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    かいろ

    @rihrhak

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    かいろ

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    投稿練習

    #七虎
    sevenTigers

    目が覚めた時。


    真っ先に思ったのは生き延びた事への驚愕と生き延びてしまった事への絶望だった。


    大火傷を負い戦線離脱した私は永い期間眠りについており、目覚めた時体は全く動かなかった。
    当たり前だ。筋肉は長期のベッド臥床により落ちてしまい、腕は半分程の細さになった。それ以上に大火傷を負った左半身は筋肉はおろか感覚すらない。本当に腕があるのか視認しなければわからない程だった。
    左側も見えない。急激な高熱で焼かれた眼は溶け落ちポカリと空洞があるだけだった。
    そんな状態で目覚め呆然とする私が第一に見たのは家入さんだった。

    「…七海…?七海、目が覚めたのか」
    「…ぃぇい…ぁん…」
    「無理に喋ろうとするな。大人しくしていろ」

    口は動けど声が出ない。はく、と唇しか動かず、その少しの運動ですら疲れる。
    そんな私を制して落ち着くようにと頭を撫でられた。

    「ここは病院だ。…お前の傷は私の反転術式だけでは治癒し切れなかった。もう自覚してると思うが、左眼はない。左半身も熱傷が酷くて、ある程度までしか間に合わなかった」
    「…ぉかの、ぃんな、は」
    「大丈夫。大丈夫だよ。怪我はしているけれど、皆無事だ。…あの事件から、もう3年たってる」
    「…ぁ…?」
    「お前は3年間ずっと眠り続けて、今奇跡的に目覚めたんだ」

    信じられなかった。目を見開く私に家入さんは優しく笑いかける。

    「起きたばかりだ。まだ何も理解しなくていい。怪我の治療は粗方終わっていても、回復はこれからだ。しっかり体力をつけて、リハビリしよう。他の奴らには話しておくから落ち着いてから見舞いに来さすよ」

    その言葉を聞きながら、私は自分が1番大変な時期に眠っていた事を察した。
    家入さんが部屋を出たあと私はできるだけ体を動かそうとした。
    全く動かないという事はない。寝ている間も動かしてくれていたようで関節が固まって拘縮しているなんてこともない。ただの筋力と体力不足だ。
    だがこの状態からのリハビリだとどれくらいかかるだろう。人間と言うものは一瞬で壊れる癖に治癒は中々しない。そもそも私の怪我はここまで治った事すら奇跡だろう。それは一重に家入さんという反転術式の使い手がいて、彼女が私を生かそうとしてくれたからだ。
    動かすことに疲れてきたので、次に己がこれからどうするかを考える。
    怪我の度合いからみて呪術師に戻るのは無理だ。足手まといにしかならないだろう。
    ならば補助監督は?…それも難しい。この眼では車の運転に許可が出るかわからない。他の作業もこの左半身では思うようにいかないだろう。
    窓はどうだろうか。この左眼で正しく見れるか?否。無理だ。見落として誰かを危険に晒すことはしたくない。
    …ならば、私はどうすればいい。

    出来ない事ばかりが思い浮かんでは私の心の底に溜まっていく。けれど私の中でリハビリしないという選択肢はなかった。動けるようにならなければ、それこそ彼らに迷惑をかけっぱなしになるからだ。
    ここの入院費については今は考えたくなかったが、貯金はしてある。そこから支払ってくれていた人に返金すればいい。
    そうして考え込む私に一つの天啓が降りた。

    関われないならば、いなくなってしまえばいいのでは。
    この世界から逃げて、結局戻ってきた。ならばもう一度逃げたって誰も不思議には思わないだろう。そういう人間なのだと思ってくれたなら尚のこと良い。いや、私はそういう人間なのだ。出来ない事や見たくないものから逃げる、性根の腐っりきった。
    もう戻るつもりもない。いや、戻れない。こんな身体で、迷惑をかけるとわかりきっている世界に戻れるわけが無い。

    私の中で指針が決まった。そうなれば自分がしなければならない事も明確にできる。何にせよまずは体力を増やしてリハビリだ。これから先一人で生きるためには、一人で出来るようにならなければいけない。
    下半身の火傷は上半身よりも軽いから歩けるようにはなるだろう。利き手が無事でよかった。左手が動かない事で不自由はあるだろうが、それでも生活に困らない範囲になる。
    家は引越ししなければ。しばらくは病院近くがいいかもしれないが、落ち着けば山か、海の見える所へ引っ越そう。人はできるだけ少ない所がいい。この容姿では怯えさせてしまう。
    引越し先は誰にも知らせない。携帯はきっとあの事件で無くしてしまった。ならば新しい連絡先を誰にも教えなければ、私への、私からの連絡手段は潰える。
    考えていると段々瞼が重くなってきた。脳も起き抜けに考え込まれて限界がきたのだろう。それに逆らう事無く目を閉じる。微睡む事無くすぐに私の意識は落ちた。

    そうして私のリハビリの日々が始まった。家入さんには理由を話さず呪術師を辞める事は話をしてある。引き止められたものの、私の意志が固い事を察したようでため息と共に了承された。
    初めは座ることはおろか起き上がる事すら出来なかったが、リハビリを続ける内に横を向いたりなど少しずつ自分で動けるようになった。そうなってくると鼻に入れられていた食事用のチューブも抜かれ、ゼリーのような物から食事が始まる。初めは手伝って貰わなければ食べれなかったそれも右手が多少動くようになれば自分で零しながらでも食べるようになり、食事の形態も固形へと変化していく。
    食事が始まった辺りで夜蛾さんと五条さん、伊地知君が見舞いにきた。私が目を開いて瞬きしているだけで伊地知君は泣きそうに…というか泣いていたし、夜蛾さんや五条さんは安心したように笑った。
    そして呪術界の現状も少し教えていただいた。先の呪詛師との戦いで呪術師界隈ももう上も下もぐちゃぐちゃになっており、仕組みや連絡形態など立て直し中との事。そして、これからの話をされる前に私は自分が呪術師を辞めることを三人にも伝えた。

    「…お前はそれでいいの?」
    「ええ。こんな役立たずがいても仕方ないでしょう。私が眠っていた間とこれからの入院費は借金してでも返済しますからご心配なく。むしろこれから退院するまでご迷惑をおかけしてしまいますがすみません」
    「役立たずだなんて…」
    「伊地知ストップ。七海も変なとこ気にしてんじゃないよ」
    「入院費については気にするな…といってもお前は気にするんだろう。今は自分の事だけ考えなさい」
    「…ありがとうございます。それと、五条さんにお願いが」
    「僕に?なに?」

    「あの事件当時、貴方の生徒だった子供達を見舞いに来させないでください」

    私の言葉に場が静まる。数秒後五条さんは口を開いた。

    「…なんだって?」
    「ですから、当時の生徒達…虎杖君、伏黒君、釘崎さん。あとそれと二年生だった子達もです。私の見舞いに来させないでください」
    「なんで?あの子達お前のことめっちゃ心配してたよ?」
    「別に私のことを話すなとは言いません。見舞いに来るなと言っています」
    「だから、なんで」

    段々と険悪になる雰囲気に伊地知君が私達を止めようとおろおろしているのがわかる。だが夜蛾さんに引き止められていた。

    「理由なんてどうでもいいでしょう。…ああ、いや、そうですね。貴方達ももう来ないでください。他の事件参加者にもそう伝えて頂いても?」
    「はぁ?なに言ってんのお前。理由がないとあいつら説得出来るわけないじゃん。それに何?僕らにも来んなって?ふざけんなよ」
    「ふざけてませんよ。理由が必要ならこう言ってください。『事件のことを思い出して恐怖を覚えるから』、と」
    「んなことまっっっったく思って無いくせにバカにしてる?」
    「してません。…もう呪術師でいる事に疲れたんです。リハビリもして退院後は関わりのない所へ引越します。話も聞きたくないんですよ」
    「おっまえ…」
    「そこまでだ。…七海、本当にいいんだな?」
    「はい。今までありがとうございました」
    「わかった。二人とも、帰るぞ。七海も無理はするな」
    「…七海さん…」
    「長い間お世話になりました。不義理な人間で申し訳ありません」

    夜蛾さんが五条さんと伊地知君を連れて部屋を出る。伊地知君は最後までこんな私を気にかけてくれていた。
    そして、本当に彼らは来なかった。五条さんは私の願いを聞いてくれたようで子供達が来ることもなかった。家入さんだけは入院中は見るからなとだけ告げてリハビリの経過や傷の状態を見てくれたが、呪術師の話をする事はなかった。
    彼等に会いたくないというのは嘘だが、こんな弱りきった自分を見せるというのは無理だ。きっと意識がない間散々見せてしまってはいるのだろうけど意識があることないのでは雲泥の差がある。

    そして何より。自分の吐いた呪いを受け取ってしまった彼に会うのが怖かった。

    優しい子だ。自分より他者を優先してしまう。そんな彼が今の私を見てどう思うだろうか。
    自分に向かって呪いを吐いた人間が、大怪我を負い眠りこけ、全てが終わった後に目を覚ますなど。滑稽にも程がある。
    元々誰にも言うつもりのなかった密かに抱いていた気持ちを完全に潰すにも絶好の機会だ。
    遠くからあの子を見るだけでも癒され、それと同時に抱いていた薄汚い劣情を私はずっと持て余していた。
    大人と子供。同性。そんな障害など気にもせずに捨てども捨てども浮かんでくるその思いを、いつしか捨てることを諦めて奥底に隠す事にしたのだ。

    この思いを誰かに吐き出したことは愚か、呟いたこともない。表に出さないように気をつけていた。
    あの子には私などよりもっと似合う可愛い女性がきっと現れる。それを私は祝福したい。

    私は、彼が…虎杖君が、私ではない誰かと幸せになって欲しいと思っている。

    そうしてリハビリを続ける事数ヶ月。私は驚異的な回復力で動けるようになり、退院の日を迎えた。
    左側の半盲と左半身の火傷による筋力低下はどうすることも出来なかったが、それでも杖をついて歩けば日常生活にあまり不便がない所まで回復した。
    入院費は何故か支払い済だと言われた。誰がと聞いても教えてはくれず、仕方なく高専宛に適当な金額を振り込む事を決めた。
    一度自宅に帰ってみようと思っている。三年の月日でどうなっているか分からないが、退去しているにせよ荷物がどうなったかの確認は必要だろう。
    その前に携帯ショップ…いや、結局住所がないと駄目か。ならばやはり自宅に帰って、今は公衆電話でタクシーを呼ばなければ。そんな事を考えながら一歩外に出た瞬間だった。

    「ナナミン!!!」
    「………は……?」

    大声で、懐かしい渾名で呼ばれた。
    その呼び方はあの子にしか許していない。いや、声だって、あの子の…虎杖君の声だった。
    何故ここにいる?どうして、今。いや、関係ない。私はもう呪術師から、あの子から逃げるんだ。この醜い私から、使えない、役立たずの、私は、あの子に呪いをかけた私が、あの子の前に立っていい筈がないのに。

    「逃げんな!…お願いだから、逃げないでよ、ナナミン…」

    いつの間にか虎杖君は私の目の前に立っていた。弱々しく右手の裾を掴み、私に逃げないでと乞うている。
    以前程ではないにせよ、正常に動く右腕だ。振り払う事だってできる。けれど、私には何故かその手を振り払えなかった。
    黙り込む私に、記憶の中よりも背が伸びた虎杖君が裾だけ握っていた手を今度は手首に持ち変えた。

    「…行こう、ナナミン」
    「どこに、いえ、何故君がここに?会いに来るなと伝えた筈」
    「ナナミン今日退院したんだろ?ならこれは見舞いじゃない。俺はナナミンを迎えに来たんだよ」
    「…なら尚更、私に会う必要は無いでしょう。五条さんから聞きませんでしたか?私は呪術師界を去ります。一般人になるんです。君たちとは関わらない。わかったなら手を離してください」
    「わかんない」
    「はい?」
    「わかりたくない。ナナミンはそれでどこに行くの?」
    「言う必要は無いでしょう。もう会う事はない」

    「なんで一人で何でもかんでも決めるんだよ!!!」

    突然の大声に辺りが静まり返る。ふと病院の出入り口付近だと思い出してとりあえず目立たない所へ避ける事にした。
    移動中チラチラと見られている事も承知ではあるが、強く握られた右腕を離して貰わなければ私はどこにも行けない。

    「…虎杖君。私は大人ですから、一人で決めなければいけないんですよ」
    「んな事ないだろ!家入さんにも、夜蛾さんにも、先生にも、伊地知さんにも!誰かに相談出来たじゃんか!」
    「けれども結局決めるのは自分自身です。私は、呪術師ではもう生きれない。補助監督や窓だって難しい。ならば去るのが一番でしょう」
    「…っ」
    「理解しましたか?私はね、もう呪術師界では役立たずなんです。足手まといなんですよ。貴方達にとって」

    私の言葉に虎杖君の目から耐えきれなかった雫が零れた。ほら、早く手を離して。助けて貰った恩を仇で返した私の事など忘れて、幸せになって。

    君が幸せになる過程を本当は近くで見たかった。けれども私にはもうそんな資格どころか権利すらない。呪いしか与えられない私では幸せに出来ない分、他の沢山の人に愛されて幸せになってください。

    俯いてしまった虎杖君の手を私の右手からゆっくり外した。抵抗はなく、これで私から逃がしてあげられる、と安堵した時だった。

    「役立たずじゃない。足手まといでもない。俺はナナミンの言葉があったからこそ生きられたのに」

    虎杖君のその言葉に今度は私が固まる番だった。

    「あの時、ナナミンが俺に託してくれたから、俺は生きてきた。何度も死ななきゃいけないって思ったけど、ナナミンが俺に頼んでくれたから。俺はナナミンの分まで頑張って人を助けてきたんだ」
    「それ、は…」
    「家入さんの術式を受けても危なくて、病院のICUにナナミンが入ってから、傍にいたくても居られなくて。やっと起きたって聞いて会いに行こうとしたら先生に止められるし」
    「……」
    「ナナミン、俺ね、ナナミンに後を頼まれたから死なずに生きてきたんだよ。ナナミンみたいなかっこいい人になりたくて、ちゃんと出来たって見て欲しくて、頑張ってきたんだ」
    「私の、あの言葉は、君への呪いになったでしょう。苦しくても、逃げる事を許さない。酷い呪いに」
    「違う。違うよナナミン。俺にとってあの言葉は呪いだ。俺が生きるための、大切な呪い」

    俯いていく私の両頬に虎杖君の手が添えられる。暖かいそれは記憶よりもがっしりとしていた。

    「ナナミン、俺の為に傍にいて。ずっと好きだったんだ。もう俺も18歳だよ。何も分からない子供じゃない。この気持ちが憧れか恋かだってちゃんと区別できる。間違いなく、恋だよ」
    「…虎杖君、私は間違いなく君に迷惑をかける。私の気持ちは君みたいに綺麗なものではないんです」
    「俺だって綺麗なもんばっかじゃないよ!むしろ俺のほうがドロドロしてるかも?何しろ3年待ったからね!」
    「そんなに、待ってくれたんですね。私なんかを、君は」
    「…うん。他の誰かじゃない。おれに呪いをかけてくれたナナミンを待ってたんだ」

    両頬に添えられていた手は頭の後ろに周り、虎杖君の肩に頭を埋める形で抱きしめられた。ずび、と鼻を啜る音が聞こえて、泣かせてしまったと思うと同時に奥底に隠していた思いが溢れ出るのを感じた。
    私の肩に顔を押し付けて泣く虎杖君の頭をそっと撫でる。一瞬震えたがそのまま撫でさせてくれた。

    「泣かないでください。私は君の涙に弱い」
    「泣かせてんのだぁれ」
    「私ですか」
    「貴方ですよ」
    「どうしたら泣き止んでくれますか?」

    私の言葉に虎杖君が肩から顔を離してまだ潤む瞳のまま私を見て告げる。


    「俺と一緒に生きる覚悟を決めてくれたら泣き止むよ」


    そんな事を眩しい笑顔で言うものだから、私の目も熱くなってくる。
    君は、こんな私を必要としてくれるんですね。
    奥底から溢れ出た思いはささくれ立っていた私の思考を覆って、彼の気持ちを素直に受け止める事ができる。
    ぐっと震える唇を噛み締め、声が震えないように、涙が溢れそうなのをばれないよう左手で目元を隠しながら私も答えた。



    「…そんな事を言わなくても、とっくに覚悟は決めましたよ」
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    DOODLE33×20七虎。
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