髪、猫、隙間髪、猫、隙間、
坤は、それに足音を立てないように近づく。
縁側で離が丸くなっている。
仕事着ではない衣を着た離の背中は、いつもよりずっと薄い。
「えーっと」
坤は離を覗き込んだ。
傾き始めた日の光は、すらりと通った鼻筋の美しさを照らしていて、その影で離のまつ毛の長さを教えている。
すう、すう、
健やかで穏やかな息の音と共に離の肋から脇腹にかけてが微かに上下していた。
坤はどきりとした。
恐ろしく綺麗な物は、人をいつも驚かせるのかもしれない。
「気の利く弟子は、こんなときどうするんだろ」
坤は首を傾げて、回り込んで、縁側から庭に降りる。
頭巾を被ってない離の頭は、縁側のヘリから少しばかり内側にあるだけだ。離が姿勢を変えたりすれば、たぶん頭が縁側から落ちる。
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