すりみ女子組の部活パロみて〜んだわ セッターの手から離れたボールが柔らかな曲線を描く。いっそ清々しいくらい捻りのないオープントスだった。速さも小難しいテクニックも必要ない、純粋な才能だけを高々と掲げるような、そんなボール。
コートはすでに動き始めていた。軌道を読んだネット際のブロッカーたちが、ごちゃっとレフトにまとまって並んいる。バレーボール専用の、凝った装飾のシューズが規則正しいステップを踏んでネットに迫る。アタックに備えた敵チームが緊張で息を詰める。ボールは上へ上へと昇り、最も高い位置についた時、ほんの一瞬動きを止めた。ゆったりと助走を踏んでいたエースが誰よりも素早く高く飛び上がり、そしてしなやかに腕を振る。
ピピーッ!
一際長くホイッスルが鳴った。
強い西日の差す狭い部室の中で、フウカは少しだけ手を止めてため息をついた。狭くて締め切られた部室はまだ少しだけ昼間の熱を残しているが、外から飛んできていた運動部の掛け声はいつの間にかすっかり聞こえなくなっている。ふと外を見るとキャップを被った野球部員がトンボを持ってダラダラと走っていた。もうそろそろ先生たちに帰宅を促されるような時間だ。なんとなくで始めてしまった整理整頓が思いの外長引いてしまったせいで、選手たちのトレーニング終了時間は大幅に過ぎている。薄情な彼女たちはせっせと部室の掃除をするマネージャーのことなんて忘れてもう家に帰ってしまっただろう。最も、そうするように言ったのは数時間前の自分なのだけど。
フウカはこの高校の女子バレー部の、唯一のマネージャーだった。戦績は地区抜け常連、県大会なら初戦敗退、運次第ではトーナメントを2回戦で敗退。公立校としては強いけど、私立高校に楯突けるほどの技術も人員もない。チーム内で特別上手い数人が無理やり周りを引き上げて勝ちをもぎ取るような、典型的なエース依存のチームだ。そのウダツの上がらないチームのマネージャーなんかをやっているのは完全に悪い成り行きだ。今のこの、どうしようもない状況のように。フウカはまたひとつため息をつく。古いボールに使い古しの横断幕、それから用途不明の箱。整理整頓をするつもりが、室内は前よりもずっと散らかってしまっている。
そもそも高々狭い部室の整理整頓如きにこんなにも時間をかけることになった原因といえば、自分の知らないボールやネットが棚の奥から溢れて出てきたことだった。どうやらこの部室は古くなった備品の引き継ぎが上手くできないまま今日まで来てしまったらしい。転がり出てきたネットは穴あきで、アンテナは片一方、ボールカゴは骨が飛び出ていた。奥の方に押しつぶされ隠れていたボールに至っては今の試合球から規格が2個ぶん古い。四角い布を噛み合わせるように作られたデザインのバレーボールは今時練習にだって使えない。あるだけ無駄である。それでもなるべくは綺麗に仕分けたつもりだったのに、部の歴史は思いの外長く重かった。掘り返しても掘り返しても古い物ばかり出てきてキリがない。これでは部室が狭いと文句が出てくるのも仕方がないだろう。部室の変更を生徒会に求めて却下されたのは記憶に新しい。そもそもがこちらの管理不足なのだから仕方のない話だ。
物を捨てるのだって簡単じゃないから、部室の片隅にはガラクタが積み上がってちょっとした山ができている。その処分のことを考えると気が滅入った。