Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    kazura12_R

    @kazura12_R

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 22

    kazura12_R

    ☆quiet follow

    オスカーのネクタイを結んであげるブラッドさまのお話
    ※ブラオス過去捏造
    ※紳士イベ微ネタバレ

    豪華なご馳走。華やかに着飾った大人達。
     無理やり着せられた高そうな服。
    ──俺は一体何故ここにいるんだ。
    「そんな端っこで何してるの?」
     会場の隅で周りをキョロキョロ見回しているとグラスを二つ手にしたフェイスに声をかけられた。
    「はい、あげる」
    「ありがとうございます。フェイスさん、あの、パーティーというものは生まれて初めてで……」
     大旦那様から「明日のパーティーはオスカーも出席するように」と告げられたのが昨晩のこと。それから心の準備をする余裕もないまま朝を迎え、まるで着せ替え人形のようにあれやこれや着替えさせられ会場に放り込まれた。最初はすぐ近くにいたブラッドも挨拶周りで離れてしまい、オスカーはどうしていいか分からず途方に暮れていた。
     これまで生きてきた世界と違いすぎる景色。
     ビームス家での生活に慣れ始めたばかりのオスカーは今すぐこの場所から逃げ出したい気持ちをぐっとこらえていた。
    「今日は立食だしそんな形式張ったパーティーじゃないから緊張しなくても大丈夫だよ。とりあえずそれ飲んで落ち着きなよ」
     フェイスから渡されたグラスには見たことのないシュワシュワとした液体が入っていた。
    「これは飲めるんですか?」
    「飲めないものを渡すはずないでしょ。オスカーってホント面白いなぁ」
     そう言うとフェイスは自分のグラスに入った液体を飲んで見せた。恐る恐るオスカーもグラスに口をつけると、ふわりとリンゴの香りが鼻腔に広がる。
    「美味しい?」
    「リンゴの味がしました。あと口の中でもシュワシュワしてます」
    「炭酸だしね」
    ──味は悪くないがシュワシュワさせる意味はなんだろう?
     不思議な飲み物をじっと見つめていると、少し離れたところからフェイスを呼ぶ声が聞こえた。
    「ごめん、ちょっと行ってくる。とりあえず食べたいものとかあれば取ってきなよ」
     また一人になってしまったオスカーは料理の乗ったテーブルに視線を向けた。
     緊張のあまり朝から何も口にしていなかったが、フェイスと会話をしたことで少しだけ気持ちがほぐれ空腹を思い出した。だが、あれをどう取ればいいのか分からず先程フェイスに聞かなかったことを後悔した。
     ここでもきっと何かしらマナーがあるに違いない。
     ビームス家に来て一番初めに教えられたのが挨拶だ。それから言葉使いや礼儀作法など様々なことを教わり、今後必要になることだからと大量の本を渡されたが覚えることが多すぎてほとんど手をつけられずにいた。
     分からないことを質問すればビームス家で働く人間は皆丁寧に教えてくれるが、どう見ても忙しそうな時は見様見真似で手伝うこともある。今のところそれで怒られたことはない。
     オスカーは深く息を吐き出し、周りの様子を観察し始めた。分からなければ見て覚えればいいのだ。
     一番近くのテーブルにいる男女をじっと観察していると「見過ぎだ」と後ろから声をかけらた。
    「ブラッドさん」
    「こういった場であまりじろじろ他人を見るべきではない」
    「す、すみません」
    「だが分からないことを自ら学ぼうとしたのだろう。それは悪いことではない」
    ──俺は今怒られたのか? それとも褒められた? 褒められたのであれば喜んでもいいだろうか。
     ブラッドの言葉にオスカーはどう返していいか分からず視線を彷徨わせた。 
    「どうやら不安にさせてしまったようだな。本当はもう少し早く来るつもりだったんだが挨拶周りが長引いた。一人にしてすまなかったな」
    「い、いえ! さっきフェイスさんも声をかけてくれたので」
    「フェイスが?」
    「はい、飲み物を持ってきてくれて」
    「……そうか。それより、そのネクタイはどうしたんだ?」
    「首元が窮屈で少し緩めようとしたんですけど、自分では綺麗に直せなくて……すみません」
     正直に答えると、ブラッドはオスカーのネクタイに手をかけ器用な手つきでするりと解いた。
     結び直してくれるのだということに気付き、オスカーは動かずブラッドの手元を見つめた。
    「まぁその気持ちは分からなくもないな」
    「ブラッドさんもですか?」
    「ああ、子供の頃よく自分で解いて戻せなくなっていた」
    「ブラッドさんにもそんな時代があったんですね」
     意外な過去を知ることができ、無意識に口角が上がる。ヒーローとして働くブラッドが自宅に戻ることは少なく、こうして普通の話をするのも久しぶりでオスカーの気持ちはいつも以上に昂っていた。が、ブラッドの手元から顔に視線を移すといつの間にか険しい表情に変わっていた。
    ──何か気に触ることでもしただろうか?
    「あ、あの、ブラッドさん」
    「オスカー、一旦会場から出るぞ」
     そう言うとブラッドは足早にドアの方へ向かった。慌ててその後を追うが、機嫌を損ねさせてしまった理由が分からない。とにかく謝るべきか頭を悩ませながら会場の外に出ると、突然後ろから抱きしめられた。
    「わっ! ブ、ブラッドさん!?」
    「動くな。ネクタイが結べないだろ」
    「え?」
    「自分で結ぶのは慣れているが、他人に結ぶとなると逆になるせいか上手く直せそうにない。すまないが少しだけ我慢してくれ」
     言われた通り微動だにせず、正確には緊張のあまり一切動けずにいるとあっという間にネクタイが結ばれた。
    「よし、これでいいだろう。ネクタイは今後も必要になる。時間がある時で構わないから練習しておけ」
    「はい、ありがとうございます」
    ──何故だろう、心臓の様子がおかしい。なんだか顔も熱い気がする。
     突然高鳴り出した鼓動にオスカーは困惑したが、ブラッドに知られたくないと思った。
     心配をかけたくないからか、それとも。
    「では戻るぞ。少し緩めに結んだが、気になるようであれば俺に言え」
    「わかりました」
     もう一度言えばまた後ろから結んでくれるのだろうか。
     先ほどのことを思い出し、オスカーの心臓はさらにズキズキと主張を始めた。
     ブラッドのことを考えると時々無性に胸が苦しくなる。これまでたった一人で生きてきたオスカーはこの現象の理由がなんなのか理解していない。
     だが、オスカー自身がその理由を知る日はそう遠くはないだろう。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ❤💞👏💖👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works