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    きのした

    @mitei17

    文字書き。大体承花。

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    きのした

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    お互いが好きな承花のゲロ甘なやりとりを、自覚無しにいちゃつかせたかった。
    グッパオンで恋に落ちてる、割とノーマルな高校生カップルです。

    恋は盲目、から騒ぎ。 その日、俺は教室に一人残って花京院が帰ってくるのを待っていた。委員会があるから、先に帰っていてくれ。そう言われたけれど、俺は花京院と共にする下校の時間を譲りたくはなかったので。待っている、と無人になった教室でただ時計がかちこち鳴る音や部活動に勤しむ生徒たちの活気ある響く声を聞いて、また花京院の声が俺の鼓膜を震わせるまでを、待っていた。眠かったわけではないが手持ち無沙汰だったので、机に頬を押し付けて、目を瞑る。大好きな笑顔が浮かんだ。最近の俺は、花京院のことばかりだ。旅から帰って同じ学校に通うようになった俺たちは、非日常では知ることのできなかった互いを、高校生活という平凡な、けれど平和な毎日の中で、たくさん垣間見ることができた。
     花京院の所作は柔らかい。誰に対しても紳士的で、俺とは真逆だ。しかし俺は知っている。涼しい顔をして、あいつの腹の中には激情が潜んでいるのだ。学校の奴らは知らないそれを、久しく見ていない。平和な日々では必要ないのだろう。しかし俺はそれが好きだった。花京院が、好きだった。知らぬ間に惹かれていた。花京院の持つ覚悟と、それに準ずる潔さ。高潔。ピンと伸びた背筋。あの日々で、俺は確かに、それらに支えられていた。花京院が見せることの無くなったものを、どうしたらまた、見ることができるだろう。考えていたら、少しだけ、睡魔がやってきた。花京院、まだか、話がしたい。
     からり、と戸の開く音。
    「承太郎?寝てしまったのかい」
     起きている。だが、眠い。花京院の柔らかい声。待っていた。帰ろう。話がしたい。しかし、瞼が重い。机に頬を貼り付けて、俺は半分だけ寝入っていた。意識はしっかりあるが、若干ふわふわしている。
    「ふふ、寝てる顔、幼くて、可愛いな」
     近づいてきた声が、そんな事を言う。ぬかせ。可愛いのはお前だ。瞼を無理矢理持ち上げようとした俺の頬を、撫でる感触があった。花京院の指。少し冷たいそれが優しく触れてくる。
    「承太郎」
     一言、胸の奥から絞り出した、というような呼び声が聞こえて、唇に柔らかい感触を感じた。一気に意識が覚醒して、ばちりと目を開く。眼前に、花京院の長いまつ毛に飾られた瞳が見えた。俺の好みの、透明感のある菫色と目が合う。
    「…起きてた」
     ぽそりと呟いて、花京院の顔が離れていく。今のは確かにキスだった。なのに、花京院は少しも動揺していない。
    「待たせたね、すまない。帰ろうか」
     いつもの笑顔。たった今触れ合っていた唇が、言葉を紡ぐのを凝視した。少し大きめの口を縁取る、薄めの桃色をした唇。それが、俺の名を形作る。
    「承太郎?」
     なんでもないような、その表情。俺は本当に寝ぼけていたか?そう思わせるくらい、花京院の素振りは常と変わらないものだった。
    「ああ、そうだな」
     かたんと椅子を引いて立ち上がる。中身の入っていない学生鞄を手にして、共に教室を出ていくそのタイミングで、たった今起こったことを確かめようと背を見つめながら話しかけた。
    「花京院。おめー、いま、」
     振り返った花京院は、笑っていた。口角の上がっている口に人差し指を当てて、俺に黙ることを要求する。何も言えなくなった。花京院が追及するなと言うなら、つまりは突っ込んで欲しくない事なんだろう。俺が寝ていると思って、唇を触れ合わせた。それの意味することをはかりかねて、俺は知らず渋い顔になった。するとますます花京院の笑みは深くなる。
    「ほら、眉間」
     そう言って、俺の顔に手を伸ばすと、眉間に寄った皺をぐいぐいと指で平そうとする。その手を取って、引っ張ると簡単に身体が俺の胸に傾いてくる。抱き止めて、片手で腰を固定し、片手で頬に手のひらを当てた。唇を親指でなぞる。ふ、と花京院の吐息が俺の指にかかった。そのくすぐったさに心臓が震えて、思わず顔を近づけた。さっきはいきなりで、そして半分寝ていたから。ちゃんと欲しい。そう思ったのに、花京院は俺の口付けを手のひらで遮った。
    「こら、ここ、教室」
     先に仕掛けてきたのはお前のくせに。そう文句も言えない強引な微笑みで、物事を曖昧にしようとする。都合の悪いことをそうやってはぐらかす、そんなことも、最近知った。
    「天気予報で、帰宅時間には雨が降るとか。濡れる前に、帰ろう」
     腕の中からするりと抜け出て、再び俺に背を向けた。こうなると、こいつはもう巨石の如く動かない。俺はすっかり学習していた。日常の中の花京院。穏やかで、しかしひっそりとした存在感がある。大勢の中に溶け込んで見失わせようとするから、俺は結構必死で、食らいついているのだ。そう、帰宅を意地でも共にしようと、自分の時間を割くくらいには。
    「明日までの課題、結構面倒だね。数学の谷口先生は、少々性格に問題があると見た」
     すっかり話題を変えてしまった花京院に、食い下がっても無駄だろうと諦めて、その言葉に相槌を打った。
    「その上でそれを簡単にこなしちまうお前は、奴にとっては嫌な学生だろうな」
    「それ、そのまま君のことだと思うけど」
     軽口を叩きながら帰路を歩く。大して中身のない会話なのに、花京院が隣に居るだけで、退屈だった高校生活に色がつく程には、俺はこいつに夢中になっていた。さっきのキスを思い出して、唇が熱を持つ。今、俺と会話しているその口が、俺の口に触れた。確かに。なのに、花京院は忘れろとでも言うように、俺からの追及を拒んだ。このやろう、と思う。俺は花京院が好きだったから、その意味を、都合よく解釈して幸せに浸ろうとした。しかし脳の一部が邪魔をする。あんなものは悪戯だ、いいように、揶揄われているだけだ。隣を歩きながら、口だけを見つめていた俺に気がついていたらしく、別れ際、花京院は笑いながら言った。
    「見つめられすぎると穴があくからさ、君の動揺もわかるが、程々にしてくれよ」
     好き勝手言って、去って行ってしまった。動揺が分かる、だって?意味を語ろうとしなかったくせに。本当に遊ばれているだけなのかもしれない。しかしあのキスの前、俺を呼んだ声は、愛情が決壊して苦しくて仕方がないとでもいうような焦燥を滲ませていた。寝ぼけてさえいなければ、そのまま捕まえて、深い口付けに移行させてやったものを。不意打ちの一発に、こんなに心がざわついている。そんなにも大きな存在になっていた。花京院典明。俺の、初恋だ。

     二回目は、俺からだった。その日は休日で、花京院は俺の部屋で、俺が定期購読している船舶の雑誌をぱらぱらとめくっていた。俺たちは一切趣味が合わない。俺はゲームは得意ではないし、花京院は眺める雑誌にきっとなんの意味も求めていないのだろう。あえて言うなら相撲を観ることくらいか。それほど、友人としては不思議なくらい、好みが噛み合わないのだ。将来したい勉強も、真剣に議論したことはないがおそらく異なる専門分野だ。高校を卒業してしまったら、きっと共通点が薄れていって、疎遠になってしまう恐れもあった。俺はそれが怖かった。人が人を好きになるのに、理由が必要ないと、自分の身をもって知った。ただ、花京院典明という人間の魂に惚れたのだ。
    「花京院、こいつをやるか」
     花京院がよく遊びにくるようになったから、俺の部屋に鎮座するようになったゲーム機。俺の腕では満足できる対戦相手にはならないだろうが、楽しんでいる花京院の瞳がきらきら輝くのが好きだったので。不器用ながら俺は何度もチャレンジして、少しずつ要領を覚えてきていた。しかし花京院は顔を上げて俺の方を見てから、くすりと笑った。
    「無理しなくていいですよ、承太郎。ゲームはいつだってできる。僕はこの部屋の空気が好きなんだ。庭から草木の匂いがしてさ。承太郎の煙草の香りと混ざって、凄く落ち着くんだ。君の好きな雑誌を、のんびり眺めているだけで、幸せになれるくらいには」
     なんてことを。俺は思わず手のひらで目元を覆って天を仰いだ。「承太郎?」と疑問の含まれた声が上がる。発言の威力をわかっていない。つまりは、俺の部屋で俺といれば、俺の好きなものを見ているだけでいいのだと。花京院が有耶無耶にした、あのキスを思い出した。あれから数日、同じような触れ合いは、できてはいなかった。俺が欲しいと思ったタイミングで、花京院に躱されたり、他人に邪魔されたりした。ならば今ではないのか。俺の部屋で二人きりで、そんな空間が幸せだと目を細める花京院に、愛しさが込み上げてくる。座布団に座って、ベッドに背を預けている花京院に這ってにじり寄った。何事かと僅かに体を硬くして身構える花京院の手から、ばさりと雑誌を奪い取った。
    「じょう、」
     ふ、と互いの呼吸が重なる。覆い被さる体勢で、手のひらで頬を包んで上向かせた唇に、唇を押し当てる。少しだけ、啄んでから、ゆっくりと離した。今まで、たった二回、触れただけなのに、それは当たり前のように馴染んでいて、ただ、再びがあったように、三度が欲しい。そう考えさせるようなくすぐったい幸せを連れてくる行為だった。花京院は何も言わない。真っ直ぐに、俺を見ている。これはチャンスではないのか。たった今三度目が欲しいと思ったが、それ以上、を、考えたら、告白というやつをするしかない。花京院を俺のものにしたかった。ずっと溜め込んだ想いを、受け止めて欲しかった。なのに、花京院は視線を逸らすと、何事も無かったように俺の取り上げた雑誌を奪い返して、ぱらぱらとめくり始めた。信じられない。友人からのキスを、問い質すこともせず、勝手に再び寛ぎ始めたのだ。
    「おい、花京院」
    「ちょっとだけね、君の気持ちがわかってきたところなんだよ。船って、格好いいな」
     呑気な台詞。完全に、相手にされていない。俺はわかりやすく肩を落とした。こいつは、失恋というやつか?どさ、と音を立てて花京院の隣に座り込んだ俺の頭を、撫でる手があった。よしよしと動く。
    「来週は、僕の部屋でいいかな。今度は僕の趣味に付き合ってくれると嬉しい。新作が発売されたから、君とプレイしようと思ってまだ開封してないんだ」
     たった今性的なアプローチをしてきた相手を、部屋に誘う。花京院の思惑がわからない。俺と友人でいたいから、素知らぬふりを決め込もうとしているのだろうか。しかし、それでは最初のキスの動機に説明がつかない。それでも一緒にいられるならと、俺は了承した。
    「お袋に頼んで、チェリーパイを持参する」
     それだけ言ったら、雑誌に落としていた視線を上げて、ぱっと輝く笑みで俺を見た。くそう、可愛い。どうしても、負けてしまう。
    「君のおかげで、休日が実に充実しているよ」
     そんな事を言って上機嫌な花京院は、結局だらだらと俺の部屋で寛いで、そして夕方になって帰って行った。

     翌週の休み、約束通りチェリーパイを持って花京院の部屋を訪れた。両親は今日、出かけていて居ないんだ。その言葉にどきりとした。つまりは何が起こっても、俺と花京院の二人きり。花京院は俺を部屋に通すと、これこれ、とゲームの箱を取り出した。ゲーム機本体はすでにスタンバイされている。
    「2p対戦、僕もまだ経験していないから、優劣はないはずだろう。君、最近テレビゲームに慣れてきているからな。楽しみだ」
     うきうきといった表現が当てはまる上機嫌さで、カセットをゲーム機にセットしている。
    「さあ、やろうか。勝者が切り分けたチェリーパイの大きい方を食べられることにしよう」
     それでは間違いなく、花京院が好物をより多く頂くのだろう。現金さがやけに可愛く思えて、花京院が嬉しいならそれでいい、と俺はコントローラーを握った。

     大きな口で好物を頬張る花京院が、たまらなく愛らしく俺の目に映る。結局当たり前に花京院は俺に勝利して、俺より多く母の手料理に食いついていた。今、キスをしたら、チェリー味なのだろうか。ぼんやりと咀嚼する口元を見ていたら、花京院が眉を寄せた。
    「ごめん、僕ばかりはしゃいでしまって。疲れされてしまったかい」
     そんな事を言うので、先週のお返しにと、わざと言葉を選んで言った。
    「お前が好きなものではしゃいでいるのが嬉しい。好物を美味そうに食っているのも、それだけで俺は幸せになる」
     すると花京院はぱちりと瞬きした後、残りのパイを一口でぱくりと頬張った。もぐもぐごくんと食べ終えて、俺に向き直る。
    「僕たち、さ、」
     真剣な眼差し。
    「ずっと一緒に、いられるといいな」
     そんな拙い願いを、控えめに。なんだこの可愛い生き物は。横並びに肩を触れ合わせていた体勢から一変、俺は思わず花京院を抱きしめていた。抵抗はない。さっきまで好物を食べていたその唇は、美味そうな色をしていた。嫌がられていないのだから、先に進んでも構わないのだろう。若干油でテカっている唇に、唇を重ねた。ちゅ、と音を立てて離れて、様子を伺う。嫌悪の感情は、その瞳からは読み取れない。それどころかうっとりと俺を見る。今なら、言える。一度目のキスの存在が勝算を訴えていたので、少し息を溜めた後、愛情を表す言葉を発した。
    「好きだ、花京院」
     すると一拍置いた後、ぶっと花京院は吹き出した。人の一世一代の告白を、なんだと思っているのか。食ってかかろうとした俺に、呼吸がうまくできないとひーひー言いながら。
    「それ、君、今更言うのかい」
     今更だと。俺の愛の告白が、今更。それは、まるで当たり前のことを仰々しく発言した俺を揶揄うような色を含んでいた。
    「君は、何を思って、僕にキスなんかしたのかな」
    「あれは、お前が先に」
    「そうだよ、僕が最初に仕掛けた事だ。でも、お返しがあるなんて、思わなかったから。その時点で君、告白してるようなものなのに」
     それを、そんな真剣な顔で、今言われても。そう笑う。こいつがこんなにデリカシーの無い人間だとは思わなかった。憤慨する俺の表情を見て、やっと笑いをおさめた花京院が、目を細めて見つめてくる。
    「君は意外と、自分の感情には疎い方なんだな。心理戦、得意なくせにそんなところが可愛い。大好きだよ」
     今度は花京院からの愛の宣言だった。ちょっとばかし面食らった俺に、楽しそうに被せてくる。
    「君が僕を好きになるずっと前から、僕は君を好きなんだ。それこそ、君の心が僕に向いたと、気がつくくらいには君を見てた。日常に戻っても僕と一緒に居ようとしてくれたのが嬉しくて、それで満足していたのだけれど」
     花京院の笑顔は、大層幸せそうだった。しかし共にいるだけで満足なんて大嘘を吐かれたので、俺は躍起になって反論した。
    「馬鹿ぬかせ。だったらあのキスはなんだったんだ。手前から日常を壊すみてえな事仕掛けやがって。あれからこちとら、本命か、勘違いかと、気になって夜も眠れねえ毎日だったんだぜ」
    「あれは、君が寝てたから、つい」
     寝込みを襲うなんて真似を、ついで済まそうとする。そんな小狡い誤魔化し方を、許せるはずがなかった。
    「そうか、俺の意識がなけりゃ、てめえは大胆になれるのか。だったら今から俺は寝ているものと思え。気にしねえから、思う存分、したいことをすりゃあいい」
     笑っていた花京院が渋面を作る。
    「そんな暴論。君がここでムードを作って、触れてきたらどうしようと考えていた僕が馬鹿だった」
    「成程、ムードとやらを作って迫れば、お前は落ちるんだな」
     失言得たり。ずいと身を乗り出す俺に、花京院は視線を惑わせた。動揺している。こいつは案外ロマンチストだ。瞳を合わせて、甘い言葉を囁けば、ころんと此方に転がるだろう。
    「好きだぜ、花京院。あの旅から、帰っても、ずっと。お前を想う気持ちは、誰にも負けねえ」
     すると花京院は、頬を染めたまま真剣な眼差しで俺を見返した。
    「冗談じゃない。僕の君を想う気持ちの方が、ずっと長くて、ずっと重い。僕こそ、君を想う気持ちは君にだって負けないんだ」
     その反論に虚をつかれて、俺は思わず黙る。しかし男として、ここで負けるわけにはいかない。
    「俺は、お前の肉の芽抜いて、お前の涙に滲んだ瞳に惚れた。旅に出て、どんどん好きになった。帰ってきてからは、お前のことばかり考えている。どうだ、重いだろう」
     自分の発言に、何を張り合っているのかと頭の一部が冷静になることを訴えかけてくる。しかし譲れない。俺は重たい男だ。それを前にしてもまだ、お前は俺を好いていて、それが優った想いだと主張するのか。
     すると、花京院は、ぼそり、一言。
    「勝った」
     なんだって?花京院は目を輝かせる。自信に満ち溢れている表情。ふふんと鼻を鳴らして、俺に顔を近づけた。
    「一目惚れだよ!神社の石階段で君がまだ、僕を見つける前から!女の子に囲まれて、怒鳴ってる君を見た時から!」
     くしゃりと微笑んで、花京院は高らかにそう宣言した。成程、それでは確かに、期間においては勝ちを花京院に譲るしかない。しかし簡単に負けを認められるほど、俺だって伊達に惚れちゃあいないのだ。
    「そうか、お前の方が少しばかり早かったということだな。だがしかし、重さで想いが計れるとしたなら、負けるつもりはさらさら無いな」
    「意地を張るな。そっちも、僕の勝ちだ」
    「いいや、俺の勝ちだ」
     言い切って、口に食いついた。俺が寝ていたから。そう言って思わず発露してしまったのだと最初のキスの言い訳をするならば、俺は自らが望んだ四度目のそれを、互いの意識がはっきりしている今この時、したいと思った。んむー!と抗議の声が上がるのが余計に俺を燃えさせて、深く深く貪る。舌で上顎をなぞると、花京院の体がぶるりと震えた。長かった、数分にわたる四度目のキス。口を離すと、血行が良くなって真っ赤になった唇そのままに、唾液に光るその口で、花京院が怒りを発する。
    「…っ承太郎!やり過ぎだ!僕は許可を出した覚えはないぞ!」
     涙目で訴えられて、それが怖いはずも無く。
    「てめえだって俺の寝込み襲ったじゃねえか。これでトントンだ」
    「君なあ!」
     怒髪天、といった花京院がなぜ怒っているのか、もう俺にはわかっている。瞳を潤ませ真っ赤な顔をして、深い触れ合いを許した訳ではないと文句を垂れるのは、ただの照れ隠しだ。ただ、花京院がこうして感情を波立たせることが、俺が待ち望んだ事であり、その激情をずっと見たいと願っていた俺は、本当にうまいことその手段を見つけたものだと思う。普段冷静な花京院が感情を強く動かすのは、命をかけた戦いの時。仲間を思う時。真剣な恋をした時。
    「お前が俺を好きな気持ちが勝つと言うなら、この程度、大したことじゃあねえだろ。ぐだぐだ言うならもっとその口塞いでやろうか」
     ぐ、と花京院が怯んだ。それにますます俺の機嫌は上昇して、喉を鳴らして笑う。
    「プラトニックに人を愛してもいいじゃあないか」
    「最初に寝込みを狙っておいて、よく言う口だな。やはり塞ぐか」
     すると、花京院は両手で口を覆って、ずりずりと人一人分くらいの距離をとった。随分と可愛い抵抗に、俺の機嫌はますます調子に乗って舞い上がる。
    「なあ花京院、最初はお前で、二度目は俺。三度目も四度目も俺だった。五度目は、お前から欲しい」
     低い声で強請ると、花京院が瞳を揺らした。俺のことが好きだと言うのなら、きっとこの声も好きなはず。手の下で、ううむ、と唸る声が上がる。
    「なら、君は、今、寝ている」
     折衷案を出してきたので、小さな反抗心に面白くなって、俺はそれに乗っかった。
    「ああ、そうだな、ゲームをしすぎた。眠い」
     そう言って、目を瞑る。花京院がとっていた距離を詰めた気配がして、両肩に手が添えられた。それが震えていたので、きっと緊張しているのだろう相手の顔が見たかったが、俺は寝ているので我慢した。ちゅ、と可愛い音がして、唇に温度を感じた。触れるだけですぐに離れていくんだろう。そう思っていたのに、花京院は唇を開いて、俺の口の隙間から舌を捩じ込んできた。一瞬思わず目を開けかけて、それをしたら台無しになる、と思い直し、好きにさせることにする。ちゅく、と唾液が絡まる。俺の舌を吸って、口という器官を目一杯使って俺を求める花京院が、たまらなく愛おしい。しばらくそうしていて、互いに息が上がった頃、ようやく花京院は唇を離した。
    「プラトニック、とか、言ってなかったか」
    「眠っていた人間が文句を言うな。寝込みを襲うのだから、これくらいやらなきゃつまらない。僕の想いの重み、少しは伝わったかい」
    「伝わった、と返せばいいのか、悩むところではあるな。俺は、こいつだ」
     花京院から与えられた愛情表現に、股間がしっかり反応している。それを指差して教えてやった。目を瞑っていたから相手がどんな表情をしていたかもわからなかったので、妄想が刺激されて余計に興奮していた。花京院は目を剥いて、よろ、と身体を傾けて俺から逃げようとしたので、両腕で捕まえてそれを阻止した。
    「君、そんなに?」
    「おう。わかったか、てめえに欲情している」
     すると花京院は下を向いて黙り込んだ。まさか引かれたのではないだろうな。嫌な沈黙が流れた後、ばっと顔を上げて俺の口に食いついた花京院に、少々驚かされる。六度目。少し舌を絡ませてすぐに離れていった口から、唾液の糸が引く。花京院は妖艶に笑っていた。
    「最初が僕。二度目、三度目、四度目が君。五度目と六度目が僕だから、これでイーブンだ」
     胸を張って主張してくる。俺の拘りを、そうやってわざと掲げてみせた。
    「さあ、これから君は、どうやってその想いの重みとやらを表現してくれるのかな」
     好戦的な笑み。戦いに飛び込んでいく時の花京院の勝利を確信している表情。ゾクゾクする。俺はそれが好きだったのだ。もしかしたらこれからは、俺の前でだけ、この顔が見られるということだろうか。喜びが背筋を走って、脳髄を痺れさせる。勢いのまま、その体をどさりと倒して床に組み敷いた。顔を覗き込んで問う。
    「俺はお前を愛している。これから、それを示す行為をしてえと思う。拒否権はあるが、イエスかノーか、簡潔に答えてくれ」
    「言っただろう。僕の方が君を好きだって。君が僕をこれから愛すると言うなら、一方的には決してならないよう、努めることとしよう」
     全く可愛くない台詞なのに、その内容の意味するところが胸の中を愛しさでいっぱいにしてくれる。意地っ張りも、小狡さも、ここまでくるといっそ清々しい。最初のキスを思い出す。あれさえ無ければ俺たちは今、こんな風に向き合うことも無かっただろう。互いを思い合っている事を当然と笑って、それでも進展を求めようとしなかった花京院をうまいこと捕まえられたのは、まさにあのキスに拘ったから。眠っている俺にしか手を出せない、臆病で卑怯な行為。そんな花京院が、不器用な恋に困惑する心が、愛おしい。
    「いいか」
     服に手をかけて、念を押す。花京院が鼻を鳴らして笑った。
    「さあこい、だ。僕も君を愛したい」
     花京院の言ったムードとやらはさっぱり作れなかった気がするが、それでも花京院は嬉しそうだ。わくわくしている、とその瞳が伝えてくれるから、下手は打てねえな、と己のスキルの総動員を誓った。自ら身体を預けてくれる花京院を、これから味わうのだと、知らず喉が鳴る。
    「好きだ。愛してる」
    「好きだよ、愛してる」
     互いに負けず嫌いにも程がある。ヒートアップして、それでも意地の張り合いは持続されるのだろうか。夢中になってしまう自分が予想できて、そうなったら俺の負けを認めなければならないので。とろとろのぐちゃぐちゃにしてやる。そうすれば自分の勝ちだと、ピロートークも楽しくなるだろう。そんなことばかり思って、期待に胸躍らせて、ラッピングを解くように、丁寧に花京院を暴いていった。


    end
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    きのした

    PASTpixivより再掲

    グッパオンで恋に落ちてる承花を目指した結果。
    ただ、花京院が好きな承太郎の話。
    だって空条氏は、出会った時から花京院に、惚れてましたよね?(曇りなきまなこ)
    承太郎の様子がだいぶおかしいです。頭がお花畑です。花京院も若干ふわふわしてます。
    承花にポルナレフを添えるのが好きです。
    恋する二人とお兄ちゃん おまけつき きっとそれは、一目惚れというやつだった。

     初めて見た時、天女かと思った。羽衣をヒラヒラさせて、怪我をした俺を気にかける。ハンカチを渡されて、胸が高鳴った。細い身体をしならせて去っていくその姿に、このハンカチを返す時、関係を迫ろうと思った。
     運命だと思ったのに、DIOの刺客だった。少々がっかりしたが、これから俺のものにすればいいと、お持ち帰りをする。敵意のこもった鋭い視線も美しかったが、操られていたのだと、洗脳をといた瞬間、その潤む菫色が優しい色をしていて、俺は再び落ちることになる。
     少々プライドが高くて、扱いにくいのだろうか。そう思っていたが、共に過ごすうち、それは奴の背伸びであったのだと気がついた。本来の花京院は、穏やかで優しく、頭が良い分色々なことによく気がついて、相手の先に回って気遣いの態度をとっていた。俺の理想とする大和撫子。
    10843

    きのした

    PASTpixivより再掲

    花京院が心配な病的過保護太郎と、承太郎の愛が欲しい蘇り院の話。
    私はすぐ承太郎を病気にしたがるから困る。
    誤解とすれ違いが大好物です。
    当然のようにアメリカで同棲。
    何年後かは、それぞれの胸の中でお好きな感じに当てはめて下さい。
    ※ほのかに承←モブ表現あり。
    だからお願いそばにおいてね おまけつき 僕は承太郎と、たった一度だけ、抱き合ったことがある。

     あれは、あの旅で、まだ僕が目を負傷して途中離脱する前。その日は敵襲に遭って、スタープラチナを思う様暴れさせた承太郎は、古ぼけた宿に泊まるとなっても、興奮がおさまらないようだった。僕らはキスを交わした。二人部屋で、夜が染み入ってくれば、何も邪魔するものはない。彼は僕を好きだと言った。息継ぎの度、何度も。僕を貪る彼を、僕は愛しいと思っていた。だから僕も好きだと返した。いつもだったら、思う存分キスをした後、疲れた身体を休ませるために手を繋いで眠りについた。けれどその日は違った。
     承太郎が僕を軋む固いベッドに押し倒す。そのまま僕の服を剥ごうとした。僕は打ち震えた。承太郎に恋していた僕は、いつからかその瞬間を待ち望んでいたのだ。承太郎に欲望を向けられていることが、たまらなく嬉しかった。彼の、望むように。僕は積極的に動いて、承太郎と愛し合った。大切な思い出。これから先何があっても、この瞬間の幸せを覚えていれば大丈夫。僕は何にでも立ち向かえる。そう思って最終決戦に挑んだ僕は、DIOに敗北した。だけど、それはきっと、僕の役目だった。メッセージに、どうか気づいて欲しい、そう願いながら、水に沈んでいった。感覚の無くなっていく指先が、勝手に温もりを探す。承太郎。最期に、君とキスが、したかったなぁ。
    18029

    きのした

    DONEすぐに康一くんを頼る駄目太郎の図。
    仗助くんは別に承太郎にも花京院にも特別な感情は持ってないです。ただ、年上の甥について、シビれる〜カッチョイ〜!とは思ってます。
    途中ちょっと不穏ですが、コメディととってもらって間違い無いです。
    コミュニケーション・ロマンス 付き合い始めてから、もう十年を超える。空条承太郎は僕の初めての恋人だった。男同士だけれど、僕らはキスをするし、セックスだってする。愛を囁き合って、互いの気持ちを確かめる。ゴールの無い関係。それを分かっていたから。同居して、伴侶のように振る舞っていても、確約されるものは何もない。僕らは互いの気持ちだけで、繋がっていた。それに不安が無いわけじゃない。でも僕は信じていた。承太郎の愛情を。だから承太郎が僕を愛するが故に吐く嘘や作る秘密を、見て見ない振りをしていた。それでうまくいくはず。そう考えていたけれど、とある事件で承太郎が恐ろしい殺人鬼と闘ったということを後から知らされて、僕は思い知った。
     承太郎の嘘は優しい。でも、残酷だ。僕はいつだって、君を知りたくて、君を守りたくて、君を愛したい。そしてきっと承太郎も同じ想いなのだ。だから噛み合わない。最近ちょっと、承太郎が余所余所しい。どう動けばいいだろうかと、思案していた僕は、とある人物を頼って、ある町に来ていた。承太郎に憧れていて、僕の知らない彼を知っているその子なら、少しヒントをくれるかな、と思ったのだ。単純に、恋愛相談に乗ってくれそうな人物が他にいないという切実な事情もある。電話でポルナレフに話を持ちかけたら、何馬鹿なこと言ってるんだ、と言われそうな気がしてそれだけで腹が立ったので、ダイヤルしかけた指を止めた。
    9622

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