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    あかり

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    あかり

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    ※カブミス+ライシル要素あり
    髪を結ってあげるはなしです

    ##カブミス
    ##ライシル

    長命種真剣マジ恋バナの会〜髪結び編〜「土産だ」
    「えっっっっっ」
     マルシルは大きな声が出た口を手でふさぐと、目の前のミスルンと一輪挿しの花、それに贈り物用にキレイに包まれたなにかを交互に見た。
    「わ、私にはライオスがいるのでっ……! お気持ちには……ッ! ていうかカブルーはどうなっちゃうんですか?!」
    「勘違いだ。お前に恋愛感情などない。皆無だ。髪を結うのならリボンと花の一つも飾ったほうがいいだろうと」
    「み、ミスルンさんが選んでくれたんですか?」
    「いや、部下が手配した。私はどれがいいかわからないから。いくつか用意させた。好きなものを使うといい」
    「ですよね! あーびっくりした!」
    「ひとり騒ぎをしてひとりで収束しただけだろう」
    「いやあ、ほんと……ごめんなさい……あ、開けてもいいですか?」
    「お前のものだ。好きに使え」
    「わー! このリボン、どれもとってもかわいいし……触ったことないくらい滑らか……光によって輝きが変わってすごくキレイ……もしかしなくても、とても高いもの、ですか?」
    「会計は任せたから知らない。だが妃候補に安いものを贈るわけにはいかないから、それなりの金額はもたせた」
    「き、妃候補……」
    「そうだろう」
    「そうなんだ……」
    「自覚がないのか」
    「ありません……」
     マルシルは改めて言われると自身の立場を考えた。妃、というのは自分にはしっくりこなかった。
    「どこの国も……王制をとっている国は大抵が政略結婚をすることになる。側室も大勢抱えて跡目争いが絶えない。お前たちが身分に関わらず自由に恋愛できるというのは珍しいことだ」
    「そうなんですね。私、あまり政治には詳しくないから。じゃあ将来的には側室をとったり……というか私が側室なんじゃ?!」
    「ライオス王がそこまで器用な人間だとは思えない。お前のことだけで手いっぱいだろう」
    「……そうかも。恋愛のことなんてさっぱりだし。ダル族も読んでくれないし」
    「何事も見合ったものはあるということだ。贈答品は満足できる品だったか?」
    「はい! すごく素敵! ファリンと一緒につけてみようかな〜この色もこの色も……。それにしても贈り物だなんて、ミスルンさんって気がつく人なんですね。やっぱり隊長だからですか?」
    「贈答品の件を言い出したのは部下だ。私はそこまで気づかない。部下は大雑把に見えてよく見ている。持たせた金を自分の懐にいれて駄賃にしたかったのだろう。品質に見合ったものを買ってきたから釣りの件は不問にする」
    「フレキさんですよね。ちょっと変わってるけど、そういうところちゃんとわかる人なんですね」
    「私も意外な一面を見た。あれは屋敷でも探索でもよくやっていると思う」
    「人って知ってるようで意外な側面があったりしますよねー自分の中にもあったりして……迷宮の主になって、自分の中の欲望が止まらなくなって、初めて気づいた願望もありました。私ってこんなことを望んでいたんだって」
    「一の欲望を百に膨らますのが悪魔の常套句だ。もし自身に醜い願望があったと自覚しても、気に病む必要はない」
    「ありがとうございます。悪魔と契約してから、髪を結びたいって欲がなくなっちゃって……それを、私は取り戻したいなって思ってるんです。あ、ミスルンさんも髪の毛ちょっと長めだし、夏とか暑い場所は結ったほうが涼しいんじゃないですか?」
    「わからない」
    「あーそっかー……。じゃあ私が結ってあげます!後でカブルーにも教えますから!」
    「必要ない」
    「ミスルンさんは体温の調整とか、一人でするの難しいって聞きました。調査は体が資本!ですよね!」
    「体なら鍛えている。問題ない」
    「ライオスは全然気づかないんですけど! カブルーは髪型とか気にしてくれると思います!」
     ミスルンは恋バナ大好きオシャレ大好き女児のパワーをなめていた。
     結局ミスルンは細かな編み込みをほどこされ、似合いそうだというゴールドのリボンで綺麗にラッピングされてしまった。

    「似合っています」
     屋敷へ戻ると、今日は家仕事だったカブルーがミスルンを出迎えに出てきた。
     おかえりなさい、と声をかけてすぐにミスルンの綺麗に編まれた髪に気づき、満面の笑みを浮かべ声を弾ませて恋人の変化を褒めた。
    「時間をかけたところで、すぐほどいてしまうというのに」
    「実用性が全てではありませんよ。エルフ社会だって、ドワーフ製の工業製品を使えば便利になるのを避けたりボタンの異様に多い服を着たり、不便を当たり前のように受け入れているじゃありませんか」
    「私はしない」
    「ええ、今のあなたはしないでしょうね」
    「取り繕う必要がある場所で取り繕えないのは不便でもあるが」
    「それは……そうですね。そのときは隣のミスルンさんが助けてくれるんでしょう?」
    「極稀に」
     カブルーは笑った。ミスルンには若い頃の自身を横において、彼が発声するにふさわしいか聞くことがあるそうだ。
     だが大抵はうまくいかない。ディスコミュニケーションというやつだ。
    「先ほどマルシルの使い魔から手紙が送られてきたんです。髪の結い方を描いたものでした。単にひとつまとめにするのから少し凝ったものまで」
    「必要ないと言った」
    「夏場や暑い場所では結ったほうが調査の効率も上がるでしょう。俺の方からフレキに暑い場所ではミスルンさんの髪を結うように伝えておきます」
    「お前がやってくれ」
    「俺ですか? 髪を結うなんてしたことがないから上手くできるかわかりませんが……」
    「風呂の後がいいだろう」
    「はい。あまり、期待しないでくださいね」
    「新進気鋭の宰相補佐にも苦手なものはあるか?」
    「もちろん。人は誰しも弱点だらけですよ。それを隠すのがうまいかへたかの違いでしかありません」

     風呂がすんで、髪を乾かし、髪用の香油を軽く頭皮に揉み込む。
     ハーブの香りはとてもはなやかでミスルンが動くたびにこの香りがするのをカブルーは気に入っていた。
    「じゃあ、やってみますね」
    「うん」
     豚毛の櫛で丁寧にブラッシングしたミスルンの髪は細くなめらかになる。シルクのようだといっても過言ではない。
     マルシルの図解付き髪結い指南手紙を見ながら、三つ編みを作っていく。
    「痛くありませんか?」
    「うん」
     先に軽く全容をみておいたが、複雑である。
     これからは髪を丁寧に結い上げた婦人を尊敬の目で見そうだ。
    「えー、いちをさんのわの中にくぐらせて……最後に軽く引っ張って結ぶ……」
     カブルーはミスルンがつけていたゴールドのリボンを再度結んだ。
     とはいえ、結び方も知らないから固結びのようになってしまった。
     マルシルの手紙は数枚に及んでおり、その中にはリボンの結び方もあったのだが目を通していなかった。
    「ごめんなさい……なんだがぐちゃぐちゃになってしまって……リボンもほどくのが難しそうな状態に」
     ミスルンは無言でドレッサーの前に座ると、手鏡を使って器用に後ろ側の、カブルーが結んだ箇所を見た。
     三つ編みのバランスは悪く、リボンはガチガチ。どうみても、失敗だ。
     だがミスルンは笑った。目を細めて、楽しそうに。
    「ふふ、ふ、いいな。しばらくこれですごしていたい」
    「どのあたりを気に入ったんですか……。失敗を喧伝されるなんてそれなりに恥ずかしいことなんですが」
    「なんでも器用にやってのけると思われているお前が、恋人相手にこんなふうに慣れないことをするなんて、かわいらしいだろう」
    「子供扱い……」
    「年下の恋人をかわいがって何が悪い。気に入らないのなら一八五年前より先に生まれることだ」
    「ならば俺はベッドの上であなたをかわいがることにしましょう」
     ドレッサーの椅子から横抱きにミスルンを抱えると、カブルーはやわらかなベッドにそっと横たえた。
    「こちらは得意か?」
    「さあ? 少なくとも髪を結うよりは自信がありますよ」
    「お前が抱いてきた女の面影が見えるようだ。下手な男のほうが紳士ではあるだろう」
    「俺はとびきり紳士です。それでいてウブで節操をわきまえる年下の男。あなたを優しく抱きますよ」
    「おもしろいジョークだ」
     二人はベッドで交わりあった。結んだ髪はぐちゃぐちゃになったし、リボンはかたく結ばれたまま放られてしまった。
     それでも屋敷ではしばしば、カブルーがミスルンの髪を結う光景が見られたそうだ。
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