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    夢小説を投げるところ

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    「くじらが空を飛ぶまで」
    BotWリンク夢小説

    6「バーイミーツボーイ?」


    お水のおかわりをつぎながら首を傾げると、テーブルに座るルシルさんは綺麗な顔をぐ、と顰めさせた。

    彼女、ルシルさんは、昨日からハテノ村に滞在しているゲルド地方の人で、そこの風習にならって旅をしながら運命の男の人を探しているのだそう。
    前にもハテノ村にゲルドの行商の人がやって来たけれど、その時はタイミングが悪くその地方の話を聞くことができなかったので、夕食後に共有スペースでルシルさんからゲルド地方について色々話を聞いていたのだ。
    基本ハテノ村から出ることがないので、よその地域から来た旅人や商人などの旅の話や出身地の話は聞いていてとても楽しい。行ったことないのに行った気になる。


    「違う、ヴァーイミーツヴォーイ、だ。下唇を噛むように発音するんだよ」

    「バーイ」

    「だから違うと…はぁ…もういい」


    下唇を噛んで発音する習慣がなさすぎて英会話初心者みたくなってる私に、ルシルさんは早々に諦めたのか深海よりも深そうなため息を吐いてグラスの水を煽った。なんか、ごめん。
    ヴァーイミーツヴォーイ、フルーティで甘く、飲みやすいがやや度数が高めのゲルドでしか売られていないお酒らしい。そういえば、ここに来てからというものの久しくお酒を飲んでいないな。アルコール依存症でもないから飲まないなら飲まないで生活に支障はないけれど、ヴァーイミーツヴォーイの話を聞いていたら久しぶりにお酒が飲みたくなってきた。


    「ゲルドってここから遠いですか?」

    「そうだな…馬を走らせて大体四、五日ってところかな。馬車ならそれにプラスでもう少しかかる」

    「馬か…」


    残念ながら私は馬に乗れないし、だからとて、旅慣れなんてしてないうえに戦えないから歩きなんて論外だ。だとしたら、必然的に選択肢は馬車移動一択になるわけだけど、大体片道を一週間として、往復で二週間程、さらにゲルドに滞在する日数も考えたら、半月も仕事を休まなければいけなくなる。それは…無理だな…私、最低でも7時間は働かないと未だにちょっと落ち着かないんだけど…。

    せめて持ち帰りとか、輸入みたいなのをしててくれたら嬉しいんだけどなぁ。そうルシルさんに言うと、ヴァーイミーツヴォーイはゲルドにある氷室の氷で作られるため、長時間の保存は不可能なんだと。

    だから、ヴァーイミーツヴォーイを飲みたくば現地に赴くしかないらしい。「もしゲルドに行く機会があれば一度飲んでみるといい。美味しいよ」そう言い残してルシルさんは村の散策をしに行くのか、トンプー亭を出て行ってしまった。
    はぁ。ため息を一つ。


    「現地かぁ………遠いなぁ…」

    「旅行がてら行ってきたらいいじゃない」


    さらり、まるで、近所に買い物に行ってくればいいじゃないというようにツキミさんが言った。行ってきたらいいじゃないって、そんな、ちょっとそこまでって距離じゃないんですけど。ツキミさんゲルドがどこにあるか知ってますよね。
    じっとり、少し困惑を混じえてツキミさんを見つめると、片目を瞑って肩を竦めてみせた。いや、どういうリアクション。


    「そう言ってもらえるのは嬉しいですけど、さすがに半月も休むのは収入的にも厳しいというか…」

    「そのへんは心配しなくとも大丈夫よ」


    何が大丈夫なのか全然わからないうえに具体的にどう大丈夫なのか詳細に教えてほしいところではあるけど、まぁ、ツキミさんのことだから言葉通り大丈夫なんだろうけど、それはそうとして、正直、半月分の給金が減ることへの不安しかない。
    それでもツキミさんは「ツバキは給料以上に働いてくれてるからたまには休んでどっか行ってきな」なんて言ってはくれるけど、素直に大手を振ってじゃあ行ってきますって言えないのが悲しい現実である。
    ぐぬぬ…とゲルド行きを悩む。行きたい。だけど収入が。

    いよいよ自分の中で蒟蒻問答が起き始めたから「とりあえずいったん保留で」ということでこの話は終わった。まぁ、今すぐゲルドに行きたいってわけじゃないし、それなりに貯金もできるようになったとはいえまだまだ生活に余裕があるわけじゃない。それなら、慌てて今すぐに行かなくてもしっかりお金を貯めてからゲルドを満喫した方が建設的というもの。いつか来たるゲルドへの旅に思いを馳せながら業務を頑張るとしよう。
    ふんす、と意気込みながら玄関先の掃き掃除をするべく箒を片手にドアノブを回した。





    それからというものの、ツキミさんからゲルド旅行の話が出ることはなく、私もわざわざ話題に出すこともなかったので特に何もないままいつもと変わらない日々をすごしていた。リンクくんも、ちょくちょく帰って来ては一緒に食卓を囲み、何日か留まったらまた再びハイラルの大地を駆けて行く。ハテノ古代研究所にお裾分けを持っていくついでにプルアとお茶を飲んでだべったりと、至っていつも通り。

    そんな日々が七日ほど過ぎた頃だろうか。

    夕方からのシフトに向けて少しばかりまったりとしていた時、いつも夕方から夜中にかけて帰ってくることが多いリンクくんが、珍しく昼間に帰ってきた。何やら大荷物を抱えて。


    「ツバキさん、今すぐに三週間分の旅支度して」

    「え、は?何何何?どしたん急に。てか私これから仕事…」

    「いいから早く早く!」

    「ちょ…!」


    急かすように背中を押され、二階へと追いやられる。三週間分の旅支度?何それ…てか、え?旅支度って何?私を一体どこに連れて行こうと言うのかね?てか、元の世界で一週間の旅行にすら行ったことがない私が三週間分も一体何を持っていけば。
    完全に脳内大パニックである。私のクローゼットがある二階に来たはいいけれど、いや、マジで何を用意すればいいの。
    何がなんだか、情けなくも状況が把握できなくて立ち尽くす私を見兼ねたのか、二階へと上がってきたリンクくんが「ツバキさん、クローゼット開けるよ」と遠慮なくクローゼットを空け放ち、私の服やら下着やらその他諸々をぽいぽーいっとベッドに並べていった。歳下に無慈悲にクローゼットを暴かれるこの……いや、別にいいんだけども…
    思わず遠い目で虚空を見つめた。


    「とりあえず着替えとかはこんなもんかな。ツバキさんって大きい荷物袋とか持ってなかったよね?だったら俺の貸してあげるからとりあえずこれに積めてっと…」

    「ねぇ…ねぇリンクくん…」

    「ん?何?」

    「あのさ、話が全く見えないんだわ…。というか、傍から見たら君、間違いなく私のクローゼットから下着やら諸々を強奪していく泥棒みたくなってるからね?」

    「へ?」


    動きを止めたリンクくんは、今まさに荷物袋に入れようと左手で握りしめたものを見、次に私を見、もう一度左手を見て、ぶわり、首の根元まで真っ赤にさせた。


    「え、あ、ご、ごめんなさい!!!!」

    「いや、いいんだけど…むしろそんなの触らせてしまってこっちがごめんというか…」

    「ごめん…ごめんツバキさん…俺そんなつもりじゃ……こうなったら腹を切って詫びるしか…」

    「こうなったらってなんだよ…代償の比例がおかしいからいったん落ち着け?な?怒ってないからさ」


    すっかり部屋の隅っこに引きこもってしまったリンクくん。気まずそうにちらちらと私を見あげてくる空色の目玉を横目に下着を回収して、どうしたもんか、とがしり、後頭部を掻いた。


    「とりあえず、急に三週間分の旅支度ってどういうことか聞いてもいい?話が全く見えない上にどういうことか全然ついていけん」

    「え?ツキミさんから聞いてない?おかしいな…俺てっきり、もう聞いてるんだと思ったからツバキさんが家にいるのかと…」

    「いや、何も聞いてないよ。家にいるのも、今日のシフトが夕方からだったから…てか、え?どゆこと?」

    「そうだったんだ…。あ、シフトで思い出したけど、今日のツバキさん、仕事休みになりました」

    「は?」

    「もっと言うと三週間の休みももらってます」

    「え、え?なん…え?」

    「ツバキさんが気にしてたことも心配いらないから安心してゲルドに行ってくればいいよって言ってた」

    「待っ…なん………」

    「水臭いなぁ。俺とツバキさんの仲なんだから、言ってくれたらどこにだって付き合うのに」


    …うん、なんとなく話の全貌が見えてきたような、そうでもないような。ようするに、私の想像があってるならつまり、そういうことだと思うのだけど。
    思わず半目になってリンクくんを見つめれば、さっきまでのしょんもり顔はどこへやら、打って変わってにこにこと、それこそ満面の笑みと言っても過言ではないような顔で私の両手を握ってきた。


    「一緒にゲルドに行こう!」


    色々ツッコミどころはあるけれど、これ、多分ツキミさんとリンクくん、裏で繋がってたな。そう思わずにはいられない私であった。





    「ツバキさん、大丈夫?つらくない?」

    「うん…多分大丈夫……」

    「もうすぐ馬宿だから、そこに着いたらいったん休憩しよう」


    あのあのすぐに状況を察した私は、こうなったらうだうだ考えずに行ってやるよ!!の気持ちで三週間分の荷物をまとめ、リンクくんと共にゲルドへの旅に繰り出したのだった。

    初めての乗馬での長旅。正直に言うと、全くもって大丈夫ではない。けれど、リンクくんに気を遣わせるわけにはいかないから大丈夫としか言えない。
    馬に乗ったことがないということでリンクくんの馬…エポナに相乗りさせてもらっているわけだけれど、四足歩行の生き物特有の揺れと、乗り慣れない馬の背中にどこに体重を置けばいいかわからない私なわけで。両手も、とりあえず落ちないようにリンクくんのフードの裾を握り締めてはいるけど、全身に力が入りまくってる私の緊張を感じ取ってか、エポナも歩行中に時折不機嫌そうに足を踏み鳴らす。いや、ごめん、ほんとごめん。乗る人間がこんなだと不安になるよな…ごめんな…ごめんな…
    心の中で謝るしかできない。

    私の知らないところでリンクくんとツキミさんが手を組んでいたらしいことを悟り、思わぬところでゲルドに行くための三週間ほどの休みをもらった私。せっかく行くのなら全力で楽しみたいし満喫してやる。
    …なんて、意気込んだのもつかの間。折り返し地点に到達していないどころかハテノ村を出発してそんなに時間が経っていないにも関わらず私の腰は早くも悲鳴をあげていた。ついでにちょっと心も折れそう。


    「ごめんリンクくん…私が乗馬できないばかりに…。この調子だとリンクくんに迷惑しかかけない気がする…エポナもこめんね…」


    全くだ、と言わんばかりにエポナが鼻を鳴らした。


    「出た出た、ツバキさんの遠慮しいだよ。すーぐそうやって俺に気を遣うんだから」

    「別にそんなつもりじゃ…ただ、リンクくんも色々大変なのに、私まで負担になりたくないというか…」

    「はぁ〜?!何それ!負担だなんて思ったことただの一度もないですけど!?俺にはせっせと世話焼くくせに、逆にツバキさんは俺を頼ってくれない!俺泣いちゃう!」

    「これでも結構頼ってるつもりなんだけど…」

    「どこが!?というか、ツバキさんはむしろもっと我儘言ってくれないと困る!今日だって、俺がツバキさんと一緒に行きたくてしてることなんだから、これ以上そんなこと言ったら怒るからね」

    「えぇ…」

    「…まぁでも、それはそうとしてたしかにこのままじゃ予定より時間はかかっちゃうかも」

    「う…」

    「ツバキさん、いったん両手離してくれる?」

    「え?うん…」


    エポナの足を止めたリンクくん。恐る恐る両手をリンクくんのフードから離した。「そのまま俺の脇から両手を突き出して」言われるがままそろっと両手を前に持っていった瞬間、手綱を握っていたはずのリンクくんの手が私の手を掴まえ、ぐいっと引っ張られる。「うわっ…!」情けなく悲鳴をあげながら目の前の背中に強かに鼻先をぶつければ、頭の上から押し殺すような笑い声が降ってきた。じろり、半目で睨め付ける。


    「…ちょっと」

    「んっ…ふ、ふふ…ツバキさん、すごい声」

    「急に引っ張ったら誰だってびっくりするって!というか、何、この体勢」

    「ツバキさんが怖がって無理に自分でバランス取ろうとするから、エポナが歩きにくいって」

    「ぐ…」

    「こうすれば少しは楽でしょ?体重も、俺にかけてくれていいからね」


    ぽんぽん、腰周りに回した(回された)私の腕を撫でたリンクくんは再び手綱を握り直し、エポナを歩かせる。…たしかに、さっきより今の方が幾分か姿勢が楽だし、落ちるかもって不安もだいぶ減った。…だけど、この体勢はやっぱ少し恥ずかしい気がする…


    「…リンクくん」

    「異論は受け付けませーん。ツバキさんはそうやって、大人しく俺のことを抱きしめててくださーい」

    「なんだそりゃ」


    なんか、恥ずかしい通り越して一気に気が抜けたような気がする。
    ゆらゆら、ゆらゆら、エポナの歩みに合わせて目の前の柔らかい稲穂色が揺れる。それが時折鼻先をくすぐって、改めてお互いの距離の近さになんとなく気まずくなる。私たち、それなりに距離感は近い方ではあったけれど、ここまで近付いたのは初めてかもしれない。


    「…リンクくん、背中おっきいね」

    「そうかな?急にどうしたの?」

    「なんとなく?」


    姉ちゃんだったから、弟たちに背中を貸すことはあれど、借りることなんて今までなかったから、こうやって、誰かの背中に体を預けるの、慣れてないんだよ。
    だからか、なおのことちょっと、そわそわする。「変なツバキさん」そう言って笑うリンクくんに「そうかもね」なんてかわいげのない返事。至っていつもの私たちだ。


    「逆にツバキさんは、少し縮んだ?初めて会った時は俺とあまり目線が変わらなかったような気がするんだけど」

    「リンクくんは成長期だからね〜。いっぱい食べて大きくおなり。そして太れ」

    「ツバキさんが作ってくれる料理が美味しいからすぐに太っちゃうかもしれないね」

    「どの口」

    「この口」

    「減らず口め」

    「誰かさんに似たんだろうね」

    「ぐぅ…ほんっと、くそ生意気になったな…」

    「強かになったと言ってくれたまえよ」


    あぁ言えばこう言う。まるでどっかの誰かさんみたいだ。
    いつの間にか口達者の減らず口になったリンクくんに私の片鱗を見つけて、なんとも言えない気持ちになる。まるで本当の兄妹みたいに気兼ねなくて、どこか懐かしく感じるやり取りがとても楽だ。
    お姉さん、君には私の影響なんか受けずにもっと素直でいてほしかったな…。なんて思うけど、それだけ同じ時間を共有してきたんだと思うと、嬉しさ半分、恥ずかしさ半分ってところか。

    ゲルドまでまだまだ道のりは長い。こんな調子でふざけたり、時には軽口を言い合いながらエポナに乗って歩く道中は、いつの間にか時間も忘れるくらいには楽しいもので。気付いたら最初の目的地である双子馬宿にたどり着いていたのは、夜の帳がすっかり落ちきった頃だった。

    初めて見る馬宿は、本当にテントが馬の形をしていた。遠くからでも旅人が見つけやすいようにとこの形なのだそう。「俺は宿取ってくるから、ツバキさんはここでエポナと待っててくれる?」私に手綱を握らせるや否や、瞬く間に馬宿の中へと消えていったリンクくん。いつも思う。行動が俊敏。


    「…エポナ、今日はありがとう」


    傍らのエポナに話しかけるも、当の本人はふん、とそっぽを向いたままだ。思わず苦笑いをした。
    リンクくんから、エポナは自分以外にあまり懐かないんだって話をちらっと聞いていたから、この反応を返されても特に何か思ったりはしないけれど、でも、それなのにここまで私も自分の主人と一緒に乗せてくれたエポナは間違いなく優しい馬だと思う。
    途中からはリンクくんのおかげでそうではなかったけれど、序盤はエポナはだいぶ歩きにくかっただろうに。


    「まだまだ迷惑かけるかもしれないけど、ゲルドまでもう少しだけよろしくね」


    そう言うと、エポナはちらりと私を一瞥したあと、仕方ないな、と言うようにぶるると鼻を鳴らした。



    ***



    初めて宿泊した馬宿は、疲れていたのもあってどんな感じだったのかはあまりよく覚えていない。慣れないことばかりだったからか、文字通り泥のように眠りについて、馬宿に入り込む朝日の眩しさで目を覚ましたのだった。
    私より幾分か先に起きていたらしいリンクくんは、馬宿の外に備え付けられている料理鍋で何かを作っていたらしく、私に気付くと「おはよう」と朝日も顔負けの笑顔で挨拶をしてくれた。久々に私の目が眩しさで溶けたかと思った。
    リンクくんが作ってくれた朝ご飯を食べてから双子馬宿を出た私たちは、再びエポナに乗って道中を歩いた。時々襲いかかってくる魔物をリンクくんが倒してる間、邪魔にならないようにエポナと共にやや遠くからそれを見守る。
    そして平原外れの馬宿と、さらにもう少し先にあるゲルドキャニオン馬宿で一泊ずつして、そこでエポナを預けてからはカラカラバザールまで徒歩で行く。
    その途中で気付いたのだけど、いや、もっと早くに気付けって話なんだけど、私、馬宿の宿泊費を三泊とも全部リンクくんにはらってもらっていた。これは、あまりにも歳上、否、大人としてあるまじき失態である。慌ててリンクくんにお金を返そうとしたのだけど、当の本人は「初めての旅なんだから俺に出させて」なんて言ってくるときた。そうじゃない。そうじゃないんだ少年…私は歳下にお金を出させたくないんだ…。そんな私の嘆きは「じゃあ帰りの宿代はツバキさんに払ってもらったら貸し借りなしだね」という言葉と共に一蹴された。多分だけど、これ帰りも払わせてくれないやつかもしれない。

    どうにも腑に落ちないままカラカラバザールとやらまで、ひたすら遠くに広がる砂漠を歩いく。
    初めて歩く砂漠は、昼間ということもあってめちゃくちゃ暑い。でもって砂は歩きにくいし、中学の修学旅行で歩いた砂丘とは次元が違った。
    時折吹き荒ぶ風が砂を巻き上げ、全身を打ち付ける。砂に足を取られる私の手を引きながらゆっくりと私にあわせて歩いてくれるリンクくんに果てしない申し訳なさを抱えながら、カラカラバザールにたどり着く頃には砂やら汗やら何やらですっかりベトベトになっていた。


    「今日はちょっと早いけど、ここで宿取って休憩しようか。明日の朝一で出たら昼過ぎくらいにはゲルドに着くと思う」


    カラカラバザールに唯一ある宿屋の前でリンクくんが言う。旅に慣れない私のためにこまめに休憩を取ってくれたり、気遣ってくれるリンクくんは将来間違いなくできた旦那になるだろう。謎の確信を持っている。
    本当に、何から何までずっとお世話になりっぱなしだ。「ありがとうね、リンクくん。君が一緒にいてくれて本当に助かった」そう言うと、リンクくんは照れたような、嬉しそうな、そんな顔でへにゃりと笑うから、言ったこっちまで照れくさくなったのは本人には内緒である。

    そして、早朝。少し早めに起きた私たち。まだ外が暑くなり始まる前にカラカラバザールを後にする手筈だったのだけど、不意にリンクくんが「実はツバキさんに黙ってたことがあるんだよね」なんて、深刻そうな顔でぽつりとこぼした。


    「え…何…?どうしたん急に…」

    「ゲルドって実は男子禁制なんだよね」

    「…は?」


    急に何を言い出すのかと思えば、本当に深刻な問題すぎて一瞬何を言われたのかわからなかった。男子禁制?初耳ですけど?てっきりリンクくんも普通に街に入れるかと思ってたんですけど?というか入れるから一緒に来てくれたのだと思っていたんですけど?じゃあ何か…ここからゲルドまで私一人で行くってこと…?いや、目視できる範囲でゲルドの街は見えてるから行けないことはないけど、え?そんな、護衛をさせるためだけにリンクくんに同行してもらったわけじゃないんですけど!?
    とんでも暴露に大混乱を起こしている私にリンクくんは「大丈夫、ツバキさんを一人になんてさせないから」なんて、傍から聞いたらときめき必須であろうセリフを宣ったけれど、君が男である限り結局私は一人で街に入るしかないんだよね。なんて、ぼやく。


    「大丈夫。任せて」


    何が?
    どこから来るのだろう、自信満々にサムズアップをしたリンクくんは、先程出てきたカラカラバザールの宿屋の裏手に消えて行った。





    「サヴァーク。なんだ、君か。今日は友達と一緒とは珍しいな。ゆっくりしていってくれ」

    「はーい!今回もお世話になります!」


    そう言って街の門番であろうゲルドの人に、いつもより高い声できゅるん、とあざとく笑顔を振りまくリンクくんを遠い目で見つめた。

    数時間前、宿屋の裏手から出てきたリンクくんは、女の子だった。何を言ってるかわからないと思うけどわたしもわからない。なんか、うん、女の子だったのだ。
    正確には、物語などでアラビアンの女の子が着てるような、あんな感じの衣装を纏って女装したリンクくんなのだけれど、元の顔立ちがかわいらしいのも相まって、口布で覆ってしまえば少し体格のいい女の子にしか見えないわけで。
    任せてと言われた真意がまさか女装とは…とスペースキャットかくやの虚無に陥った私に「違う違う!断じて俺の趣味とかじゃないから!ゲルドに入るにはこうするしかないの!」と必死に弁明をするリンクくんだけど、その口ぶりからして女装して何回かゲルドに入り込んだことがただ私に露呈しただけなことに早く気付いてほしい。
    「ちなみにツバキさんのもあるから」と嬉々として自分の荷物袋から似たようなデザイン違いの衣装(淑女の服というらしい)を引っ張り出してきたリンクくんに、どこで育て方を間違えたんだろう…と虚無が加速したことは言うまでもない。

    そんなこんなで(上手いこと言いくるめられて)淑女の服を着込んだ私とリンクくん、もとい、リンクちゃんは、四日ほどの旅を経て、夕方頃、ついにゲルドの街に足を踏み入れたのだった。


    「わ…すごい賑やか」


    ゲルドの街は、それはそれは賑やかだった。あちこちに立ち並ぶ露店には所狭しと様々な商品が並べられていて、異国特有の匂いや、街ゆく人々はみんな背が高く、聞き慣れない言葉が時折耳に飛び込んでくる。サヴァーク、とさっきの門番の人は言ったな。どういう意味だろう。ニュアンス的には、こんにちは、に近いのだろうか。


    「ゲルドはね、交易としても有名な街で、特に宝石の加工なんかはハイラルいちって言ってもいいくらい有名なんだよ」

    「そうなんだ」


    リンクくんに街の中を軽く案内してもらいながら、ひとまず三日間滞在する予定の宿屋へ足を向ける。まずは何をするにしろ、この大荷物を置いてからにしたい気持ちは私もリンクくんも同じである。
    慣れたように、けれど不慣れな私を気遣うように手を引いてゆっくりと歩くリンクくんの背中を追いかける。宿屋は街の入口からそう遠くない場所だったらしく、トンプー亭とはまた違った雰囲気の内装を物珍しく眺めている間に、受付の人と二、三言話したリンクくんに手を引かれ、部屋に連れられる。なんと、個室。私の知らぬところでいつの間にか個室を取っていたらしいリンクくん、マジでいつの間にって感じだしあまりにも用意周到すぎて一周まわってビビり散らかしたけれど、そういえばこの子、女装してるんだったな…そらいるよな、個室…と思い直す。
    ゲルドの宿屋はトンプー亭と同じく、ベッドに仕切りと天蓋はついているものの、部屋自体はオープンスペースになっている。
    トンプー亭にも、実は一応一室だけ個室はあるのだ。様々な理由で個室がいい人はどこにでもいる。だから、そういう人のために受付で申請してくれれば個室で寝泊まりできるようになっているのだ。
    リンクくんはその宿屋のシステムを知っていたらしく、事前にその個室を押さえていたのだそう。


    「わ…思ってたより広いね、ここの個室」

    「でしょ?たまにここ使わせてもらうけど、すごく快適だからツバキさんもきっと気にいると思うよ」


    リンクくん、ついぞ隠さなくなったな…まぁ、もう女装してることについてはなんとも思ってないから別にいいけども…
    口布と頭飾りを取ったリンクくんが大きく息を吐きながらベッドに寝そべるのを横目に荷解きを始める。
    これから街を見て回るには日が暮れすぎている。きっとそう時間が経たないうちに店じまいを始めるところは多いだろうから、街散策は明日にしようかな。


    「ツバキさん、この後まだ体力は残ってる?」


    明日のプランについてぼんやり考えていたら、ベッドから上半身だけ起こしたリンクくんがこてん、と首を傾げた。


    「え?うん、まだ大丈夫だけど…どうしたの?」

    「なら、さっそく行こうか!」

    「…どこへ?」

    「もぉ〜、ツバキさんったらとぼけちゃって!ヴァーイミーツヴォーイ、飲みたいんでしょ?」


    そういえば今回の旅の目的はそうだった、と目を瞬かせる私を「絶対忘れてると思ってた」と笑うリンクくんであった。

    簡単に荷解きをした後、リンクくんは再び口布と頭飾りをつけ直して宿を出た。
    さっきまでほんのり茜色で、まだそこそこ賑わっていた表通りはすっかり閑散としていた。完全に日が落ちてしまったゲルドの街は、肌を刺すような暑さがあったのが嘘のように今は肌寒いを通り越して少し凍えそうだ。砂漠は昼と夜で温度が急激に変わることは知っていたけれど、実際にその差を体験するとその温度差に文字通り震える。「さっむ…!!」リンクくんから言われて持ってきた厚手のカーディガンを羽織ってても寒さが貫通してくるから、思わず両手で腕をさすった。


    「こっちだよ」


    する、と私の手を取ったリンクくんは、そのまま手を引いて宿屋のすぐ近くの路地に足を向ける。そこを抜けた先にある階段を上ると、いつぞやにルシルさんが言っていたヴァーイミーツヴォーイを取り扱っているバーがあるのだそう。
    ぼんやりと明かりが灯る向こう側で何人かの賑やかな声が聞こえてくるから、それなりに人が出入りしているんだろうな。


    「ヴァーサーク。おや、ハイリア人の嬢ちゃんじゃないかい。今日は連れと一緒かい?」

    「サヴァサーヴァ、フロスさん。そうだよ。ここのヴァーイミーツヴォーイの話を聞いて、飲んでみたいってさ」

    「えと、こんばんは…」

    「サヴァサーヴァ。あんたかい?ヴァーイミーツヴォーイを飲みたいってのは」

    「は、はい。ハテノ村に来てくれたゲルドの方に教えてもらったので…」

    「そうかい。…ところで、随分幼い顔をしてるけど、飲みたいってことはあんた、ちゃんと飲めるクチかい?」

    「よく年確されますが私は27歳なので大丈夫です」

    「27!?」

    「なんだい急に」

    「え…ツバキさんって27歳…?」

    「あれ、言ってなかったっけ」

    「ツバキさんが女の歳はむやみに聞くなって言ったんじゃん!」


    「27に見えないから、お、私より少し歳上くらいだと思ってたのに…」と言うリンクくん。はいはいおべっかありがとう。君くらいの歳の子からはおばさんって言われてもおかしくない年齢だからね。


    「あんたの連れなのに知らなかったのかい?」


    呆れ返ったようにリンクくんを見やるフロスさん。その手は手際よくグラスにお酒を注ぎ、縁にフルーツを盛り付けている。そうして程なくして私の前に出されたヴァーイミーツヴォーイは、なんか、すごくお洒落な南国のお酒って感じがした。あまりにお陀仏すぎる自分の語彙力に自分が一番びっくりした。


    「はいよ」

    「ありがとうございます、フロスさん」


    せっかくだからこのまま立ち飲みでフロスさんとお喋りしてみたい気持ちはあるけれど、それよりも先にさっきからなぜかいじけてるリンクくんをどうにかしなければいけないわけで。
    さっと店内を見渡して、奥の席が空いているのを見つけたのでそこに移動するべくリンクくんの腕をぽんぽん、と叩いた。


    「リンクく…ちゃん、ここじゃ邪魔になるから奥に行くよ」

    「…はーい」

    「あの、奥の席借りますね」

    「ゆっくりしておいき」


    リンクくん用のオレンジジュースをフロスさんからもらって、それを本人に持たせてから反対側の手を引いて移動する。小さくて低いローテーブルを挟むように置かれた二人がけのソファー。そのうちの壁側にリンクくんを座らせてから私は対面のソファーに腰掛けたのだが、なぜかリンクくんが爆速で私の隣に移動してきた。なぜ。


    「…ねぇ」

    「……」


    むっつり、黙りこくるリンクくんは口布をしてても不貞腐れていることがわかる。一体何がこの子をそこまで不機嫌にさせるのか不明だが、とりあえず、せっかく作ってもらったヴァーイミーツヴォーイを一口飲んでみた。フルーツの甘さが口いっぱいに広がって、かと思えば後味もさっぱりとしていてとてもおいしい。フルーツ酒って聞いていたから、そこまで強いお酒じゃないのかなって思っていたけど、思いのほか結構度は強そうだ。けれどアルコール特有のあの匂いがしないから、するするっと飲んでしまう。これは、自分で加減をしておかないとへべれけになってしまうやつだ。
    くい、とさらにグラスを傾け、二、三口。まぁ、このくらいならまだまだ大丈夫だな。


    「…いつまで拗ねてんの」


    先に沈黙に耐えきれなくなったのは私の方だった。


    「別に拗ねてなんか…」

    「でもいじけてる」

    「う…」

    「どこにいじける要素があったのか全くわかんないんだけど…」

    「だってぇ〜」


    どすっと勢いよくリンクくんが私にもたれかかって来た。もはや座ったまま突進されたと言っても過言ではない勢いだ。あまりに突然過ぎてこぼしそうになったグラスを慌ててローテーブルに置くと、それを見計らったように「う"〜〜〜」と呻き声を上げながら私の肩に頭をぐりぐりしてきた。ドリルすな。


    「何、なんなの。そんなに私が年増だったことが嫌だったの。すまんな」

    「誰もそんなこと言ってないぃい〜」

    「じゃあ何…」

    「……年齢ってさ、どう頑張ったって絶対に追いつけないんだよ」

    「まぁ…そらそうだわな…」

    「…ツバキさんが急に遠くなったような気がした…」


    あまりにもしょうもなすぎる理由にため息を吐こうとして、やめた。代わりに、ぽすり、私の肩に頭突きドリルしたままの体勢でいる頭に反対の手を乗せた。そのまま、なでり、なでり、手を左右に揺らす。


    「リンクちゃんはかわいいね〜」


    たかだか年齢が離れたごときで寂しがるリンクくんはほんとに子供だ。だから、こうやってわざと子供扱いすればすぐに噛み付いてくる。「すーーぐそうやって話逸らして俺を子供扱いする」ほらね。


    「逸らしてないしリンクちゃんは実際ガキだからね」

    「ガキって言った!!え!?ひどくない!?」

    「やーいやーい」

    「は!?ガキじゃないですけど!?見てろよ!!」


    がばり、私の肩から頭を起こしたリンクくん。まずい、ちょっと言いすぎたかも。そう思って謝ろうと口を開いた瞬間、何を思ったか、目の前のリンクくんは私の飲みかけだったヴァーイミーツヴォーイを一気に呷った。は??


    「は!?」


    ぐびぐび。それはそれはもう清々しいくらいの飲みっぷり。どこぞの飲み会なんかでこんな飲み方をしようものなら上司からの格好の餌食になることは間違いなしである。いや、違う。そうじゃない。今はそんな場合じゃない。
    ぷはっ!と息をついたリンクくんは、ヴァーイミーツヴォーイが入っていたグラスを私に突き出し、得意げに胸を逸らした。


    「ガキじゃないから酒だって飲める!」

    「ば、馬鹿!!何やって…ヒッ…み、未成年に酒を…!!」

    「どうだ!」

    「どうだじゃねぇよ!!」


    慌ててリンクくんの手からグラスを取り上げる。ど、どうしよう、事故とはいえ、未成年に酒を飲ませてしまった。いや、正直言うと事故かさえも怪しいところではあるけど、確実に私の監督不行き届きなのは間違いない。なんてことしてくれやがったこの野郎。
    というか、私まだ少ししか飲んでなかったのに。

    未成年に酒を飲ませてしまった罪悪感で顔を青くすればいいのか、楽しみにしていたヴァーイミーツヴォーイを全部飲まれてしまったことに怒ればいいのかわからない。建前は前者。本音は後者。混乱と焦りで自分がカスみたいなことを思ってる気がしてならないが、そうこうしてる間にみるみるうちにリンクくんの顔が真っ赤になっていく。これは、まずい。


    「ちょ、大丈夫!?水もらってくるからちょっと待ってな……っ!」


    フロスさんから水をもらおうと立ち上がろうとした瞬間、ふらふらと頭を揺らしていたリンクくんが突然私の腰あたりにしがみついて来た。


    「つばきひゃん!どこいくんれすか!」

    「呂律回ってないな!?水もらいに行くんだよ!だから、おま、いったん離して…」

    「やら!」

    「なんで!」

    「子供扱い、てっかいしてくれるまれ、はなさない!」

    「わかったわかった!もうガキって言わないからとりあえず水飲みな?ね?急に動いたらふらふらするだろ」

    「うっ…うぅ…おいてかないでよぉ…!」

    「泣き始めた…!?」


    リンクくん、酒弱いんだな…とか、あまりにも情緒ジェットコースターすぎんか、とか、度数の強い酒を一気飲みして大丈夫なんか、とか、色々思うところはあるけれど、いい加減他のお客さんからの視線が痛すぎる。「あんたたち、何騒いでるんだい」ついぞ見かねたフロスさんがやって来てしまった。


    「さ、騒いですみません…!リンクく、ちゃんが間違えてヴァーイミーツヴォーイ飲んじゃったみたいで、この通り……う、わ」


    人の腹に顔を押し付けてぐずぐずと泣いていたリンクくんの体から急に力が抜けた。不意にかかってきた体重に思わずソファーからずり落ちそうになるけど、咄嗟にリンクくんの頭を抱えることでどうにかそれを回避した。「リンクちゃん?」とんとん、と背中を叩いてみるが、無反応だ。むしろ、緩やかに上下する背中は…もしかして、寝てる?


    「もしもーし」

    「…すぅ…」


    あ、寝てる。完全に落ちてるわこれ。…なんだろう、なんか、すごく、振り回された気分。
    私にしがみついたまま寝こけるリンクくん。正直、宿屋だったらまだしも、ここは店である。何が言いたいって、これ、どうすればいいわけ。


    「この嬢ちゃん、とんだ下戸だね…。うっすら話は聞こえてきたけど、ちょっとおちょくりすぎたんじゃないかい?」

    「…まぁ、そうですね…」

    「なんだ、自覚があるのかい?…随分あんたのことを慕ってるみたいだからね。きっと寂しいんだろうさ」


    「とりあえず今日はその子連れて宿に戻んな」そういってことり、ローテーブルに水の入ったグラスを置いて、フロスさんはカウンターの奥に戻って行った。そうしたら、さっきまでちらちらと私たちを見ていた他のお客さんたちも、興味が失せたように再び自分たちの会話に花を咲かせ始める。


    「…背負っていくっきゃないよなぁ…」


    ぐ、とフロスさんが置いて行ってくれた水を半分ほど飲んで、未だにぎゅうぎゅうと腰にしがみついているリンクくんの腕をどうにか外す。中々外れなくてゴリラにしがみつかれてんのかと思った。

    お酒代と、騒いで迷惑をかけた分少し色をつけてローテーブルに置いて、どうにかリンクくんを背負う。申し訳ないが、すごく、重い。酒で潰れ、脱力しきった人間ほど重たいものはない。帰り際にカウンターの向こうにいるフロスさんに一言かけてからバーを後にした。

    ふらふら、ふらふら。お酒じゃない、人の重みで覚束ない足取りのまま、宿屋に向かう。道は覚えてるから大丈夫だ。


    「寂しい、ねぇ」


    誰に言うわけでもなく、ぽつり、呟いた言葉は闇夜に消える。不夜城、と呼ばれるだけあって、夜も更ける頃合なのに建物からは絶えず明かりがこぼれているおかげで、足元が覚束なく
    ともどうにか歩くことができる。

    リンクくんからそれなりに懐かれている自覚はあった。ただ、なんというか、あそこまで好かれているとは思ってなかったし、明け透けに好意を見せられたら、求められることに慣れていない私はどうすればいいかわからなくなる。だから、ああやって子供のように相手の気を逸らすことしかできない。
    慕ってくれているんだなっていうのは言われなくてもちゃんとわかっているし、それに気付かないほど鈍感じゃない。けど、リンクくんが寂しがろうが、開いた歳の差が埋まることは決してない。…というか、年齢ごときでなんで私が思い悩まないといけないのだ。食った歳はどうしようもないだろうが。
    ちらり、目だけを背中に向ける。腹が立つくらい人の背中で気持ちよさそうに爆睡を決めるこの稲穂頭を明日はどうしてくれようか、なんて。


    「つばき、ひゃん…」

    「…くそ重たい」


    はてさて、寝言で私の名前が出てくるなんて、一体どんな夢を見てるんだか。
    ずり落ちそうなリンクくんを背負い直し、近いようで遠い宿屋までの道のりを引き摺るように歩いた私だった。

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