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    「くじらが空を飛ぶまで」
    BotWリンク夢小説

    2リンクくんが持ってるシーカーストーンとやらで地図を確認しながら歩くこと数日。文字通り山を越え谷を渡り時折現れる魔物を倒し(主にリンクくんが)、亀の歩みと言っても過言ではないスピードだったけど、今日、ようやくハテノ村に辿り着いたのであった。リンクくんはそのままの足でハテノ古代研究所に、私はその間に手持ちで何か換金できるもの(ポッケに小銭が入っていた)を全部この世界の通貨に変えて、とりあえず二人分の宿を取った。


    「はぁ〜、つっかれた…」


    ぼふり、ベッドに飛び込み、息を吐く。いや、ほんと、冗談なしできつかった。
    社畜歴が長くて運動不足なのもそうだけど、ハテノ村に辿り着くまでの道中、魔物に何度か襲われた。
    当たり前だけど戦うなんてできやしない私は死に物狂いで逃げるしかできなかったわけだけど、リンクくんはそれはそれはもうばっさばっさと敵をなぎ倒していた。
    あの可愛らしい顔のどこにそんな…なんて思わないでもないが、まぁ、リンクくんだしな…と若干主人公補正がかかった納得の仕方をしたのは記憶に新しい。

    正直、私の体力がゴミカスのせいでリンクくんには迷惑しかかけていない。一応学生時代は剣道部ではあったけど、私のはあくまで武芸であって、実戦で使えるようなものじゃない。つまるところ、完全に戦力外。
    このあたりは私の気持ちの問題なのだろうけど、だとしても、甘ったれていると言われても、たとえ剣を握っていても魔物だろうが相手が生き物である限り、平和ボケした世界で生きてきた今の私に剣の切っ先を向けることなんてできやしないのだ。

    戦えもしない、体力もない、じゃあ何ができたのかって聞かれたら、せいぜい調達した食材でご飯を作ってあげることくらいだろうか。
    自慢ではないが、一人暮らし歴が長い私はそこそこ料理の腕に自信がある。なので、どれだけ少ない食材でもあり物で美味しいものを作るのは朝飯前なわけですよ。

    …まぁ、それはそうとして、リンクくん、好き嫌いなくなんでも食べてくれるのはいいんだけど、目に付いたものをとりあえず口に入れようとするのだけは頼むからやめてほしい。
    この前どんぐりを口に放り込んでるのを横目に見かけた時は思わず二度見した。「ペッしなさい!!!!」つって吐き出させはしたけど、ほんと、マジで、心臓に悪すぎる。生まれたてのバブなんか?ってくらい目を離すと気付いたらなんでも食べてる。ついでにどこで採ってきたかわからない岩石入れようとしてくる。食えねぇよ。マジでやめろ。

    ……なんか、思い出したらまたどっと疲れてきたな…


    「ツバキさん、宿取ってくれてありがとう」


    しばらくベッドに顔を埋めたままでいると、研究所から帰ってきたらしいリンクくんに背中をつつかれた。今まさに君の所業について思い悩んでいたところだよ。じっとり、シーツに頬杖をついて睨め付けると不思議そうな顔をされた。

    余談だが、ハテノ村までの道中でリンクくんには敬語をやめてもらった。私も歳下にタメ使われるのそんなに気にしてないしね。


    「おかえり、どうだった?」

    「ただいま。とりあえず、このへんの祠を巡ったあとに現状報告をしに一度カカリコ村に戻ろうかなって思ってる」

    「そうなんだ」

    「それまではもうしばらくここに留まるつもりでいるけど、ツバキさんはどうするの?」


    そう、そうなんだよ。リンクくんのおかげで人里に来ることはできた。問題はその後である。
    正直、これから先の彼の旅に同行するだなんてとてもじゃないけどできやしない。迷惑しかかけん。
    厄災ガノンとやらを倒し、ゼルダを助けるという大きな使命を持つリンクくんの足を私が引っ張るわけにはいかないし、だからこそ、私はリンクくんの旅路をここで降りようかと思ってる。「…あのさ、リンクくん」ベッドから起き上がり、正座をする。そうしたら、私の雰囲気を感じとってか、リンクくんもベッドに腰掛けたまま背筋を伸ばした。


    「ん?」

    「私さ、ここに残ろうと思うんだ」

    「……………え」

    「いや、ほらさ、一緒に旅してわかったと思うんだけど、私めっちゃ体力ないじゃん?まぁ、これに関しては自業自得ではあるけど……ろくに戦えないし、君に迷惑をたくさんかけた」

    「お、俺は迷惑だなんて思ってないよ!ツバキさんと旅するの、すごく楽しかった!」

    「そう言ってもらえて嬉しいよ。…けど、私のちんたらした歩幅にあわせてたら、間に合うものも間に合わなくなる」

    「でも…!」

    「…私じゃ君の手助けをしてあげられない…」


    手助け、なんて、実際そんな大それたことは私にはできない。精々私にできることといえば、ほんの些細なことや、怪我をしませんようにとリンクくんの無事を祈ることくらいなのだ。


    「…俺は、ツバキさんがいてくれただけで随分救われたよ」

    「うん、ありがとう。私もリンクくんがいてすごく心強かった」

    「体力なんて旅をしてたらそのうち勝手につくし、戦うのも、俺がツバキさんのことを守るから気にしなくていいよ 」

    「そう言われてもねぇ」


    なぜだろう、特にこれといって彼に何かをしたわけではないけど、リンクくんがすごい懐いてくれてる。これで自意識過剰だったら大変恥ずかしい勘違い野郎ではあるけど、そうだって確信できるくらいには言葉の節々から、あ、懐かれてんな、と感じる。なんでや。

    ううん、と鼻で唸ってたら、私が微妙に困っているのがわかったのか、リンクくんはしょん…と肩を落として口を噤んだ。心なし彼の長い耳もへちょりと下がってるように見えないこともない。だから!!その顔やめろ!!ごめんなって気持ちになるやろがい!


    「じゃあ、こうしよう!」


    さっきのしょんもり顔はどこへやら、打って変わって勢いよく顔を上げたリンクくんに思わず上半身を逸らした。


    「俺がツバキさんに会いに来るよ!毎日!」

    「なんでだよ、毎日来んな」

    「なら、二日に一回!」

    「多い」

    「うぅ…だったら、三日に一回…!」

    「あのねぇ…」


    私に毎日話しかけ続けると継続報酬がもらえるとか、そんなログインボーナス的なサービスしてないんだけど。


    「三日に一回!来るから!ツバキさんに会いに!異論は認めない!はいこの話はもうおしまい!」

    「えぇ…」


    しかも決定事項になってるし…。
    ちらりと見たリンクくんは、もはや拒絶は受け入れぬと言わんばかりに腕を組んでじっとりで睨みつけてくる。こうなってしまえば意地でもこっちの要望は受け入れられないのはこの数日の旅でよく理解しているし、何よりこの感じ、既視感だらけである。
    ある意味ここで折れてしまうのは、なんだかんだ一番上の性ってやつですかね。仕方なし、両手を挙げて息を吐いた。


    「わかったわかった。もうそれでいいから、会いにおいで」

    「ほんと?いいの?」

    「君が言ったんじゃん…まったく…」

    「へへ、やった。ありがとう」


    すんごい笑顔。リンクくんの周りにきらきらが飛び散ってるような幻覚さえ見える。きらきらぺしぺし。
    私なんかに会いに来て何が嬉しいんだか。はん…と小さく息を吐いた。「無理しない程度にね」ぽすり、ぽすり、柔らかい稲穂色を撫でながら言う。そうしたら、リンクくんはりんごみたいにほっぺを赤くしてまたはにかむのだった。





    結論から言うと、私は無事にハテノ村に居を構えることができました。村長がサクラダさんという人に取り合ってくれて、毎月決まった額を家賃という形で支払うことを条件に、村から少し奥まったところにある空き家を借りることができたのだ。
    仕事も、この村の民宿で雇ってもらえることになったし、何よりこの村の人たち、みんなめちゃくちゃいい人ばかりだ。
    不慣れだろうからって生活に必要な物を色々持ち寄ってくれたり、わからないことがあれば嫌な顔一つせずに教えてくれたり、ほんと、ありがたすぎる。


    「のどかだなぁ…」


    洗濯紐のシーツを取り込みながら、すっかり夕焼けになった空を見上げる。大厄災が起こった後とは思えない。ハテノ村からは厄災の根城になっているらしいハイラル城は見えないけれど、きっと、この平穏は仮初で、本当はそこまでのどかじゃないんだろうな。

    この村に身を寄せて早数週間。少しずつではあるがこの村での生活にも、民宿の仕事にも慣れてきて、村の人たちとも顔を合わせると少しの立ち話程度はするくらいにはなった。ハテノ古代研究所のプルアさんは、彼女の諸々の事情も含めてリンクくん伝手で紹介してもらった。
    まぁ、さすがに異世界から来たってこと諸々は話してはないけど。
    彼女とはシモンさん共々、作りすぎたおかずやお惣菜なんかを持って時々研究所にお邪魔したり、お茶したりするくらいの仲である。めちゃくちゃ仲がいいかって聞かれたら、どうなんだろ。どっちかって言うと二人とも友達っていうより、茶飲み仲間の方がしっくりくる。


    「ツバキさんみっけ」


    残りのシーツもさっさと片付けてしまおうと手を伸ばした時、唐突にシーツの間からひょっこりとリンクくんが顔を出した。


    「おかえり、リンクくん。帰ってきてたんだね」

    「へへ、ただいま」


    目を細めて、にっかり。所々泥で汚れてるみたいだけど、元気そうでなによりだ。

    宣言通り、リンクくんは本当に三日に一回のスパンでハテノ村に帰ってきている。そんな短期間に長距離の移動するの、しんどくないの?って聞いたら「シーカーストーンでワープできるから大丈夫だよ」って言われたのはついこの前。


    「ちゃんとご飯食べてる?前みたいにどんぐり口に入れてないよね?」

    「…………………大丈夫!!」

    「何が」


    なんだその盛大な間は。露骨に目逸らしてんじゃないよ。
    言わずもがな、この反応を見るにどんぐり食ってるのは明白になったわけですが。いくら腹を壊さないといえ、普通に心配になるからやめろっつってんのにこの男は。

    じっとり、半目でリンクくんを睨め付ける。「そ、そうだ!ねぇツバキさん、俺今日オムライス食べたい!おつかい行っとくよ!」そうしたらだんだん焦り始めたのか、わかりやすく話を変えて来るもんだからなんかもう怒る気も失せたわ。


    「おつかいはいいよ。帰ってきたばかりで疲れてんだから、家で休憩しときなよ」

    「全然平気だよ。それに俺はツバキさんよりも体力あるからね」

    「やかましいわ」


    振り上げた回し蹴りは笑い声と共に華麗に躱された。日増しにくそ生意気になっていってる気がするんだけど多分気のせいではない。


    「はぁ…じゃあ、これ片付けたら今日はもうおしまいだから、リンクくんは先に家帰って風呂に入ってること。そしたら買い物手伝って。泥んこのままで食材触らせないからな」


    さっきから気になってた、リンクくんの髪に絡まっていた葉っぱを取りながら言う。「はぁーい」間延びした返事と一緒にシーツの向こうに消えて行ったリンクくんを見送りつつ、私も、さっさと仕事をすませてしまおうと再びシーツに向き合った。

    全部取り込んでしまえば、あとは畳んでいつもの場所にしまえばいいだけ。
    軽く備品のチェックをして、足らずのものは次に発注する時の紙に記入して、おしまい。
    受付にいるツキミさんに声をかけてからトンプー亭を出ると、すっかり泥が落ちたリンクくんが子供たちと一緒に地面にお絵描きをしているのを見つけた。


    「お待たせ。ごめんね、待たせちゃって」

    「ううん、こっちもさっき来たところ」

    「そっか」

    「兄ちゃん、お母さん迎えに来たから帰るね」

    「うん、気を付けてね」

    「姉ちゃんも!」

    「ほいほーい、じゃあね」


    ばいばーい、と手を振るリンクくんの隣でなんとなく私も小さく手を振る。迎えに来た母親のところへ各々向かって行き、そのまま手を繋いで帰路を辿る親子たちを見送ってから、私たちもどちらともなく歩き出す。


    「何描いてたの?」

    「んー?馬とか、ニワトリとか、この前見た変な形のキノコとか…」

    「なんでキノコ」

    「いや、だって、本当に変な形だったから。思わずウツシエ撮っちゃった」

    「え、見せて見せて」


    これ、とシーカーストーンのアルバムを見せてもらって、なるほど納得。なんというか、なんか、ううん…なんて形容すればいいかわからないくらい絶妙な形すぎて、確かに変だな、としか言えない。
    「なんじゃこれ」なんて、めちゃくちゃおもしろいわけでもないのに声を上げて笑ったら、リンクくんも同じように笑うもんだから、段々と本当におかしくなってきて、イースト・ウィンドに着くまで道中ずっと二人で笑ってたら店先の掃き掃除をしていたアイビーさんにすごい呆れた顔をされた。





    オムライスは、卵を四つふんだんに使ったものが好きだ。一人暮らしをしている時は、食費をケチって卵一つをスクランブルエッグにしたのをケチャップライスに乗せただけのなんちゃってオムライスしか作らなかったけど、今日はアカエゾさんが卵を二つおまけしてくれたし、その見た目のどこにその量が入るんだってくらいの大食らいリンクくんがいるので、奮発しました。
    トリニクはリンクくんがここに来る途中て調達してくれたので、それを使わせてもらってる。


    「リンクくん、トリニクありがとうね。助かったよ」

    「次ここに来たらツバキさんにオムライス作ってもらうって決めてたんだ〜」

    「気に入ってるねぇ」

    「ツバキさんが一番最初に俺に作ってくれた料理だからね」


    あぐ、とでかい一口でオムライスを頬張るリンクくんに、そうだったっけ、とスプーンを咥えながら記憶の底を漁る。「ツバキさん、お行儀悪い」へーへー。


    「よく覚えてんね」

    「だってすごく嬉しかったから」

    「そっか」

    「次はニンジンとか芋とか肉を甘辛く煮たやつがいいな」

    「肉じゃがのこと?わかったわかった、作っとく」

    「やった。じゃあ俺もお土産持って帰ってくるから、楽しみにしててね」

    「ん、上ケモノ肉だとちょっと嬉しいかも」

    「!!任せて!ツバキさんのためなら10個でも20個でも用意するよ!!」

    「乱獲すな!必要な分だけでいいから!」

    「え〜」


    なんで不服そうなの。乱獲したら食物連鎖が崩壊しちゃうでしょうよ。
    なんて、思ったところでふと気付く。モリブリンとかいる時点で食物連鎖なんてあってないようなもんだよな、と。
    まぁでも、ありすぎて腐らせでもしたらもったいなさすぎるから、やっぱり使う分と保存する用で少しあるくらいでちょうどいい。

    ほくり、ほくり、三分の一ほどになったオムライスの端っこを無心で崩していると、唐突にリンクくんの肩が震え始める。あまりに急だったから、一瞬泣いてんのかと思って焦ったけど、よく見たら笑ってるだけだった。マジでびっくりした。


    「ど、どしたん急に…心臓に悪い…」

    「ふふっ、いや、違くて…なんか、いいなぁって思って」

    「?」

    「こうやってさ、一緒にご飯食べながらくだらない話をしたり、食事の献立をリクエストしてみたり、さっきみたいに食材の買い出しに一緒に行ったりさ。きっと、ものすごく些細なことなんだろうけど、こういうことを、ずっとずっと大事にしたいなって思って」


    いつも危険な旅をしてるからこそ、余計そう思うのだろうか。たった数週間。されど数週間。記憶のない、まっさらな状態から始まったリンクくんの旅は、気付いたら色んなものを背負ったハイラルの命運をかけた旅になっていた。
    あまりにも、たくさんのことを背負いすぎちゃいないだろうか。旅をするにつれ100年前の記憶を少しずつ取り戻しているらしいけれど、決して大きくはない背中で、色んな人の願いを背負い込んで、そしてこれからもまだ彼は誰かの想いも背負い続けていくんだろうなって漠然と思った。

    いつか、あまりに多すぎる荷物でリンクくんの姿が見えなくなってしまいそうだ。


    「?ツバキさん、どうかしたの?」


    気付いたら、私は立ち上がってテーブル越しにリンクくんの頭を撫でていた。
    うちのテーブルはそこまで広くないから、少し身を乗り出せば簡単にリンクくんに手が届いてしまう。…届いてしまうのに。


    「(遠いなぁ)」


    なでり、なでり、左右に動かす手を止めないでいるが、リンクくんは特に嫌がる様子はなく、擽ったそうに目を細めている。なんだかわんこを撫でてるみたいだな。両手でわしわしと撫でくりまわせば「わー!」だなんて声を上げる。

    …すっかり絆されてしまってるなぁ。


    「リンクくん、いつでもここに帰っておいで」

    「え、いいの?三日に一回じゃなくても?」

    「もういいよ。ていうか、村はずれで隠れてキャンプしてんの知ってんだからね」

    「…バレてた、だと…」

    「バレバレ」


    気まずそうに視線を逸らしたリンクくんと、今度は逆に私が笑う。


    「一緒にいよう」

    「…うん、ありがとう、ツバキさん」


    せめて、せめてここでくらい、彼の多すぎる荷物が少しでもおろせる場所であってほしい。そう思ってしまうのは、些か傲慢だろうか。
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