じりじりと焼け付くような日差しが肌を刺す。気温は依然高いままだが、八月も終わりを迎えようとして秋はもうすぐそこまで来ている。寒さが苦手なオスカーはこれから下がり始めるであろう気温にひっそりとため息をついた。
しかし、今は気温よりも大事なことがある。
当たり前のことだが、八月が終われば九月になる。九月には、それこそ寒さなど些事と言えるほど大切な日があるのだ。
「おーい、何してんだよオスカー」
パトロール中、つい目を向けていたショーウィンドウから燃えるような赤い髪の青年に視線を戻す。
「いや……なんでもない」
「なんでもないってこたねーだろ。ボーッとして何見てたんだ?」
赤い髪の青年──アキラは先ほどまでオスカーが見ていた店のショーウィンドウを覗き込む。レッドサウスには珍しいシックな佇まいの店のショーウィンドウには、男性もののハンカチやタイピン、ネクタイなどが並んでいた。
「ははーん……アレだろ、ブラッドの誕生日プレゼントで悩んでんだろ」
「な、何故それを……!」
アキラは途端に興味を失くしたように店から離れ、通りを歩く。
「なんでも何も、去年も大騒ぎしてたじゃねーか。今年はウィルもパーティーしようとか言い出すし、さすがに覚えるっつの」
「そうか、今年はアキラも祝ってくれるんだな」
「まぁ……ってかそこじゃねーだろ! プレゼント決まってないのかよ」
入所当時の険悪な雰囲気から今への変化を思い胸が暖かくなったのも束の間、悩みを掘り起こされて再び肩を落とした。
九月十五日はとても大切な日。主であり、今は恋人でもあるブラッドの誕生日だ。そして悩みというのはアキラに指摘されたとおり、誕生日のプレゼントがまだ決まっていないということだった。
「まだ二週間以上あるしギリギリまで考えりゃいいだろ」
「……ああ、そう、だな……」
「つーかオスカーからなら何もらっても喜びそうな気ぃすっけどな」
ぽつりとこぼしたアキラの言葉は、オスカーには届かない小さなものだった。相手が何をもらえば喜ぶのか、自分が何を贈りたいのか、悩むのは贈る側の特権だと、同期であり幼馴染のウィルに諭されていたのだ。悩むのが特権というのはアキラにはあまり理解できなかったが、何でもいいと一蹴できるものでもないのはオスカーを見ていればよくわかる。
それから、パトロールを続けながらショーウィンドウや広告のポスターを眺めたり、すれ違う人々が身につけているものをこっそり見たりしてプレゼントの選択肢を増やしていった。しかし決め手になるようなものはなく、むしろ選択肢が増えすぎて逆に悩んでしまうという結果になった。
まだ時間はある。焦って決める必要もない。そう自分に言い聞かせ、沈みゆく赤色を横目にタワーに戻るべく足を進めた。