雨「団子食べます?」
離は落ち着いた顔で団子の串を手にする。
「でもこれ……」
坤は首を傾げた。
「お供えだって言うんですから食べないとまずいでしょ」
村人たちに異人の兄弟だと思われて、寝る場所まで用意してくれた。
この村のヒトたちは、異人が何かも知らないようで、神仏の類いのようになってしまっている節がある。
「お前がいて助かりました。お前は侍たちとは話せてもこういう村だと話せないから助かりますよ」
坤のしどろもどろの説明のおかげで、村の者たちは異人だと信じたのである。
「酷いじゃないですか、俺をダシにつかって」
坤はむっと拗ねて、串に刺さった最初の団子をひと口齧る。桃色の団子だ。
「まあね」
離はくすくす笑う。
父の血がよく出た弟と違って私はこちらの言葉を話せる、と離は村人たちに言ったのである。
坤は微笑を浮かべる離の薄い唇を睨む。
「兄弟に見えます? 俺たち」
坤は自分の髪を見下ろした。離のようにさらさらした艶のある髪質ではなく硬いし、色も離のように単色の薄茶ではない。目の色も形も全く違うのだ。
「異人という時点で、私たちは全く別の者なのでしょう。この村で生まれてこの村で生きて、この村で一生を終える人たちにとっては……そんなもんですよ」
離は慣れた様子で茶の入った器に口を付ける。器に添えられた指は白く形が良い。
離の口の端に団子が付いている。粘り気のせいかくっついて取れなかったのかもしれない。
「あなたは、どう思いますか」
坤は言った。
「どう?」
「俺が弟だったら」
坤は自分の衣の衿を押さえる。胸がきゅっと締め付けられるのだ。こんなことを訊ねて、嫌われたらどうするのだろう、と坤自身も不思議だった。
私は、
離はその青い目を坤に向ける。すらりと通った鼻筋に乗せられた赤が肌の白さを際立たせている。
「私は、仮にあなたが弟なら面白くて可愛いと思いますが」
離は言って、再び茶に口を付ける。
「だったら……弟だったらこんなことしても怒らないですか」
坤は人差し指を離の唇の端に伸ばす。指に触れたしっとりとそして粘度の高い何かは、団子の切れ端なのか、離の唇なのか、もう坤には分からない。
「おやどうもありがとう……気づかなかった」
離はふふん、と鼻を鳴らす。
「いえ…………気づいていたんでしょう?」
「ええ」
「いつから?」
坤は団子をもうひとつ口に入れる。今度は真っ白の団子だ。
「ずっと昔からです」
離は呟いた。
「甘いですよね、これ」
恥ずかしさに坤は俯いた。
「甘いのに……私は慣れてますよ」
茶化すような離の声は、窓の向こうの雨音に溶けていくようだった。