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    yu__2020

    物書き。パラレル物。
    B級映画と軽い海外ドラマな雰囲気になったらいいな

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    yu__2020

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    ジェイアズ
    シリアルなキラーなジェが仕事でアズにぶん回されてうっかり好きになってしまって純愛しているお話。その3

    ##ジェイアズ

    あなたがすべて 3 ジェイド・リーチにとってその行為は何であるか、自問はそれなりにしてきていた。生来突き詰めるタイプであるからと言うのもあろうが、その対象は自分にも及んでいた。自問自答、自省は美徳などと言うが、やり過ぎればそれはただ自傷と大して変わらない。そう生まれてしまった、そうなってしまった物を自問したところで答えなど無い。
     ――ただ、多分これは息をするようなものと大して変わりは無い
     命を奪うのがおかしいというなら、今こうして目の前からそれがただの肉塊になることと、冷蔵庫に入っている肉だって存在するべきでは無いだろう。別に自分は肉食を悪とは思わないが。
     そういう意味で言うならジェイドの中の命の価値は平等である。
     兄弟は、そんな彼をそういう物と肯定していた。と言うより、彼も別の方向で発露させていた気もするが。
     パーツを切り分けて小分けした物を袋に詰めようとすると、それの手先に嵌まっていた指輪らしき物に目が行く。外して内側を見ると、刻まれたイニシャルに目が行く。
     イニシャルはその死体の身元の物とは違うようだった。
     ――盗品か
     始末したときのこの人間の言動から、その指輪を持つ収入はなさそうだった。既に捨てた身元が分かる物もそれを示していた。となれば、誰かから奪って、いずれ質に入れようとしていたのか……。あるいは別の目的で持ち続けていたものだろう。
     感傷などは特にない。そのまま指輪は燃やせないから別にしようとテーブルに置いて、袋の口を縛って、ようやっと作業を終える。
    「ふう」
     作業場からそれらを運び出してゴミとして出し、ジェイドは一仕事終わったと汗を拭う。あれから衝動的な行動は無いが、現状油断は出来ない。自分でも分からない感情の起伏が今かなりあるのだから、慎重にしなくてはならなかった。
     とはいえ、家の中に戻ってカレンダーに目をやり、ジェイドは明らかに浮かれて居たのだろう、ぐるぐると何度も付けた丸印が付いた日付を見つめる。休みは取るようにと言われ、ジェイドはそれならとアズールを迎えるために一日休暇を入れた。彼は告げられたときにそんなことで使うのか、と眉をひそめたようだが、ジェイドにとってはこれほど大事な物は無い。
     食材もお茶も全て揃え、気合いを入れて仕込みを始める。
     少し前までやっていた事など気にも留めず、ジェイドは機嫌良くキッチンに立って作業を始めていた。


     待ちに待った、その日その時間、アズールは少しだけ遅れてやってきた。
     車は移動に使うためと余りこだわっていないと言っていたとおり、某メーカーのオーソドックスな物でモーターの音をわずかにさせて家の前に止まった。彼は紙袋を持ってかっちりとしつつ、カジュアルなジャケットを羽織っていて、コツコツと玄関ポーチに上がって呼び鈴を押した。
     ジェイドはぱっと急いで廊下に出て玄関を開けてアズールを出迎えた。若干食い気味だったかもしれない。飛ぶように出て来たジェイドに、アズールは面食らった顔でぱちっと瞬きして彼を見上げていた。
    「どうぞ。お待ちしてました」
     微笑んだジェイドに、アズールはお邪魔しますと言ってジェイドに紙袋を渡した。
    「どうぞ、ちょっとした手土産です」
    「……ああありがとうございます。飾っておきます」
     中身をさっと確認して、ジェイドは舞い上がって思わず紙袋を抱きしめぐしゃっと胸筋と腕の力でそこそこ厚みのある紙袋を潰していた。
    「……え、あ、まあ……コンフィチュールですからそれなりには持ちますが……?」
     飾る? と瞬きをした物の、アズールは案内されるまま部屋の中に入った。
    「郊外と聞いていましたが、良い家ですね」
    「ええ、元々は大分ボロボロだったのですが、数年掛けて大分直しました」
     アズールのジャケットを預かり、ジェイドは流れるような動作でコート掛けにかけた。ついでにさりげなく服のポケットに盗聴器をすっと仕掛けて、さっさと埃を払っておく。
     ジェイドは、部屋の中で壁に掛けられた絵や、唯一飾ってある少し前に撮った兄弟と写った写真を眺め、ほう、と考え込んだ顔をしているアズールを後ろから少し眺めて、声をかける。
    「兄弟が気になりますか」
    「ああ、いえ。聞いていたのですが、双子だったのかと」
    「ええ、気分屋であちこちふらふらしているんですけど……。天才型、と言うのでしょうか。僕とは全然違って」
     アズールの私服姿をとっくり眺めつつ、ジェイドは機嫌良く答える。タイトなシルエットが好みと言っていたのを思い出し、壁に向かっているときの後ろ姿や細身のパンツを履きこなす様を見つめて、思わずため息が漏れる。あくまでも造形的な良さを見ているだけ。そこに肉欲などあるわけがない、とジェイドは思わず首を振ってせっせと準備に取りかかる。
     ――とはいえ、相手はあの有名店がご実家と言いますし……
     不安を若干感じながら、ジェイドはアズールに用意が出来たことを告げた。椅子を引いて、以前少しだけやった高級ホテルでの給仕のバイトを思い出して、彼のカップにお茶を注いで出す。
    「本格的ですね」
    「ええ、昔少し兄弟と一緒にバイトをして見たことがありまして」
    「なるほど……」
     何か考え込むアズールの様子をじっとジェイドは見つめて思わずゴクリと嚥下させる。焼き菓子やサンドイッチなどを並べると、アズールは感心したように声を上げる。
    「趣味にしておくには勿体ないですね」
    「アズールにそう言われると照れますね。どうぞ」
    「……え、ああ。あなたは?」
    「僕は今日は給仕に徹しますので」
     そう言ってジェイドは微笑む。実際にはそうでもしないと理性が保てるかが不安だったりするのだが、アズールはむうっとわずかに不満げにジェイドに視線を向けた。
    「まあ、ある程度は分かりますが……。せっかくこうして機会を得たわけですし上司と部下という関係では無くもう少し砕けた感じを」
     ゴツ、とジェイドは思わず机の端に足をぶつけ、すぐに失礼、と微笑んだ。顔には若干冷や汗が流れ、アズールは思わず
    「え、大丈夫ですか今の音」
    「え、ええ勿論!」
     にこやかに微笑みたいしたことないと手を振るジェイドに、アズールはそれなら良いですが、と眉をひそめた。
    「と、とにかく、まずは僕におもてなしさせてください」
    「まあ、分かりましたが」
     では、とアズールは出された菓子に手を伸ばした。


     ふう、とアズールはお茶を飲んで一息つき、満足げに頷いた。
    「いかがでしたか」
    「ええ、とても楽しみました」
    「そう言って貰えると嬉しいです」
     ジェイドは皿を片付けてキッチンに引っ込み、胸をなで下ろした。今のところどうにか妙な言動はしていない筈だ。皿を食洗機に並べてから戻ると、アズールがじっと戻ってくるジェイドを見つめて居た。
    「ど、どうかしましたか?」
    「いえ、もてなしを受けるのも悪くないですね。実家もですがする側の方が多かったので。ですが、せっかくこうして二人きりなのですから、何か僕に相談などあるなら言ってみたらどうです」
    「そう、だん……ですか」
     アズールは頷いて
    「そう思って自宅に呼んだのではないんですか? いい人がいると言ってましたし。僕は別に構いませんよ。相談して仕事に身が入るなら」
     ジェイドは、呻くような音を出して、ゆっくりとアズールの向かいに座った。この状況は余り良い流れでは無い。無いのだが、ジェイドはちらりとアズールに目をやって、言葉を選びながら
    「……そうですね。あの、まだこちらが思っているだけというか」
    「ああ、そうだったんですか」
     眉を上げるアズールに、ジェイドはゆっくりと頷いた。
    「性格は少し……誤解を招くような言動が多いのですが、内面は違う所が魅力で」
    「なるほど。随分難しい相手ですね」
     お茶を飲みながらアズールはこくこくと頷き、ジェイドはアズールを見つめて思わず苦笑する。
    「ええ、まあ。こんな風な感情は正直初めてで……戸惑っているのはあって」
     ちら、とアズールの方に目をやり、ジェイドは机の上で組まれたアズールの手を見つめた。爪の先まで人が見ているかもしれないからと、アズールの手は男性の手ではあるが手入れされたすっきりした指先である。
    「アズールは、そういう話は?」
     ジェイドは思い切って切り出しアズールを見つめた。彼はティーカップを眺めながら少し考え
    「そうですね。本当は先々のキャリアを考えると相手を見付けるべきなのですが……」
    「ですが?」
     どく、どく、とジェイドは心臓がせり上がりそうになりながら、どうにか話を促した。
    「今のところ、どうもそういう気になれなくて」
     ふっとジェイドは肺に空気が巡り、ぱっと表情を明るくする。詰まるところ、現時点ではアズールに特定の相手は居ないという事だ。
     ――いや、そもそも自分がそういう相手となるかなど
     幻想を抱くべきでは無い、とジェイドは考えるが、それでもちらりとアズールに視線を向ける。
    「……僕からも少し聞いて良いですか」
    「ええ、勿論、答えられるものでしたら」
     アズールの問いかけに、ジェイドはぱっと笑みを浮かべる。
    「大した話ではありません。その、最近あなたは有能さを発揮してくれていますね。他のプロジェクトの抜擢もあったはずですが、全部断ったと本部長からなんとかしてくれと泣きつかれたくらいに」
    「ああ、それは迷惑を」
    「いえ、それは……。良いとして。確かに僕はあなたを本当は出来ると思ってました。だからまあ、プロジェクトに抜擢したわけですが。なら他の所にだって」
    「別に、お金とかそういうのには余り興味が無くて。ただあなたの側にいて、仕事をするのが楽しいと思っただけですよ」
    「たのしい……?」
     どういうことかと、アズールはジェイドをはたと見つめた。上昇志向、というよりは目的がはっきりしている彼にはその感覚は分からないだろう。どう、こちらの持っている好意を上手くぼかして伝えるべきかとジェイドは考えた。
    「何と言えば良いか、アズールのやり方はとても独創的で、それにお客様への理解も深くて勉強になるんです。飽きないというと変ですが。だから、僕としてはあなたの側で仕事が出来ると……良いと」
     ジェイドはそこで言葉を句切り、アズールを見つめた。ジェイドからすれば、これは今できる最大の告白である。
     ――ああもし、これで袖にされたら僕は
     ぐっと手に力が入りジェイドはそれをもう片方の手で押さえ込む。
     ジェイドの言葉を何か考え込むように聞いていたアズールはなるほど、と少し俯いて黙りこんだ。
     ほんの少しの筈がひどく長く感じて、ジェイドはつばを飲み込み、あの、と問いかけようとした。
    「あなたの希望は分かりました。っと、失礼。仕事の話になってしまってましたね」
    「ああ、いえ、気にしていません。アズールは仕事がお好きなんですか」
    「……あなたは気付いたかもしれませんが、僕にとっては今の会社も一時的に在籍するつもりの場所です。いずれは独立してこれまで得た伝手などを最大限使っていくつもりです。まあ、そのための準備ですね」
    「そういう雰囲気は感じていました。会社の中と言うよりはどこか別の先を見ているなと」
     ジェイドの言葉にアズールは我が意を得た、と言うように頷いて
    「まさに、です。既にプランは立てているんですよ。ただ、独立しようにも僕一人では中々と言うところで、優秀な人材がいればと思っていた所なんです」
     話の流れに、ジェイドは思わずアズールを見つめた。そんなうまい話があるだろうか。
     しかし、アズールは真剣な顔で
    「勿論、安定を望むというのなら僕は強く引き留めることは出来ませんが。ただもし、今後も僕のやることに興味があるなら……。ジェイド、僕と共に来ませんか」
    「――っ!」
     ぶわっとジェイドは顔が赤くなり、舞い上がるなどと言うレベルでは無い状態だった。頭の中では天使がラッパを吹き鳴らして祝福をしているような情景すら浮かんでいた。
     アズールからの口説きに、ジェイドは思わずテーブルの上で組まれたアズールの手を掴んで握り込んだ。
    「え、あの、ちょっとジェイド……!?」
    「ぼ、僕で、僕で良いのなら……あの、不束者ですが」
     手を握りしめたまま頭を垂れるジェイドに、アズールは目を白黒させた。
    「え、あ、ああ……? お、お構いなく……?」
    「あなたの望みがかなうよう、努力します。アズール……」
     ほう、と熱いため息を漏らして呟くジェイドに、アズールはどういうことなのだろう、とわずかに顔色を青ざめさせていた。
    「た、ただ取りかかるにしても少し先になるはずです。今の案件の片が付いたら僕は上とも相談します」
    「そうですか。でしたら僕は後から合流する形にした方が良いですね」
    「ええ、どちらにしろ準備もありますからね。事務所やら何やら……」
    「自宅を使うというのは?」
    「自宅……僕の家は狭いのでちょっとソーホーも……。いや、いっそ引っ越すか……」
    「少し遠いですが、僕の家はまだ空き部屋も沢山ありますし、郊外ですがバイパスへの連絡も良い。アズールさえ困らなければ、ここを使ってくれて構いませんよ」
    「あなたの家をですか? しかし」
    「僕は構いません。むしろそうするのが自然では無いでしょうか」
    「え、そう、か……?」
    「そうです。メリットしかありません。僕の家ですから事務所を借りる必要も無いですし、家事は一通り僕がやりますからあなたは自分の仕事に集中できます。勿論、僕とてあなたの仕事の補佐はしますので家政婦を雇うような必要もございません」
    「……い、いや、まあ……それはそうかもしれないですけど。下宿とはいえある程度は」
    「お気になさらず。僕は家事などは得意ですし苦ではないので」
    「……それは……まあ。……少し検討します。ですが、申し出自体はありがとうございます」
     気のせいか、わずかに頬が赤くなったように見えるアズールに、ジェイドは目を細めた。
    「いいえ。僕がそうしたい、という思いからですので」
    「……それは」
     困惑としか言いようのない顔と、わずかに疑っているような目でアズールはジェイドを見つめていた。
    「ジェイド、本当に何か……無いのか?」
    「何かとは」
    「見返り、対価。そういった物です。無償奉仕なんてないでしょう?」
    「僕はあまりお金とかには興味が無いですよ。言ったとおり。嫌な事はやらないですし」
    「しかし」
    「あくまでも僕があなたにそうしたい、と思った事をご提案しているだけです。何も……おかしいところは無いですよ?」
     微笑んだジェイドに、アズールはいよいよ困惑の色を深めて、ジェイドを見つめた。
    「っと、そろそろ僕も帰らないとか」
     時計に目を向けて思わずアズールは立ち上がり、ジェイドに軽く頭を下げた。
    「長居をしてすみませんでしたね」
    「いいえ。満足いただけなら嬉しいです」
     ジェイドはジャケットをアズールに着せて、そろ、と肩に手を掛けて腕に滑らせ、ドアの外に導くために腰に手を添えた。
    「それでは、また明日」
    「ええ、また」
     アズールは、わずかに悩んだような素振りを見せてから
    「今回の礼です。今度は僕がもてなしましょう。今度時間を空けておくように」
    「……! あ、ええ、あの……楽しみに、しています」
    「ふふ、伊達にリストランテの息子をやってませんからね」
     そういって手を振って出て行くアズールを、ジェイドは玄関ポーチから見送っていた。
     今日は何と良い日なのだろう。
     アズールからパートナーとならないかと言われたという考えがじわじわと実感が湧いてきて、彼の車が角を曲がって見えなくなると、ジェイドは軽やかに家の中に入っていった。
     多分今までの人生で一番ジェイドの胸は幸せに満ちあふれていたに違いない。
     
     
    +++++++++++++
    この後はアズから見たお話挟んでジェがいよいよハッスルしてくるしアズもどんどん巻き込まれていく、筈。
    天使のラッパって終末ではというのは言ってはいけない

    そして思いのほか長くなって単発じゃなくなってしまった。これもまた中編くらいになりそう
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    tknens

    DOODLEモブのユニーク魔法で頭の中まで猫になったジェイドがアズールに甘える話です。ジェイドが猫になった。
     相手を猫に変えることが出来るユニーク魔法の持ち主と魔法を弾き返すユニーク魔法の持ち主が廊下で争っていたところに運悪く居合わせ、弾かれた魔法に当たってしまったのだと事情聴取したクルーウェルから聞かされて、アズールはジェイドにしては間抜けですねぇという感想を抱く。椅子に座ったアズールの膝の上には猫になったジェイドがどっしりと乗っかり、ふわぁと大きなあくびをしている。ジェイドは人前で大きな口を開けることを恥ずかしがるのであくびをするなど珍しいが、知能も猫並みになっているらしいのでその所為だろう。ボリュームたっぷりの長毛は髪の毛と同じターコイズブルー。骨太な骨格にがっしりとした力強い四肢。トレインの飼い猫であるルチウスやオンボロ寮のマスコットであるグリムよりも大分大きな猫である。瞳の色はジェイドと同じゴールドとオリーブグリーン。頭の天辺からひょろりと一房黒いメッシュが垂れ下がっているのまでジェイドそっくりだ。いや、ジェイドが猫になったのだから似ていて当然なのだが、あまりにも特徴そのまますぎて面白い。
    「ジェイドがこうなった事情は分かりました。それで、これはいつ戻るんで 6269

    ニシカワ

    DONE🦈のふりして🐙にちょっかい出そうとしたらとっくにフロアズしていたみたいで自爆した🐬のジェイアズ
    【ジェイド・リーチはフロイド・リーチがうらやましい】 誓って言える。決して下心などは無かったのだ。それはそれは可愛らしい、稚魚の悪戯のつもりだった。すぐにネタバラシをする気でいたし、そもそも続けられるほどの辻褄だって合わせていない。
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