中学生のまおりつ「朔間先輩と付き合えることになった!」
「え!?ほんと!?」
廊下でクラスの女子が数名はしゃいでいるのが聞こえた。
朔間…?それってどっちのことだ?
正直、最近の凛月は朔間先輩のことを全く話さないし俺から聞く必要もない…というか聞くな感?全くいない感じで接してくるから、朔間先輩のことは分からない。
そもそも凛月の家に行っても会うこともないのだ。
だとしたら…いやいや、凛月に限って…
「あまりにしつこかったから…」
「え、お前かよ」
帰りに一つ上の学年の教室を覗いてもいないし、探し回って発見後におぶったまま帰宅していると爆弾投下。
まさかと思って聞いてみたら、そのまさかだった。
血の気が引くような、頭に血が上るような変な感じで手が滑りそうになってしまい「よいしょ」と、しっかり抱え直す。
しかし、りっちゃん…いや、凛月が誰かと付き合うなんて想像もしてなかった。
「名前も知らないし…他を当たってって言っても聞かなくてさぁ。お試し?とりあえず1週間様子見で俺が興味持たなかったら諦めてって言って終わらせた」
「…ふぅん…」
「ま~くん?あ、嫉妬してる?俺が取られて寂しいんだぁ~」
「違うっつの。それなら一緒に帰ったりしなくて良かったのか?」
「何でアイツと帰らなきゃいけないの?」
「…はは」
しつこくて、断るのすら面倒になった苦肉の策っぽいが、この感じなら1週間何もないんじゃないだろうか。
よく分からないザワザワとした気持ちは何なのか、あまり考えたくない気がして、少しだけ早足で帰った。
1週間何もないと思いこんでいたのに、次の日例の女子がお弁当を作ってきたと言ってるのを聞いて少しゾッとした。
他の日も探しに行ってくるとか…積極的すぎないか?
でも、りっちゃんはしつこいのとか嫌いだし…
「衣更?おーい、衣更ってば」
「あぁ、悪い…何だっけ?」
クラスメイトの話も右から左。
こんなモヤモヤするのは誰に対するなんの感情だよ。
先に誰かと付き合う経験をした凛月への嫉妬…なのか?
「りっちゃん帰るぞ~」
「あ~…ま~くん…ごめん、今日無理っぽい…」
「は?」
「例の子がしつこいから1回だけ一緒に帰る。俺としてはま~くんにおんぶして部屋まで送り届けて欲しいんだけど…面倒くさ…」
「そ、そっか…じゃあまた明日な」
放課後に俺がフラれることあるのか。
明日の朝は…?
帰るって、本当に一緒に帰るだけだよな?彼女の家に行ったり逆に凛月の家に行くとかないよな?
駄目だ、なんかすげぇモヤモヤする。
考えなくて済むように、さっさと帰って、途中の漫画を読もう。
夜になって、窓越しの凛月の部屋がやっと明かりがついたのが、分厚いカーテンの僅かな隙間から俺の部屋に届いた。
…この時間までってことはやっぱ女子の家にでも行ってたのか?
イラっとする俺を知らない様子の凛月は分厚いカーテンと窓を開けて、俺を慣れた渾名で呼ぶ。
「遅かったな」
「見張ってたの?ま~くんのえっち」
「……そういうんじゃ…」
「そっち行く」
「おい」
家を増築してから随分近くなった俺達を部屋を、凛月は窓越しに行き来するのはいつものことだが…
何となく今は嫌だった。
「ま~くん機嫌悪い?」
「別に」
「…妹ちゃんと喧嘩した?」
「してない」
「俺、なんかした?」
ただの八つ当たりだ、分かってる。
普段ならご機嫌斜めな凛月に俺が言う言葉だ。
でも、ずっとモヤモヤしっぱなしの気持ちが爆発したような気分で、考えるよりも先に体が動いた。
「いた!」
「…あいつと、その…したのか?」
床に押し倒して聞くと、目を見開いて驚いた顔をする。
「ま~くん、顔怖い…」
「じゃあ答えて」
「…分かんない…」
「何だよそれ」
「あっちはしたがったけど…俺が無理だったから…」
「無理?」
「とりあえず座らせて」
「悪い」
押し倒した体から離れて座ると、ゆっくり起き上がった凛月も座った。
「喉乾いた」、と言われてリビングへ取りに行って戻ると制服の上着や靴下を脱いでラフな格好で俺のベッドに寄りかかっていた。
「俺なりに気を使ってた部分もあるしさ…疲れた…ま~くんが良い」
「押しが強い感じだったもんな」
「そう…」
「それにお前人見知りだし」
「……ま~くんは?何でさっき怒ったの?」
「それ、は…」
俺といない凛月を見るのが嫌だったとか言えるか、と思いつつ…
もごもごしてると笑われた。
「結果的に俺、勃たなくて出来なかったって感じ」
「お、おぉ…」
「毎朝見てるま~くんなら分かるだろうけど、俺、省エネで生きてるから無駄な体力は絶対使いたくないし…朝勃ちとかもしないじゃん?」
「……まぁ、逆に不健康な気もするけどな」
「いざ、そういう場面になれば男の本能的に勃つもんかと思ったけど、ずっと頭も冷静だし、興奮とか分かんないし…
そんな感じで縛られた生活とおさらば出来たってわけ」
「お試しは終わったのか」
「だから明日からまたよろしく~」
へらりと笑ってコップに口をつける姿が可愛くて、あぁ…良かった…と心の中で安心してしまう自分もいて…
「俺となら勃つ?」
「は?」
「お前とずっといるのは俺じゃん。よく知らない奴とヤれなくても俺なら違うかもしれねぇし」
「勘違いしてたらごめんだけど、別に俺はどうしてもしたいわけじゃないんだけど」
「そうじゃなくて!」
ああ、もう!幼なじみの愛情が重いと思ってたのに、口に出す分凛月の方が素直で俺の方が重たいんじゃないかとすら思ってきた。
そうだよ、かっこ悪いけどずっと嫉妬してた。
コップを机に置いて再び押し倒す。
「俺がりっちゃんとしてみたい」
「へ!?」
珍しく頬を赤く染めて驚く表情を見て、思春期真っ盛りの健全な俺が“待て”を出来るはずもない。