大人にしあず(6)『旭、大好き』
久しぶりに逢った「彼女」は、満面の笑みだった。
『貴方と出会えたことそのものが奇跡だわ』
白い指が、細い腕が、首筋に滑る。
息づかいが近い。
『嬉しい、本当に嬉しい』
『もう絶対離れない』
『ずっとずっと一緒にいて』
耳元で、深紅のティントが情熱的な言葉たちを次々紡ぐ。
夢だ。すぐにわかった。
一番"幸せ"で、一番"うまくいっていた"時期をそのまま反映した、あのころの記憶。
あのとき、なんて言ったっけ。
そうだ。俺もだよ、と言った。
君を一生大事にするよ、とも。
けれど。
『旭』
唇がこわばる。
『旭ったら』
身体の芯が、冷えていく。
変だ、彼女の声色は、もっと高かった。
『どうしたの』
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