らし出している。ライトアップされた木々を見上げる人々の顔は、皆明るく笑顔だ。小さな子供と手を繋いで歩く家族や、肩を寄せあって笑い合う男女、クリスマスケーキを片手にどこか充実した顔で歩いているOLの女性、どこを見ても完成された綺麗な世界に俺は相応しくない気がして、思わず目を閉じる。目を閉じれば、思い浮かべたくもないアレの顔が浮かんできて、俺の鬱を加速させる。振り払うように小さく首を振ったけれど、まぶたの裏に焼き付いて離れないアレの顔は、こんな時でも暑苦しくて、俺はまた一つため息をついた。
    7603

    ふう。

    DONEポッキーの日ということでポッキーゲームする翠千です。本当にそれだけです。かなり甘いです(当社比)。以前書いた守沢の家に押しかける高峯の話のその後というか同じ世界線ですがこれだけでも読めます。

    未来軸
    翠→(←)千
    付き合ってはないけど高峯くんは思春期を脱却して守沢先輩に猛アプローチ中です。
    「守沢先輩、ポッキーゲームって知ってます?」

    今日も今日とて何故か俺の家にさも当然のようにいる後輩からの突然の一言に、俺は頭に疑問符を浮かべた。そういえば今日は11月11日、世間的にはポッキーの日と呼ばれている日だったか。毎年この時期になるとCMなどでよく見かけるからポッキーの日は知っているが……。

    「ポッキーゲーム……?聞いたことがないな」

    手元の流し読みしていた雑誌から顔を上げて高峯の方を見れば、高峯がやけに真剣な顔で俺を見つめていたから思わず面食らってしまった。

    「ふーん……。ねぇ守沢先輩、ポッキーゲームしません?」
    「ずいぶん突然だな?」
    「突然じゃないよ。今日ポッキーの日だから」

    そう真顔で淡々と言い放つ高峯には妙な説得力がある。そういうものなのだろうか。もしかしたら俺が知らないだけで、世間一般的にはポッキーの日というのはポッキーゲームとやらをやる日なのかもしれない。
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    ふう。

    DONEハロウィンの翠千
    浮かれ峯とハロウィンを楽しんでいる千秋
    付き合ってる二人がただただイチャイチャしているだけ

    ※未来軸
    ※高峯が一人暮らししてる
    「守沢先輩は子供の頃、近所の人にお菓子貰いに行ったり、友達とハロウィンパーティーしたりしました?」
    「ん?急にどうしたんだ?」
    「いや……守沢先輩ってどんなふうに子供時代を過ごしたのかなぁって……」

    扉の向こうにいる守沢先輩がすぐに返事を返さなかったことが気になって、扉の近くに寄って耳をそばだてる。聞こえてきた音はシュルシュルという衣擦れの音だけで、俺は早くも自分の軽率な行動を後悔した。


    今日は10月31日、つまりハロウィンの日だ。今ごろ街中を仮装した人たちが歩いているのだろうか。少し前までの俺は浮かれた格好で練り歩く人たちが理解できない側の人間だった。しかし今年の俺は違う。なぜなら、ハロウィンは恋人に違和感を感じさせることなくコスプレをさせることが出来る素敵なイベントだと気づいたからだ。そんなわけで、俺は守沢先輩に頼み込んでハロウィンの仮装を見せてもらうことにした。事前に「俺の好きそうな仮装を選んできてね……♪」と一言添えて。今の俺は去年までの俺が理解出来なかった浮かれきったリア充そのものだが、『俺だけに見せる守沢先輩の仮装』という目先のご褒美のことを考えればそんなことは全く気にならなかった。
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    ふう。

    DONE翠千ワンライより
    お題『偶然のふり』

    翠→千
    個人の仕事が忙しすぎて流星隊メンバーと足並みが揃わない千秋。なんとか追いつこうと無理をするが体がついて行かず……。そんな千秋の元に翠が迎えに来る話。今よりも少しだけ進んだ時間軸のつもり。
    ※Pがちょこっとだけいる
    ※ES分からなさすぎて間違ってたらごめんなさい
    「あ、プロデューサーさん。こんな遅い時間までお疲れ様です。………はい。俺は仕事終わりでこれから帰るところです。………え?俺に頼みたいこと?俺で良ければ聞きますけど……?………え?守沢先輩が……?はぁ……何やってんだかあのひと……。すみません、アレのせいでプロデューサーさんに迷惑をかけてしまって……。………ああ、気にしないでください。アレの対応には慣れてるんで」


    ◇◇◇


    スマホで流していた音楽を止めて、思わず大きく息を吸う。吸っても吸っても体内に酸素が入っていかない感覚に、ぼんやりとした頭では思考もうまくまとまらない。体は鉛のように重く、思うように動いてくれない。

    一体何時間ぶっ通しで踊り続けているのだろうか。脳に酸素が回らない状態ではそれすらも思考するのに労力を使う。いいや、そんなことを考えたってしょうがないか。とにかく時間がない。今は少しでも早く振り付けの精度を高めないと。俺のせいであいつらに迷惑はかけたくない。
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