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    夢小説を投げるところ

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    「くじらが空を飛ぶまで」
    BotWリンク夢小説

    4大体の祠とやらの解放を終えたらしいリンクくんが、少しの間ハテノ村に留まるらしいことを聞いたのは昨日の夜の話。祠とゼルダ姫が残したウツシエを辿ることで、少しずつではあるけど100年前の記憶や力を着実に取り戻していってるんだとか。リンクくんがどこまで記憶を取り戻したとか、そのへんはあまり詳しく聞いてない。聞いてないっていうより、聞けない。聞いていいのかわからない。リンクくんも言わない。ゼルダ姫直属の近衛騎士だったってことをちらっと聞いたくらいで、それ以上は何も言わないから、だから私も、あまり深く聞かないようにしている。

    朝、遠くの方でスズメの鳴き声を聞きながら目を覚ます。まだぼんやりとする頭を軽く振って、伸びを一つ。そうしたら、ぱきぽきと背骨が不穏な音を奏でた。
    ベッド脇のサイドテーブルに置いた髪留めで適当に髪をまとめ、今度こそ布団から出る。最後にもう一度、ぐっと伸びをしてからパーテーションの向こうで穏やかに上下する布団の山を横目に階段に足をかけた。

    いつでも帰っておいで、ということで、この家にはリンクくん用のベッドも置いている。二階には個室がないから、空間をパーテーションで二つに仕切って私とリンクくんのベッドをそれぞれ置いて個人のスペースとしているので、年頃の男の子には大変申し訳ない気持ちでいっぱいだったけれど、リンクくん本人が特に気にしてなさそうだったのと、私もさして神経質ではないので、お互いまぁいっか、の精神でうまくやっている。


    「さてと…朝ご飯は何にしようかな」


    洗面所で顔を洗い、改めて身支度を整えてから台所に立ち、ふむ、と顎をさする。正直、そろそろ朝の味噌汁が恋しくなってくる頃ではあるけれど、残念ながらハテノ村に味噌なんてものはない。他の街か村に行けばもしかしたらあるのかもしれないけど、現状どこで味噌が取り扱われているかなんて分からない上に、もしわかったとしても私一人でそこまで行けるとは思っていない。無い物ねだりをしても仕方ないことではあるけど、それはそうとして、やっぱり久々に味噌汁を飲みたい気持ちはある。
    鍋に水を溜めて火にかけ、沸騰するまでに貯蔵庫から上ケモノ肉で作ったベーコンとタマゴ、山菜、パンなどを引っ張りだしてまな板の上に並べた。
    山菜は付け合せのサラダにするとして、軽く水洗い。水気を取ってから適当に千切り皿へ。ほどなくして鍋の水が沸騰し始めるからタマゴを3つほど沈める。その間にパンとベーコンを薄くスライスして、パンを釜の火で表面がきつね色になるまで炙り、バターとベーコンを乗せてから皿に置く。


    「もういいかな〜」


    つんつん、と匙でお湯に浮かぶタマゴをつついて、鍋を火から離し流しへ。あらかじめ張っておいたボウルの水にタマゴを移し、お湯は捨てる。くるくる。くるくる。時々白いチュチュゼリーで作った氷を入れて冷やす。指でタマゴを摘んでみて、粗方熱がとれているのを確認してから殻を剥き、別のボウルに移して塩と胡椒を入れてから簡単に潰す。とろり、とこぼれるタマゴの黄身。いい具合に半熟卵ができあがっててよかった。
    潰したタマゴはパンの上へ。最後に昨日作り置きしたマヨネーズをちょこっと乗せれば完成である。あとはもう一度沸騰させたお湯で簡単にコンソメスープを作れば朝食のできあがり。中々美味しそうにできたのではなかろうか。


    「おーい、リンクくーん。朝ご飯できたよ」


    お皿をテーブルに並べながら二階に声をかけるけれど、リンクくんが動く気配はない。「おーい」もう一度呼んでみる。反応はなし…っと。
    ふぅ、と鼻で息を吐き、エプロンをとりながら階段を登る。パーテーションの向こうを覗き込むと、こんもりと膨れたシーツの山が規則正しくゆっくりと上下していた。仕方なしにリンクくんのスペースに足を踏み入れ、シーツの山に手を伸ばす。


    「リンクくん、起きて。ご飯」

    「んん〜…」

    「おーい」


    ゆさゆさ。数度揺らしても起き上がる気配はない。むしろ、シーツを頭からすっぽりとかぶってまだ起きません状態。あーあ、そんなことしていいのかな〜。


    「リンクくんが起きてこないと朝ご飯余っちゃうな〜。そうなったらもったいないからプルアさんとシモンさんとこに持って行って食べてもらうしかないな〜」


    しょうがないよね〜。なんてわざとらしく言いながら踵を返す。同時に、ばさり、シーツを跳ね除ける音と、右手に熱。ちらりと目だけで振り返ると、若干慌てた顔のリンクくんが上体を起こして私の右手を掴んでいた。


    「だめ」

    「じゃあ起きて」

    「むぅ……」


    渋々、というようにのそりとベッドから降りるリンクくん。実を言うと、途中からリンクくんが狸寝入りだってことはなんとなくわかっていた。だからカマをかけてみたんだけど、案の定、さっきの眠そうな声は一体なんだったんだと聞きたくなるくらいぱっちりと目が開いているのだから、彼は一体何がしたかったのだろうか。

    苦笑いしながら階段を降り、マグカップにスープをよそう。そうしてる間にいつもの青い服じゃない、黒いシャツに着替えたリンクくんが、頭のあちこちに寝癖をつけて降りてきた。


    「おはよう。顔洗っといで」

    「はぁい」


    くあっ、とでっかい欠伸。リンクくんが歩くたびにぴょこぴょこ揺れる寝癖が面白くて、気付かれないようにこっそり笑った。





    「ツバキさんはこれから仕事?」


    もさもさとタマゴパンを齧りながら首を傾げるリンクくんに「そうだよ」と一言。今日の私のシフトは夕方までだから、もしまだヴェント・エストが開いてたら服でも買いに行こうかと思ってたところ。
    そう言うと、パンの最後の一欠片を口に放り込んだリンクくんは先程よりもさらに首を傾げた。


    「なんで服?」

    「あぁ…今私が着てるのって、プルアさんが元々着てたシーカー族?の装束を貸してもらってるんだよね。当分着れないからって、私がある程度収入が安定するまで数着借りてたんだけど、やっと貯金に回せる余裕が出てきたから、この際足らずのものを調達しちゃおうと思って」

    「なるほど、それで服…。どうりで見覚えがあると思った」

    「そーいうこと」


    まぁ、それもあるけど、この前トンプー亭にやって来た旅人から聞いた話、シーカー族のこの服って特殊な素材かなんかでできてるっぽくて、本来ならばこれはシーカー族以外が着ちゃダメなやつらしいんだよね。知らなかったとはいえ、さすがにそんな決まりがある、しかも他人の服をいつまでも借りてるわけにはいかないからなぁ。


    「だから今日は少し帰りが遅くなるかな」

    「それなら、今日は俺が料理当番するよ」

    「え、大丈夫だよ?服選ぶのそんな時間かかんないし、せっかく忙しい中帰って来たんだからゆっくりしてなよ」

    「俺が作りたいからいーの!それに、その言い方だとツバキさんが俺のお手伝いさんみたいに聞こえて、なんか、すごくやだ。俺はツバキさんとは対等でいたいし、俺の家だと思ってもいいって言うなら、なおのこと俺にもやらせて?ね?」


    たしかに、リンクくんの言うことも一理ある。ここは私の家でもあり、リンクくんが帰ってくる家だ。それでもいいって言ったのは間違いなく私だし、そうしたいと言ってくれたのはリンクくんで。
    ここ最近、特にハイラルのあちこちを駆けずり回って忙しそうにしてるから、ここに帰って来た時くらいゆっくりしててほしい気持ちが先走って、気を遣う方向が間違っていたことにリンクくんに言われて初めて気付く。これじゃあゆっくりさせてあげるどころか、逆にリンクくんが肩身の狭い思いをしてしまいかねない。
    穏やかに目尻を下げるリンクくんの顔を見て、へちょり、自分の眉が下がったのがわかった。


    「…じゃあ、お願いしようかな」

    「ん、任されました」


    「腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね」なんて言われて、ふふ、と笑う。久しぶりにこんなやり取りをしたような気がする。気兼ねない関係、というのはこんな感じなのだろう。やっぱり、いいもんだな。
    なんだかくすぐったくなった私は、誤魔化すように残りのコンソメスープを飲み干した。


    朝食を食べ終えた後は、二人で台所に並んで後片付け。私が食器を洗って、リンクくんが拭いて棚に戻す。
    大体の片付けが終わったあとは、私はトンプー亭へ、リンクくんはシーカーストーンの機能を拡張してもらうために研究所へと各々足を向けた。
    今日のトンプー亭はさほど客足が多いわけじゃないけれど、だからといって仕事が全くないということはない。いつ誰が来てもいいように掃除は欠かせないし、ベッドのシーツや枕カバーも毎日変える。ふかふかベッドは羽毛のチェックも忘れてはいけない。


    「ツバキってさ、もしかして潔癖症?」


    窓枠を指先ですすす、となぞってると、受け付けカウンターで頬杖をついたツキミさんが口を開く。潔癖…潔癖…?


    「潔癖症…ではないと思いますけど…なぜ…」

    「いやだって、姑みたいなことしてるから、てっきりそうなのかなって」

    「姑って」


    まぁ、たしかにしたけど、否定はしないけど、うーん、潔癖かぁ…どうなんだろ…。部屋の片付けはこまめにする方ではあるけど、だからとて今みたく指先で埃チェックするまでぴかぴかに掃除をしているかと聞かれたら、ノーである。
    人差し指についた埃を親指で揉み消しながら窓枠に雑巾を滑らせた。


    「潔癖っていうか、目に付いたところが気になるっていうか、自分がお客ならこういうのはやだなぁって思うことを一つずつ潰していってるって感じですかね」

    「マメねぇ…まぁ、おかげでこっちはすごく助かってるんだけどね」


    ちょいちょい、と手招きをされて、首を傾げながら掃除の手を止めてツキミさんに近付くと、ぽいっと唐突に口の中に赤い何かを放り込まれた。びっくりして思わず噛み締めると、途端に口いっぱいに甘酸っぱい味が広がり、じんわりと唾液が染み出る。この、よく知る味。これはきっとあれだ。


    「ん…イチゴ?」

    「そ。今朝方に旅立ったゲルドの商人から買ったの。美味しいでしょ?」

    「すんごく美味しい」

    「まだまだあるから、あとで休憩がてら一緒に食べましょ」

    「え、いいんですか?」

    「そのつもりで買ったのよ」

    「やった。じゃあ残りの掃除、ぱぱっと終わらせちゃいますね」

    「うん、よろしくね」


    久方ぶりの甘いものに完全に口がそっちに向いてしまった。さっき以上にやる気をみなぎらせて掃除に勤しむ私を、のちにツキミさんは残像しか残らなかったと語っていたのはまた別の話。
    粗方の掃除を終え、シーツを洗って干した後に乾くまでの休憩ということで、宣言通りご相伴に預かっていたわけですが。ふと、視界に入ったカウンターの片隅に刺繍糸が置かれているのに気付いた。


    「ツキミさんって刺繍やるんですか?」

    「え?…あぁ、これ?違う違う!刺繍なんてやらないわよ。冊子を纏めるのに太さがちょうどよくてね、ヴェント・エストで破棄予定の糸を譲ってもらって使ってるの」

    「へぇ」


    刺繍糸かぁ…。そういえば、学生の時に運動部の間でミサンガ作りがはやってたな。私も便乗して大量生産したのを部員に配りまくってた記憶がある。今思えばはた迷惑すぎる。
    でも、編み方によって色んな模様ができるのが楽しくって、はやってたってのもあるけど、色んな編み方をやってみたくて普通にハマってた。ハマりすぎて弟たちに「姉ちゃん、もはや職人じゃん」とか言われてたような気がする。

    …あ、そうだ。


    「ツキミさん、その刺繍糸、何本かもらってもいいですか?」

    「いいけど、何に使うの?」

    「それはですね……」





    「ただいま」


    トンプー亭での仕事を終えた後、まだ明かりが灯るヴェント・エストで何着か服と外套を買い込み、足取り軽く玄関のドアを開ければ途端に鼻腔をくすぐる香ばしい匂いに刺激され、ぐぅ、とお腹が鳴った。


    「ツバキさんおかえり!もうすぐご飯できるよ」


    私のエプロンを着てお鍋をくるくる回しているリンクくんは、今朝の宣言通り本当に晩ご飯を作ってくれている。しかも、めっちゃいい匂い。


    「うわ、すんごい美味しそう。何何?」


    匂いにつられてふらふらと台所に立つリンクくんに近寄ると、笑いを噛み殺しながら鍋の中を見せてくれた。


    「研究所に行ったあとにウオトリー村で魚とってきたから、魚入りミルクスープ作ってみたよ」

    「とっ…え?何?掴み取りしたってこと?」

    「うん」

    「えぇ…」


    釣るでも網で掬うでもなく、掴み取りかぁ…。顔に似合わずワイルドに食料調達をするんだな、この子…。というか、ウオトリー村ってどこだ。あとでマップ見せてもらお。「他にもキノコと魚焼いたやつと〜、炊き込みご飯と〜」指折り数えて教えてくれる料理にさっきからお腹が鳴りっぱなしだ。苦笑いしながら、とりあえずいったんリンクくんの料理の邪魔をしてはいけないと、一言断ってから台所を離れ、玄関近くの壁掛けに上着を引っ掛けてから二階の私のスペースに荷物を置きに行った。


    「デザートにアップルパイも作ったよ」

    「え!?アップルパイ!?」

    「今日一の食いつき」

    「だって、アップルパイ…え!?てか、リンクくんお菓子作れるの!?」

    「ふふん、料理鍋の万能さを見くびってもらっちゃ困るね」

    「はぁ〜、お見逸れしました…」


    話には聞いてたけど、まさかあの鍋でケーキまで作れるだなんて誰が思おうか。材料を放り込むだけで料理ができあがるのだから、原理がマジで不明すぎる。便利なのはわかるんだけど…未知すぎて私はちょっと使う気になれないのが正直なところである。

    リンクくんが作ってくれた料理はどれも美味しくて、最初はたくさんあって食べ切れるか不安だったけど、存外ぺろっといけるものだ。アップルパイも、鍋で作ったとは思えない出来。外はさっくり、中はとろんとリンゴの甘さが染み込んですんごく美味しかった。店で売れるレベル。料理鍋とはいえ、リンクくん、こんなに料理ができる人だとは思わなかった…ちょっと自信なくすわ〜…。
    なんて冗談でぼやいたら、リンクくんは「ん〜…」と唸り声をあげた。


    「たしかに料理鍋は材料を放り込めば美味しく作れるけど、ツバキさんの優しい気持ちがいっぱい詰まった手料理を知る俺にしてみれば、それに勝るものはないと思ってるし、俺はツバキさんが作ってくれる料理、すごく好きだよ」

    「…………おう」

    「あ、照れてる?珍し〜」

    「照れてないっての!」


    ふん、と大人気なくそっぽを向いても、おそらく私の心情なんてお見通しなリンクくんはニヤニヤと意地悪く笑ってるだけだ。全く、本当に日に日に生意気になっていくな、君は。お姉さんはそんな風に君を育てた覚えはないぞ。





    「あ、そうだ。リンクくん」


    風呂も入って、寝支度をすませた私たち。のんびり居間で紅茶を飲んでいる時にふと思いだす。「なに?」不思議そうに首を傾げるリンクくんを横目に、二階に置いてある鞄を持って戻る。


    「これ、君にあげるよ」


    鞄から取りだしたのは、黒と赤、二色のV字模様で編み上げたミサンガ。ミサンガには色やつける場所によって意味があることを知ったのは社会人になってからだ。黒は魔除け。赤は勝負事への願掛け。そう遠くないうちに厄災へと戦いを挑みにいくリンクくんへ、ささやかながら私からのお守りである。


    「これは…?」

    「ミサンガって言ってね、私のところでは、この紐が自然に切れた時に願い事が叶うってジンクスがあるんだよ。まぁ、必ず叶うってわけじゃないし、どっちかというと、私の場合は願い事っていうより、ゲン担ぎって意味合いの方が強いかな」

    「ゲン担ぎ…」

    「そ」


    リンクくんの手を取り、その上にミサンガを乗せる。そのまま握り込ませた手を、祈るようにぎゅ、と両手で包み込んだ。


    「お守りだよ。リンクくんが、無事に行って帰って来れますように」


    厄災と戦うことがどういうことなのか、正直なところ私には推し量ることができない。話を聞いて、理解はできるけど、本当の意味での共感なんてできないのだ。
    色んな人の思いや願いを背負い込むリンクくんだけど、彼自身の願いだってあっていいはず。そして、その中に、ほんの少しだけ私の無事でいてほしい祈りも混ぜてくれたら、なんて。


    「ありがとう、ツバキさん。大事にするよ」

    「大事にするも何も、切れないと意味ないんだって」

    「だって、せっかくツバキさんが作ってくれたものだし…。ねぇ、これつけてみてもいい?」

    「いいよ。リンクくんの場合、利き足首につけるのが正解だよ」

    「つける場所によって意味があるの?」

    「あるっちゃあるけど、まぁ、気にしなくていいよ」

    「ふーん…じゃあ、左の手首につけようかな」

    「話聞いてた?」

    「聞いてた聞いてた。けど、足首だとブーツで見えないし、さっきツバキさん気にしなくていいって言ったしね。見えるところにつけて、これを見る度にツバキさんが応援してくれてるんだって感じていたいの」


    「それに、なんとなく色がツバキさんっぽいしね」なんて言いながら、さっそく左手首にくるくると巻き付けるリンクくんに唖然とする。小っ恥ずかしいことをよくも平然と。
    というか、私っぽい色ってなんだ。


    「ツバキさん、結んで結んで」

    「…はいはい」


    差し出された左手首に巻き付くミサンガ。その端っこをぎゅっと解けないように固結びをした。
    願わくば、ほんと、どうか無事で。
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