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    これまだプロットです。
    プロットです。(大事なことなのでry)

    大正ロマン一カラのつもりがだんだん大正ロマンの恰好した小営になってきた件一カラ
    時代設定 大正(なんちゃってでいいです)
    一松  文豪(たび松大正ロマン)
    カラ松 バンカラ(たび松大正ロマン)

    カフェー表記はワザとです。よしなに

    一松(32)
    トト子の働くカフェーの奥にあるボックス席を陣取っていつも作業をしている。執筆作業よりは校正作業やネタを考えたりなど。カフェーにわざわざ来ているのは人間観察も兼ねている。
    現在執筆中の作品は2匹の猫が探偵業を営んでいる話。その世界では人も猫も犬も等しく二足歩行し、口をきき、頭を使う。気まぐれで皮肉屋なサバ虎にいつも振り回される黒猫の話は雑誌で連載していていくつか単行本も出ている。本人は否定するが売れっ子作家である。
    服装は和服に帽子やキセルなどを合わせた和洋折衷スタイルで自宅はカフェーからほど近い場所にある。家の前に大きな栗の木があって秋の時期は庭にまで転げ落ちてきた実をよく拾う。猫が好き勝手に出入りしているが定住しているわけではない。オレンジの毛皮の先生、と呼ばれる猫だけは一松の家をねぐらと決めているようだがここには入るなと言われている場所には入らない賢い猫である。(エスパーニャンコ)

    カラ松(22)大学生
    都内有数の財閥の御曹司だが本人はそれを隠している。
    弟が一人いて、その弟が優秀なのでできれば家業は弟に継いでほしいと思っている。(弟はトド松)
    学校の成績だけで言えば確かにトド松の方がうまくやっているがカラ松は幼い頃から本をたくさん読んでいたためになんだかんだ知識量は多い。ただどうしても自分は考えるのが遅いので商談などの場ではトド松のようにうまく立ち回ることができないと思っている。
    トド松(19)から見たカラ松
    確かに考えはゆっくりだけれど確実に自分たちに有利な答えを見つけてくる。何か失敗したときなどの対処が早い。自分が表立って事業を動かして判断が必要なときに指示を仰げる存在でいてほしい。そうでなくともカラ松を見放した両親はトド松に必死にいい成績を修めさせるために塾に通わせたり家庭教師を呼んだりと自由になる時間がなかった。泣き出しそうになった時にカラ松が連れ出してくれて、何か言われたら全部俺の所為にしたらいいと笑った兄に何度も心を助けられている。カラ松には自由でいてほしい反面、判断能力の高さからやはり自分の近くにいてほしいと思っている。

    カラ松視点
    家にいても両親と喧嘩するばかりで、奔放者を演じているのもあって街中を散歩しているとカフェーが目に入った。何か目新しいものでもあるかと店先のメニューをぼんやり見ていると中からかわいらしい女給が出てきた。彼女につられるままに店に入り、飲めもしないブラック珈琲を頼んで女給が見ていない隙に砂糖をたくさん入れた。時間が経つにつれ、少し落ち着いて店内を見れば程よく落ち着いた内装が目について。思いのほか過ごしやすいそこをカラ松は気に入った。

    数日通っているうちに常連がいることに気づいた。賭け事ばかりしている和装姿の男、その男に連れられてきているらしい男は女給が通るたびに顔を真っ赤にさせて目を泳がせている。奥まった席には何か書きものをしているらしい男がいて時折、黄色い着物を着た女給が注文を取っていた。そのほかにも何人か男がいてそれぞれカラ松も目にした女給目当てのようだった。カラ松はレコードから聞こえるジャズを聴きながらのんびり砂糖をあほほど入れたコーヒーを飲むのがお気に入りになっていた。

    ある日の事、その日もカフェーに来ていたカラ松は催して女給に手洗いは何処かと尋ねた。あそこにあるよと笑って教えてくれた女給はよく見れば男だったが周りは何も気にしていないようだったので自分も気にせずにいるかと手洗いを済ませて客席に戻ったとき、手洗い場からほど近い場所にある席の足元に紙が落ちているのに気づいた。何だろうと拾い上げて読んでみればそれは物語で、あぁ、これは原稿なのだなと納得したのもつかの間。カラ松はその物語に夢中になった。二匹の猫が探偵業を営んでいるらしいそのお話は、たった原稿1枚分の文章を読んだだけでももっと読みたいと思わせるものでいったい誰がこれを書いたのだろうと顔を上げれば奥まった席にはいつも通りキセルをくゆらさせている男が万年筆を片手に紙に文字を連ねていた。この人がこんな素晴らしいおはなしを書いたのかとカラ松は目をキラキラさせて男の向かいに座る。カラ松に気づいたらしい男は怪訝そうな視線を向け不躾に何、とただ一言。カラ松は今読んだばかりのその原稿を差し出して、たった少しだけれど素晴らしい作品を読ませていただいたお礼、そして称賛を向けた。男はまだ怪訝そうにしたままカラ松を見ていたが差し出された原稿をばっと取り返して立ち上がり勘定、と一言。早々に帰ってしまった男に、困らせてしまったかとカラ松がしょげていたところさっき手洗いの場所を聞いた男の女給が男のいた席を片付けるためにやってきた。男を怒らせてしまったようだと苦笑いを漏らせば先生難しいとこあるからねぇとのんびり返された。女給にあの男の名前を知っているのかと尋ねれば紫坂猫一先生だよ、と教えてくれてカラ松も勘定をして近くにある本屋に向かう。紫坂猫一、初めて聞く作者名だったが本屋で大きめに場所をとっていて有名な先生だったのかと驚き、持っていた金で買えるだけ紫坂猫一の本を買った。その晩、カラ松は部屋のランプをつけて夜通し本を読んだ。一度読み終わった章もいくつか先に伏線を回収させるお話があったり、また二匹が軽快に物事を解決していく様は見ていて気持ちがよかった。久方ぶりに夢中にされる本が読めたと喜んでいれば部屋をノックする音に眉根が寄る。何か言われるのも面倒だと本をベッドの下に隠して扉を開ければそこには機嫌の悪そうな母親がいた。一晩中ランプをつけたままで何をしていたのか、そもそも昼間も出歩いて勉強もしないで何様のつもりなのだと責め立ててくるその声に腹が立ってカラ松は扉を閉めた。扉の外では母親がまだ何か騒いでいたが知るもんかと鍵をかけてベッドに寝そべればさすがに睡魔が襲ってきた。起きたら何か食べよう、そう思ってカラ松は布団をかぶって寝る事にした。

    日がずいぶん高くなって午後に差しかかろうかという時間にカラ松は目を覚ました。母親はいつまでたっても反応しない自分に焦れたのだろう、いつの間にかいなくなっていたようでほっと息を漏らした。きゅるると腹の虫が鳴く。そういえば昨日は本を読むのに夢中で晩餐にも出なかった。朝も寝ていたせいで食べ逃してしまったことに気づいてからはどうにも腹が空いて仕方ない。もうこの時間なら母親も、母親について回る家令も外に出かけているか、と考えて立ち上がる。廊下に出ようと扉に手をかけたところでノックの音。一体こんな時間に誰だろうと扉を少し開ければそこには白のスーツに身を包んだ弟が立っていた。部屋の中に快く迎え入れれば自分からは見えないように持っていたらしいお盆を差し出された。その上には大きな握り飯が2個と湯気を立てる味噌汁、卵焼きと漬物の乗った皿があって、それを見たとたんカラ松の腹は素直な声を上げた。晩餐に来なかったことについて心配はしてないけれど腹を空かせているだろうから持ってきたんだという弟にカラ松は感動してお盆を受け取りトド松を窓の近くにある机に招く。食事をしながらトド松について考えるカラ松。自分が家業という重責から逃げてしまったがために押し付けることになったのを申し訳なく感じている。ただ、トド松については自分よりもよほど優秀で世渡り上手だからきっと事業もうまくいくだろうと確信していた。おにぎりの具は鮭と牛肉のしぐれ煮だった。それはどちらもカラ松の好物で味噌汁に入っていたのは細く切った揚げと大根だった。こんなところまで自分の好みを考えて用意してくれたのだと考えると嬉しくて口元が緩む。持ってきてくれたものをすべて平らげて、お茶を飲んで一息ついたころ、結局昨日はいったいどうしたのだと問われたので面白い本を見つけて夢中になってしまったのだと白状した。弟は呆れたように笑って、けれど兄さんが何か夢中になれるものがあったのならよかったよ、と笑みを漏らす。ふと、弟が顔を上げたかと思ったら、あ、と声を上げた。カラ松の後ろにある時計が目に入ったのだろう、今日は商談があるんだ、という弟の顔は昔よりもずっと頼りがいのあるものでそれならいつまでもここに居るのはよくないだろうと背中を送る。廊下の角を曲がって、その背中が見えなくなったころカラ松は小さく息を吐いた。優秀な弟が事業を継ぐことについてはもう父親も母親も何とも思わないだろう。そんなことよりきっと、ごく潰し状態になっている自分の事が目につくのは目に見えている。そろそろ潮時か、と部屋の中にこっそり準備した荷物を思い返す。着替えと、家を借りるのと少しの間暮らしていけるだけの金子、それから昨日買った本も入れないとなぁ、なんてぼんやり思う傍ら。頭の中では幼い頃の弟との思いでがめぐっていた。

    《回想》小学校に上がってすぐのカラ松とまだ幼稚舎に通うトド松。学校の図書館で借りてきた本を読み聞かせしてやればトド松は嬉しそうに笑った。トド松が小学校に上がってすぐ、学校で同級生と喧嘩になり、その兄弟にトド松が追い回されていた。自分の同級生からそれを聞いたカラ松は慌ててトド松を探し、自分よりも年上の男子生徒に後ろからとびかかった。幸いにも誰も大きなけがをせずに済んでトド松と同級生は謝罪し合った。些細な言い間違いからくる喧嘩のようだったがそれにしたって自分の半分ほどの背の、それも弟と同じ年齢の子供を追いかけまわすなんて何事だとカラ松は相手を強く批判した。その場には大人もいて、カラ松のいうことは確かだと相手の生徒はたしなめられて、弟ともども深く謝罪した。カラ松は反省したのならそれでいいと二人を帰した。それは、名前を聞いて知ったことだったけれどその生徒たちはカラ松たちの両親の会社で働く従業員だった。これを親に伝えれば彼らが路頭に迷う可能性すらあるとカラ松はトド松に言う。自分の些細な感情で、他人の家庭を壊すなんてしてはならないことだと泣きじゃくるトド松に言って聞かせた。その頃から、トド松は勉強するようになった。カラ松と同じようにたくさん本を読んで、授業でわからないところは積極的に先生に聞きに行った。要領もよかったのだろう。トド松はすぐに小学校分の勉強を学び終えてそれに喜んだ両親はトド松に家庭教師をつける事にした。最初はトド松も頑張っていたが3か月もした頃、トド松が子供らしい顔を見せなくなっているのに気づいた。確かに勉強は大事だけれど、このままでは弟が死んでしまうかもしれないとカラ松は今から家庭教師が来るというトド松の手を引いて家の外に飛び出した。その様子はたくさんの使用人たちが見ていて、これできっと家に戻ったとき叱られるのは自分になるだろうとカラ松は確信していた。甘味やで甘いものを食べて子供だけでは入れる場所も限られているので市内にある大きな図書館に行って、二人して童話を読んだ。夕方、カラスが泣くころよりも遅く家に戻った二人を出迎えたのは家庭教師の授業をすっぽかしたことを知った両親だった。母親は顔を真っ赤にして怒っていたし父親は二人を見てため息をついた。どうしてこんなことをしたのかと問われてカラ松は自分の遊び相手としてトド松を連れだしたのだといった。両親は怒ってカラ松を物置に閉じ込めた。けれど、思った通りになったとカラ松は満足だった。甘味やで買った飴玉をポケットに入れっぱなしだったのを思い出して口に放り込む。それはカラ松にとって、また、トド松にとってもとても素晴らしい思い出になった。

    カラ松はまた町中に繰り出していた。今日こそはどこか自分の持っている金でも住める場所を探さないといけない。長屋は論外だった、昔、病気がはやったときも始まりは長屋の人間からだったから。長屋の人間が悪いということではなく、長屋には風呂がない。便所も共同であることを考えれば衛生面でよくないことは簡単に想像がつく。それならどこかで下宿かもしくはどこかで書生として住まわせてもらうか。カラ松は料理はあまり得意ではないけれど、家の事なら一通りできる。それは、弟に家業を任せると決めた日からずっとこっそりと訓練していたからだった。そういえば、カラ松は英語も少しは読めるのでいっそ翻訳の仕事なんぞしてみるものいいかと考えて苦笑いを浮かべる。こんな時になって、家で受けた教育のありがたさを知った。いつも通りカフェーに向かおうとして思い立って新聞を一部買った。新聞に何か求人が出ているのではないかと思ったからだ。カフェーで腰を落ち着けて見ようと考えていつも座っている席に向かえば注文を取りに来たのはこの間の女給の格好をした男だった。お客さん珈琲苦手でしょう。そういって笑った彼はそれならこっちのカフェ・オ・レを試してみるといいと言って笑う。すすめられたものを無碍にするのも何なのでじゃあそれでと頼んだ。運ばれてきたカフェ・オ・レはたっぷりのミルクに蜂蜜が落とされて、とてもおいしいものだった。冷えたそれを飲みながら新聞を見る。仕事の募集はいくつかあったが自分にできそうな仕事はと考えるけれど、どうにも難しい気がした。小さくため息を漏らす。新聞を適当に畳んで家から持ってきた小説を開いた。物語はいい。わずらわしい日常を忘れさせてくれる。昨日、この喫茶店で見てしまったあの原稿は、この本の続きなのだろう。紫坂猫一、今までこの作者を知らなかったことを悔しく思う。それほどまでに彼の書いた作品は素晴らしいものだった。気づけば、明るかった空は茜色に染まってカフェーの客席を占領していた客たちもまばらになっていた。カフェーの中はところどころランプで明るく照らされているけれど、普段よりはやっぱり暗くて手元の本を読むには少し難しいかも、と顔を上げたところでいつものように突き当りの席に座っている男がじいとこちらをねめつけていることに気づいた。夕暮れから闇色が深くなる店内、琥珀のような色合いのランプに照らされた男の眼は何処か猫のようだと思った。獲物を狙うような、まっすぐな視線。恐ろしいようななんだかよくわからない気持ちに襲われる。ふいに思い出したのは、少し前に出た山の中で迷った猟師が料理店にたどり着くお話。自分、猟師を手厚く迎えているようで実のところヤマネコが食べるために猟師を下ごしらえしていたというあれである。まさに、その猟師になってしまったかのような気分だ。居心地の悪さを覚えてカラ松は席を立つ。自身が店を出るまで、その視線はずっと背中に張り付いたままだったように思えた。

    その日は珍しく大学に行った。同学年たちは何やら学生運動がどうだとか何やら騒いでいたようだけれどカラ松はその輪の中に入ろうとは思わなかった。面倒だという気持ちが強かったのはもちろんだけれど、松野家の長男が参加している、というのがばれたときの方がよほど面倒だと思った。家族仲が良くないのは今更の話だけれど、弟、トド松に迷惑をかけるのだけは避けたい。まっすぐ家に帰るわけにもいかず、ここのところカフェーにはいきづらいしどうしたものかとぶらぶら歩いているとどこからかにゃあにゃあ小さな声が聞こえた気がして視線をさ迷わせる。一体どこから、とふいに上を見上げてみればそこには高い枝に上って降りられなくなったらしい子猫が泣いているのを見つけた。木の根元には兄弟なのかそれとも仲のいい猫なのか、灰色に縞模様の入った猫が木の幹をカリカリとかいてこちらもみゃあみゃあ声を上げている。二匹を見比べ、カラ松は木を上る事にした。学生服とマント、それから帽子を脱いで近くの壁にかけ、下駄もその辺に転がした。子供の頃は木を登ることなんてよくあったけれど怪我をしたらどうするんだとよく母に叱られたことを思い出す。するすると木を登って、細い枝につかまって鳴いている猫に手を伸ばせばぴょんと飛んで自分の胸元に飛び込んできた。真っ黒なその猫に、頼むからそこで大人しくしててくれよ、とゆっくりと木を下りていこうとしたときに、何やってる!!なんていう怒号にびくりと肩を震わせた直後、木の幹にかけていた手が、足がずるりと滑って視界がぐるりと回った。空中で慌てて体を丸めて猫を守る様に地面にずしゃりと落ちて腰をしたたかに打ち付けてしまい、その痛みに悶えていれば自分の服をかけた壁の家の主だろう男が門のところから出てくるところだった。折れやすい木なのに、大の男が何を、と家主に問い詰められようとしたとき、カラ松の胸元から猫が飛び出した。黒猫は木の根元で泣いていた灰猫とみゃあみゃあ何か言い合った後こちらを一瞥してからどこかに走り去っていった。ぽかんとしていたけれど、カラ松は家主に事の経緯を説明する。あの猫が木から降りられなくなっていたこと、根元でなく鯖猫があんまりにも必死に見えたので手を差し伸べた事。木に登ってしまったことについては折れやすいものだとは知らなかったということを謝罪すれば目の前の男から大きなため息が聞こえた。どうかしたのだろうかと顔を上げればそこにいたのはいつものあのカフェーの奥の席にいた彼で、あ、と声を上げる前に手当するから、中に入れば、という少し不器用な声が聞こえた。

    湿布と消毒用の傷薬が目の前に用意されていくのをカラ松はぼんやりとみていた。中に入れば、と言われた割に案内された場所は縁側で、あちらこちらに紙束や着物が山のように積まれていた。手当の間中、家事をしない独身男の一人暮らしとはこんなものなのかとぼんやりそれらを眺めていたけれどあまりにも苦戦している様子に自分でやった方がいいか?と声をかければ少しの間があって男に消毒液の入った瓶と包帯を押し付けられた。不器用だけれどそこまで怖い相手ではないのかもしれないと思いぽつりぽつりと話をすれば相手もなんだかんだと言葉を返してくれる。自分の名前と、この間偶然とはいえ原稿を見てしまったことを謝罪、カフェーの店員に作家名を聞いて本を買ったこと、本はとても面白くて次から次へと新しいものに手を伸ばしていること、それで、なんとなくだけれど紫坂猫一自体がどういう人間なのか気になっていたこと。けれどこの間のカフェーで視線を感じて、怒らせてしまったのではないかと思っていたこと、もしそうならばそれを謝りたいと思っていたこと。そこまで話して、男が口を開く。本名は松野一松ということこの間の件は怒っていたわけではなく、自分の本を読んでいる人間を目の当たりにすることがあまりなかったのでそれもあってみてしまったということ。さっきの猫たちは時折この家に遊びに来る猫で助けてくれたことには感謝しているということ。名前が似ているけれどどうやら親戚筋ではないらしい。そんなに多い苗字でもないしここまで名前が似てるのもなんだかおもしろいなぁと話をしていたのもつかの間、カラ松はどうしても家の散らかり具合が気になった。作家という仕事をしているのなら家に手伝いを呼べないのかと聞けばあまり親しくもない間柄の人間に家に入られるのは耐えられないということらしい。じゃあどうして自分を家に入れたのだろうと思ったけれどまったく知らない人間でもないし、怪我させてしまった負い目もあったからだと言われたら納得してしまった。それでも自宅に関しては作業場所も狭くなってしまっているのでどうにかはしないと思っているようで、もしよかったら掃除ぐらいなら自分でもできるので手伝おうか?と首を傾げる。料理はあまり得意な方ではないけれど、掃除や洗濯ならなんとかできる、と伝えればじゃあ物は試しに、と掃除をすることになった。松野さん、と呼べば同じ苗字だし、一松で構わない、といったすぐにそらされたその顔が妙に赤く染まっているのに気づいてあぁ、本当に不器用な人なんだなと思わず笑ってしまった。

    一松の部屋には、ものが多かった。自分の出した本はもちろんの事、資料用だろう様々な分野の本や図鑑、それこそ外国の本もあってカラ松は目を輝かせた。いつも着物にコートを羽織った姿なのも、色の濃い着物はあまり汚れが目立たないのはもちろんだけれど、中のシャツだけ買い換えて選択せずに積み上げてしまっていた。おかげで汗染みがついたシャツを20枚も捨てることになってしまった。せっかく仕立てのいいシャツだったのにと憤慨していれば別に猫のことくらいにしか金を使わないのでそれほど気にしなくてもといわれて、カラ松は開いた口が塞がらない。自分だって財閥の御曹司だけれど、それよりも一松の方がよっぽど世間知らずだ。10以上歳も離れているのにと驚くが文字書きというものはそういうものなのかもしれない。いつの間にか部屋の中には夕日が差し込む時間になっていた。散らかり放題だった部屋は見違えるようになって自室の床を見るのも久しぶりだという一松には苦笑いしか出なかった。平屋の一戸建ての家の中には使われた様子のない台所、布団が敷きっぱなしになった(その周りには汗染みの付いたシャツが山になっていた)寝室、それから執筆するのに使っているらしい部屋は本が山のように積まれていたし、縁側のある部屋は片付いてはいたけれど猫の匂いがあちらこちらにこびりついているように思えた。家の中が綺麗になって落ち着かないのか一松は部屋の中をあちらこちらと行き来している。風呂場はさすがに毎日使っているのか他ほどひどくはなかったけれどよくこの中で生きていたものだなぁと少し感心してしまった。暫くして一松がカラ松の休んでいる部屋にやってくる。もしよかったらなんだけど、と一松は口を開く。曰く掃除をしてくれたことについて感謝をしていること、猫を助けた件についても同じでカラ松さえよければ時々ここへきて掃除をしてもらえないだろうかということ。勿論給金は出すしカラ松の開いている時間だけで構わないので、との申し出にカラ松は飛びついた。給金がいくらかも聞かないうちから決めるのはよくないと思っていたけれど、少なくとも自分のやったことに礼を言われるのは心地よかった。

    一松の家で居候状態、一松に紹介してもらって翻訳の仕事も始めた。食事が店屋物ばかりになってしまうのも金がかさみすぎるからと最近少しずつだが料理を覚えた。実家に戻らなくなって半年ほどたつ。自分がいなくても事業はトド松が回しているし、やはり松野の家には自分は必要なかったのだなぁとぼんやり考える。それが悔しくもあり、悲しくもあった。一松はカラ松にずいぶん慣れたらしい。最近は散歩にも自分を誘ってくれるようになった。それでも、やはりどこか寂しくてある日の事、一松と二人夜に酒を飲んでいるときにぽつりとそのことを漏らした。カラ松はその時初めて家のことを話した。実家が財閥である松野家であること弟に家の事をすべて押し付けて出てきてしまったこと、両親には見限られていたけれど、弟は可愛かったこと。そんなに気になるのなら、一度家に帰ってみるのはどうだと言われてもし前以上に居場所がなかったらと泣き出しそうなカラ松を一松はぎゅうと抱きしめた。もしどこにも行き場がないのなら俺の元に戻って来ればいいと。ランプの明かりに照らされたその瞳は、いつぞやあれほど恐ろしく見えたのに今だけはどうしようも愛おしくなった。

    セックスに至らないけど、恋人同士ですることをいたしてしまった。
    m{最初は子供のようにふれあうキス、確かめるように一松の手が体を這って、気づけばランプの明かりに素肌をさらしていた。カラ松の反応を見ながら一松の手が、唇が、舌が、肌をなぞる。カラ松だっていい年の青年だから自慰はそれなりの数をこなしてきた。それでも、他人に、自分の良い人に触れられるのはこれほど気持ちがいいのかと、まるで熱を知らぬ生娘のような声を上げてしまった自分を恥じた。これ以上、みっともない真似はできないと口をふさげば、一松の、いつもよりずいぶん色の乗った声が耳に注ぎ込まれる。隠さないで、見せて、俺にすべてを。準備も何もしていないから、無理に中を暴くことはできないけれど次があれば俺はお前を食うからねと笑うその目がケダモノの目で、あぁ、俺が恐ろしかったのはこれなのだと思った。ぴったりと合わせた腿をどこぞにあった帯で離れないように縛られて、またぐらに熱が差し込まれる。尻の割れ目から菊座をなぞって玉の裏、カラ松のものより一回りは大きく見える竿がずるりと恥部をなぞっては出て、なぞっては出て。タコの目立つ掌で一緒くたにしごかれて熱を吐き出した頃には二人はずいぶん汗だくになっていた。息が落ち着いたころ、膝を縛っていた帯が外された。赤くなってしまったそれと、シーツにべっとりとついた精液に思わず顔を赤らめる。一人分にしては多いそれは一松のものとカラ松のものが合わさった量だ。まだ息が整わなくて、もう一度布団に横になればいつの間にか席を外していた一松が手ぬぐいを持って戻ってきた。カラ松は顔を伏せたまま、恐る恐るこれは、どうして、自分と行為をしたのかと問う。一松の口からまだ決定的な言葉が効けていないのが怖かった。だって自分は男で、一松だってそうだ。一晩の過ちならまだ忘れられるかもしれないとそう思った。一松の手が着物を手繰り寄せていたカラ松の手の上からそっと重なった。今、俺がお前に言葉を向けるのは、恥ずかしいけれど難しい事ではない。けど、その前にお前はまずお前の心の中にわだかまってるものを片付けたほうがいい。そう言われて思わず視線を逸らす。確かに、このまま実家に戻らず一松の元にいるのは心地がいい。けれどどこまで行っても家族は家族だ。全部を片付けてからでないと胸を張って隣に居られない気がした。}

    カラ松は家族に見限られていると思っている。けれど実のところ、家族はカラ松を心配していた。勉強をするトド松を連れ出したことだってどうしてそんなことをしたのか、という問いかけにカラ松は答えなかった。ただ自分が遊びたかったからだと主張して、それならば両親は叱ることしかできなかった。カラ松に家を継ぐ気がないのは両親もとうの昔に気づいていて、けれどカラ松自身頭のいい子ではあるから何か興味が生かせる分野で仕事が出来たらいいと思っていた。勿論、お互いに話をしないまま過ごした時間が長くてどうやって話をしたらいいのか、すっかりわからなくなってしまっていたのだった。
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    HakurenTask

    MEMOこれまだプロットです。
    プロットです。(大事なことなのでry)
    大正ロマン一カラのつもりがだんだん大正ロマンの恰好した小営になってきた件一カラ
    時代設定 大正(なんちゃってでいいです)
    一松  文豪(たび松大正ロマン)
    カラ松 バンカラ(たび松大正ロマン)

    カフェー表記はワザとです。よしなに

    一松(32)
    トト子の働くカフェーの奥にあるボックス席を陣取っていつも作業をしている。執筆作業よりは校正作業やネタを考えたりなど。カフェーにわざわざ来ているのは人間観察も兼ねている。
    現在執筆中の作品は2匹の猫が探偵業を営んでいる話。その世界では人も猫も犬も等しく二足歩行し、口をきき、頭を使う。気まぐれで皮肉屋なサバ虎にいつも振り回される黒猫の話は雑誌で連載していていくつか単行本も出ている。本人は否定するが売れっ子作家である。
    服装は和服に帽子やキセルなどを合わせた和洋折衷スタイルで自宅はカフェーからほど近い場所にある。家の前に大きな栗の木があって秋の時期は庭にまで転げ落ちてきた実をよく拾う。猫が好き勝手に出入りしているが定住しているわけではない。オレンジの毛皮の先生、と呼ばれる猫だけは一松の家をねぐらと決めているようだがここには入るなと言われている場所には入らない賢い猫である。(エスパーニャンコ)
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