ライズの過去_________
陽だまりの中俺はとある家族の元に産まれました。その家は決して裕福とは言えませんでしたが仲の良い暖かな家族で、俺の家は中央の大地でも北寄りの小さな村にありました。
俺の名前はライズ・アイリス。アイリス家の1番末っ子。
上には姉が1人、それに父様と母様。姉はとても強くてかっこよくて優しくて…とても素敵な人でした。自ら文字を覚え、剣術などにも積極的に取り組んでいました。「いつ何が起こるか分からないからね!」それが姉の口癖でした。
父様や母様も優しくて毎日楽しく…暮らしていました。
しかし、俺達は村の中では弱い立場で俺はよく長の息子にいじめられていました。理由なんか無い。ただの遊び。暇つぶし。あいつはそういう奴。腹を割るしかない。そうしてたまに、あいつの言われるがまま言うことを聞いて、ミスれば殴られていました。そんなある日『薪を10束持ってこい』と命令されました。当然8歳の俺には10束も山から村まで薪を持っていくなど不可能に近い事でした。
「…いつまでに持ってくればいいの」
「は?今日中に決まってんだろ!!これだから学のない貧乏人はよぉ!」
……そんな事を言われてもと思いながらも俺は1人薪を取りに行きました。…無理でした。暗くなっても10束を運ぶことは出来ませんでした。そして…
「おい、10束。運べなかったなぁ間抜け!そんなお前にはお仕置が必要だよなぁ!」
「え、やだ、やめて…」
じゅ…と何かを首に押し付けられました。
「い、いたいっ!」
炭でした。熱々の。赤く光を放つ。炭。
長の息子はお仕置と言って暖炉から持ってきたであろう炭を俺の首に押し当てました。
そして。そのまま髪を掴まれ、近くにある池にほおり投げられました。喉に染みる……痛い暗い寒い。やだ、死にたくない…
そして俺は意識を失いました。
目が覚めた時俺は家のベットの上にいました。
いくらなんでも帰りが遅いからと姉と父様が探していたらしく、池の方から音が聞こえたから行ってみたら、俺が沈んで、意識も失いかけてたそうです。
喉には酷い火傷、そして真水に入って凍えた身体。病院なんて無いこの村ではどうすることも出来ない。なんとかして火傷の手当をし、体を温めてもらい、死なずに済みました。
そして少しずつ怪我も治り、声も出せるようになりました。しかし何故か家はさらに貧しくなり、父様も母様も元気が無くなっていきました。姉は今まで通り元気な姉でした。
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そんなある日更なる悲劇が訪れました。
俺が9歳の時です。いつものように姉と少し離れたところにある林檎の木の元へ行っていました。そこではいつも姉の指導の元、剣術の練習をしたり、遊んだり勉強したりと……学業を学びに行けない我が家にとって唯一僕が学べる時間でした。
そしていつも通り勉強をしていたら家の方から悲鳴が聞こえました。
姉は何かを察し俺を連れて家とは反対方向へ走りました。姉は見たことの無い、怯えたような耐えているような顔をしていました。
家の方を振り返ると何やら煙が上がっていました。
「っ…いい、ライズ、これからは私とあんた、2人だけで生きていかないといけないの。」
「え、でも…母様と父様は……!」
「……」
姉はそれ以上何も言いませんでした。
それから数ヶ月が経ち、俺は10歳になりました。俺と姉は様々な所を転々とし何とか生きながらえてきました。そんなある日の事
「そろそろかな」
そういった姉に連れられた場所は。
俺達の家"だったもの"でした。
「ライズ、私たちの父様と母様はね、長に、その息子が、あんたをいじめるのは辞めてくれと…大切な息子だからって…お金を渡して………頼んでたの。」
俺は耳を疑いました。確かに。何故かいじめはパタリと止み、その代わりに家はどんどん貧しくなっていました。ただそれは、俺に興味が無くなったんだと、そう思っていました。
俺は何も言えませんでした。ただはくはくと口を動かすことしか…できませんでした。
「…父様も母様も…お金払えなくなってきて………っ」
「私はね、いつ何があるか分からない…だからこの金と剣、勉学用の紙とペンを持ってりんごの木の下で過ごしてくれと。そう言われてたの。ライズには言わないでって……きにしちゃ、うから…」
姉は泣いていました。まさか俺なんかの為に自分と家を犠牲にしていたなんて。俺の…為に。
そして姉は瓦礫の方を指さして
「あそこの下に宝石が入ってるの。取られてなければ…入ってるから。」
そう言われて指のさされた方へ行き瓦礫や炭をどかして鉄製の小さな床扉を見つけ、開きました。
そこにはさらに小さな箱と手紙が入っていました。
『私たちの可愛い子供たち。
君たちには本当に辛い思いをさせたね。
すまなかった。
そして、これはうちの財産だ。昔から代々受け継がれてきた物だ。何かあった時は使う事。わかったね。 父と母より。』
箱の中には深い青色の石……これが……最期に残した俺達への財産……
……ごめんなさい。ごめんなさいごめんなさい。
俺のせいで、姉も母様も父様も……みんなを苦しめた……俺が弱いから……目をつけられてたから……ごめんなさい。
そんな感情が渦巻き泣きながら姉に謝っていた。
「ごめんなさい……ごめんなさいごめんなさい姉さん……父様……母様……うぅ」
姉も泣いていた。だけど優しく強く抱き締めてくれた。大丈夫……大丈夫だからと言って背中をさすってくれた。真実を知った俺はただひたすらに、のうのうと生きていたこと間抜けで弱い自分、それに対する悔しさや怒りで泣く事しか出来なかった。だが姉は
「あんたは弱くなんかないでしょ。私が稽古つけたじゃない。それにどんなに虐められても私たちに助けを求めなかった…気づくのが遅くなってごめんね。」
そう言ってくれた。そして姉と気が済むまで泣いた。
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それから5年が経って俺は15歳になりました。
なんでも屋として姉と共に仕事をしていました。なんでも屋なので、店番や子供の世話、盗みや体を売る事なども行いました。
ある日山の中へ薪を取りに行く仕事を課せられました。そして、その日俺は初めて【天使】を見ました。白く美しく、そして……無表情の……天使を。俺は固まってしまいました。何故か足が動かなかったんです。姉も同様。
彼らは『死になさい、命のために。』と言い白い光を放ちました。すると姉が動けない俺を吹き飛ばしました。
「走れ!ライズ!早く!!」
姉は姿を消しました。一瞬の出来事でした。
天使が光を放ちそれを受けた姉は跡形も残らず姿を消しました。天使については噂程度にしか聞いておらず本当に人を消すなんて思いもしませんでした。
それから俺は全速力で走り森を抜け街に戻りました。幸い天使に消されることなく帰還できましが、最愛の姉を亡くしました。今まで2人でずっと支え合い、唯一の心の拠り所である姉を。
それから俺は雇い主の所へ行きました。
天使が出て姉が消され、薪も、持って帰ることが出来なかった。そう伝えました。
すると雇い主は
「だから?貴様は仕事をほおり出して帰ってきたというのか。天使に消された…ほぅ。だからなんだ。仕事は仕事。……首に傷のあるような気味の悪い貴様に仕事を与えてやったのだ。それも、たかが薪を取ってくるだけのな!」
と笑いながら言いました。
「……うるさい。」
気がつけば俺は短剣を手にしていました。大人は……どうしてこうも自分勝手でなんだ。姉が消された事もどうでもいいと……なんで、そんなことが言えるのか。
怒りが込み上げてきた。腹の底からの怒り。
これまで培ってきた怒りが爆発した。
そして手に持っていた剣を振りかざしました。
しかし非力な俺はサッと捕まれ剣を取られ火傷跡を切りつけられました。
「気色悪い奴だ。さっさと失せろ!貴様にもう用はないわ!」
火傷跡を斬られてしまった。どくどくど血が流れ頭がフラフラする。外に出された俺はポケットに入っていたハンカチで傷口を抑えたが、さすがに止血できるわけが無い。そしてフラフラとした足取りで路地裏へと倒れ込んだ。
もう意識が途切れどきれで何も考えられない。
あぁ、俺はここで死ぬのか…でも姉の元に、父様と母様の元に行けるなら…それでいいか。そう思いました。
そして俺は意識を失った。
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明るくて目が覚めた。
(ここは…俺は死んだはず)
すると誰かが声をかけてきた。
「あぁ、目が覚めたのか。良かった。お前さんは2日間も目覚めなかったんだ。あぁ声は出すなよ傷口が開く」
なんだ、助かったのか。あのまま死んだ方が良かったのに。そう思いつつも周りを見渡してここが何処なのか理解した。病院だった。
「お前さん、あんな路地で首から血を流して…なにがあったんだ全く…またまた儂が見つけたからいいものを……」
と、老人は言いました。
たまたま通りかかったところ俺が倒れていたから手当をしここまで連れて来たと言っていました。
「軽かったからなぁ、儂でも運べたわい。はっはっはっ…それで、お前さんは文字書けるか?」
俺はコクンと首を縦にふった。
そして紙に名前と経緯を簡単に書いて説明した。
「そうか、色々…大変だったんだな。あぁそうだ、儂の名を言ってなかった。ハイルだ。好きに呼んでくれ。」
老人はハイルという名前で俺はハイル先生と呼ぶ事にした。ハイル先生の病院は個人経営の小さな病院で今まで彼と2人の看護師で経営してきたが、3人で経営していくのも少し大変だったそうだ。そこで、帰る場所も無い俺はハイル先生のご好意で補佐として置いてくれることになった。
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声を出せない期間は薬の作り方や怪我の治療の仕方などを教わり勉強した。
それから俺は傷も治り声も出せるようになった。まさか2度も首の怪我で声を出せなくなるなんて思ってもなかった。
……
「ライズ、受け付けやってみないか?」
そう言われたのは拾われてから8ヶ月くらい経ったある暑い日。お前さんは顔立ちも綺麗で声も穏やかだから受け付けの仕事もできるんじゃないか?そう言われました。
綺麗……俺が……
でも首には痛々しい傷があるから表立った仕事をしたら周りの人を不快にさせてしまうと思いましたが、身を置かせてもらってる俺としては
なにか役に立ちたい、だから仕事を引き受けました。
そして太めのチョーカーを付け、一人称も俺から僕に変え印象が良くなるように努力しました。
そこからは受け付けの仕事や補佐の仕事をしつつハイル先生と看護師のふたりと4人で楽しく過ごしていました。僕もみんなの事を家族のように思っていました。当然父様や母様…姉さんの事を忘れた日はありません。命日には必ず亡くなった場所に花を添えに行ってました。
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そして7年という月日が流れました。
僕は23歳になり、その日は僕の誕生日でした。病院を早めに閉めて僕の誕生日をお祝いするためみんなと一緒に外に出ていました。ケーキを選んだりプレゼントを貰ったりと楽しい時間を過し、このままずっと幸せな時間が続けばいい。…そう思っていました。
僕は。また。天使に出会いました。
ただ、楽しい時間を過ごしてただけなのに。
いや、やっぱり僕は……俺は幸せになってはいけなかったんだ。だから、天使が迎えに来たんだと。
ライズ!
そう呼ばれた気がした。
あの時と同じ。
また。
『死になさい、命のために』
そう言うと天使は白く美しく眩しい光を放ちました。
足が動かない。でも。みんなを。助けなければ。
そして一生懸命体を動かして先生達を吹き飛ばそうとしましたが……間に合いませんでした。
本当にあと数秒早く足が動けば助かってたかもしれないのに。また、俺は…あの時のように大切な人を守れなかった。どうしようもない感情が押し寄せてきて腰に提げてた短剣で天使に襲い掛かりました。当然片羽に刺すのもやっとなほどで倒すことなど出来ませんでした。
またあの光が輝き始め、今度こそ本当に死ぬと、そう覚悟しました。
……でも死ななかった。
『しに、し、しになさ、いのちの……』
(天使が……消えた?)
助かってしまった。俺は3度も大切な人を守れなかった、犠牲にした、罪を重ねた男なのに。
そんな気持ちでいっぱいいっぱいだった俺にその人は話しかけてきた。
「大丈夫ですか?酷い怪我です…早く手当しなければ…」
そう話しかけてきた人は白いまつ毛に綺麗なピンクの瞳…とても綺麗な人だ。
「もう天使はいません。頑張りましたね、よく生き残って下さいましたね。」
そう言われて何故か涙が溢れてきました。
こんな俺にこんな言葉をかけ、助けてくれる人がまだ居たのかと。
「すみませんまだ名乗っておりませんでした。私の名前はベリアン・クライアンと申します。差し支えなければ、あなたのお名前をお聞きしてもよろしいですか?」
「…ライズ…アイリス…です…」
そう言うとベリアンさんは俺をより安全な場所に運んでくれた。そしてあとから赤と黒の髪を持つ男が駆けつけてきた。
名をルカス・トンプシーといった。
そして俺の手当をして事情を聞いてくれました。その間俺は情けなく泣いていたと思います。
そして今までの事を話した俺は2人にお礼を言ってその場を去ろうとしました。
しかし、
「少し、お待ちください。」
呼び止められた。さすがに助けてもらい話も聞いてもらったのにお礼もしないのは失礼だったと思い、
あ、すみませんお礼を……
と言いかけたのをさえぎって
「悪魔執事に……なりませんか?」
そう言われた。