高級幹部たちの走り出せ!デートRTA スターピースカンパニーは忙しい。周知の事実である。窓際族とかなんとか言われている伝統事業部を除けば──どこの部署だって日々てんてこ舞いの大騒ぎ、白目に目薬代わりのエナドリをさす始末。
そしてそれは、高級幹部だろうと、付き合ったばかりのカップルだろうと、高級幹部かつカップルだろうと同じこと。
「に、二時間!?!?!?デートに行くのに!?!?」
高級幹部かつカップルのトパーズとアベンチュリン、久々に揃った休暇はまさかの約二時間だけであった!
「いやいやいや、ちょっと待って。計算間違えたかもしれないし」
「君が間違えることなんてある?」
「私、四徹目だから」
トパーズは愕然とした。
大規模プロジェクトによるウン十連勤を乗り越え、必死にパズルゲームの如くスケジュールを調整したのは全て恋人とのデートのため。しかしなんとか残せた空白期間はたった二時間である。学生の放課後デートでももうちょっと時間があるだろう。んな訳ない、とキーボードを叩くが画面の数値は変わらなかった。
「どうしようかな……」
アベンチュリンも内心焦っていた。
彼が激務の間に叩き出した最高のデートプランは、ある小惑星で開かれる小動物ふれあいイベント──それも、今回の休暇を逃せば終了してしまう。アベンチュリンだって恋人との貴重なデートともなれば、得意のサイコロも打ち捨ててデータを堅実に調べ重ね統合して計画してきている。充実したデートは金でも運でも買えないのだ。この努力が、連勤なんかに妨害されてたまるか。
「ハァー………」
スケジュールアプリを乱雑に落とし、トパーズはソファーになだれ込む。二時間。二時間である。現地で三十分しか使わないとしても、片道四十五分。いや、不測の事態等を予測して余裕をもつなら片道三十分だろうか。ちょっと遠めのショッピングセンターに遊びに行くレベルだ。
諦めの二文字が浮かびかけて、死んだ目で二人はエナドリを飲む。砂糖の味が嫌に喉に張り付いた。
「一か八かで賭けてみてもいいんじゃないかな」
「All or Nothingってわけ?」
「はは」
もうなんか全てが面倒くさいし仕事は後が忙しくならない程度にずれ込んでほしいけど、そうもいかない。だって責任者だもの。
けれど。けれども。デートには行きたい。脳裏に浮かぶはここ数カ月の苦労。ただただ甘く楽しい時間の為に飛び込んだ仕事の海。この疲れを発散するには?デートしかない!
「やってみせようじゃない。私、計算が得意だから」
「知ってるさ、君の頼れるところはね。ああ、僕がいる限りアクシデントは起こらないだろうから安心して」
「勿論。元よりそのつもりで計算するつもり」
机上に叩きつけたのは数多の地図、時刻表、宇宙路線図。トパーズはタブレットとタッチペンを取り出し、アベンチュリンはすかさずスマホとパソコンで情報を漁る。
かくして、若年にして超優秀な二人の、二時間にかける仁義なき戦いが始まったのだった。