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    kasyaken

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    テディベアのまじまがきりゅ〜に眼帯をつけてもらう話。真→桐

    個人的な解釈
    事件に直接関係している兄弟は別であるが、眼帯の下を見られたくないまじま

    #真桐
    Makiri

    まじまが眼帯をつけてもらう話なにかが弾ける軽い感覚がした。嫌な予感がし、左目を隠すようにそっと押さえながら、地面に視線を落とした。予感は的中し、己の左目を覆い隠していたはずの眼帯が落ちていた。真島は素早く拾い上げるとため息をつく。そして、あることに気付いた。

    手ぇ、届くんか…?


    ***


    真島は悩んでいた。外れてしまった眼帯を自分でつけることができないのだ。それは、自分が突然テディベアになってしまった時よりも大きな悩みだった。

    組の誰かにつけてもらうか。気が滅入る。いっそのこと全く見知らぬ誰かがいいのかもしれない。テディベアになってしまったからには楽しもうと思っていた真島であったが、今すぐに元の姿に戻りたくてたまらない。まあ、そのうち戻るだろうと楽観的に考えていたが、いつ戻るのか?──戻れるのだろうか?
    眼帯すら自分でつけられない現状が、真島の楽観を揺るがす。


    思考の海に沈みかけた時、ふと気配を感じた──桐生だ。空気の微妙な変化、足音の重さ、そして真島だけに察知できる独特の存在感。それらが真島の意識をゆっくり浮上させる。

    誰に眼帯をつけてもらうか悩んでいた時、脳裏にちらちらと浮かんでいた男。桐生ならきっと何も言わず黙ってつけてくれるだろう。それが分かっていても、左目を晒すのは……躊躇われた。

    それでも桐生を意識すると、敢えて選択肢から外していても、やはり頼むのはこの男しかないと思われた。真島は迷いを振り切るように気配のする方向へ駆け足で向かう。


    辿り着いた先は路地裏だった。桐生は今まさに男に殴り掛かられるところであったが、寸でのところで上体を反らし、男の拳をすり抜ける。そのまま勢いを殺さず男の顔面を殴り飛ばす。倒れ込んだ男に歩み寄り、ためらいなく拳をもう一度叩き込む。男は気絶したようでピクリともしない。この間、数秒のことだった。

    「…かっこええなあ」

    桐生は無駄が一切ない動きで相手を打ち倒す。荒々しくも、妙に美しい。真島はうっとりとした。

    近くで悲鳴が上がり、よく見るとどうやら無謀にも桐生に絡んだ輩は2人だったらしい。自分達が喧嘩を売った男が堂島の龍とは知らず、今は無様にも腰が抜けて怯えているだけだった。必死に謝る男に興醒めしたのだろう、桐生は「そいつを連れて消えろ」と吐き捨てる。半泣きの男は失神している仲間を引き摺り、真島の横を通り過ぎて行く。背が随分小さくなった真島は引き摺られていく男の顔を間近で眺めていた。

    いいなあ。俺も喧嘩したいなあ。もはや喧嘩とはいえないような呆気なさではあったが、桐生の強さを見て真島は綿が詰まった胸が高鳴った気がした。けれども、すぐに胸の内の高揚はしぼんでいく。自分が何をしに来たのか思い出したからだ。

    「桐生ちゃん」

    名前を呼びながらぽてぽてと桐生の元へ歩み寄る。真島は地面を見つめていたが、桐生の真っ直ぐな視線が自分に注がれているのを感じていた。足音が近づいてくると、視界に桐生の白い靴のつま先が見えた。さっきまで頭の中でシミュレーションしていた「眼帯取れてもうて!俺手ぇ短いやん?つけてくれるか!」の言葉が出てこず、眼帯を持った右手をそろそろと前に出した。

    「悪いんやけど…これつけてくれるか?」

    地面をひたすら見ている真島は桐生がどんな顔をしているかがわからない。目を覆っている左手にぐっと力が入る。

    「届かんくて…」

    さっきから何もかも省いている。せめて手ぇ届かんくて!ヒヒヒ!くらい言えばいいのに。地面の小石を睨んでいた真島の耳に、頭上から「わかった」という声が届く。桐生の気配がぐっと近づいたと思うと、視界の端から眼帯が消えていた。

    一瞬触れた桐生の指先の感触に、真島は地面に張り付いていた視線をゆっくり外した。差し出した手を下ろし、左目を覆うもう片方の手を勢いよく下げる。さあ来い!と覚悟を決めた真島であったが、桐生はというと、わざわざ真島の背後に回った。そして「触るぞ」と、しゃがんだのだろう、桐生の声がすぐ後ろに聞こえた。真島は正面から左目を見られる覚悟を決めていた分、拍子抜けしつつ、不意打ちを喰らった気分だった。


    荒々しく敵をねじ伏せる桐生の手が、今はそっと眼帯を真島の顔に当ててくる。その仕草は、力強い拳の持ち主とは思えないほど優しいものだった。

    「この辺か?」
    「もうちょい下や」

    ここか?と桐生は真島の指示を仰ぐ。やがて適切な位置がわかると、眼帯の紐を慎重に引っ張る。そして、ぴったりと桐生の手の動きが止まった。

    「ん?」と密やかな声が漏れる。どうやら桐生は紐の向きに悩んでいるらしい。頭の上で紐が微かに左右に動くのを感じる。

    「紐…」
    「?」
    「右手の紐は右端に持ってきて」
    「ああ」
    「左紐は耳たぶに…あー、ちゃう。今の耳は上にくっついとるんやっけ。ここや」
    「ああ、なるほど。あとは後ろに回して結べばいいんだな?」
    「おう。もっと強く引っ張ってええで。大丈夫や、痛ないから」
    「わかった」

    紐を結ぶ桐生の指が後頭部に当たる。きっと桐生は眉間に皺を寄せて、真剣な目つきをしているのだろう。真島はふわふわした気持ちになった。

    「こんなもんか。どうだ?」

    兄さん。低く、心地の良い声が聞こえる。桐生の手が離れてしまうのが名残惜しい気がしたが、真島は気を取り直してぽふぽふと自分の手で眼帯を触った。

    「多分大丈夫や!」

    真島はくるりと後ろを振り返る。思ったより近くに桐生がいてちょっぴり驚いたが、顔に出さないように努めた。

    「ありがとな。桐生ちゃん」

    礼を告げると、桐生は苦笑いをする。

    「多分なのか?」
    「だって見えへんし。そういえば俺、こん姿になってから自分で眼帯つけたことないんや」

    桐生の、苦笑い混じりに何か言うのが真島は好きだった。さっきまで憂鬱であった真島だったが、今はすっかり元気になっている。いつも以上に桐生に構ってもらいたくて仕方がなかった。

    「鏡なんて持ってねえからなあ。そのへんのガラスの反射とかで…?見づらいか…?」

    真島の言葉を受けて、自分でチェックできるように考えてくれてるのだろう桐生を見てたまらない気持ちになる。

    真島は思った。
    今、自分がテディベアじゃなければ。いや、テディベアで良かったのかもしれない。衝動のままに抱き締めたところで上手い言い訳が思いつきそうもなかったので。

    「鏡なら事務所にあるで!」
    「ん…ああ。それじゃあな」

    桐生が立ち上がる。確かに今の言葉はわかりづらかったか。真島は慌てて声をかけた。

    「桐生ちゃんも行くんやで!茶でも飲もうや」
    「あんた、今飲めねえだろ」

    桐生はたまに的確で無慈悲なツッコミを入れてくる。桐生に察しの良さを求める方が間違いだが、わざわざ説明するのも気恥ずかしい。だが言葉にしないとこの男はそのまま去ってしまうだろう。

    「相手してくれないんか?俺、暇やし…」

    さすがに「お前と一緒にいたい」と直球勝負はできず、もごもごと言うだけに留めてしまった。こんな時、真島は自分の意気地なさに歯噛みするのであるが、今はテディベアだから。元の姿に戻ったら頑張るから。

    ──頑張る?何を?

    これ以上考えるのは危険だと直感した真島は、目の前の男に全神経を集中させた。



    ***


    なんだかそわそわしている真島を見下ろしながら桐生は考える。さっき真島が近寄ってきたとき、覇気がないように感じられた。いつもであれば駆け寄ってくるのであるが、短い歩幅で、まるでとぼとぼと歩いている。桐生も真島に近付き、どうしたのかと顔を見ようとしても目が合うことはない。いつも視線を下げると目が合うのに。たまに同情を誘うような絡み方もする真島なので、今回も変化球を投げてきたのかとも思ったが、心なしか毛並みもしょぼしょぼしているようにも見えた。これはどうやらおかしいぞ、と桐生は思った。そのまま様子を伺っていると、真島は俯いたままそっと何かを見せてきた。

    「悪いんやけど、これつけてくれるか?」

    眼帯だった。桐生は反射的に真島の左目を見ようとして…咄嗟に視線を外した。

    「届かんくて…」

    小さな声だった。桐生には、真島が居心地悪そうに見えた。

    「わかった」

    真島にとってこれは不本意な頼み事だと感じた桐生は、やや早口で了承の返事をした。桐生は差し出された丸い手から眼帯を受け取ると、真島の背後に回り込み、しゃがむ。「触るぞ」と声をかけると、真島の身体がわずかに揺れた。



    出会った時から真島の左目は眼帯に覆われていた。外したところも見たことがない。何かあったのだろうと思うくらいで、特に気にもしていなかった。お互い極道者だし、詮索も野暮であった。そして、今。真島の陰鬱な様子に、桐生は真島の正面ではなく背後に回った。その方がいいだろうと思ったのだ。





    「桐生ちゃん?」

    呼ばれて桐生はハッとする。そうだ。事務所に来いと言われていたのだった。真島は桐生をじっと見つめていて、そわそわしている以外いつも通りに見えた。そのことに安堵する。

    「そうだなあ。西田にも挨拶しとかねえとな」
    「なんで西田が出てくんねん」

    下方からドスの利いた低い声が聞こえる。どうやら機嫌を損ねたらしい。真島の機嫌がコロコロ変わるのはいつものことだし、桐生は特におかしなことを言ったつもりはないのでスルーをした。

    「くまになっちまった親分がフラフラしてるから心配してるだろうよ」

    言いながら桐生は両腕を前に広げる。桐生の意図に気付いた毛玉は、もこっと膨らみ、自分の身長の何倍もある脅威の跳躍力で桐生の胸に飛び込んできた。桐生は胸に飛び込んできた毛玉…いや、真島をしっかり抱き止めると、その脇に手を入れひょいと持ち上げる。そして、真島の顔が前を向くように抱え直した。

    ふと、桐生の視線が大人しく腕の中に収まる真島の丸い頭に留まった。その毛並みは滑らかで柔らかそうに見える。やはり毛並みまでしょぼくれていたように見えたのは気のせいだったのかもしれない。桐生は小さく笑い、チンピラに絡まれないように足早に真島の事務所へ向かったのだった。



    おわり
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