重版おめでとう「桐ちゃんの裸特集の雑誌、重版かかったって」
「裸特集って言わんどいて!アンアンの表紙ってちゃんと言うて!ちょっとエッチな特集っていうだけやんか」
裸特集の方が正確でしょ、と笑いながら、マネージャーは雑誌を隣の要くんに渡した。同時に胸ポケットの電話に気がついたマネージャーは慣れた手つきでスマホを取り出す。「どうも、お世話になってまーす!」と陽気な声で挨拶し、見えない相手に頭を下げつつ扉の向こうへ消えていった。
「なんで裏向けて置くん?」
受け取った雑誌を一瞥もせず、要くんは表紙を伏せて机に置いた。なんでやねん。重版なんて滅多にないんやから、おめでたいやろ。裏向けんなや。
裸の表紙が恥ずかしいかというと、今さら特に恥ずかしくはない。上裸のグラビアなんて珍しくもないし、夏場になれば、どうしたって肌の露出は多くなる。楽屋だって、控室だって、パン一も当たり前だ。ましてやこいつとは、一緒に暮らしているのだし。
今さら裸がなんやねん、という話だ。どちらかといえば、話題の雑誌で鍛えたスタイルが評判になる方が嬉しいに決まっている。せっかくだから、相方にも褒めて欲しい。褒め言葉なんて、あればあるだけ嬉しいんやし。
「今さら裸が恥ずかしい、はないよな?」
「べつに」
澄ました顔で答える要くんの声は、心なしか小さめだ。そんな、あからさまに「この話に触れないで」という態度を見せられたら、余計に弄りたくなるに決まっているのに、そこまで考える余裕もないのか。地雷なんか、この話。
「なんで?嫌なん?この表紙」
「だから、なんでもないですよ」
「相方の表紙雑誌が重版なんやから、なんでもない、は無いやろ」
答えに詰まった要くんは、唇を噛み締めたまま、黙ってスマホを弄っていた。
「もしかしてなんやけど、まさか、一緒に撮影したモデルに嫉妬してる?」
「嫉妬なんてないですよ」
さきほどまで黙っていたくせに、今度は突然食い気味に反論した。
あ、そう。
嫉妬心がないのは、気楽なような、寂しいような。でも、まあ、確かに、共演の女性について、要くんから悪い感想を聞いたことは無い。
「じゃあ、自分が、やってる時を思い出すとか?」
要くんは再び俯き、スマホを触る。その画面を覗き込んだら、天気予報を眺めていた。天気予報のどこに、そんなに凝視する内容があるねん。俺の質問が図星だって白状しているのと同じやんけ。
きみは、演技も得意やし、バラエティで嘘コメントを愛想よくペラペラ喋ることもできるのに、なんでこういう時だけ嘘つけへんの。可愛いな。
「思い出しては、ない、ですけど」
要くんの耳はよく見ると真っ赤だった。面白い。そして、声が小さい。
「けど?」
「俺とやる時は、あんな風に髪を撫でたりはしないなって」
「思い出してるやん」
笑うと、要くんは悔しそうに唇を噛み締めた。
「あと、ちょっと、ホッとしたっていうか」
絞り出すように呟く要くんが、ますます可愛らしかった。
「仕事の時は、俺とは同じやり方にしないんだなって」
消え入るように小さな声で呟く要くんの耳は、熟したトマトよりも赤かった。
そっと、真っ赤な耳にキスをする。
すると、チッと鋭い舌打ちが聞こえた。たぶん、照れ隠しだ。
こういう照れ隠しの舌打ちも、ファンや仕事仲間の人たちは知らんのやな、と思ったら、また可愛くて、今度は唇にキスをした。チュッ。
要くんの映画、俺も、濡れ場でちょっとだけ眉間に皺寄せてもうたんは内緒にしてる。ちょっとな。ちょっとやけどな。
だって、服を脱ぐ順番がいつもと違うなって思ってしもたから。
そんなん、俺しか気づかへんよなって思ってしもたから。
ほんまはな、君も俺も、同じなんやで。内緒やけど。
〆