刹眞 謎オメガバ与えられた仕事をこなしてようやく自室に戻る。今日はちょっと長く外に出ていたけれど、どうだろう。どんな顔をしているかな、どんな気持ちでいるのかな
「ただいま。」
部屋に入る。ソファーにはいない。
次は寝室へ。朝よりシーツが乱れているけど、いない。
どこだろう、って首を捻ってみる。鼻を擽った匂いの元に従ってみれば、中途半端に開いたクローゼット。なんで、そんなところにいるんだろう。疑問が浮かぶけど、早く顔が見たいから、後で考えようかな。
隙間に手をかけて扉を開く。好ましいにおいがより一層強く香って心がさわいだ。
「ただいま。」
さっき返事がなかったから、もう一度言ってみる。
やっぱり返事はない。
体操座りの状態で箱の中に収まる彼は足の間に顔をうずめたまま動かない。
昨晩のまま、シャツを羽織っただけだから健康そうな脚が晒されてる。朝、違う服を用意してみたけど、着てくれなかったみたい。似合うかなって、思ったんだけど。
「狭くないの?出ておいでよ」
返事はなし。ピクリとも動かない。
沈黙のまま数分が過ぎたけど、動く気はないみたい。
「今日は、おみやげ買ってみたよ。」
友達が、甘いものでも食べたらきっと仲良くなれるよって教えてくれたから、ケーキを買って帰ってみた。一緒に食べたいな。
「いらない…。」
ぼそ、と聴こえた声に嬉しくなる。今日は話してくれる日みたい。
「マヒロはどっちが好き?ショートケーキと、イチゴのタルト。僕はイチゴがいいな。マヒロみたいな色なんだよ。ねえ、」
「うるさい!」
見たらきっと食べたくなるよ。って言いたかったのに。マヒロの声で遮られる。
なのに、空気がピリピリして、また黙り込んでしまった。
なんで、怒るんだろう。よく分からなくて、じっと立ち尽くす。
マヒロの赤い髪の毛を眺めていたら、不意にバランスを崩したのか前に倒れ込んでくる。
慌てて体を受け止めると、やめて、と、言うように僅かな力で押し返される。でも全然体に力は入っていないし、体は熱い。
「マヒロ、まだ熱があるみたい。ベッド、いこう」
「いやだ、離して…!」
横抱きにしてあげて、寝室へ向かう。その間も抵抗していたけど、体を降ろす頃にはぐったりしてしまった。
「ボクが全部してあげるから、何も心配しないでね。マヒロ。」