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    ohmi_ri

    本拠地はpixivです
    https://www.pixiv.net/users/6398269

    ここは、しぶにまとめるまでの仮置き場につくりました

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    ohmi_ri

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    お題「◯◯しないと出られない部屋」で書いたどこかの本丸のくわまつ

    #くわまつ
    mulberryPlantation

    孕ませないと出られない部屋遠征の帰り、いつも通りに本丸に戻ったはずが、桑名は気付けば松井と二人、見知らぬ部屋にいた。
    やけに広い寝室のような部屋の奥にキングサイズのベッドが鎮座していて、あとはソファとローテーブル、冷蔵庫、ウォーターサーバ、バーカウンター。
    玄関のドアノブをガチャガチャやってみたけれど、もちろん開きはしない。玄関脇のあと二つあるドアを開けてみると、トイレと、これまた無駄に広いバスルームだった。
    「らぶほてるみたいな部屋だね…」
    まだ事態を飲み込めていない声で松井が呟く。
    確かに、2000年代の遠征中に思わぬ空き時間ができた際、松井と二人で共犯者めいてくすくす笑いながら部隊の目を盗んで忍び込んだその施設に、この部屋は酷似していた。
    「本丸に繋がるはずの時空がズレた? のかな…?」
    辺りをきょろきょろと見回しながら部屋中をチェックしていた松井がバーカウンターの上で見つけたのは、一枚の紙。

    『この部屋からは、どちらかを孕ませるまで出られません』

    絶句する松井の様子を不審に思って後ろから覗き込んだ桑名の、途方に暮れたような「なんなん、これぇ…」という声が部屋に響いた。

    腰が沈み込む程ふかふかしたクッションのソファに並んで腰掛けて、しばらく呆然と黙っていた二人が、口を開いたのもまた同時だった。
    「あの、桑名は」
    「ね、松井は」
    声が重なってしまって、また黙る。目線で促しあって、次に話し始めたのは桑名のほうだった。
    「松井は、嫌だよね? 孕むなんて…。大丈夫、何とか他の方法を考えるから。僕らが戻らなければ、本丸の方からもきっと探してくれるよ。だから、心配しないで。ここから出るために松井に無理なことさせたり、しないから」
    松井は目を伏せて、消え入りそうな声で「すまない」と呟いた。
    「松井が謝ることなんかないよぉ。急に孕むとかそんなこと、受け入れられないのが当たり前なんだから」
    「違うんだ」
    柔らかく宥める桑名を遮って、松井は続けた。
    「多分、僕のせいだ」
    「松井…?」
    「こんなことになったのは…僕が、きっと僕が無意識に望んでしまったから」
    松井は俯いていた顔を上げて、桑名と向き合った。
    「桑名の…、いや、僕達の間に、消えない確かな証が欲しい、って…。手入れをしても戻らない、僕が折れたとしても残る、そんな何かで桑名をいつまでも縛ってしまいたいと、そう、例えば」
    松井の瞳から涙が溢れた。
    「僕の腹の中に二人のややこが出来たら、そうだったらどんなにいいだろうって、一瞬でも思ってしまったことがあるから」
    だからきっと罰が当たったんだ、罪深いことを望んでしまったから。桑名をこんなことに巻き込んでしまってすまない、ごめんなさい、そう言ってぼろぼろと泣く松井を、桑名は呆気に取られて見つめた。
    そして、はっとしたように松井を抱き寄せる。
    「泣かんで、松井…」
    しゃくりあげる松井の背中をさすりながら、桑名は一言一言確かめるように、ゆっくりと話し始めた。
    「松井のせいじゃないよ。それなら、僕も、多分…。循環の中で、松井と僕も、ここが行き止まりじゃなく巡っていく何かを育むことは出来るだろうかって、時々思っていたから、それで」
    ねぇ、顔見せて、と言われて、松井は涙に濡れた顔を上げた。
    「具体的にどうしたいって訳じゃなくてもっと抽象的な思考だったけど」
    言いながら、桑名は松井の顔を覗き込んで、濡れた顔に張り付く前髪を指先で払って、自分の袖で拭った。
    「松井が、僕との間に、ややができてもいいと思ってくれたなら、嬉しい」
    松井は瞬きも忘れたように桑名の顔をぽかんと見つめた。
    「僕達、子を成すことが出来るの…?」
    「わからないけど、そうなったら、松井は僕の子を産んでくれる?」
    松井は、本当にいいのか、と上目遣いで桑名を伺いながら、おずおずと頷いた。
    「松井、大好きだよ」
    桑名は松井の目を見つめ返しながら、頬にかかる髪に指を差し込んでくすぐるように撫でた。
    「だから、笑って」
    松井の表情がくしゃりと歪んで、再び桑名の胸に顔が埋められた。その顔が笑っているのかまた泣き出してしまったのか、わからないまま桑名は松井を強く抱きしめた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ年下攻めアンソロに載せていただいた、地蔵盆で幼い頃に出逢っていたくわまつのお話です。
    くわまつドロライお題「夏の思い出」で書いたものの続きを加筆してアンソロに寄稿したのですが、ドロライで書いたところまでを置いておきます。
    完全版は、春コミから一年経ったら続きも含めてどこかにまとめたいと思います。
    夏の幻 毎年、夏休みの終わりになると思い出す記憶がある。夢の中で行った夏祭りのことだ。僕はそこで、ひとりの少年に出逢って、恋をした。
     
     小学校に上がったばかりのある夏、僕は京都の親戚の家にしばらく滞在していた。母が入院することになって、母の妹である叔母に預けられたのだ。
     夏休みももう終わるところで、明日には父が迎えに来て東京の家に帰るという日、叔母が「お祭りに連れて行ってあげる」と言った。
    「適当に帰ってきてね」と言う叔母に手を引かれて行った小さな公園は、子供達でいっぱいだった。屋台、というには今思えば拙い、ヨーヨー釣りのビニールプールや、賞品つきの輪投げや紐のついたくじ、ソースを塗ったおせんべいなんかが、テントの下にずらりと並んでいて、子供達はみんな、きらきら光るガラスのおはじきをテントの下の大人に渡しては、思い思いの戦利品を手にいれていた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつ個人誌『青春』に入ってる「チョコレイト・ディスコ」の翌日の理学部くわまつです。
    あわよくば理学部くわまつまとめ2冊目が出るときにはまたR18加筆書き下ろしにして収録したいな〜という気持ち。
    タイトルはチョコレイト・ディスコと同じくp◯rfumeです。
    スパイス バレンタインデーの翌日、松井が目を覚ましたのは昼近くになってからで、同じ布団に寝ていたはずの桑名の姿は、既に隣になかった。今日は平日だけれど、大学は後期試験が終わって春休みに入ったところなので、もう授業はない。松井が寝坊している間に桑名が起きて活動しているのはいつものことなので──とくに散々泣かされた翌日は──とりあえず起き上がって服を着替える。歯磨きをするために洗面所に立ったけれど、桑名の姿は台所にも見当たらなかった。今更そんなことで不安に駆られるほどの関係でもないので、買い物にでも出たのかな、と、鏡の前で身支度を整えながら、ぼんやりと昨日のことを思い出す。
     そうだ、昨日僕が買ってきたチョコ、まだ残りを机の上に置いたままだった。中身がガナッシュクリームのやつだから、冷蔵庫に入れたほうが良いのかな? 二月なら、室温でも大丈夫だろうか。まあ、僕はエアコンを付けていなくても、いつもすぐに暑くなってしまうのだけれど…。そこまでつらつらと考えて、一人で赤面したところで、がちゃりと玄関のドアが開いて、コートを羽織った桑名が現れた。
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    ohmi_ri

    DONEくわまつドロライお題「ハネムーン」で書いた理学部くわまつです。タイトルはチャッ◯モンチーです。
    コンビニエンスハネムーン 梅雨もまだ明けないのに、一週間続いた雨が止んでやっと晴れたと思った途端に猛暑になった。
     また夏が来るなぁ、と、松井は桑名の古い和室アパートの畳に頬をつけてぺたりと寝転がったまま思う。
     網戸にした窓の外、アパートの裏の川から来る夜風と、目の前のレトロな扇風機からの送風で、エアコンのないこの部屋でも、今はそこまで過ごし難い程ではない。地獄の釜の底、と呼ばれるこの街で、日中はさすがに蒸し風呂のようになってしまうのだけれど。
    「松井、僕コンビニにコピーしに行くけど、何か欲しいものある?」
     卓袱台の上でせっせとノートの清書をしていた桑名が、エコバッグ代わりのショップバッグにキャンパスノートを突っ込みながらこちらに向かって尋ねる。ちなみにその黒いナイロンのショッパーは、コンビニやらスーパーに行くときに、いつ貰ったのかもわからないくしゃくしゃのレジ袋を提げている桑名を見かねて松井が提供したものだ。松井がよく着ている、かつ、桑名本人は絶対に身につけそうもない綺麗めブランドのショッパーが、ちょっとしたマーキングのつもりだということに、桑名は気付いているのかどうか。
    2008

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