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    yu__2020

    物書き。パラレル物。
    B級映画と軽い海外ドラマな雰囲気になったらいいな

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    yu__2020

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    ジェが探偵しているパラレルの続きでフロがメインのお話。の続き。
    ガチャの爆死に心が折れたので進捗載せて頑張ってるアピールさせてほしい。続きはイド蛸までに間に合ったら良いね

    ##咬魚は気まぐれ

    咬魚は気まぐれに謎を追う「ピアス」

     情緒のある人間であればその日の月夜に何かしらの物を感じ取っていたのだろう。
     あいにくその場にはそんな情緒よりも優先する物事があり、その場に居る人間はそもそも月の美しさに大してこころを動かされるようなこともなかった。
    「……で、これが?」
    「ああ。言っていたやつだ」
     二人の男が額を寄せ合い、後ろにはその仲間がそれぞれ待機して、辺りを警戒していた。
     がさ、とノイズが混じるイヤホンに、彼は舌打ちして物陰からそっと様子を伺った。
     くちゃ、とガムを噛みながら、ラフなジャケットに無骨なナイフと銃を持った青年は、ぼんやり月を見上げた。
     ――あー、めんどうくせーな
     人数と武器を確認し、彼はゆらりと立ち上がった。ガサガサと入っていたノイズが一瞬クリアになる。
    「面倒な事をしてくれる」
    「だが、これが手元にあれば我々が雨に降られる事はなかろうよ」
     ――雨?
     そぐわない単語に思わず青年の手は止まり、音を拾おうと動きを止める。
    「――……、が、――で、オペレー……、レインフォール――」
     ぱん、とどこかで音がして、彼は舌打ちした。
    「……誰だ!」
     バタバタと走る音がして、彼はふわりと軽やかに男達の頭の上に立っていた。
    「あは、面白そうな事してんじゃん。オレも混ぜてよ」
     貨物船の甲板の上で、バタバタと叫び声と銃声がしばらく響き、船から駆け下りた青年は、そのまま車に乗り込み波止場を凄まじい勢いで駆け抜けていった。
    「……あー、ジェイド? なんかさぁ、面白そうな事してる奴らいたから襲っちゃった」
     電話を掛けた彼は、そう言って電話の向こうの兄弟に言葉を掛けた。
    『おやおや、それで何か収穫はありましたか?』
    「んー、なんかねえ? ピアスっぽい」
    「ピアス……」
    「そう。まあ、もうちょっと調べるけどー多分ただのピアスじゃない感じ」
    「フロイド、あまりおいたは駄目ですよ」
    「あは、分かってるって」
     ばん、と背後から聞こえてきた銃声に、フロイドは思わず舌打ちした。
    「ジェイドー。なんかあっちがしつこい。ちょっと後でまた連絡するー」
    「分かりました。くれぐれも気をつけて」
    「はあい」
     ぐん、と明らかに法定速度を無視して、フロイドは車の少ないハイウェイに入り、一気に駆け抜けて行った。



     穏やかな秋の晴れた日だった。
     ――休暇! 素晴らしい……!
     アズールは、そう思いながらぽかぽかと温かな光が降り注ぐカフェのテラス席でのんびり貯まっていた本を開いて、コーヒーを飲んでいた。
     ……お茶にすると同居人がねちっこく文句を言うので最近出先ではコーヒーか飲めないというだけなのだが。
     そんな事実は置いておき、アズールはゆるやかな銀の巻き毛を耳にかけ、他人から見れば恐らく完璧な仕草と姿勢でパラパラと本を読み始めていた。
     ここの所面倒な事件が立て続けに起き、ついでに何故かとんでもなく我の強い、昔なじみの自称探偵に引っかき回され引っ張り回され、挙げ句に犯人に貞操――で合っているのかは分からないが――の危機に陥ったアズールからすれば、流石にこの穏やかなひとときを喜ぶ気持ちだって湧いてくる。
     普段ワーカーホリックとひそひそされるような仕事人間なのは自覚しているが、流石に疲れだって溜まるという物だ。
     だと言うにのにだ。

    「フロイドが面倒なトラブルに巻き込まれてしまいまして……。アズール、大変申し訳ないのですが彼を迎えに行ってくれませんか」

     とは、つい二十分ほど前の事だった。
     諸々の事情でとある事件で住んでいた部屋を犯人に燃やされ、別の場所を探そうとしていた時にあの男は平然と
    「僕達の家に来れば良いじゃないですか」
     と、良いも悪いも言っていないのに気が付けば燃え残っていた荷物を移動され、新しい、しかも自分好みの服やらインテリアが詰まった部屋をさっと用意されていた。未だに意味が分からない。
     ――どうしてあの男は僕の趣味を把握しているんだ⁉  
     頭を抱えて呻くアズールを、ジェイド・リーチは朗らかな笑顔で
    「喜んで貰えて良かったです。アズール。これから仲良く、僕とフロイドとアズールと、一緒に暮らしましょうね」
     ハートマークが見えたのは気のせいだろうか。きっと気のせいだ。
     刑事でもあるアズールは、別にどんな人間がタイプだとか好みだとか、そういう物を宣言した事はないが、うっかりジェイドに迫られた所を事務職員に見られてからというもの、あのちょっと変わった探偵の男と付き合っていると署内では専ら噂されるようになってしまった。
     おかげで上に行きそうな上司達の娘達との縁談もぱったり来なくなってしまった。
     ぴき、と本を持つ手に力が入りかけ、アズールはいけないいけない、と首を振る。
     アズールはちらりと自分の時計に目をやり、眉を寄せて顔を上げた。
     フロイドと落ち合う場所として指定された場所に来て、もう既に五分は経っていた。ジェイドほどではないが、フロイドとて、そこまで時間にルーズというわけでもない。飽きたなら一応アズールに飽きた、とか理由を言って連絡くらいはしてくる。
     そもそも、厄介なトラブルとは一体なんだ? 連絡は一応してみるか?
     と、徐々に湧いてきた嫌な予感からスマホを取り出そうとすると、パタパタと見知った頭が人波から抜けてアズールの方に近づいてきた。
    「遅いですよフロイド」
    「五分だけじゃんー」
     彼はふうっと汗を拭って、まさに走ってきたという顔でアズールの席に置いてあった水を取って一気に飲み干した。
    「はー、疲れた。しつこいのってやだよねぇ」
     ジェイドとそっくりだが、決定的に違うその顔つきは、普段のへらっとした顔、ではなくどこか気を張っていて、アズールは思わず本を閉じた。
    「……フロイド。念のためですが手短に言います」
    「んー?」
     首をかしげ、肩を回しながらそろりとフロイドはパーカーの内側に手を入れる。
    「……お前、何をやらかした?」
    「……あは、さっすがアズール。よくわかったね」
     言うと同時に、フロイドがアズールを抱えてアズールを椅子ごと床に引き倒した。器用な事に、アズールの頭を手で押さえつつである。頭の上を破裂音が連続で響き、アズールはそれが何かを頭で理解する前にジャケットの内側に手をいれ銃を掴み、流れるように音のする方角に向けた。
    「白のセダン三。小銃は真ん中のやつ」
    「なんでそんな物に追われている」
    「えへ」
     可愛らしい仕草なのは否定しないが、今はえへ、なんて言っている場合ではない。腹が立ってきてアズールは床に倒されたままかなりきつい態勢で、テラス席の柵の隙間からフロイドの指摘していた白いセダンを見付け、三台の内真ん中の一台のガラス窓に向けて三発撃った。
     連続する破裂音が止まり、フロイドはぱっと立ち上がってアズールを抱え上げてすぐにボロボロになった店の奥に駆け込んだ。
    「後でこれ弁償するのはうちの署なんだぞ!」
    「あいつらに言ってよー」
     フロイドは厨房にお邪魔しまーすといって入り、そのまま裏口のドアを蹴り開けて、裏路地に出て辺りに目を向けた。
    「アズール、何できた? 歩き?」
    「そ、そうだが?」
    「んえ、まじか。オレ車あいつらにボコボコにされたから足が欲しかったのになぁ。ジェイドこういうとき適当なんだよな」
    「そ、そうだ! ジェイドは」
    「ジェイドは別件で手が離せないからー、オレとアズールであれなんとかしないとかも。がんばろーね」
     ニコニコと、フロイドは言って道の一方を指さして
    「取り敢えず、あっちいこ」
     とアズールの手を引いて走り始めた。
    「おい! まて、あいつらが何か、まずちゃんと話せ! 走りながらでも」
     パタパタとフロイドの後を追いかけながら、アズールはチラリと背後に目をやった。まだ敵らしき何かはこちらには来ていないようだ。
    「なんかさー、暇だったから夜ぶらついてたら、変な取引してる奴ら見かけて」
    「ええ」
     パタパタと、二人は裏路地を駆けて、地下道に入って、一息入れた。
    「で、その取引とは?」
    「これ」
     フロイドは、アズールにぽんと小さな箱を放り投げた。慌ててそれを受け止め、危ないだろう! と小言を言いながら、アズールは箱に手を掛けた。
    「……なんだ? 薬、とかでもないのか?」
    「そうー。オレもてっきりそう言うのかと思って暴れたのにさぁ。なんか、それを手に入れてたやつが変な事言ってた」
    「どんな?」
     アズールは、辛うじて残って居る地下街の電灯の光にピアスの宝石部分をすかし、ふと違和感に気付いた。
    「なんだこの、四角いのは」
    「チップじゃねーかなってオレは思ってる」
    「チップ……マイクロチップか?」
    「そう。そいつを手に入れたやつは『これが手元にあれば我々が雨に降られる事はなかろうよ』って」
    「……雨?」
    「そう言ってたー。あと、盗聴器調子悪くて上手く所々聞き取れなかったけど、」
     フロイドは、少し思い出すように視線をさまよわせてから

    「オペレーション・レインフォール」

    「……明らかに面倒くさいやつじゃないですか。何考えて首突っ込んだんだお前は!?」
     僕の休暇はどうなる! と叫ぶアズールは、は、と気付いて後ろに目をやった。
    「とにかく、一旦このチップの中身を確認しなければ。署に行きますよ」
    「はーい」
     薄暗い地下道を抜け、二人はビルの合間に見える警察署を目指して走り出した。


     走るのはっきりと言って、アズールは得意ではない。
    「こういうのは……! もっと武闘派とかがやる事で! 僕は証拠品とかを足で集めたりとかはしますけど!」
     いつ後ろから銃弾の雨が降るか分からない中、二人は細い路地をぐねぐねと抜けて、警察署の裏口を目指していた。
    「アズールさ、文句言いながら走れるんだからもっとなんとかなりそうなんだけど」
    「息が上がっていないお前に言われると本当になんか! イラッとするな!」
    「酷い言い草」
     フロイドは大してなんとも思っていない顔で軽く受け流し、ちらりとアズールの背後に目をやった。
    「……追っ手、来ねーな」
    「妙ですね。小銃を撃っていたやつは仕留めた、かもしれないですが、だからといってそれで追撃を止めるとは……」
    「だよねぇ。アズールに気付いて警察署先に回ったのかなぁ」
    「僕、別にそんな有名でもないですが」
    「あれ、知らない? ジェイドってさ、結構裏じゃ色々やらかしたから有名でさ、オレもなんだけど」
     へらー、とアズールとジェイドにしか向けた事のない笑みを浮かべたフロイドに、アズールはさっさとそれを受け流し
    「言わなくても何となく分かりますよそりゃ」
    「でしょー。で、オレらと同じ家に住んでるから、アズールも多分賞金首」
    「……………………は」
     賞金首というのはそりゃ確かに聞いた事ありますよええ裏の人間達がそういう物作っている事くらい知っていますともただいまなんて言いましたフロイドなんでそこに僕が入るんです?
    「アズール息継ぎしてくれないとわかんない」
    「ええい! 誤魔化す為に可愛い振りをするな!」
     自分よりも背の高い大の男の胸ぐらを掴んでアズールは思わず叫ぶ。大型犬がくうんと悲しげに眉を寄せるようなイメージなのだろうが、残念ながらそのイメージはアズールにしか見えない。他人からすれば凶悪な顔をした男を彼よりは小柄な男が掴みあげている図である。
     ふと、アズールのスマホから着信音がして、二人は思わず立ち止まる。
    「だれー?」
    「ジェイドですね。この音は」
    「アズール、音ちゃんとそれぞれに設定してるんだ」
     豆だよねそういう所、と近づいてきた警察署の様子を伺いながらフロイドは呟く。
    「お前が適当すぎるんですよ」
     アズールは電話に出ながらフロイドに言って、アズールは道を渡って警察署に近づきながら電話に耳を傾けた。
    「アーシェングロット」
    「ジェイドです。ああ、無事のようですね。今どうしてますか」
    「状況の把握のためにオフィスに向かっています」
     アズールの言葉に、ジェイドはそれは……と困ったような声音で
    「申し訳ないですが、今警察無線を傍受してるのですが」
    「さらっと何をしてるんです」
    「それはまあおいおい。で、今警察ではアズールを重要参考人、というか逮捕しかねない勢いですよ」
    「……なんて?」
     思わず呟いたアズールの耳に、フロイドの声が飛び込んでくる。
    「アズール、なんか警察んところおかしい」
     言いながら、フロイドはぐっとアズールを引き寄せて警察署とは逆方向に向きをかえた。
    「おかしいって……」
     振り返り、アズールは思わず呻き、フロイドの服を引っ張って走り出した。
    「アズール?」
    「目が合った。こっちに向かってきている」
     ちら、とフロイドは後ろに視線を向けてなるほど、と呟きアズールに合わせて走り出した。
    「くそ、何がどうなって……!」
    「二人とも、一旦僕が指定する場所に十分後に来てください。少しすればアズールの電話は多分使えないでしょうから」
    「ええ、僕が何かしらの犯人と目されているなら……! 盗聴される可能性は高い……」
     ぜいぜいと息をつきながらアズールは答え、そのままジェイドは電話を切った。
    「クソ、せっかくの休みが!」
    「あとでリゾート連れてってあげるから」
    「本当だろうな! お前が元なんだからお前が出すんだぞ?」
    「いいよぉ」
     ニコニコ機嫌の良い男の様子にアズールはくそーっともう一度叫ぶ。指定された場所は最寄りの地下鉄駅から一つ先で、ジェイドの計算か、二人が改札にはいると同時に電車が滑り込んできた。
     バタバタと後ろから駆けてくる足音を聞いて、二人はそのまま駆け込みドアが閉まる。
     ようやっと息が付いて、アズールははあ、と大きく息を吸い込んで、フロイドを睨み付けた。地下鉄は時間的に殆ど人が乗っておらず、アズールは辺りに目を向けてから、フロイドの服を掴んで自分の顔の側にフロイドを近づけた。
    「で、一体ジェイドと何を企んでいたんです?」
    「企み、とか酷いー」
     大して思ってもいないような顔と口調で答えるフロイドは、アズールが睨み続けると肩をすくめ
    「オレは本当に細かいこと知らないんだけどさぁ。暇だしちょっと南の方に遊びに行くってジェイドに言ったら、じゃあついでにここの辺りの様子も見てくださいって言われただけ」
    「だけ」
     アズールはブレーキが掛かり、目的地に着いたのか減速し始めた電車から降りようとドアの側に近寄り、すっとそこから離れて隣の車両に移動しながらフロイドに目をやった。
    「だけー。まあそんときに面白そうだからさっきの連中の取引現場潰してきたんだけど」
    「それは世間では様子を見てきたとは言わないです」
     駅のホームに目をやってため息をついたアズールは、弾あと何発残っていたかなと考えながら、腰に手を回した。
    「オレ先に出るからアズール後から後ろ確保してよ」
    「分かりました。三つ数えたら出てください」
    「おっけー」
     電車は駅に入り、アズールとフロイドは出入り口の脇に身体を滑り込ませて身を低くし、ちらりとお互いの見えるドアから外に目をやった。
    「……三、二、一」
     ガタン、とドアが開いて合図と同時にフロイドが待ち構えていた男の腹に下からパンチを繰り出してそのまま後ろに控えていた男達へ押しつけた。体勢を崩された後ろの数人は尻餅をついたものの、すぐに銃を出してフロイドに向ける。
     フロイドの後ろからアズールがその男達に応戦して、二人はそのまま改札を出て外に出た。非常ベルが背後でなったがそのまま二人は無視して地下鉄の駅を出て、ジェイドが指定した場所へと向かった。
     たどり着いたのは空き倉庫らしく、二人は試しにとシャッターに手を掛けた。
    「開きますね」
    「ジェイド、何考えてるんだろうねー」
    「さあ。とにかく、開けてみてくださいフロイド」
    「はあい」
     シャッターが上に向かっていき、二人はそろりと警戒して中を覗き込んだ。人の姿も、何も無く、二人は銃を構えたまま奥に進んだ。ガタン、と入ってきた出入り口から物音がして振り返ったアズールは、レーザーポインタが身体中に向けられて思わず舌打ちした。
    「銃を捨ててくださいよ。別に、始末するつもりとかは無いんで」
     こつ、と建物の中に男が入ってきて、アズールは銃を捨てて手を上げた。
    「どうも刑事さん。噂はかねがね聞いていますよ。私はサイモン・グリナー。情報局室長、とでも言えば良いでしょうか」
    「は」
    「えー」
     アズールとフロイドは思わず声を上げて目の前の男を見つめた。


    「雨」と水たまり


     外を見ることが出来ない車に乗せられ二人はしばらく揺られてどこかにたどり着いていた。
    「ここは?」
    「我々の拠点の一つですよ」
     空きオフィスかあるいは全く想像つかない物を代用しているのか、コンクリートの壁のオフィスを見つめてアズールは思案した。
    「ジェイドは?」
    「さあ、彼とは連絡を取り合ってはいますが、彼の調査が我々と接点があると気付かれるとまずいので、内密に対応しています」
     サイモンの言葉に、アズールは内密ねえ、と眉をひそめた。
    「それで、一体どうして我々をここに連れてきたんです」
     アズールの問いかけに、サイモンは奥の会議室のような場所に二人を案内してドアを閉めた。
    「コーヒーはありますが」
    「結構です。話をさっさと進めてください。彼は飽き性なんです」
    「そうそう、飽きたらオレ、暴れたくなるんだよねぇ」
     あは、とフロイドがアズールの言葉に頷いて、ぱき、と指先の骨をならす。サイモンは気をつけようとだけ答えて椅子に座った。
    「それで、お二人ともあれはどちらに?」
    「あれ、とは? ああ、フロイドがマフィアから奪ったやつですね」
    「ええ、まあ、はい」
    「あれはぁ、隠した」
     フロイドの言葉に、サイモンの口から妙に空気が抜けたような声が出た。
    「隠した?」
    「そうだよー」
     ちらりとフロイドがアズールに目をやり、アズールも頷いた。
    「ええ、もしもの時のために。マフィアとの交渉材料となりますから。我々とてただ状況に流されるだけじゃありませんので」
    「な、なるほど」
     サイモンはあからさまに狼狽えたような顔をしたが、すぐに立ち直ったのか頷いて
    「では、あとでそれを回収しましょう。私の部下が……」
    「はあ? 無理だけど。オレらが交渉に使う目的で隠したのになんであんたらが取ってくるって話になるわけ?」
    「まず、あれが何かもちゃんと説明されてないのですよ。例え情報局とは言え、僕を犯罪者の如く扱って警察に追わせたのはどういう了見です?」
     畳みかける二人に、サイモンは苛立ちを隠せず、それでも仕方が無いと目の前の白い壁にプロジェクターを投影した。
    「ざっくりとした説明になりますが……。我が国では今も他国からの侵略、テロリズムとの攻防が日夜繰り広げられています。勿論、それ以外にも脅威は多い。そこで、当然諜報員が活動するわけですが」
     彼はそこでスライドを数枚出して、数人の男達の写真を並べた。
    「……少し前、この三人の男が逮捕されました。元々は麻薬取り締まりの方だったそうですが。とにかくそこで別の案件として、テロリストが喉から手が出るほど欲しいだろうそれを手に入れ、国内のマフィアに売ったと。売り先を聞こうとして司法取引やら何やら、とにかく私ども、それに警察や麻薬取締官達も関わって、あの手この手を使いました。ですが、結局行方は分からないまま……。そんな折り、とあるマフィアがある物を手に入れ、それをテロリストに売る事を突き止めました。そこで、そのある物が本当に我々の探している物か、確認をしてから取引された物をこちらで手に入れようとあの場で待機をしていたんです。ええ、そちらのフロイド・リーチ氏が暴れに暴れた波止場の船の事ですね」
    「なあに? オレある意味良い感じだったんじゃねーの?」
    「はあ……」
     思わず、アズールとサイモンが同時にため息をつく。アズールはちらりと画像の方に目を向けてから
    「それで、そのある物というのは?」
    「……リストです」
    「リスト?」
    「はい、国外で活動している諜報員のリストです」
     思わず、フロイドも黙りこんでアズールと視線を合わせた。それがテロリスト、あるいはかの国に渡ればとても面倒な事になる事はアズール達でも事の重要性は理解していた。
    「なるほど。話は分かりました。確かにそれはどこかにとっては喉から手が出るほど欲しい物でしょうね」
    「ええ、それはもう。おまけに、中身を解読できれば活動している諜報員達に危機が及びます」
    「諜報員の育成、それに現地派遣での諸々の下地作り……。一朝一夕のものではないですから、その辺りも当然打撃ですね」
    「ええ、勿論。ここまで育てた現地のネットワーク、協力者達も危険にさらします。それに、今後を考えて打った布石も全て水の泡です」
     サイモンはため息をついて
    「そういう訳なので、マフィアに奪われないよう、なんとか回収したいんです」
     アズールはフロイドに目を向け、彼が肩をすくめるのを眺めてから頷いた。
    「では、まずは僕達で隠した場所へ取りに行きましょう」
     アズールはフロイドの肩を軽く叩いて立ち上がり、フロイドは眠い目を擦りながらアズールの後について外に出た。
     二人は服に小さなインカムを付けられ、電話を一つ渡されて再び車に乗せられてぽつんとどこかの空き地で下ろされ、車を見送った。
     少しの間、黙りこんでからアズールはインカムを襟から外し、ポケットに突っ込んだ。フロイドはポリポリと頭を掻きながら、手の中のインカムをぱっと落してあー、っと言いながらつま先で踏みつけた。
    「こわれちゃったー」
    「……あからさますぎないか」
     アズールはそう言いつつ、空き地の周りに目をやって歩き出した。
    「にしても、アズールも良くオレの話に乗ったよね」
     フロイドは手元にあるピアスの片方を手に取って、ぷらぷらと揺らして呟く。
    「僕は僕で気になることがあったんですよ」
    「何?」
     ジャケットの内ポケットからアズールはフロイドの持つピアスの対になる方を取り、光に透かした。
    「お前が聞いたという作戦名、あれについての説明が無かったんですよ。彼らがあそこに居て、マフィアの側が知っている。お前が現場に居て聞いていることは確実でしょうに、説明をしないのは何故だ?」
    「そういやそうだねぇ。まあ、あいつなんか色々変だったけど」
    「フロイド、あのプロジェクターに写っていた人間の顔を覚えていますか」
    「さあ、まあ思い出そうと思えば顔くらい模写できるけど」
     アズールはチラリとフロイドの方に目をやり
    「相変わらず滅茶苦茶な記憶力ですね」
    「そぉ? アズールだって似たようなもんじゃん」
    「僕のはただの反復とコツを覚えただけの物ですよ。全く、ジェイドもお前も、その才能なんで滅茶苦茶なことに使うんだか」
     そう言いながら、アズールはふと足を止め
    「そもそも、今回ジェイドが見てこいと言ったのだって、下手したらその方が面白そうだからとか、そんな理由じゃないだろうな」
    「あり得るかもねぇ。今頃どっかからのぞき見して面白がってるかも」
     軽く笑うフロイドに、アズールはやりそう、と思わず眉間を押さえて呻いた。空き地を抜けて街に続く通りに出ると、フロイドはこれからどうする? と問いかけた。
    「取り敢えず、まずは図書館で見たい物があります」
     と、配車を回して貰おうとアズールは自分の端末を手に取った。


     静かな図書館の中、アズールとフロイドはマイクロフィルムのリーダーの前に立っていた。
    「よっと……」
     ピアスの金具を外しアクセサリーの部分を器用に半分に剥がすと、フロイドはよいしょっとフィルムを置いて、アズールはそれを拡大して見つめた。
    「……どう?」
    「ええ、中身は問題ないようです。これをまずはこっちでも保存しておきましょう」
     アズールはそう言って二つのフィルムの内容を写真に収め、フロイドにスマホを渡した。
    「一時的で良いので丸暗記しておいてください」
    「はーい」
     フロイドはフィルムの中身が写った写真をじっと見つめて、やがてそれをアズールに返した。
    「三日くらいなら覚えてられる」
    「それで十分です。あとは……」
     アズールは今度は図書館で借りた新聞記事のフィルムを手にして、素早い動きでフィルムを眺めていった。
    「何してるの?」
    「ちょっと僕の記憶で気になったことがあって……っと」
     アズールは手を止め、フロイドをちょいちょいと指先で呼んだ。
    「これを」
    「んー? あれ?」
     フロイドは、覗き込んだフィルムの記事を見つめて瞬きをしてアズールに目をやった。
    「これどういうこと?」
    「お前の目から見ても、それは合っていますか」
    「ん、そうだと思う。何だっけあのおっさん……。トビハゼっぽいの。あのおっさんが出してたスライドの三番目の人相に似てる」
    「トビハゼ……」
     アズールは確かにちょっと似てるかも……と吹きそうになるのを押さえ、眼鏡の位置を直してから
    「ん、いえお前がそう言うなら安心しました。そうなると、やはりあの男の言っている事は妙ですね」
     アズールは新聞記事のフィルムを返却して、そのまま図書館から外に出た。
    「情報局室長が見せてきたスライドの犯罪者は、過去捕まった犯罪者の写真を流用した物。三人目は偶々ここ最近僕が扱った事件の類似として調べたので顔を覚えていたんです」
    「それなかったら普通に気付いてなかったろうね。後の二人は何だろ」
    「巧妙に直されていましたが恐らくあれはモンタージュなどで作られたイメージ画像ですね。肌の濃淡がモンタージュで見る若干合っていない色になっていましたので。やはり古い時代の物を使ったのでは無いかと。今の物ならそうはなりませんし」
     ふと、アズールは横に居たはずのフロイドの姿が消えて居るのに気付いて慌てて辺りに目をやった。
    「フロイド!」
    「あ、アズールー」
     公園から気の抜けた声がして、アズールは思わずはあ、とため息をついた。フロイドは何やらキッチンカーで買い込んだのか、紙のバスケットに揚げ物や何かを詰め込んだ物を膝に乗せてベンチに座っていた。
    「何してるんです……」
    「お腹空いたから。オレここんところずっと追いかけ回されてたからさぁ」
     明らかに面倒を引き起こした本人のせいではあるが、アズールはまあ良いかと横に座って
    「それにしても、ジェイドと一緒にお前もこんな事をしていたとは。正直驚きました」
     包みを開けてサンドイッチにかぶりつき、フロイドはコーヒーを飲んで息をつく。
    「んー? オレはこういう事しないって思われてたわけ?」
    「もっとあちこち色々やってふらふらしてるかと思っただけですよ」
    「まあ似たようなもんだけど。ジェイドの所に一応いる事にすれば楽だしさぁ。まあ、ジェイドはさ、本当は別に表に立ってなんかするのは好きじゃねーし」
    「それは、確かに」
     昔から目立たないようにと大人しかったのを思い出して、アズールは頷いた。大人しいからと言って周りに害がなかったかと言えば……そんなことは全く無いのだが。
    「はい、アズール」
    「は?」
     油で揚げたポテトを口元に近づけられて、アズールは思わずいりませんよ、と手を振る。
    「……良いじゃん……。ちょっとくらい」
    「その、あからさまに打ちのめされた可哀想な犬のような顔をするのも本当に前から変わっていませんね!?」
     眉を下げて、これでもかと悲しげな表情をするフロイドに、アズールはカロリーが! と内心愚痴りつつも口を開けてポテトを半分囓った。
    「次いつ飯食えるか分からないし、ちょっとは腹に入れとかないとだよ」
    「怖いこと言うな……」
     フロイドは半分のポテトを放り込んで飲み込んで、さらりと言うと、バスケットをアズールに差し出した。
    「はい、オレが見てるから食べてて」
    「……く、何という強制力……」
     とはいえ、フロイドと待ち合わせていたときに飲もうとしていたコーヒーはぶち撒かれて口には入らず、それから走り回っていたのだからどうしてもお腹は空いている。
    「どうせいっぱい走り回りそうだし、いっぱい食べたって良いじゃん」
    「……なんでそんなに食べさせようとするんだ……」
     ポテトを機械的に口に放り込んで飲み込みながら思わずアズールは問うと、フロイドは不思議そうな顔で
    「だってアズール痩せすぎだし。もっとお腹とか、ぷにってしてても良いと思うんだよねぇ。この間さ、久しぶりに会ったからってぎゅうってしたときすげーびっくりした……」
     スカスカだった……と何か衝撃を受けたような顔をするフロイドに、なんでだ、と思わず顔を引きつらせる。
    「おれ、昔の頃のも好きだったんだけどなぁ」
    「はいはい」
     この男は時々良く分からないフェチズムを覗かせるな……、とアズールは適当に受け流してちらりと公園の出入り口側に目をやった。
    「本当、ジェイドめっちゃ嬉しそうだったんだよね。アズールと会ったって」
    「ああ、夏の事件の時ですか」
    「そう。滅多に電話してこないのに電話してきて、すげー嬉しそうにアズールが刑事やっていた! って」
     その時自分は完全に彼の事を忘れていたわけで、何となくいたたまれなさに黙ってポテトを口に放り込んで咀嚼するアズールに、フロイドはそのまま続けた。
    「ジェイドはさぁ、いつかアズールとまた会うかもしれないからってあんなことしてたから、普段よりも真面目に仕事してたって言ってたし」
    「まて、普段どれだけなんだ?」
     アズールは思わず顔を引きつらせ、フロイドに向き直った。夏の話は正直十分あの男はやりたい放題やっていただろう、とアズールは思ったが、フロイドは平然とした物で
    「普通だったらもっと面白くしようって犯人煽ったりとかそういう」
    「……そうだったお前達はそういう所ある……」
     コーヒーを飲んで、アズールは空になったバスケットとカップを近くのゴミ箱に放り投げた。
    「そもそも、お前の兄弟……、おかしいことを言っているけど良いのか」
    「おかしい事って?」
     車のブレーキ音と共に公園の外から銃を持った数人の男が二人に向かってきて、アズールは銃を抜いて物陰に伏せた。
    「僕とその……そういう関係になりたいとか言っているやつですよ」
     呟いたアズールの頭の上を銃弾が掠め、フロイドがアズールの後ろから撃って、アズールを引っ張って反対側の出入り口から通りに出た。反対側に待機していたらしい車が二人に向かって突っ込んできて、二人は咄嗟に近くのビルに入っている食料品店に飛び込んでレジ脇を通って裏口から外に出た。
    「えー? 良いんじゃねーの。ジェイド一途だから」
    「一途」
     ガラガラと背後で缶詰か何かをひっくり返した音がして、別のビルの出入り口を蹴り開けて、フロイドは中に押し入った。ドーナッツ屋らしい。甘い匂いと揚げ油の匂いが鼻を突いてアズールは思わず鼻を押さえ、フロイドは流れるように置かれていたドーナッツを一つ手に取ってコインをカウンターに置いてぱくついてから、やはりドアを蹴り開けた。
    「おい! ドアを蹴り開けるな!」
    「だって手より断然早いし長さあるから良いじゃん」
    「そうじゃない……」
    「ドーナッツ食べてて手使えなかったし」
    「食べるな!」
     観光客やオフィスワーカー達も多く行き交う大通りに出ると、二人はそのまま更に歩道を走り始めた。
    「なあに? アズールはジェイドは嫌い?」
    「好悪の前に性別的に良いのかとかあるだろうが!」
    「だって好きになった物はしょうが無いじゃん」
    「そういうときだけ禅問答をするな!」
     横断歩道を渡って大きなオフィスビルの影に隠れて、アズールはぜえぜえと息をついた。
    「何が問題か全然わかんねー。ていうか、あんなにジェイド言ってたのに……。じゃあまだ寝てないの」
    「するか!?」
    「じゃあさっさと振れば良いじゃん」
    「……それは」
     言いよどむアズールに、フロイドは物陰に隠れたまま、壁際にアズールを隠すように立って屈んで囁く。
    「そういうの、ずるくない?」
    「……う」
     宙ぶらりんの状態が居心地良いと、実は思っていたアズールは、フロイドの言葉に思わず鼻白んで呻いた。
    「それに、オレもアズールの事好きだし」
    「……なんて?」
     思わず顔を上げてフロイドを見上げると、アズールの顎を押さえてフロイドが顔を寄せてきた。
    「オレも一途なんだよ? うちの家系、みんなそうなんだけどさぁ」
     この流れはまずくないか? いやだってこの状況だが? と頭の中で色々な思いが交錯し、アズールは凍り付いたようにフロイドの顔が近づいてくるのを眺めていた。
     ――いや、本当にこの双子は顔が良いな……?
     そんなことを思った瞬間、コンクリートに銃弾が当たって弾け、思わず二人は身体を伏せて弾が飛んできた方に目を向けた。
    「しつこいなぁ」
    「そりゃ向こうも必死でしょうよ」
     弾の数を確認して、アズールはさてどうした物かと思考を巡らせた。追ってきているマフィア達の情報も欲しいところだが、今の状況では署の方に連絡するのも難しい。ジェイドにどうにか連絡をしようとしても、彼も必要な連絡以外してこないと言う事は、盗聴などを恐れているのだろう。
    「面倒くさいな……」
    「あ、待ったアズール」
     フロイドが何かに気付いて、思わずアズールを抱えて身を縮こまらせた。
     ぱん、とどこかからか音がして、銃声が鳴り止んだ。
    「何だ?」
    「狙撃。さっきレーザーポインタが一瞬見えた。多分あの……えーっとトビハゼのおっちゃんの差し金じゃね?」
    「それは嬉しいですけど……どういう事だ……」
     誰かが警察を呼んだのか、遠くからサイレンの音がしてきて、二人はそろりと建物の影から出て来て狙撃され、道路に倒れている男を見下ろした。
    「……」
    「どうかしたアズール?」
    「……いえ、一度警察署に行って……この男の身元を確認しましょう」
     アズールは、倒れている男の写真を撮って、周りのビルの方に目をやった。
     どこから狙撃されたにしても、随分用意が良い。
     ――いや、良すぎる位だ
     妙な感覚を覚えたまま、アズールは現場検証に来た刑事達と合流した。


    +++++++++++++++++++++
    書き手も今どうやって話を進めれば良いか分かっていないから凄く難産。助けて。
    フロとアズのドタバタ騒動。まあほぼ下書きなのでもうちょっと説明とか増えるはず。
    筈……
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