目が覚めて見える天井はぼんやりと何処か虚ろに見える。嗚呼、この時期か。秋彩は少し目を閉じてから起き上がる。遠くで美冬が朝餉を作る音がする。
『もうすぐ…春が来る……、』
秋彩は両の手で目を覆いながら春の訪れを嘆く。
『秋彩さーん、そろそろ起きて下さい』
嗚呼、そろそろ起きる時間だ
春に何があったかなんて明白だろう。
一人目の弟子を失った季節なのだから。
秋彩は呪うならばいっそ殺してくれればいいのに、と二人目の弟子が作った朝餉を食べながら思う。
『秋彩さん、お茶碗はこっちですよ。まだ寝惚けてます?』
『嗚呼ごめんね、間違えてしまったよ』
春は好きではない。
ゆらゆらと視線の先で動く何本かの尻尾。ボヤけているからか少し目が疲れる。
『十又、意地悪は止してくれ』
『何じゃ、もうそんな時期かの』
『知っているくせに』
『……のう、秋彩』
『…………分かってる』
少しずつ失われていく視力ももう限界だ
『で、私の所へ来たのか』
『…美冬君には迷惑を掛けられないからね』
『……私には掛けてもいいと?』
『慣れてないより慣れてる、だろう』
秦郡路はそんな秋彩に溜息を零す。春になると用事と称して秦郡神社に籠るこの神主は春が近づくと視力を奪われる。呪いなのか何なのかは分かっていない