夏の終わり 遠くで大きく空気が震えた。乾いた破裂音は聞き慣れたものによく似ているが、どこか優しさを含んでいた。
ピリッとした緊張感を含まぬ音は、柔らかく耳に届く。総毛立つこともなく、静かな振動と共に地を伝いここまでやってきた。
「もうそんな時間かぁ」
木製の扉の外は黒く染められ、人通りもない通りはやけに寒々しく思えた。また遠くでドォンと鈍い音が響き、扉に填められているガラスがビリビリと小刻みに震えている。静かな夜に不釣り合いなほど大きな音だった。
今日は年に一度の花火大会。会場はここからそれほど遠くはないが音だけで、眩しい光はここからは見えない。
そのせいか、町中から人影は消えていて、普段の賑やかさは姿を隠してしまった。騒々しいのが当たり前の日常で、空々しいほどの静寂がまるで夢のようだった。
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