Twitter再録今までこんなの一度も (クロシオ)
「背が伸びたね」
自動販売機で缶ジュースを買っていると、後ろから声をかけられる。シオンだ。
「あー、まあ伸びたかもな」
「昔は僕の方が高かったのに。追い付かれちゃったのは悔しいな」
高校に入ってからクロノの身長はぐんと伸びた。今ではシオンと目線の高さはほぼ同じ、体格も追い付いた。
「はっ、そのうち追い越してやるよ。そういうお前は……」
クロノは振り返ってシオンを見る。
金色の髪はより艶やかに。幾多の苦難を経験して、顔立ちは少しだけ大人びたものとなり。こころなしか、ブルーの瞳を縁取る睫毛も長くなった気がする。
「なんか、綺麗になったな」
「…え?」
言葉を間違えた気がする。クロノは固まっていくシオンの顔を見ながら察した。
「君、何言って……」
「あー、いや、その」
「もう行くね!」
「あっ、おい!」
動転していたのか何なのか。珍しく足を滑らせたシオンをクロノは受け止めようとして。
「おーい、どうした?」
「なんかすごい音しましたけど……どうしたんですか?」
「あー、別に?」
「なんでもないよ」
友達であり、仲間であり、ライバル。それが自分達の関係だったはずだ。
クロノも、シオンも、そのつもりだった。そのつもりだったはずなのだ。
シオンを受け止めた時に、至近距離でその瞳を見て。気づけば体が動き、唇を触れ合わせていた。
クロノに受け止められた時に、クロノの手に誘われるままに身を寄せていた。
友達でも、仲間でも、ライバルでも、こんなことしないはずだ。じゃあ自分達は。
禁制週間(クロシオ)
宇宙飛行士を目指すべく、クロノは猛勉強していた。
その闘志に満ちた目が日に日に濁ってきたようで、カズマは少し気がかりであった。
努力をしているのは知っているし、実際今のクロノの学力ではとても希望する大学には行けそうにない。理屈よりも感覚で覚える方が性に合っているようなので、ひたすら基礎問題・応用問題・大学の過去問を解いてもらっているが、根を詰めすぎではないだろうか。
クロノが問題集を一つ終わらせたタイミングでカズマは声をかける。
「新導、いったん休憩しようぜ。ここんところ全然ファイトしてねえだろ、息抜きすっか?」
「……ありがとな、カズマ。でもいい」
「お前な……」
「ちょっとな、約束してんだ」
「約束?」
「……ちょっと不純な動機になっちゃうけどな」
「はぁ?」
クロノの言葉に、カズマは意味不明だと言わんばかりに首を傾げた。
数週間後。
シオンは部室に向かう途中だった。そこで、久しく見ていなかったうずまき頭を目にする。
「クロ、っ!?」
有無を言わせない勢いでシオンの腕を掴み、クロノは全力で疾走する。
辿り着いたのは、ファイトテーブルが1つ置いてあるだけの、旧部室。鍵をかけ、クロノはシオンを壁際に追い詰める。
「ちょっと、クロノ……」
流石に戸惑うシオンに、クロノは1枚の紙を突きつける。
「これ……」
渡された紙に目を通し、シオンはクロノに向き直る。
そこには、模試の結果にはしっかりと「A判定」の文字があった。
「頑張ったんだね」
「シオン」
「うん」
「ファイトだ」
クロノはシオンにデッキを向ける。その目は、今まで見たことがないほどぎらついていた。
「うん。僕も待ってたよ」
シオンも、デッキを構える。
『A判定取るまで綺場とファイト禁止~?』
カズマは素っ頓狂な声を上げた。
クロノとシオンが交際している、と聞いてはいる。聞いてはいるが、禁止するものが明らかにおかしい。
『普通こういう時って、キスとかデートとか……あとセックスとかじゃねえのかよ……』
『お前意外と品ねえよな。それもまあ、考えたけど……あいつと好きな時にファイトできないってのが、一番堪えるんだよな』
あいつがどんどん強くなっていくのを自分の目で確かめられないっての、歯痒いんだぜ。
『A判定とれたらシオンとファイトできる、って思ったら……すげえやる気湧いてきてさ』
だから、それまで他の人とファイトするのもシオンを裏切ってる気がしてやりたくないのだとクロノは言う。
「……思ってた以上にベタ惚れなんだな……」
前に行った勉強会では頭をスリッパではたいたり、休憩と称してホワイトパズルをさせたりと悪魔のような振舞いをしていたシオンを思い出して、カズマは目を泳がせた。
被服室。
一時ファイトをほぼやっていなかったとは思えないほどの、怒涛のファイトをクロノは展開した。シオンもそれに応え、白熱したファイトが続く。
しかし、それだけの熱量を持って連戦を続けていれば限界は訪れる。先に膝をついたのは、シオンだった。
「っ、シオン!」
「あっ……ごめん……」
「いや、俺こそずっと付き合わせて……悪かった……」
シオンを抱き起し、クロノは謝罪の言葉をかける。それに対して、シオンは緩く首を振った。
「ううん。僕だって、君と気持ちは一緒だったから」
ずっとファイトがしたかったのは、シオンとて同じこと。クロノがA判定をとれると信じて、模試の結果が出る日に合わせて日々の業務を全て前倒しにしていた。その為に多少無理もしていたが、そのツケが今回ってきてしまったらしい。
「……ありがとうな」
「いいよ、全然」
柔らかく笑うシオンに、クロノはそっとキスをする。
「ちょっと、クロノ……こんな所で」
「わり、したくなった。……続きは」
「駄目に決まってるだろう」
「だよなぁ……」
当たり前だが、そこまでは許してくれないらしい。それがシオンらしくて、クロノは笑った。
レリクスでGPSは機能しない (クロシオ)
ふと、思いついたことがあり。クロノは制服の胸ポケットに入れていたお守りを取り出した。
お守りの結び目を解き、中に入っているそれを取り出す。黒く無機質な小型の機械は、何の反応も示していない。
「……ちっ、駄目か」
溜め息をつきつつ機械をお守りの中に戻そうとして、クロノは自分に向けられる視線に気づく。心底不気味だと言わんばかりの表情を貼りつけて、カズマがこちらを見ていた。
「どうしたんだよカズマ」
「いや……お前こそ何やってんだよ……というかそれなんだよ……」
「これか? シオンが持たせてくれてる発信機だよ。これでシオンに居場所が伝われば、ここを出る突破口になると思ってさ。でもダメだ、通じねえっぽい」
さも当然、というかのように言葉を続けるクロノにカズマは絶句する。
一介の男子高校生が、同じ男子高校生に発信機をつけさせている。元々仲のいいチームだったとは聞いていたが、行き過ぎている気がする。そしてそれを平然と受け入れている現在の自分のチームメイトも、なかなかヤバいのではないか。
「なんで発信機なんて……」
「色々あったんだよ。あいつ結構心配性みたいでさ、つけさせてくれって頼まれたんだ。自分だって、すげえ無茶するのにな……俺の知らない所で」
そう言ったクロノの目には、なんとも言えない感情が滲んでいた。しかしそれを振り払うようにクロノは笑顔を作る。
「まあ、そういう所がシオンらしいんだけどな!」
「お前と綺場、よくわかんねえ……束縛されてるって思わねえのかよ」
「思わねえよ、ずっとプライバシー覗かれてるって訳じゃないし。シオンなら別に。それに、愛されてるって思えばかわいいもんだよ」
「かわいいのか!?」
「あいつはいつでも大体かわいいよ」
盛大な惚気を聞かされたカズマは、怪しいからといって不用意にクロノの方を見るんじゃなかった、と後悔した。
ミッドナイト・マスカレード? ※女装
ストライダーズの3人は、ダークゾーン支部へと向かっていた。クエストの為である。
ダークゾーン支部が珍しくイベントを開催することになった。理由は、ダークゾーンのクランの普及のためである。
イベント内容はいたってシンプルで、ダークゾーンのクランを使用してユニットの仮装をしたファイターに勝利するとポイントを獲得できるというものだ。また、スペシャルゲストに勝利すると大量のポイントをゲットできる。クロノはそのスペシャルゲストとして呼ばれたのだ。カズマとタイヨウは、仮装ファイターの一人として参加する。
「あっクロノ!」
「東海林くんとタイヨウくんも、おはよ~」
「トコハ、岡崎。お前らもイベントの手伝いしてるのか?」
「そうなの。江西さんがイベント開くの慣れてないから手伝ってほしいって。だから手伝いにきたんだけど……」
「何かあったのか?」
「それがね……」
「ストライダーズ、よく来てくれた」
「あっその声は江西さ……江西さんどうしたんですかその恰好!!??」
タイヨウが仰天して大声を上げる。クロノとカズマも呆気にとられていた。
ピンク色のふわふわしたコスチューム。青いシルクハットに、大きな耳。ペイルムーンのユニット、ミッドナイト・バニーのコスプレをした江西が立っていたからだ。かわいらしいユニットの衣装を真顔で着こなしている江西のインパクトは相当なものがある。
「ああ、これか。発注した衣装に手違いがあったらしくてな、代替えの品が届くまでこれを着ることになった。デッキも当然、ペイルムーンだ」
「というわけなの」
「災難だな、江西さんも……」
「あれで堂々としてるってのも凄いけどな、流石支部長……」
「……トコハさん? どうしたんですか、渋い顔して」
「……手違いじゃないのよ」
「どういうことだ?」
「……聞いちゃったの。わざと間違えて発注したスタッフがいたのよ」
トコハの話をまとめると、こうだった。
ダークゾーン支部長に再び任命された江西をやっかむ職員が、相当いたようで。わざと女性ユニットの衣装を着せて、恥をかかせようとしているらしい。
「なんだそりゃ、くっだらねえ嫌がらせする奴もいるんだな」
「江西さん、大変ですね……」
「その人達に文句言おうかと思ったけど、江西さん今回のイベント成功させようって頑張ってたから……イベントが終わるまではスタッフさん達とトラブル起こしたくないんだって」
そこまで言ったトコハは、溜息をつく。その後すぐ、自分の頬を叩いた。
「江西さんがそう言ってる以上、私は全力でこのイベントを盛り上げるわ!」
「そうだな、俺達も協力するぜ! そういえば、お前らは今日何使うんだ?」
「私はダークイレギュラーズ」
「私はペイルムーンだよ~」
「僕はスパイクブラザーズを使ってみようかと」
「俺もダークイレギュラーズだな。そういや、ハイメフラワーズとストライダーズが揃ってるってことは、福原もいるのか?」
「…………シオンはいるわよ」
トコハの歯切れの悪い言葉に、クロノはなぜか嫌な予感がした。
そして、イベントが開始し。クロノはクロノエトスジャッカルの仮装をしつつ、ギアクロニクルのデッキで参加者達とファイトをしていた。その最中に、聞き慣れた声が隣のファイトテーブルから聞こえる。
「ファイトですか? どうぞ、お相手します」
「ん? その声シオン…………シオ、ン?」
「…………あっ」
紺と赤が特徴的なバニースーツに、網タイツ。そして、白いうさぎの耳。
マスカレード・バニーの仮装をしたシオンが、バツが悪そうに顔をしかめた。
休憩時間になり、クロノとシオンは休憩に向かう。
「……なんでお前まで女装してんだ?」
「江西さんに嫌がらせをしているメンバーの統率が取れていなかったらしくてさ。女性用衣装を多めに取り寄せすぎて、男性用衣装が足りないんだって言われて……仕方なくね」
「あー、お前ヴァンガマンの時も恥ずかしがってなかったもんな」
「いや、流石にこれはハードルが高いよ……特に足がね………」
網タイツに覆われた足を指しながら、シオンは苦笑いする。
「俺としては胸の方が心配なんだけど……それスカスカしねえ?」
「詰め物をすれば意外と平気だよ。…………あっ、クロノ」
「ん?」
「『私がグッスリ眠るまで、離れず隣で頭を撫でて』?」
「ぐっ」
悪戯っぽく笑いながらマスカレード・バニーのフレーバーテキストを口にしたシオンにクロノは食べていた弁当を詰まらせた。
「~~っお前なぁ……!」
「あはは、ごめんごめん。いや、結構このテキストを言うの好評みたいでさ。クロノもやってみる?」
「遠慮しとく……」
若干。これを他の男の前でも見せていると思うと若干、嫉妬心が湧いたがクロノはそれを表に出すことなく、残った弁当を食べ終えた。
取り違え(クロシオ)
「っっ間に、合った…………っ!!」
教室に駆け込んだクロノは脱力した。昨日は久しぶりにシオンが家に泊り、それなりに夜更かしをしてしまったのだ。
「朝、窓から見てたよー新導くん。ギリギリだったねー」
「あはは………まあ、間に合ったからセーフだって。…………なんだよカズマ、じろじろ見て」
「いや………お前気づいてねえのか?」
「何がだよ?」
「……」
カズマが無言で襟元、ネクタイがある部分を差す。クロノはつられて、自分のネクタイを見た。
「…………あ」
晴海高校のネクタイは赤色である。今、自分がしているネクタイも赤色ではあるが色味が違う。ワインレッドのそれは、福原高校のネクタイだ。
顔がどんどん熱くなっていくのがわかる。カズマはにやにやと笑っている。
「ゆうべはお楽しみだったみたいだな?」
「そ、そんなんじゃねえよ!」
クロノとカズマのやりとりの意味がわからず、きょとんとするクミをよそに二人は話を続ける。
「ほーお? ネクタイ取り違えるなんて、することしてねえとないと思うけど?」
「ちっげーよ!! というか岡崎の前でそういう話すんな!」
「二人とも、何の話してるの?」
「こいつ、間違って綺場のネクタイ着けてきちまったんだよ」
「ちょ、おい!!」
「え? 綺場くんの………」
「き、昨日あいつが家に泊って、二人で寝落ちするまでファイトしてたんだよ! んで寝過ごしたから慌てて着替えて、その時にネクタイ間違えた! それだけ!!」
クロノの説明に納得したらしいクミは、少し羨ましそうな表情をする。
「お泊りかぁ~二人とも仲いいね~。私も久しぶりにトコハちゃんとお泊りしたいなぁ。あ、トコハちゃんと言えばね!」
話題がトコハに移り、クロノは心底ほっとする。その時、スマホが震えた。綺場の家紋のアイコンが表示される。シオンだ。
『ほうかごあいてるかい?』
端的な文面だが、変換すらないメッセージにクロノは顔をひきつらせた。あちらも気づいたらしく、慌てているのがありありと伝わった。
放課後、閉店間際に2号店に来たシオンは顔をほんのり赤く染めていた。黒いシャツの襟元に、ネクタイはない。
「お前なんで外してんだよ……」
「つけていられるわけないだろ……き、君のもの着けてるって意識したら平常心じゃいられない………」
「おま、なんでそういうかわいいこと言うんだよ………」
「…………そっちは、揶揄われたかい?」
「カズマにおちょくられた。お前は?」
「羽島先輩にずっと弄られたよ………………あんなイキイキされるなんて思わなかった…………」
どちらからともなく溜息をつく。そのままクロノはずっとつけていたシオンのネクタイを解いた。
「と、とりあえず返すぜ」「あ、ああ。…………はい」
クロノはシオンにネクタイを返し、シオンも鞄から取り出したネクタイをクロノに渡す。ネクタイを直しながら、クロノは呟く。
「………急いでても、服は確認しような……」
「そこで、夜更かししないようにしようじゃないんだね」
「…………まあ、さ。…………わかるだろ」
「まあね」
クロノの言わんとすることはわかる。恋人として過ごす時間を減らしたくないのはシオンも同じ気持ちなのだから。
たとえ盾でもかまわない (クロシオ)
魂の牢獄レリクス。そこに取り込まれたクロノ達は周囲の助けもあり、無事に脱出することができた。しかし、依然ギーゼの器として狙われることは変わらない。そこで、伊吹の指示で彼らには護衛がついていた。カズマにカズミ、リンにマモル、タイヨウにハイメ、という具合に。
そして、クロノの護衛になったのは。
「なんで、お前なんだ………?」
「なんでだと思う?」
護衛としてクロノの家に来たのはシオンだった。クロノは不思議だった。他の皆についた護衛はみな年上で、いずれも実力者。シオンも勿論実力者なのだが、単純に同い年に護衛されるというのは落ち着かない。理由を聞いてみればはぐらかされたので、クロノなりに頭を捻った。
「…………ミクルさんに気に入られやすい?」
「それはあるかもね」
ハイメさんやマモルさんでもそこは同じだったろうけど、とシオンは続ける。どうやら正解ではないらしい。クロノは更に頭を捻った。
「…………むり、わかんねえ」
「理由はいくつかあってね。一つは君が言った通り、君の保護者であるミクルさんの信用を得やすいから。僕は君の仲間だからね」
「………そうだな」
「次に、人脈。勝手で悪いんだけどね、今このアパートの周囲をブラッディエンジェルの皆に交代で見張ってもらってるよ」
「マジか……まだ、交流あるんだな」
「折角できた縁だ、活用しないと。こころよく引き受けてくれたよ、彼らは。……さて、3つ目。実は綺場邸が半壊しててね」
「えっ、大丈夫なのかそれ!?」
「フィデスを祀ってる社と、客間がある棟が壊れたくらいだからそこまで心配しないでよ。それで、しばらく修復しないといけないから、寝る場所がちょっとなくてさ」
「待て、お前……今までどうしてたんだよ」
「普及協会の仮眠室を借りてたよ」
シオンがあまりにもさらりと言うのでクロノは顔をひきつらせた。きっと聞かれなければずっと言わなかったに違いない。
「4つ目の理由として………ヴァンガード以外の手段で襲ってくる可能性も十分にある。僕なら、君を庇いながら戦える。もしくは、君を逃がして使徒を足止めできる」
「なっ」
「信じられないかい? でも実際、僕と対峙した使徒は剣を持って襲い掛かってきたよ。牽制の度合いが強かったけどね」「そこじゃない! それじゃお前が危険だろ」
「クロノも知ってるだろ、僕が強いこと」
「でも………」
「最後に。僕は君を守るために命も賭けられる」
「っ」
「君をギーゼの器になんてさせない、絶対に」
「シオン…………」
水色の瞳は、強い意志を宿していた。その鋭さに、クロノはたじろぐ。
「君がギーゼの器になるかもしれないってわかった時、肝が冷えた。もうあんな思いしたくない。君をみすみす危険な目に晒すくらいなら、護衛でも盾でも囮でもなんにでもなるよ」
本気だ、ということがクロノにも伝わる。シオンは本当に、クロノを守る為になんにでもなるつもりだと。
「シオン…………一つ聞きたいんだけど」
「なんだい?」
「お前、ひょっとして……まだ、俺のこと…………」
「ああ、好きだよ」
何を当然の事を、と言わんばかりにあっさりとシオンは肯定した。クロノの方が赤面してしまう。
「お、おま」
「大丈夫、何もしないよ。信用できないと思うけど」
「あ、いや、そうじゃなくて……」
別にシオンが自分の意思を無視して何か手を出してくるとはクロノは微塵も思っていないが。単に、気まずい。
中学時代、クロノはシオンに告白された。その時は寝耳に水で、動揺してシオンの前から逃げた。何日も考えて、クロノが出した答えは「大切な仲間だと思ってるけど、好意には応えられない」だった。
シオンはほんの少しだけ表情を曇らせたが、すぐにクロノに笑いかけた。あの時のシオンは、まだ鮮明に思い出せる。
「…………あの後も、ずっと?」
「ずっと。むしろね、僕のためにしっかり考えて答えを出してくれたことが嬉しくて、ますます好きになったよ」
「っな」
「あ、安心してよ。君とどうこうなりたいわけじゃないから。ただ………君に幸せになってほしい」
「…………」
「僕がクロノの護衛になった理由は、こんな所かな。さ、もう少ししたらミクルさんが仕事終わる時間だろ? そろそろ夕飯の支度しないと間に合わないんじゃないか、な」
立ち上がりかけたシオンの手首を、クロノは掴んだ。
「え?」
一瞬の隙を突かれて、そのまま抱き寄せられる。シオンの顔にも朱が差した。
「へ、え?」
「お前の気持ちは、すげえわかったから………でも頼むから、もっと自分のことも大事にしろ」
「く、クロノ、ちょっと」
「俺の未来にはお前も入ってんだ、だから護ってくれるのはいいけど無茶だけはすんな」
抱きしめる腕に、力が籠る。
失いたくない。そんなのクロノだって同じだ。この時初めてそう気づいたクロノは、自分の気持ちを改めた。
「シオン、俺」
「ま、待って待って言わないで!!」
「なんでだよ!!!」
「い、今そんな場合じゃないだろ!!」
「あ、おい!」
強引に腕から抜け出され、距離をとられる。
「と、とにかく! 僕は護衛、君は護衛対象! それ以上でもそれ以下でもないから!!」
「はぁああああ!!??」
クロノからすれば理不尽な拒絶だが、シオンはとにかく予防線を張るのに必死だった。
花冠から一本(クロシオ)
「お、落ち着かねえ………」「はいはい、動かないでね」
鏡の前で、クロノはシオンによって花冠を被せられていた。この花冠はトコハやクミと言った主に女子の面々がアイデアを出し合って作り上げた力作である。
「できたよ」「おう、サンキュ」
淡い色合いの薔薇とダリアで作られた冠の中で、一際目を惹くのは大粒の青い宝石だ。
「なあ、この青い石ってなんだよ?」
「ああ、それ? サファイアを模したフェイクの石だよ」
「サファイアねえ…………」
「サファイアは9月の誕生石だからね。折角だから取り入れたらどうかって提案したんだよ」
「ふーん………俺はてっきり、お前っぽいから入れてくれたんだと思ってたんだけど」
「へ」
クロノの意外な言葉に、花冠を入れていた箱を片付けるシオンの体が固まる。
「ぼ、僕っぽいって………?」
「サファイアの青色。お前の目みたいで綺麗だなって」
「あ、そ、そう…………」
「何照れてんだよ、言われ慣れてるだろ綺場シオン様なら」
「あのねえ………君から、綺麗だって言われるなんてなかなかないから照れているんだろ…………」
シオンの白い頬がほんのりピンク色に染まっている。クロノはくすりと笑いながら、花冠から一本、ピンクの薔薇を抜き取る。
「シオン」
「なんだい、っわ」
シオンの髪に、小さな薔薇を差す。
「うん、似合う」
「もう………君の為に用意された冠だよ………?」
「だから一本だけにしたんだろ? ……なんかいいな、これ」
「君がいいならいいけどね………」
肩を竦めつつも笑うシオンは、すっかりいつも通りだ。もう少しくらい照れた顔も見せてほしいものだと思いつつも、これ以上揶揄えば流石に怒られそうだ。クロノは笑いながら、シオンを連れてパーティ会場へ向かった。