一番星のゼリー 新作のスナック菓子が出たとか、商店街に新しくできたケーキ屋さんが美味しいとか、クラスでは新しいおやつの話が飛びかっている。けれど、シングマンにとっての一番は小さな時から変わらない。
――スプーン良し、飲みもの良し、まさに完璧!
3回目の確認作業を終えて、シングマンは大きく頷いた。ここに同い年の兄たち(特に真ん中あたり)がいれば、念入りすぎると揶揄われていたかもしれない。けれど今この部屋にいるのは、シングマンともう一人だけ。
「待たせたな、シングマン」
上の方から優しい声がかかる。ぱっと顔を上げれば、そこには微笑むザ・マンの姿があった。シングマンが口を開こうとする前に、目の前へガラスの器が差し出される。
「お前の好きなお星さまのゼリーだ。……ああ、それと飲み物もな」
コトンとスプーンの置かれる音と一緒に、思わず喜びの声がこぼれる。
星型のフルーツが浮かんだ、透明な青色。プルプルできらきらのそれが、お皿の上に乗せられている。星がいっぱいの夜空を小さく固めたみたいな、お星さまのゼリーだ。ちなみに味はサイダー味で、食べると少しだけシュワシュワする。これに本物のサイダーを合わせるのが、シングマン一番のお気に入りだった。
(うむ、今日もとても完璧だ! )
ぱちぱち、きらきら。飲みものと合わせて、音も見た目もとてもおいしそう。実に完璧なおやつ。他の兄弟たちがいない時は必ずこれを作ってもらうようにしている。そうするとザ・マンは「いつもコレだが……良いのか? 」と聞いてくれるが、悪いわけがない。
だってこのゼリーは、シングマンのためにザ・マンが作ってくれた特別なおやつなのだから。
シングマンはもっと小さなころから星を眺めるのが大好きだった。兄たちどころか弟にすら、早く寝なさいと注意を受けることがあるほどに。
そんな姿を見ていたザ・マンが、ある日のおやつに出してくれたのが〈お星さまのゼリー〉だ。
『ほらシングマン、食べられるお星さまだぞ』
そんな風に言って出してくれたゼリーは、何故か貝殻のかたちをしていた。ちょうど良いカップが無くて、別の型を代わりにしたのが理由らしい。後にそう教えてくれたザ・マンは申し訳なさそうにしていたが、それでも嬉しくて嬉しくて仕方がなかった。
ザ・マンがシングマンのために作ってくれた、ほかの兄弟も食べたことのない物だったのだ。嬉しくないわけがない。あの日食べたゼリーの味は、もっと大きくなっても絶対に忘れないだろう。
だから、シングマンにとっての一番はずっと変わらないのである。
「……シングマン? 食べないのか」
心配そうな声に、はっとする。いけない、考えごとをしすぎてしまった。慌ててスプーンを持つ。
「食べる、食べるぞザ・マン! 」
「グロロ……そんなに慌てることはない。さあ、召し上がれ」
「いただきます! 」
元気に手を合わせ、一すくいを口に入れる。
(……おいしい! )
ひんやり冷たくて、少ししゅわしゅわ。いつもの味が口の中いっぱいに広がって、シングマンは思わず笑顔になる。やっぱりお星さまのゼリーは完璧だ。
一緒に飲むサイダーも、ザ・マンがよく冷やしてくれているからパチパチが強くておいしい。今日のフルーツがパイナップルなのも嬉しい。全部が合わさって、とっても幸せだった。
ゆっくり食べていたかったが、もうじき兄弟たちの誰かが帰ってきてしまう。見つかってはいけない。これはシングマンだけの特別なおやつなのだ。
残念な気持ちを飲み込んでしまうように、おとものサイダーを喉に流し込む。爽やかなしゅわしゅわのおかげで、少しだけ気分が晴れる気がした。