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    kikhimeqmoq

    はらす

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    桃綾。サインミ。
    桃綾は付き合っていない、というか、桃吾が気持ちに気づくネタ。
    ギャル瀬川くんが出てくる。

    #桃綾

    白昼夢その日は三限が始まっても寝ることができず、定年間際の爺ちゃん先生が唱える地学の説明が頭の上を流れていくのを、ただぼんやりと感じていた。法事のお経みたいだ。昼前のこの時間に寝ておかないと、昼休みの練習が上手くいかんのやけどな。いつものように机に伏せ、おじいの低い声が意味の分からん単語を唱えているのを聞けば、すぐ眠れると思っていたのに。
    伏せると自分の息が机に当たり、そこから湿気が顔周りに溜まった。暑苦しくうざったいのを我慢して寝ようとするが、眠れぬ夜の秒針がうるさいのと同じように、地学教師のだみ声が気になって仕方なかった。人間が喋っているのに何を言っているか分からないのも、いけ好かない。なんやねん。マントルの融解曲線て。下ネタか。
    寝るのを諦めて頭を起こし、窓の外を眺めた。初夏の陽射しは眩しく暖かく、空は青く小さな雲が散らばっていた。野球やるには最高の天気や。授業なんてどうでもええから一秒でも早よ部活したい。部活が無理やったら走りたい。それか体育がええ。せっかくやから短距離の練習したいわ。今の時間はどこの学年も体育してへんみたいやし。
    くっそ。グラウンド使こてへんのなら俺に使わせろ。
    しかし、毒づいたせいか、偶然か、誰もいないように見えたまっさらなグラウンドに、ジャージ姿が一人、門の方から駆け込んできた。そいつは用具室前で急に速度を落とし、しばらくは歩きながら息を整えていた。あれ、サッカー部の田中だな。三組と四組で体育なんか。
    眺めていると、外周を走り終わった奴らが少しずつゴールする。終わった奴は用具室前でくっちゃべっている。綾瀬川は十番目に、クラスの友達だという山なんちゃらという奴と一緒に帰ってきた。遅いな。あいつが真剣に走ればサッカー部なんて相手にもならんはずやのに。
    綾瀬川と同じ学校に入学して数か月。野球以外の生態もなんとなく把握できるようになってきた。余所者がいる場で全力を出さないカス根性にも流石に慣れ、最近では全力の何割程度の出力かを観察する遊びに熱中している。今日の綾瀬川は六割程度か?この遊びの欠陥は答えがないことで、知りたかったらあいつを観察し続けるしかなかった。きっしょくさいな。でも、どつしても、やめられなかった。
    綾瀬川は用具室の前から離れ、連れとも距離をとってフェンスの側でストレッチを始めた。部活でもよく見るルーティンをこなすあいつをぼんやりと見つめる。陽射しは依然として明るく、あいつの明るい髪はてっぺんのあたりが陽の光でキラリと輝き、風でふわりと浮いた。あの風、たぶん気持ちええんやろうな。
    ストレッチを終えた綾瀬川は、汗を飛ばす犬のように首を振り、空を仰ぎ見た。
    油断していたのは、うまく眠れなかったせいだ。
    いつも通りに伏せて寝ていればよかったのに。
    あいつはおもむろに首を回し、流れるような仕草で校舎に振り向き、迷いなく俺を見つけた。そして、無駄のない小さな仕草で口を摘み、素早い動作でこちらに投げた。投げキッスかよ。
    ガタンバタンガタガッシャン
    あまりに激しく音を立てたので、机が壊れたんじゃないかと焦ったが、壊れたのは俺の方だった。気がつけば椅子を横に倒し、自分は床に崩れ落ちていた。新喜劇かてこうは綺麗に倒れへん。野球やるより芸人の方が向いとったんとちゃうか。
    「雛は寝るなら静かに寝ろよ。寝相が悪いのは万病の元だぞ」
    爺さんから意味の分からない注意を受け、とりあえず俺は頭を下げた。「うす。すんません。」
    ああもう!あいつのせいやぞ!
    あんのクソアホボケカスグズ後でぜったい殺したる!


    でもたぶん俺は、午後も何事もなかったように振る舞うのだ。
    昼練で会っても、午後練で会っても、部屋に帰って一緒になっても、何もなかったかのようにいつも通り会話し、ボールを受け、飯を食い、寝る前に喧嘩してから布団に入るはずだ。
    寝てしまえ。寝てしまって、明日の朝になったら、今日あったことなんて白昼夢になる。
    投げチューなんてどうでもええ。
    だって、覚えていたら、あいつに気づいてもらった瞬間の高揚を、この感情を、認めてしまうことになってしまう。知らん感情に名前をつけたくなんか、ない。

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    kikhimeqmoq

    DONEチヒ隊 2025/01/19 チヒロと巻墨

    61話、カフェでランチを食べた後に京都へ向かうチヒロと巻墨の小話。63話で巻墨の名前が判明して嬉しくて書いた。チヒ隊かどうかは微妙な感じで特に何も起こらない。
    豪快に京都へ「車で行くんですか?電車の方が早くないですか」
    店を出てさっそく駅に向かおうとした千紘を巻墨は引き止め、車で移動すると告げた。
    「車の方が安全だろ。装備もしてあるしな」
    隊長は得意げに説明した。斜めに切り上がった口端が車への自信を表していた。可愛らしいな、と千紘は感じたが黙っていた。それより装備ってなんだ?
    「装備とら?」
    「武器や小道具が車に隠してあるんですよ」
    炭がすかさず説明した。
    「へえ」
    さすが忍びだ、と千紘は感心した。その評価が伝わったのか、隊長は満足げに頷いた。こくり。
    「じゃあ、車を出しますから、ちょっと場所を開けてください」
    炭の依頼に千紘は振り返った。駐車場はどこだろう。きょろきょろと周囲を見渡す千紘の肩を、杢は長い腕で掴んだ。最初は肩を強く掴まれたが、すぐに柔らかく抱きかかえられ、店の脇へそっと移動させられる。杢の腕も身体も熊のように大きく、肩を抱かれただけなのに、千紘は全身を包まれた気持ちになった。なんだか温かい。杢と千紘は、歳はさほど離れていないと聞いた。実際、杢は隊長や炭よりも若者らしい軽い発言が多い。しかし、なんとはなしに信頼したくなる安定感が杢にはあった。身体の大きさだけではない。ほどよい雑さと丁寧さのバランスが好ましあのだと思う。
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