オメガバ刹眞 出会い今日は交流会の日。全性別共学の学校がこのオメガだけの場所へやってくる。閉鎖的な空間にならないよう、いつか外へ出ていくために世との繋がりを持つことが目的だ。そう、いつか僕も向き合わないといけないんだ。でも、まだ、頭も心も中は空っぽのまま。
この先の事なんて、とぐるぐる考えだして、また気分が悪くなった。
みんな交流会に行っているから、中庭には誰もいない。お腹の底が気持ち悪い気がして、花壇の側でしゃがみ込む。
「こんにちは」
すぐ側で声がして、ばっ、と顔をあげると、あの時見た人が僕と目線を合わせるようにしゃがんでいた。
びっくりして声も出ない僕を気にせず、白い人は喋り出す。
「ここ、いい場所だね。木も花もたくさんある。…きみも、植物、すき?」
花壇に咲く花を見る彼の目はどこか優しそうだ。きっと悪い人じゃない。だけど、この人はアルファだ。独特の気配、存在感。喉に緊張が走って、痛くなる。
「…?」
勝手に顔を強張らせる僕を不思議そうに見て、一瞬思考した後、彼はまた口を開く。
「初対面の人には最初に名乗れって、言われてたの忘れてた。ボク、八代刹那。交流会で来た。きみは?」
「…あ、」
言わなきゃ。彼はきっと悪い人じゃない。
俯く僕を見て、何か悟ったのか彼はそれ以上追求しなかった。
少しの沈黙が続いて、また彼は言う。
「…ごめん、ボク忘れてて。ここの人たちは、色々あるんだって聞いてた。だから急で怖がらせたよね。」
彼はすっと立ち上がり、未だ硬直する僕に手を差し出した。
「ここ、ちょっと寒いね。みんなのところ、行こう。」
さっきは勇気が出なくて名前も言えなかった。
でも、僕を見て彼は無理強いしたりしなかった。彼の優しさを無碍にしたいと思わなくて、少し冷たい手を握る。指は震えていた。