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    ひつじのゆめ

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    ひつじのゆめ

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    アリでは? と思って書いたピスグです。
    ピークちゃんがかなり落ち込み気味なせいか、うっすら暗い内容です。あと謎時空。色々あって平和になった後も、不死が残っているものとしてご覧ください。

    知らなきゃよかった、こんなもの ふと、気づいてしまった。
     ピークア・ブーは歳を取らない。完璧超人の中でも選ばれし者であるから、当然のことだ。だから、万全の状態でずっと強さを追い求め続けることができる。
     でも、あの男はそうじゃない。いつか終わる命を燃やして、今日も誰かを救っている。そんな当たり前のことにふと気づいて、急に怖くなった。
     死んでしまうのだ、あの男は。ピークに新しい道を開いてくれた、キン肉スグルという男は。
     そう思うと堪らなくなって、気づけば墓場を飛び出していた。


    「……迷った」
     久しぶりにやってきた地上は、やっぱりよく分からない。昔と比べれば遥かに開かれた超人墓場だが、つい癖で中に篭りがちになってしまう者は多かった。その原因の一つに「地上のことがよく分からない」ということが挙げられる。当然だ、今まで碌に外の世界へ触れてこなかったのだから。
     斯く言うピークもまた、外を知らない超人の一人だった。それもリセットの影響で、特に筋金入りの。
     そんな事情を鑑みたネプチューンマンや、同じく外の世界を知りたい無量大数軍の仲間たちが、たびたび地上へ連れ出してはくれる。しかし、それでも分からないことはまだまだ多い。
     その結果が、この現状であった。
    (どうする……? 誰かに聞いて分かれば、それが一番なんだが)
     幸いにして、行きたいところ自体はハッキリしているのだ。ただ、そこまでの道のりが一向に分からないだけで。

     だが、ずっとこうやって迷っているわけにもいかない。ここは勇気を振り絞って、そこいらの誰かに聞いてみるべきだろう。超人でなく人間を選べば、完璧超人としての面子も保たれるはず。多分。
     そうと決まれば、次通った誰かに話しかけよう。意気込んだところで右肩を誰かに叩かれた。
    「ホギャッ⁈ 誰だ! 」
     思わず悲鳴を上げてしまったが、仕方ないだろう。全く気配を感じなかったのだ。超人の背後を取れるのだから、相手は超人であるはず。一体誰なんだと半ばキレ気味に振り返ったピークは、目を丸くする。
    「なははっ、良い反応じゃのう! ……でも大丈夫か? 迷子か? 」
     こちらの反応を揶揄い、かと思えば心配げに眉を下げる。くるくると分かりやすく表情を変える男は、今日の目的であるキン肉マンその人で。
    「……き、」
    「き? 」
    「急に! 声を! かけるな! 」
     喜びと照れ隠しが相まったピークは、やたら大きい声を出してしまったのだった。

    ***

    「それにしてもびっくりした……ちびるかと思ったぞ」
    「それは……悪かったよ」
    「いやまあ先に脅かしたのは私じゃし……こちらこそ、悪かったのう。ほれ、詫びに一枚おまけしてやろうな」
     そう言って手渡されたのは、最近買ったという個包装のクッキー菓子だ。さっき一枚食べたが、これがまあ柔らかくて美味しかった。味が二つあると言っていたが、そのもう片方だろうか。
    ウキウキと封を切り、口に放り込む。
    (……美味い! し、さっきと違う味がする……!)
    惜しむらくはサイズがとても小さいことか。まあ、本来は人間用の菓子だから仕方ないだろう。とても惜しい。

     幸せな気持ちで口を動かすピークは、キン肉マンの住むキン肉ハウスで寛いでいる最中だった。コタツ、というのは恐ろしいものである。完璧超人たる自分ですら、一瞬にして虜になってしまった。
     恐るべしだな、なんて思いながら出されたお茶を啜る。一息つく姿に、つい先ほどまでの慌てぶりを重ねるものはいないだろう。
     こうしてピークがのんびり出来ている理由は単純だ。先ほど一悶着あってからすぐ、本人が自宅へと案内してくれたのである。朗らかに「暇ならうちへ来んか? 」と。
     目的地への誘いとあって、ものすごく嬉しかった。何とか平静を装って了承したが、内心ではガッツポーズしていたくらいである。

     そんな思わぬ幸運に乗っかって、ここまでやって来られたわけだが。
     きょろ、とピークは室内を見渡す。何というか、狭い家だった。リングの部分を除けば、もしかすると墓場の自室の方が広いかもしれない。
     だが、空間の全てに生活があった。ここで暮らし、日々を過ごしている証がそこら中に刻み込まれている。
     そう思うと、どうしてか此処に来た理由が重く心にのし掛かってきた。
    (キン肉マンはいつか死んでしまう。オレを、置き去りにして)
     それは逃れようのない事実で、自然の摂理だ。だが――

    「ぬおっ⁈ な、何じゃい急に! 」
     驚きに満ちたキン肉マンの声に、ピークもまた肩を跳ねさせる。 そこでようやく、自身が彼の手を握りしめていることに気づいた。机上へ置かれたままになっていたのを、無意識に掴んでしまったのだろう。
     ちょうど、縋り付く先が欲しくて堪らなかったから。
    「……お前は」
    「ん? 」
    「お前は、いなくなったりしないよな? 」
     気づけば、そう口に出していた。恐らく状況を理解できていないだろうが、気にしてやれる余裕はない。正直、自分でも何を言っているかがよく分かっていないのだから。
     それでも、どうしても確認しておきたかったのだ。そうしないと、自分の中で何かが駄目になる気がした。

     ぐるぐる渦巻く思考を抑え込んで、青く澄んだ瞳を見つめる。呆気に取られているように見えたキン肉マンは、暫くして朗らかに笑った。
    「……ああ、当然じゃ。だからほら、こうして手を握り合うこともできる」
     その柔らかな笑顔に安心して、同時に心臓がちくりと痛む。
    ――これだって、いつまで出来るか分からないのに。
     思わず握った手に力がこもる。それと先の言動を合わせて、いつぶりかの癇癪だと判断したのだろう。
     片手だけ解いたキン肉マンは、あやすようにピークの頭を撫でた。
    「何じゃ、急に甘えたか〜? 全く仕方がないのう」

     仕方がないというわりに、その声も手つきも酷く優しくて、あたたかい。
     それが嬉しくて、同時に酷く苦しくて。
     何も返すことが出来ぬままに、ピークはぎゅっと唇を噛み締めることしかできなかった。
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