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    takamura_lmw

    @takamura_lmw
    本アカのマストドン避難所(fedi): @takamura_lmw@fedibird.com
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    takamura_lmw

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    モブ視点サマイチのホラー。数年前に書きかけて放置していたもの。もう続きは書かないと思うので供養。

    サマイチ/ホラー/ボツ0.
     夜の森に、黒々と穴が開いている。
     縦に2メートル、横に1.5メートル。これが最適のサイズだと、俺には分かっている。
     甘く腐った土の匂い。
     鼻につく青い緑の匂い。
     額の汗をぬぐって、俺は一人掘った大穴の淵に片膝をつく。
     穴の底には、青年が一人、ぐったりと身を横たえている。
     しっかりと発達した肉体に夜闇のような黒髪。宝石のようなその目は、今は見えない。
     涙に濡れた泣きぼくろに手を伸ばしかけ、それが叶わないことを思い出した。
     立ち上がって顔を上げると、木々の向こうから彼がやってきた。
    「アニキ」
    「済んだか」
     彼——碧棺左馬刻は手を振って後をついて来ていた舎弟達を下がらせ、穴の中をゆっくりと覗き込んだ。
     沈黙。
    「…準備は?」
    「済んでます。全部。あとは埋めるだけです。…いいんすか、本当に」
     こわごわ尋ねると、アニキはじっと穴の底を、横たわる青年を見つめ、それから薄い唇を引き結んで頷いた。
    「やれ」
     俺はそれでも一瞬ためらい、彼の強い目が俺をぎろりと睨んで初めてシャベルを手に取った。
     穴の底の青年は動かない。
     俺はためらいながら掘り出した土の山にシャベルを差し入れ、穴の底の青年——山田一郎の埋葬を始めた。  



    1.
     アニキが山田一郎と復縁した。
     いや復縁はしていない。和解。和解だ。アニキは山田一郎と和解した。
     アニキと山田一郎の確執は根深く、そりゃもう深く、この世の終わりまで仲直りすることなんてないんじゃないかと思っていたのだが、誤解が解けた途端一瞬で和解していた。まあそりゃそうだろう。あの山田一郎に、とろけたような赤と緑の目をうっすら潤ませて掠れた声で「左馬刻…」なんて名前を呼ばれたら、アニキが落ちないはずがない。そもそも可愛さ余って憎さ百倍みたいな訣別の仕方をした二人だ。二人の間にあった決定的な亀裂が作られたものだったと分かったからには、不仲でいる理由などどこにもなかった。それにしたってはえーなオイとは思ったが。
     俺がアニキの——碧棺左馬刻の下についてからもう何年になるだろう。そもそもはイケブクロ時代から彼の部下のような後輩のような、要するに子分をやっていたところを、アニキが組に入る際にまとめて拾ってもらったうちの一人が俺だ。十把一絡げ、オマケのうまい棒がこの俺。
     であるので、アニキと山田一郎の蜜月(というと組の先輩連中は大抵茶を吹き出すが、他に適切な言葉を俺は知らない)時代から身を裂くような訣別と、その後の血みどろの対立時代をすぐ傍で見てきた俺にとっては、二人の和解はそりゃもう一大イベントだった。ベイスターズが優勝するより嬉しい。なんたってTDD時代の二人は天にあっては比翼の鳥、地にあっては連理の枝といった様子で、お互いがお互いのことを一等大切に思っているのがこちらにまでダダ漏れていたのだ。山田一郎は子猫よりアニキに懐いていたし、アニキは親猫より山田一郎を可愛がっていた。
     だがその甘ったるくも微笑ましい、そしてまたひりつくような切迫感にも満ちた関係は、ほとんど一晩のうちに崩壊した。その後のアニキは、とても見ていられなかった。人には怒りという形でしか見せなかったものの、彼がひどく深く傷ついているのは、周りにいた俺たちにはよく分かった。
     一度、文句を言ってやるつもりでイケブクロを訪れたことがある。春の終わり、風の柔らかい深夜一時だった。懐に虎の子の拳銃を呑んで、いやあの少年相手に銃なぞ何の役にも立たないことは分かっていたが、とにかく刺し違えることはできないまでも、どこぞに穴の一つも開けてやらねば気が済まなかった。今考えると大分イカれている。きっとアニキの絶望や怒りに引っ張られて、俺の頭もおかしくなっていたのだろう。俺はあまり自己というものがはっきりしないので、そういうことがしばしばあった。
     何度か送り迎えをしたことがあったから、山田一郎の住処はよく知っていた。この時間ならあの子供はもうベッドの中だろう。忍び込むにしろ、正面からぶっこむにしろ、奇襲の算段だった。
     だが結果として、俺の目論見はまるっと全部外れたのだった。
     山田一郎はいた。
     彼の家の、ベランダの隅に。
     もの慣れない手つきでタバコをつまみ、赤く灯ったそれを唇にくわえて、大きく息を吸い込んで、それから盛大に噎せていた。げほ、ごほ、と何度か咳き込んで、その自分の失態がおかしくてたまらないように笑い出し、そしてすぐに、その引きつったような笑い声は、絞り出すような嗚咽に変わった。
     嗅ぎ慣れたセブンスターの匂いが物陰に立ちすくんだ俺のところにまで届いて、俺はその匂いを吸い込みながら、ベランダでたったひとり、小さく丸まって、この世の終わりみたいに泣く子供の声を聞いていた。
     俺は拳銃をバックパックの奥底にしまい、とぼとぼとヨコハマへ引き返し、職質を食らってお巡りの前で号泣した。さっきも言ったように、俺は影響されやすいのだ。大事だったはずなのにもう会えない、後悔していないはずけど、やっぱり寂しい、というようなことをぼろぼろ泣きながら言い募るいい年の男に、ど深夜だというのにスーツ姿のそのポリ公は黙ってハンカチを貸してくれた。おかげで持ち物検査を免れたし、後の45Rabbitに失恋号泣ヤクザとして顔を覚えられるというなかなかの偉業を達成したので、まあいいことにしている。別に自分が失恋したわけではなかったのだとは、今でも言えないままだが。
     とにもかくにも、アニキと一郎くん——復縁したので、いやだから復縁じゃないのだが、とにかく「アニキの仇敵のクソダボこと山田一郎」から「アニキのかわいい一郎くん」に戻ったので、俺たちも自動的に一郎くんと昔のように呼べることになった——の和解に伴い、俺たち碧棺左馬刻直下の舎弟どもは、必然的に一郎くんとの接触が増えることになった。
     アニキだって昔のように暇ではない。若頭としての案外忙しない仕事に加え、MTCのMr. Hardcoreとしてのあれこれだってある。だがそれをものともせずに、アニキは一郎くんと会う時間を素晴らしい手際でひねり出し続けた。
     会合と会合の間の一時間。シマの揉め事を捌いた後の二時間半。しち面倒臭いお歴々との酒席がはけた早朝の三十分。そういう本当にささいな、細切れの時間をうまく繋いで、アニキはイケブクロに顔を出した。一郎くんが萬屋の仕事であちこち駆け回っているのを車中から眺めることもあれば、近くまで来たから寄っただけだという顔をして会いに行くこともある。俺たちはその運転手を務めたり、一郎くんを呼び出す係を仰せつかったりする。完全に私用なのだが、まあ筋者なんてそんなものだ。情婦との逢瀬に若いのを使うなんてのはざらにある話で、アニキの場合は仲の(めちゃくちゃ)いい後輩に会いに行くのに俺たちを使っている。ダブル不倫の下克上みたいなのに比べたら、微笑ましいったらない。
     そんなわけで、俺は数年ぶりに一郎くんと頻繁に顔合わせることになり、彼の方もかつて度々運転手を務めていた俺のことを覚えていてくれたようで、久々の再会に一郎くんはあのきらめくような——なにせ彼は古今稀に見る美青年なので——笑顔を一舎弟である俺に向けてくれた。アニキにはちょっと睨まれたが、まあ一郎くんに関することについて心が狭すぎるのはいつものことなので、気にしていない。俺はここのところ、非常に心穏やかに過ごしていたのだった。
     そう、今日までは。



    「アニキ、いつもの辺りでいいすか」
    「おう」
     静かにアクセルを踏み込む。高いだけあって、この手の車種は加速がスムーズだ。防音、要するに防ヒプノシスマイク仕様の高級外車は、長い会合がようやくお開きになった本部を後に、一路イケブクロに向かって走り出した。
     後部座席のアニキがネクタイをむしり取り、ジャケットのボタンを外して大きな溜息を吐く。今日の会合は長かった、し、酷かった。今時のヤクザに武闘派は流行らない。もちろんベースとしての武力というか暴力の強度は大前提だが、それ以上にモノを言うのは金だ。ヤクが御法度のヨコハマにおいて、いかにヤクに手を出さず金を生み出すかは組織内の勢力図に直接影響する大命題なのだ。 
     そして俺たちのアニキ、碧棺左馬刻はもちろん、それが抜群に上手い。
     ヨコハマいち、もしかしたら関東いちの武闘派でもあるために見落とされがちだが、アニキの本質はどちらかといえばいわゆるインテリヤクザの方にある。頭を使って人を動かし、罠を張り、間の抜けた連中をコントロールして金に変える。フロント企業を使った土地転がしも金転がしもガンガンやるし、最近は戦後処理の一環に絡んで産廃業で大ネタをあげた。
     アニキがこの若さで火貂組の若頭を張っているのは、喧嘩とラップバトルの実力だけが理由ではないということだ。
     だがそれが分からない年寄りが、組の中にはまだまだ多い。ぽっと出の若造がお歌の上手で出世したと、いまだにそんなことを放言してはばからないジジイどもまでいる。そういう連中は大して金も稼いでこないしシマだって小さいのだが、年期と人脈だけはあって、厄介なことこの上ない。今日の会合はそんなジジイどもの蠢く面倒極まりない会席だったのだ。
     繰り返される嫌味に嫉み、慇懃無礼に当てつけ、小言。全部しらっとした顔で流し、必要なことだけ喋って鉄壁の無表情で通したアニキだったが、さすがに疲れたらしい。車に乗り込むなり一言「ブクロ」と告げて、シートに身を沈めた。
     イケブクロまでは高速を使って小一時間。山田三兄弟が営む萬屋近くの路地に車を駐めて、一郎くんの顔を見るまででちょうど一時間といったところだろうか。後部座席の車載冷蔵庫にウィルキンソンが冷えていることを控えめに告げて、俺は一路イケブクロを目指した。

      
    「停めろ」
     鋭い声に、反射的にハザードをつけて路肩に寄せた。萬屋のすぐ近くの小道だ。ほとんど人通りがなくて助かった。ルームミラーでちらっとアニキを見ると、彼はもう財布を内ポケットにねじ込んでドアを開けるところだった。
     その視線の先を追って納得する。道の先、雑居ビルの外階段に、一郎くんがいた。こちらに背を向けて、おそらくドアの蝶番を修理している。工具箱が無造作に広げられているのが見えた。
     アニキは後ろ手にドアを閉めて、何気無いそぶりで、しかし足早に雑居ビルの前に向かう。そのそわそわした後ろ姿がちょっと微笑ましくて、俺は見られていないのをいいことに軽く吹き出した。子供みたいだ。だがおそらく一郎くんはアニキの初恋なので——これはイケブクロ時代からの舎弟全員の意見の一致するところだ、バレたら塵にされるので言わないが——、初心な少年のように振る舞ってしまうのも宜なるかな。それに一郎くんも、和解してからはアニキを見ると昔のようにぱっと顔を輝かせ、それからちょっと口を尖らせて「左馬刻」と何でもないように小さく唇を吊り上げるのだから、お似合いの二人である。
     一郎くんはアニキに対して昔のように手放しで懐くことはもうない。彼は既に大人だし、訣別の間にどこか危うい少年から、地に足をつけた立派な男に羽化をした。だが今度は一人の対等な人間として、アニキの隣に立っている。昔みたいにべったりくっついた二人が見られないのは少々寂しいが、これもまたいいものだ。というか、お互い和解はしたものの、いまいち歩み寄れていない感じ、手探りのぎこちないその感じが、なんとも言えずこう、イイ。組の姉さんたちの間で二人を応援する会なんてのができているというが、よく分かる。
     役得だなあなんて考えながら、階段の上を見上げたアニキが一郎くんに声をかけるのを眺めていた。
     後ろ姿の一郎くんがふと顔を上げて、きょろきょろと辺りを見回す。
     アニキがもう一度声をかけた様子で、一郎くんはその声に反応してぱっと振り返った。
     その顔を見て、俺は思わず体を跳ねさせた。


     一郎くんの顔が、真っ黒に塗りつぶされていた。


    2.
     ——俺には「特技」がある。
     もうずっと昔から付き合っている「特技」だ。他の誰にも真似のできない、俺だけの「特技」。愚連隊時代ならともかく、組の中でアニキほどの実力もない若造の俺がひょいひょい出世できたのは、アニキの古馴染み枠で一緒に引き上げられたからだけではなく、この「特技」のおかげでもあった。
     最初に気づいたのは、俺が中学二年の冬——俺が初めて人を殺した日だった。(未完) 
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    takamura_lmw

    DONE🎉ししさんお誕生日おめでとうございます🎉
    ししさんお誕生日のさめしし、もしくはししさめです。
    一月に書いたさめせんお誕生日SSの続きです。

    あなたのこれからの人生が、あなたにとって素晴らしいものでありますように。
    できれば長生きしてください…頼む…ギャンブルなんかやめろ…ワンへなんか行くな…
    「誕生日、おめでとう」『村雨、八月二十七日って空いてたりするか』
     恋人の声を聞いた途端、村雨礼二はいざという時の切り札に確保していた上司の弱みを、ここで行使することを決めた。空いた片手で猛然と上司にビジネスチャットを打ちながら、頭の中では担当の患者とそのタスクについて素早くチェックをかける。どうしても村雨でなければならない仕事はないはずだ。あのネタをちらつかせれば上司は確実に休みを寄越すだろう。
    「休みは取れる。どうした」
    『即答だな』
    「偶然ここのところ手が空いていてな」
     嘘だった。所属する医局もいわゆる「バイト」先も相応に多忙だ。だがそれを彼に悟らせるつもりはさらさらなかった。
     村雨がここまで即座に恋人の―――獅子神敬一の、願いとも言えないような言葉に応えたのは、彼の声になにか特別なものを感じたからだった。不安でも、歓喜でもない。怒りでもなく、愉楽でもない。ただどこか尋常でなく、特別なもの。絶対に逃してはならないなにか。ほとんど第六感のようなものだが、村雨はそういった感覚を重視する性質(たち)だった。
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    takamura_lmw

    DONE桜流しのさめしし、もしくはししさめ。ハッピーエンドです。ほんとなんです。メリバでもないキラッキラのハピエンなんです。信じてください。

    これがずっと出力できなくてここ一ヶ月他のものをなんも書けてませんでした。桜が散る前に完成して良かったと思うことにします。次はお原稿と、にょたゆりでなれそめを書きたいです。
    桜流し 獅子神敬一が死んだ。
     四月の二日、桜が散り出す頃のことだった。



     村雨にその死を伝えたのは真経津だった。
    「——は?」
    「死んじゃったんだって。試合には勝ったのに。獅子神さんらしいよね」
     真経津は薄く微笑んで言った。「獅子神さん、死んじゃった」と告げたその時も、彼は同じ顔をしていた。
    「……いつだ」
    「今日。ボク、さっきまで銀行にいたんだ。ゲームじゃなかったんだけど、手続きで。そしたら宇佐美さんが来て教えてくれた。仲が良かったからって」
     村雨はどこかぼんやりと真経津の言葉を聞いていた。
    「あれは、……獅子神は家族がいないだろう。遺体はどうするんだ」
    「雑用係の人たちが連れて帰るって聞いたよ」
    「そうか」
    「銀行に預けてる遺言書、あるでしょ。時々更新させられる、お葬式とか相続の話とか書いたやつ。獅子神さん、あれに自分が死んだ後は雑用係の人たちにお葬式とか後片付けとか任せるって書いてたみたい。まあ銀行も、事情が分かってる人がお葬式してくれた方が安心だもんね」
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