Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    桃霞りえ

    @momo303rie

    自分用の倉庫的なものです。
    設定でも作品でもなんでも突っ込む予定。
    レイマシュの投稿がほとんど。
    完成品はほぼほぼpixivにも掲載しているものです。
    正直、まだポイピクの使い方わかってません⋯⋯。
    できたは出来上がった(完成している)ものです。
    書きかけは、小説のかたちで書いた未完のもの。
    メモは本当にメモです。セリフだけだったり、設定説明だけだったり。感想文みたいなやつですね。

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💘 🙏 👍 👏
    POIPOI 20

    桃霞りえ

    ☆quiet follow

    レイマシュになった後。
    動物の言葉がわかるマッシュくんの話の続編。
    レインVSウサ吉の前後編読了後推奨。

    ##動物の言葉がわかるマッシュくんの話

    レインVSウサ吉 後日談怒らせてはいけないフィン・エイムズ



    「⋯⋯どうして、フィンもいるんだ?」
    「昨日の事を話したら、しばらくは付き添い無しでレインくんに会っちゃダメって言われまして⋯⋯」

    ちょっと気まずそうにレインから視線をずらすマッシュに代わり、普段よりも強めの語調で言葉を引き継いだのはフィンだった。

    「当たり前だよね?むしろ、一緒ならって条件付きでも訪問を許した僕たちの寛容さを兄さまは評価すべきだし、感謝してほしいくらいなんだけど?」
    「これは俺とマッシュの問題で、お前たちには関係⋯⋯」
    「無い、わけがないでしょう?⋯⋯本気で引き離されたい?できないと思ったら大間違いだからね?」
    「ぐぅっ⋯⋯」

    強めの言葉をあえて使い兄を黙らせれば、横から「フィンくん、つよっ⋯」とマッシュくんが溢しているのが聞こえた。
    なんか他人事っぽい雰囲気だけど、君のこと話してるんだからね?と言いたい気持ちを堪える。
    フィンが対峙すべきはレインであり、マッシュでは無いから。
    現在、フィンとマッシュはレインの部屋に来ていた。
    マッシュは恒例となりつつあるウサ吉へのおやつをあげに、フィンは兄への牽制をする付き添いとして。
    レインの部屋に入った時に、定位置が決まっているのかマッシュは座り慣れた場所へ迷う事なく足を向けた。
    兄も同じように定位置に座ろうとしたのだろうが、マッシュくんが「フィンくんはここに座って」と促されるままに隣へと座った事で兄の顔色が変わったのをしっかりと見ていた。
    ショックを受けたような様子から、ここは普段の兄の定位置だったのだなと察する事ができたし、地味にマッシュくんに拒否られている兄に自業自得だからね、と同情心のカケラだって湧かなかった。
    むしろ、「兄さまも早く座ったら?」とテーブル向かいを指差し勧めてあげたし、ぞんざいな扱いを受けて苦渋の表情を浮かべる兄を見ても、やはり心に何の変化も無い。

    僕だって、できることなら“恋人”になったらしい二人を応援してあげたかったし、二人の時間を邪魔などしたくはなかった。ちゃんとした⋯は、よくわからないけれど、学生らしい経緯で恋人関係になったのなら、二人を尊重して口を挟むような野暮をするつもりだってなかったのだ。
    その気が変わったのは、昨日マッシュくんの話を聞いてしまったから。
    ランスくんじゃないが、うちの子に何してくれてんだと呆れを通り越して怒りが沸いてしまった。
    反省するまでは絶対に許さない、そんな気持ちを抱えて今この場にフィンは居る。



    昨日、夕飯の時間ギリギリになっても戻ってこないマッシュを迎えに行こうと、他の仲間を食堂に送り出してからフィンは部屋を出た。
    レインの部屋へ向かう為に階段を上がろうとして、蹲っているマッシュを見つけたのだが、その時の衝撃は今後忘れることは無いだろうと思える程で、弱々しく名前を呼ばれ、どうしようと泣きそうな顔で言われた時には混乱を極めた。
    具合が悪くなったのかと問えば、胸が痛いと言う。
    あの、健康優良児代表みたいなマッシュがだ。
    調べてもらおうと言っても、僕が魔法かけてみようかと言っても違うと思うと首を振られ、フィンもどうしようと困った時に、マッシュは一言の謝罪と共に抱きついてきた。
    シュークリーム作りを頻繁に行なっているからか、彼は普段から甘い香りを纏っている。その中に微かに混じった干し草の匂いに、彼は確かに兄の部屋に居たのだろうと思えた。
    そこから帰る途中で何かあったのか⋯⋯いや、兄の部屋で何かあったのか?と、詳しい状況がわからないので判断は下せなかったが、普段から嘘をつくときと勉強に関すること以外に取り乱さないマッシュが、こんな風になるなんて余程の何かがあったのだろう。
    とにかく、落ち着かせることを第一に、話はそのあとだと友人の背を軽く叩く。

    しばらくして、「ごめんね、フィンくん優しいから、いつも甘えちゃって⋯⋯」と言いながらマッシュは離れたが、それにフィンは笑って誤魔化した。
    フィンは誰にでも優しくしている訳ではない。
    ちゃんと線引きはしていて、その中でも、マッシュが他の誰より特別の枠を占めてしまっているから、甘やかしに際限がなくなってしまっているのだと自覚がある。
    君にだけなんだよ、そんな重たい感情をレモンちゃんのように言えるはずもなく、今日もマッシュにはフィンが誰にでも優しい人間だと勘違いさせたままにしてしまう事が少しだけ申し訳なく、微妙な表情でいたら、もう一度「ごめん⋯⋯」と謝られてしまった。
    いや、こっちこそ、最推しに抱きしめられて役得とか思っててごめんね?と胸の内は明かせないまま、「友達なんだから、コレくらいのこと気にしなくていいんだよ!」と、それらしい言葉をなんとか取り繕うことはできた。
    それからすぐ部屋へと戻り、事情を聞き出したのだが、もう何にどう突っ込んだらいいのかすら分からなくなってしまった。

    聞き取りは最初から最後まで、それは丁寧に、兄の部屋で何があったのかを聞き出した。
    それはもう、兄が何を言って、どう行動して、その時にマッシュくんがどう思ってたのかまでを思い出せる限り仔細に、根掘り葉掘りと⋯。

    マッシュくんの辿々しい説明を聞きながら、兄のマッシュくんに対する本気度を今さらながらに思い知り、本当になんでもっと早く行動しなかったんだと頭が痛くなった。
    だが、兄と親友の甘酸っぱいやり取りを噛み締めて、気恥ずかしさに顔を紅くしたりできていたのも最初だけで、だんだんと兄の起こす行動に表情を強張らせる事になり、「あわわ⋯⋯」と青ざめ始めたあたりで、トドメとばかりにウサ吉くんが発したらしい“発情期の雄みたいなにおいがする”発言にブチッとフィンの堪忍袋の緒が切れる。
    「バカ兄貴が⋯」と、未だかつて出したことの無いひっくい声が出てしまったのだって無意識だった。

    フィンは気づいてしまった。
    あの人、行動するのを躊躇っていたんじゃない、着実に狙った獲物の外堀と逃げ道を塞いで、逃げ出せない状態ができる瞬間を狙ってたんだ、と⋯⋯。
    神覚者には優秀ゆえの変わりものが多いけど、兄は違うと思っていたのに、兄もどこまで行っても捕食者(神覚者)の一角を担う人間なんだと実感する。
    だから、このままではいけないとフィンは一つの決断をした。

    (今の考えの兄に、大事な親友を託すなんてできない)

    それから、夕飯を済ませて向かいの部屋へと戻って来たランスへと緊急招集をかけた。
    「マッシュくんを守るのに、協力してほしい事がある」と言っただけで二つ返事の快諾が得られ、さすが愛マッシュ家のランスくん、話が早くて助かると感心する。
    部屋に集まってからの話し合いは、テンポ良過ぎるくらいトントン拍子に進んだ。

    「急に呼び出してごめんね?ちょっと緊急事態で⋯⋯」
    「それはいい⋯何があった?」

    フィンからの呼び出しがあった時から、多種多様な不足の事態に備えられるようにあらゆる想定をしていたランスだったが、そんなランスをもってしてもフィンの放った一言は衝撃的なものだった。

    「レイン・エイムズが、マッシュくんに盛(さか)ってる⋯⋯」
    「はっ!?」
    「ちょっ⋯!?フィンくん!!?」

    完結明瞭かつ一文で全てを理解できると言う点では優等生の回答だったが、いかんせん内要が内容だ。
    ランスは一瞬絶句したが、瞬時に険しい表情に切り替わった。
    状況について行けずに慌てているのはマッシュだけ。

    「よび、すて?フィンくんが?えっ?⋯さかっ⋯⋯??えぇっ??」

    「フィンくんに一体何が??」と混乱しきりなマッシュは置き去りにされたまま、二人の会話は続く。

    「それは、寮長の独断か?」
    「誰が聞いてもそう」
    「⋯⋯寮長は、マッシュの意思を尊重し損ねただけでは飽き足らず、自分の欲に走りかけたって事でいいんだな?」
    「話が早くて助かるよ」

    ここまでの流れを聞く前から、肩を持つ相手など決まっていたし、聞いた後もランスの判断が覆ることはなかった。

    「うちの子に、そんな不義理は許さない」
    「ホントそれ。だから、協力して欲しいんだ」
    「わかった。なら、これからは最低でもツーマンセルで動くぞ。寮長相手だ、俺かオマエが常にマッシュに張り付く。当面はそれでいいか?」
    「お願い。絶対に反省させるから、それまで付き合って」
    「当たり前だろ」

    スッと差し出されたフィンの手をランスはガシッと握った。
    二人の間での交渉が成立した瞬間である。

    実はこの時、フィンがレインを呼び捨てで呼んでいた所まではドットも存在していた。
    「お前ら食堂に来なかったから軽食包んで貰ってきたぞ」とサンドイッチを置きに来ていたのだが、コイツが居たままでは話が拗れるかもしれないとの考えと、そもそもレイン相手には対抗できないと即判断され、戦力外通告と共にフィンとランス両名によって室外へと叩き出されていた。
    「俺が何したって言うんだ⋯理不尽すぎんだろぉ⋯」と廊下から悲しみの嘆きが聞こえてきていたが、フィンもランスも我関せずを通し、嘆き声も無いものとして扱った。
    唯一、マッシュだけは憐れみの視線を廊下に向けていたのだが、フィンに「マッシュくんは、ドットくんが兄さまに勝てると思う?」と聞かれ、無言で首を振ってしまっていたので、ある意味では共犯なのかもしれない。

    ランスが合流し、ドットを叩き出し、行動内容の確認から交渉が成立するまで僅か一分程度の出来事である。
    本当に迅速だった。

    僕らの、マッシュくんに関する結束力を舐めて貰っては困ると、フィンもランスも徹底抗戦する意思が宿った視線を交わし、頷いてからそれぞれ別行動に移った。
    それが、昨日のこと。

    そんな事情を知らないレインは、マッシュと共に現れたフィンに困惑したことだろう。
    若干どころではなく顔が引き攣っていたし、フィンがニコッと微笑んで見せれば青い顔をしてふらっとたじろいだので、フィンに聞かれたらまずい事をしてしまった自覚はあるらしい。
    兄のそんな姿に対して、自覚があるようで何よりだとほくそ笑んでしまった。
    何せ、「僕かランスくんの付き添い無しに、兄さまと二人きりで会っちゃダメだよ?少なくとも、僕たちが大丈夫って判断するまでは」そう言い含めた時にマッシュが、「一人で行く勇気がまだなかったから、ついてきてくれるの嬉しい」と安堵した表情で言った事で、どれだけの不安を感じたのかと案じたし、兄に対して手を抜いてはいけないと心に誓い直していたのだから。

    複雑な内心をそのまま表情に浮かべて黙り込んでいるレインへ、すかさずフィンは補足を加える。

    「ちなみに、僕がマッシュくんと一緒に来れない時はランスくんが付き添う事になってます」
    「お前は、まあ構わないが⋯⋯ランス・クラウンを部屋に入れてやる義理は、俺にはねぇぞ」

    言葉通り、ランスの名前の辺りからは非常に険しい表情で嫌そうにしているレインに、フィンは容赦するつもりはない。

    「なら、兄さまはその日、マッシュくんと会うのは我慢して。ウサ吉くんだけ貸してくれたらいいよ。ランスくんが部屋の前で引き取るし、マッシュくんに会えるならウサ吉くんも嫌がらないでしょ?」
    「⋯⋯」

    苦虫を噛み潰したような表情になるレインに、こっちの方が苦虫噛み潰してる気分だし、そもそも兄さまが悪いんだからね!?と、若干のイラつく気持ちを抑え、はぁ⋯とため息を吐く。
    この人にはちゃんと言葉で説明しなければ伝わらない。
    それは兄弟で共闘する事になったあの時に痛いほど痛感した。
    兄は自身の中で自己完結して実行に移してしまう為に、圧倒的に言葉が足りない。
    フィンは聞くことも対話することも最初から諦め、自信の無さ故に相手の行動全てを悪い方へと捉えてしまっていたから、相手の真意に気づけなかった。
    そんなすれ違いをこのまま何度も繰り返すわけにはいかないし、以前のように精神や意思が弱いままの僕では無いのだと、はっきりさせておかなければならない。

    「あのね、兄さま。僕は兄さまとマッシュくんとの事は応援してたし、いつ行動に移すのかな?焦ったいなって思ってた部分も確かにあるよ?だけどね、順序って大事だと思うんだ。お付き合いするならそれらしい手順を踏んで貰わないと、僕たちの大事なマッシュくんを安心して預けられない訳だよ」

    それはマッシュと親しい人間の総意であった。
    特に、フィンとランスはマッシュの意志を尊重して、マッシュが望むならいくらでも手を貸そうという心づもりでいた。
    ただ、ドットはマッシュの意志よりも安全性を取りたいようで、残念ながらフィンとランスとは解釈違いだった。だから、今回は強制的に傍観してもらう事になったが⋯それでも、マッシュの幸せを願っている同志である事は認めている。
    それなのに、だ⋯。

    「だからさ、付き合える事になった直後に?マッシュくんが混乱してると分かっていながら合意無しにキスしようとして?そのあげく、発情期の雄臭いと愛兎に言われる?安心できる要素が無いよね?」
    「なんっ⋯⋯」

    言葉は途中で途切れていたが、レインの言いたい事はちゃんと汲み取っていた。
    “なんで、お前がそんな事まで知ってるんだ”と、頬を引くつかせるレインにフィンは得意げにする。
    「僕とマッシュくんは、とっっても仲良しなので、大概の事は聞けば答えてくれるからね」と、兄へのマウントは忘れない。
    他の事ではまだまだ全く敵う気はしないが、これが親友の特権なのだと笑ってみせた。
    マッシュと積み重ねた時間と信頼は、まだフィンの方が上なのだ。

    「それで?ねえ、どう思う?」と笑顔のはずなのに、目が全く笑っていないフィンにレインの背筋が震える。

    「⋯発情期云々は言い過ぎだ⋯そこまで、する気はなかった」
    「そこまで?⋯そこまでって、どこまで?ねえ、兄さま、そこまでってどこまでを指してるのか教えてよ。ほら、やましい気持ちが無いなら僕の目を見て言えるよね?ね、兄さま?」

    スッと視線が逸らされるだけでは飽き足らず、身体も別方向へと向けられた事で、これはあわよくば流れと勢いで押そうとしてた可能性があるなとフィンは判断した。
    ウサ吉くんには感謝しかない。今度、好きなおやつを差し入れしよう。思う存分食べて欲しい。
    はぁ、とここにきて何度目かになるため息を吐き出し、兄への沙汰を下す。

    「じゃあ、あと一ヶ月はこのままという事で」

    譲歩などしないぞと固い決意で告げれば、レインが視線を彷徨わせたまま小さく呟いた。

    「一ヶ月⋯⋯一ヶ月後なら、手を出しても⋯」

    兄の呟きを拾ってしまって、思わず半眼になってしまうのを止められなかった。

    なんて諦めの悪い⋯。
    一ヶ月我慢すればもうOKじゃないんだよ。
    なんでそう0か100かみたいな考え方しかできないかな?
    手順を踏んで欲しいって言ってるのがどうして伝わらない?
    それこそ、部屋で手を繋ぐ事からスタートして徐々に慣らしていって貰わないと、マッシュくんがキャパオーバーしてしまう⋯。それは、昨日の様子から見ても明らかだし、恋愛のれの字も怪しいマッシュくんには、兄の求める初手のハードルすら高すぎるのに、それに気づけないなんて嘆かわしいことこの上なかった。
    マッシュくんの何を見てるんだ。まさか、初恋成就の余韻に未だに浮かれてるんじゃないだろうな?とイライラが蓄積されていく。

    ただ、こんな事は口が裂けても言わないし、墓場まで持っていく覚悟でいるが、兄の気持ちもわからないわけでは無い。
    昨日、話して欲しいと促した際に、マッシュがいっぱいいっぱいになりながらも辿々しく話す姿には色んな感情が揺さぶられた。
    それはもう、いろいろと⋯。

    いつも堂々として動じない彼が、自身の気持ちを吐露する時には「あぅぅ⋯」とか「うぁ⋯」と言葉にならない呻き声をあげながら縮こまる姿は愛おしさの塊でしかなかった。
    さらに、そこから呂律が少し怪しくなり、幼な子のようにところどころが舌足らずになりながら、恥ずかしそうに上目遣いで見てくるのだ。そんな状態のまま、マッシュ自身の感情を吐露する事には多少の抵抗があったのか、言い淀んで「いわないと、だめ?」とひらがな発音で聞かれた時には、速攻で「嫌なら言わなくてもいいよ!!」と頷きかけてしまうくらいには理性はガッタガタになっていた自覚がある。
    もう、可愛いの暴力だったと思うし、それになんとか堪えた僕を誰か褒め称えるべきだと思っている。
    ただ、問題はさらにこの先で、これだけで済んでいたのならまだ良かったのだ。
    一人、可愛いを内心で連呼するだけで済んだのだから。
    なのに、奇想天外を地で行く親友はそれだけでは済ましてはくれなかった。

    可愛いと思う振る舞いの後に見せた、恥じらうように伏し目になる視線の流し方に思わず目を奪われ、見つめてしまった事で潤んでいることに気づいてしまった蜜色の瞳は否応なく視線を釘付けにさせる魅力があって、見てはいけないものを見てる感覚にさせられる。瞳から逸らそうと辿ってしまった先には、血色が良くなったせいで淡く火照った頬が映り込み、イヤイヤ大事な親友に向けていい視線じゃないだろうと精一杯の抵抗で落とした視界に入ってしまったのは、時折り噛み締めてしまっていたせいで常より赤く色づいて艶めかしくなってしまった唇。
    フィンは耐えきれないと顔を覆った。
    もう、目のやり場が無い。まともに親友の顔が見れそうに無い。
    どうしたら良いんだと、頭を抱えたい気持ちを共有できる者は、残念なことにここにはいない。

    幼気(いたいけ)で可愛いのか、妙に艶めかしくて色っぽいのか、せめてどっちかに振り切っててほしかった。
    可愛すぎる態度の後だからこそ、余計に婀娜(あだ)っぽいのが強調されてしまうギャップルールにフィンは盛大に翻弄されていた。
    「いや、振り幅ぁ!?」とその場で叫ばなかった事を褒めてほしいし、部屋の前を通りがかった見知らぬ誰かを捕まえ「ギャップ萌えって知ってるぅ!!?」と叫びながら肩を激しく揺さぶりに飛び出さなかった僕は偉い。
    もう、自分で自分を褒めちぎるし、許されるはずだ。それくらいの破壊力があったのだから。
    フィンでそんな状態になってしまったのだ。
    そりゃ、耐性ゼロの所にあんなのぶち込まれてみろ⋯⋯堕ちないわけがないよね?という感情になった。
    元から好きだった人のそんな姿を突然見せられたら、気が急く気持ちも生まれるだろう。
    マッシュくんを普段から見慣れてる親友の僕でも危なかった。
    開けちゃいけない扉が開きかけたもの。

    そんな諸々を目撃した後に「ねぇ、もしかして、それ兄さまの前でもやっちゃった?」と出かかった言葉を飲み込むのに必死になったのは言うまでもない。
    きっと、やってしまっていた。それも無意識に。
    マッシュという人間は、悪気も自覚も無くやってしまう男だと経験上知っている。
    それだけに、ちょっとだけ兄に同情心も沸いたが、それとこれとは話が別だ。
    自制心が足りないのは兄の怠慢で、マッシュくんのせいじゃ無い。
    マッシュくんが魅力的な人だなんて知っていたはずなんだ。
    ちょっと人並み外れてる部分が多すぎて予測がちょっと⋯⋯かなり、難しいかもしれないが⋯⋯でも、そこまで折り込み済みでいて貰わねば困る。

    そして、お付き合いをする上で正しい性知識をマッシュくんにこれからゆっくり身につけてもらう予定でいるのだ。
    罷り間違っても何も知らなかったが為に、いつの間にか特殊性癖に付き合ってしまっていた、なんて事があってはならない。兄にそんな拗らせ性癖があるとは思いたくは無いが、万が一だ。
    家族同士だって知らない事の一つや二つあってもおかしくないし、兄がイーストンに入ってからの三年間は特に情報が少ない。
    多感な思春期に、いくら忙しかったとはいえ、性癖を拗らせる瞬間がなかったとは言い切れないのだから。
    時間が欲しい。いや、稼がなければいけない。
    せめて、恋人と付き合う時の一般的な流れをマッシュくんが身に付けるまでの時間を⋯⋯。

    先程不穏な呟きを溢していたレインをチラッと盗み見れば、苦悶の表情を浮かべながらも、じっとマッシュへ向けられる視線は諦めとは程遠い目力を宿している。

    あっ、これは、ダメだ。
    全然懲りてない。諦めてもいない。

    ただ、そちらがそのつもりなら、こっちにだって手はあるのだと、フィンの決意はこの瞬間に固まった。

    兄へ自制を促す為にとれる牽制手段⋯いささか強引にはなってしまうが⋯⋯。

    吸った息をゆっくりと吐き切り、背筋をピンと張った。
    軽く伸ばした指先で机をトンと叩き、レインの意識がこちらに向けられたのを確認してから、フィンはにこりと微笑んだ。

    交渉の場では常に余裕があるように振る舞い、自分の優位性をいかに演出するかが鍵なのだと何かの本に書いてあった。
    それを今試さずにいつ試す。
    その為に、慣れないことをしてしまっていると思いながら、背筋を伸ばし、普段友に向けるモノとは違う愛想笑いを顔に貼り付けた。
    臆してはいけない、怯んではいけない。
    今、この場の支配権は自分にあるのだと、誰より自身に信じ込ませ、向かいで唖然とこちらを見る兄へと視線を送る。
    まあ、今回するのは“交渉”ではなく“警告”という違いはあるが⋯⋯。
    焦らないように、焦りを悟らせないように、余裕のある喋りを意識して、殊更ゆっくりと言葉を紡いだ。

    「チェンジズを応用すれば、どこがとは言わないけど、使いものにならなくできるかもしれないんだよね。そうしたら、この世界から性犯罪が少しは減ると思うんだけど⋯⋯。ねぇ、兄さま、僕の魔法の練習に付き合ってくれない?」

    フィンの言わんとする事は明確だった。
    お前のムスコが大事なら、どうすればいいかわかってんだろうな?である。
    蒼ざめた顔を引き攣らせて彫像のようにビシリと固まるレインを見て、勝った、とフィンは勝利を確信した。

    とりあえずは、これでしばらく大人しくしてくれるだろう。
    まぁ、いざとなれば脅しだけではなく本当に試してみようとは思っているし、兄に拒否権なんてあるはずもない。
    これも親友の幸せの為なら致し方のない事と割り切って欲しい。
    本人が嫌がらなければ良いなどと安易に考えてもらっては困るのだ。
    色々と教えたとしても、まだ丸め込まされそうなマッシュが心配でならないのだから、コレくらいの予防線を張るくらいで丁度いい。





    そんな二人のやり取りをじっと見ていた一人と一匹は、場にそぐわない穏やかさで話していた。

    『ご主人よりご主人弟の方がつよい?』
    「場合によるとは思うけど、レインくん相手には最強かもしれないね?」

    差し出していた干し草がウサ吉に咀嚼されて消えていくのを見ながら問いへと答えるが、聞いた本人は質問内容よりも食べる事の方が重要そうで、意識の比重は完全にマッシュの手元の方にある。

    『へぇ⋯あっ、マッシュ、つぎはニンジンの葉っぱがいい』
    「これ?」

    テーブルの皿の上に用意されているそれらしい細長い葉っぱを取り、口元に持っていくとウサ吉は嬉しそうに食べている。

    レインとフィンが舌戦の攻防を始めた辺りで、自分にはついていけない話だろうなとマッシュは早々に見切りをつけてしまっていた。
    そんなマッシュに、やっぱり危機感が足りない⋯マッシュの話だよ?とちょっと呆れて見てしまったウサ吉だったが、大好きな人の膝の上でおやつが食べられるならいいかと、すぐに思考を放棄していた。
    難しい事を考えるのは苦手なのもあるが、マッシュへの危険が現在は無い事を本能が察知していたからというのが一番の理由だ。ご主人の事はご主人弟やマッシュの友人とやらが何とかしてくれそうなので、今のウサ吉がすべきなのはマッシュに全力で甘える事だと思っている。
    撫でてくれる手の温かさにすり寄り、もっととねだる事ができる今を逃してはいけないと、顎下をくすぐるマッシュの手を捕まえて甘噛みをする。
    もっと構って、もっと遊んで、大好きなあなたが良いと、飼い主を見て学んだ行動で示す。
    ウサ吉のそんな行動に、マッシュは嬉しそうに口元を綻ばせ、フィンは可愛いと可愛いが戯れていると和んだ。
    ただ一人、ウサギの生態に詳しい男だけはギリギリと奥歯を噛み締め、自分には許されていない愛情表現をできる小さな体躯に対する羨望と悔しさに顔を歪めた。


    この場で、なんだかんだ平和そうで良かったと思えているのは実はマッシュだけだったりする。

    ウサ吉は、マッシュの膝の上で好物を食べさせてもらい、甘やかしてくれてもいるが、それはいつまで許してくれるのだろうかといった疑問はふとした瞬間に浮かんでしまう。いつか来てしまいそうなマッシュと離れはければいけないその時を考えては、寂しさが拭いきれないまま、一時だって離れたくない気持ちをマッシュを困らせたくない一心で堪えている。
    レインは、恋人の膝上を愛兎に独占され、物理的にも心理的にも弟にマッシュとの距離を取らされている現状に納得ができていない。可愛がられているウサ吉へ嫉妬と羨望の混じる複雑な視線を送るしかできない状況で、愛兎の愛情表現を自分の恋人が受けているのを見せつけられている今、心中は酷く荒れ狂っていた。
    フィンは、ウサギと仲良く戯れる親友に癒され目に焼き付けつつも、兄の動向を常にうかがう必要があり、神経がすり減り続けていた。ウサ吉とマッシュが非常に仲睦まじい様子を見せ始めてから、レインの眼光が不穏すぎて、本当に気が休まるどころでは無く、胃もキリキリと痛み始める始末。

    そんな皆の気も知らず、気まずくなりそうだったレインとの関係も何とかなりそうで安心したと緊張を解き、可愛いウサギさんも元気そうで癒されると思える余裕がマッシュにはあった。
    フィンくんとランスくんにはしばらく付き添ってもらう事になって手間をかけてしまうけれど、それは後でちゃんとお礼をしよう⋯⋯なんて、気楽に考えられているのは、この場で、マッシュただ一人だけだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works