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    きのした

    @mitei17

    文字書き。大体承花。

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    きのした

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    pixivより再掲

    4×4
    同居する承花のもたもた。面倒くさい大人の図。

    空条博士の杞憂 おまけつき 長年片思いを拗らせていた友人に、同居を提案された。
    「君は、海外遠征や地方フィールドワークが長く続く事が多いだろう。僕は財団の内勤が主だから、家に帰れる。部屋って使わないと痛むし、ハウスキーパーだと思ってもらえたらいいよ」
     昔の傷がたたって長時間働くことができない、しかし優秀な人材である花京院は、SPW財団で事務員兼スタンド関連の事象の分析管理官を勤めていた。俺は海洋冒険家として世界中の海を渡りながら、財団からの要請でスタンド絡みの事件を追うこともする。互いに職業に対して理解があり、気心が知れていて同居しても息苦しくない。独身男二人で久しぶりに噛み合った休日に懐かしい旅の話なんかを挟みながら、茶を飲んでいた時。花京院から提案された冒頭の台詞に、俺は一瞬息を詰まらせた。

     俺は、旅から帰って数年、ずっと花京院に思いを寄せていた。恋を自覚したのは旅の最中だったから、全てが終わったら、本当は、告白して、奴を俺のものにしたかった。しかし花京院は最後の戦いののち、ニ年ほど、ベッドの上の住人になった。最初こそ命が危ないと言われて、俺は失いたくない一心で、ずっと枕元に張り付いて、見守っていた。目が覚めた後も、起き上がること叶わず痩せていく花京院を見て、俺は願った。この先、一生、思いが伝わらなくて構わない、ただ、生きていてくれたら。俺の目の届かない場所でも、笑っていてくれたら。それで、構わないから。だから、生きてくれ。
     願いが通じたのか、次第に花京院は生気を取り戻して、身体を起こせるようになった。リハビリを始める頃には俺は留学のため渡米していて、毎日電話で近況連絡をした。奴を残して海を渡ることに俺は最初渋ったが、「僕のせいで君のキャリアを傷つけたくない、好きなように生きてほしい」、と言う花京院の台詞に背を押されて、大学を卒業して日本に帰ってからも、俺は世界中を飛び回った。花京院は通信制の高校を卒業したのち、財団に就職した。怪我の如何が通じている職場で、能力を存分に発揮して、花京院は充実した日々を送っているようだった。

     俺たちの毎日は、噛み合わない。ただ、たまにこうして、顔を見て、近況を話しながら互いを鼓舞する。そんな関係を、もう数年、続けてきた。花京院からは、浮いた話が聞かれない。それに毎回ほっとしながら、本当は俺に言えないだけかもしれない、と思っていた。そんな奴からの、突然の同居の提案。本当は取って食ってやりたい相手からのそれに、なんと答えていいかわからなくて、しばし沈黙が流れると、花京院は、今思いついた、というように言った。
    「あ、もしかして、今、パートナーがいるのかな。君とそういう話、しないから。だとしたら、すまない、忘れてくれ」
    「パートナーなんていない。いいぜ、一緒に住もう。部屋の目星はついてるか」
     申し訳なさそうな花京院の台詞に、被せ気味にOKの返事を乗せた。仕事柄毎日とはいえないけれど、日本にいる間はおはようからおやすみまで花京院と一緒にいられる。そんな美味しい話、断る理由なんてない。
    「家賃は折半がいいから、目黒支部に近いところだと、結構限られてくるんだけど。君が窮屈にならないサイズの部屋って、不動産屋も困るかもしれないな」
     微笑む花京院が愛しい。俺と一緒に住む部屋のことを考えて、楽しそうに頬を染めるその姿に、目を細めた。ずっとこうしていたい。いや、一緒に住むようになったら、休みの日は一日中、こうして共に時間を過ごせるんだ。ダイニングで向かい合ってコーヒーを飲んでもいいし、ソファに隣り合って映画を観てもいい。肩を寄せられるだろうそれに、心が躍る。俺の花京院への思いは、カンストしていてもうどうこうなるものではなかった。こいつの平和な毎日を見守れる位置、それは本当に願ってもないことで、その話を持ってきたのが花京院であるという事実が、嬉しかった。俺という存在を、テリトリーの内の内まで、入れてくれる。次、都合がつく時、一緒に不動産屋に行こう。そう笑う花京院に頷いて、日本の不動産業にも手が出せる身内の顔を思い出した。多少の無理はきく。花京院には、内密に。「いい部屋が、見つかるといいな」、そう言って、コーヒーを飲んだ。

     結局見つかった部屋は、花京院の職場まで一時間以内の距離で、閑静な住宅街の、3LDK、築浅のマンション。じじいに口をきいてもらったのは花京院には秘密だ。すぐ近くにコンビニとスーパーマーケットがあって、花京院が未だ通う病院からも遠くない。とにかく生活動線が良くて、広い間取りが気に入った。毎日を過ごすのは花京院だから、奴の意見を優先したかったが、たまに帰る部屋が気に入って無かったら嫌だろう、と花京院は俺の意思を通そうとした。ならばと俺は、花京院が気に入りそうな部屋をリストアップして、内見しよう、と言った。不動産屋には、ルームシェアと説明したが、俺はもう、これは同棲だな、と浮かれていた。機嫌のいい俺を、花京院は少し不思議そうに見て、遠足前の子供みたいだ、と笑っていた。
     帰る家、待つ人がいる。そのことが、俺の心をじっくり温める。互いに少なめの荷物を持ち込んで共に暮らし出した俺たちは、一緒にいられる時間さえ少なかったけれど、穏やかな日々を過ごしていた。長ければ二、三ヶ月家に帰れない俺を、お帰りなさい、お疲れ様、と明るい部屋に迎入れてくれる愛しい人。俺は胸を躍らせていた。一年、二年と時が過ぎても、変わらずに花京院は俺を待っていてくれる。俺は満足していた。花京院は友人だ。でも、愛していた。俺はこの立ち位置で、一生こいつを守っていこう、そう思っていた。

     ある時、二ヶ月家に帰れない仕事で海に出た研究チームの一人が、家を空けている間に伴侶に浮気された、と泣いていた。家に男を上げていたと言うのだ。周りは、まあ、こんな仕事だからな、と慰めながら諦め半分だった。全員が、同じような立ち位置だったからだ。酒を飲みながら、それぞれのパートナーの話に花が咲き始める空間で、俺は浮いていた。俺にはパートナーはいないし、そうしたい相手のそういった方面の話には不干渉だった。その時になって初めて、花京院に、思い人がいるのかどうか、ということに思い至った。自ら男友達に同居を申し出てくるくらいだから、一緒に住みたいほど好きな女は居ないのだろう。そして好きな女ができても、家にやすやすと呼ぶことができない環境になっているのも、花京院が望んでしたことだった。俺は疑問に思う。なぜ、花京院は俺と同居することを選んだのだろう。いつか好きな相手ができた時、不自由だとは思わなかったのだろうか。いくら俺があまり帰らないとはいえ。そう、俺はあまり帰らない。どくりと心臓が波打った。
     俺は、花京院が生きて幸せでいてくれたら、それでいい。しかし、二人で選んで、二人で過ごしたあの部屋で、俺以外の誰かと、笑い合っていたら。それの意味するところに、酷く胸が騒ついた。健やかでいてくれればそれでいいなんて、数年前に願ったものだった。今となっては、隣にいて欲しかった。それ以上だって、きっと本当は欲しかった。考えようとしなかっただけだ。二人で過ごす時間が幸せすぎて、その先、を知ろうとはしなかった。花京院は、いつか、あの部屋を出ていくのだろうか。それとも、俺がこうして家に帰れない間、誰かをあの部屋に入れているのだろうか。それは今まで考えたこともない可能性だった。あいつだって、適齢期の男だ。そして俺の惚れた欲目を取り払っても、魅力的な人間だ。電話、電話がしたい。花京院の声を聞いて、安心したい。俺は初めて臆病になった。俺は花京院を手に入れたわけではないのだ。いつ、伏兵が出たって、何も言えない存在なのだ。僕、結婚するよ、そう、宣言されうる未来がある。ただの同居人の俺は、何も言えない。あいつの幸せを願っている、それは紛れもなく事実なのに、そこに俺がいないかもしれないことが、こんなにも苦しい。俺は、諦めたわけでは無かったのか。花京院のことを、手に入れたいと、その思いを確かに封じ込めた筈なのに、人間とは欲深いものだ。次が、欲しくなる。花京院の、お帰りなさい、の、次が。今、日本は何時だろう。電話は通じるだろうか。停泊地に設置された電話に足早に向かった。

     久々に帰宅した俺を、花京院は笑顔で出迎えた。
    「お帰りなさい、お疲れ様、承太郎」
    「ああ、ただいま」
     そのやり取りだけで、以前は幸せになれたのに。今は、他にもこうして家に入れる人間がいるのではないか、そう思ってしまって、心が落ち着かない。
     結局あの後、家に電話した俺は、寝てたのに、と、花京院に怒られた。しかし、本当は腹を立ててなどいないことが、声色でわかった。「どうしたんだい」優しい声で問われて、全部吐き出してしまいそうだった。しかし、それはあまりにも、重たい感情だった。もし、それを厭わしんで、同居が解消なんてことになったら、俺は二度と日本に帰れないかもしれない。「声が、聞きたかった」とだけ、言った。それも本心だった。きっと、安心できる。笑う気配がして、「君って意外と、甘えん坊だよね。大丈夫だよ、ゆっくり、おやすみ」それがただ、愛しい。離したくない。「ああ、おやすみ」それだけ言って電話を切った。次に日本に帰るのは、二週間先。花京院の心を、俺に繋ぎ止めたい。その方法を、探ろう。決意して帰って来たはずなのに、俺は、目の前の光景に、目が釘付けになった。リビングに入ろうとした足が、床に張り付いて動かない。花京院は視界の隅で、不思議そうにしている。
    「承太郎?どうしたんだい」
     その言葉が俺の金縛りを解いた。いや、と俺は帽子の鍔で顔を隠す。
     キッチンの、水切りカゴ。そこに伏せられた、使った後に洗った食器。そこには、二つのマグカップが、並んでいた。同居する時に買った、揃いのもの。さくらんぼの柄が花京院で、星の柄が俺のもの。俺は二ヶ月、居なかった。なのに、使用済みですと、そこにそれはあった。俺がいない間に、誰かがそれを使ったということだ。俺と花京院は付き合ってなどいないのだから、不貞も何もない。しかし、気を緩めると、俺は花京院を糾弾してしまいそうだった。俺は花京院を手に入れたい。観察する必要がある。俺がいない間、花京院がどのように過ごしているのか。コートを脱ぐと、それを受け取って花京院がハンガーにかける。
    「夕食は、カレーだよ」
     笑顔の花京院に、変わったところはない。こいつがなんでもないような顔をして、同居人の居ぬ間に恋人を家にあげるような人間だとは思えない。しかしあのマグカップは。上手く表情を作ることができなくて、黙ってダイニングの椅子に座った俺を、花京院は疲れているととったのか、
    「お疲れ様。お風呂、沸いてるから、食休みしたら温まるといい」
     そう言って頭を撫でてくれた。花京院の作る食事は、実に俺好みだ。たかがカレーと、侮ってはならない。形崩れのないジャガイモと、とろとろの玉ねぎ。きっと時間をかけて作ってくれた。俺はその大好きな味を頬張る。同居して二年、花京院はどんどん俺好みになった。だから余計に、離し難くなってしまったのだ。俺の食わず嫌いを治すくらい、花京院の料理は美味い。生活能力、全く無いな、そう花京院が笑う程、今の俺は何もできない。以前は金を払って他人にやってもらっていたそれら。食事を作って、掃除をして、洗濯をして、風呂を沸かす。服をクリーニングに出して、受け取りに行き、クローゼットに戻す。花京院は細々としたことによく気がついて、働いてまわる。腹の傷に良く無いから、あまり動くなと注意したけれど、運動しないと、身体が鈍るだろ。と笑っていた。
     俺はもう、花京院がいなければ、何をしていいかも、わからない。繋ぎ止めるなんて思ったけれど、それは花京院にとって、重すぎるのではないか。一生、俺のお守りなど。御免被ります、と冷たい目で返されることを想像して、俺はカレーを食べる手を止めた。正面に座って既に食事を終えて俺を見ていた花京院が、
    「あ、ジャガイモ、火、通ってなかった?」
     心配そうに言うので、いや、美味いぜ。と食事を再開した。あのマグカップは、誰と使ったんだ。それが、訊けない。明日から、一週間は休みだ。またその先、二ヶ月は帰れない。この七日で、決めてやる。
     はい、と下着と寝巻きを渡されて、脱衣室に入る。そこで俺は、マグカップよりも、決定的なものを見てしまった。真っ白な、シーツ。脱衣カゴに収まって、丸まっている。ところどころ、手洗いしたあとがあった。それを広げて、匂いを嗅ぐ。共同で使う柔軟剤の匂いと、花京院の匂いと、僅かに、青臭い、匂い。くらりと目眩がした。花京院は、俺が帰って来て、嬉しそうだった。その笑顔とこのシーツの存在が、頭の中で結びつかない。花京院が、俺のために寝具を綺麗にして待っていてくれた。それだけなら、俺はただ喜んだだろう。しかし、シーツは精液で濡れている。誰と。ぐるぐると回る、厭な考え。星のマグカップを渡して、微笑んだ相手は、誰だ。シーツを乱して、絡まり合った相手は、誰だ。
     気がついたら俺は湯船に浸かっていた。動揺したままシーツを元に戻して、服を脱ぎ、伏せるように脱衣カゴの上に乗せた。頭を洗って、身体を洗って、疲れた精神を風呂に浸かって休める。ルーティーンになっているそれを、茫然自失のまま実行したようだった。長風呂になってしまった俺に、途中で花京院が、「お湯加減、大丈夫?」と声をかけてきた。俺はただ、ああ、と返した。花京院はいつもと変わらない。つまり、マグカップも、シーツも、いつも、のことなんだろうか。ざばりと音を立てて顔を湯船に浸ける。花京院は、明後日、休日のはずだ。嘘を吐こう。俺の、仕事が入ったと言おう。そして見張ってやる。あいつが、俺のいない間、なにを、誰と、どこでしてるのか。そこまで立ち入る資格などないと、理性は訴えていたが、あのシーツが、俺のそれを放り投げた。ここまで俺を骨抜きにしておいて、今更別の人間のものになりますなんて、許せない。
     結局のぼせた俺は、慌てて水を手渡す花京院に心配されて、早々にベッドに入った。俺の寝室のベッドは綺麗にメイキングされていて、キングサイズのそれに疲れた身体と精神を埋める。すぐにうとうとした。花京院を思う。俺の、手の届かないところへ、行かないでくれ。願ううち、いつの間にか眠っていた。

     朝目が覚めると、もう九時を過ぎていた。ダイニングに向かうとテーブルの上に朝食が作り置いてあって、『おはよう。後片付けよろしく』と花京院の書き置いた手紙があった。それを指で撫でてから、一人テーブルに着く。今日は洋食だ。ベーコンと目玉焼き、食パンの上にハムとチーズが乗っていて、トースターで焼けということだろう。ヨーグルトの上にシリアルが散らしてあった。それから小鉢に小さなサラダ。朝からバラエティに富んでいる。出勤前にこんな手の込んだものをわざわざ作って用意してくれる。花京院は、とことん、俺を甘やかすのが上手い。
     天気がいい。洗濯物が、ベランダではためいている。そこに真っ白な大きいシーツを見つけて、俺はずん、と心が重たくなった。あのシーツは、あの時は分からなかったが、そのサイズから俺のベッドのものだと思われた。女を連れ込んで行為に及ぶ際、広いからといって同居人のベッドを使う、そんな無神経なことを、花京院がするわけがない。しかし、昨日俺はそれが汚れている理由に気がついてしまっていたから。何が正しく、何が間違っているのか、分からなかった。面と向かって尋ねるような勇気はない。今日花京院が帰って来たら、言おう。せっかくのお前との休日だけれど、研究室に呼ばれてしまった、一週間ほど、帰れない。そして監視をする。花京院が、休日に、どのように過ごしているのか。あのシーツの相手が現れたら、俺は平静を保てないかもしれない。けれど、確かめずにはいられなかった。

     夕方仕事から帰ってきた花京院に、明日は急に仕事が入った、と宣言した。俺と休日を過ごせないと聞いて、花京院はあからさまにがっかりした。そんな顔をされると、期待してしまう。花京院と休日を過ごしたいと言う気持ちと、見張って、暴いてやりたいという気持ちが、天秤にかけられてぐらぐらと揺れた。しかし、「そう、じゃあ、僕はいつもの休日を過ごすよ」という花京院の言葉に覚悟を決める。見せてもらおうじゃないか、俺のいない間の、花京院の休日を。洗濯物を畳みながら、君も大変だな、と労ってくるから、嘘をついていることに心がちくちくと痛んだけれど。「今日の夕飯は、生姜焼きだよ」仕込んであるから、あとは焼くだけ。そう笑う花京院の笑顔を、俺はどこまで信じたらいいんだろう。生姜焼きは、美味かった。

    「じゃあ、行ってくる」
     朝、俺は研究室に行くふりをして、家を出た。花京院は玄関まで出て見送ってくれた。
    「いってらっしゃい、気をつけて」
    「一週間くらいで帰れると思う」
     大嘘だ。もしも、ダメージを受けた時、それを癒す時間が欲しかった。そのため多めに留守を見積もる。
    「身体に気をつけて。何かあったら、電話してくれよ」
     花京院は笑顔で送り出してくれた。
     そのまま向かう先は勤め先などではなく、マンションの向かいに位置する、少し離れた雑居ビルの屋上だった。そこからは、俺のスタープラチナなら、窓辺にある部屋がしっかりと見渡せる。向こうからは気づかれないような、抜群の距離。リビングと、それぞれの寝室。それを、朝から夕方まで見張るつもりでいた。注視すれば、マンションに近づく人物も、しっかり観察することができる。天気は上々、気温も暑すぎることも寒すぎることもない。見せてもらおう。お前の休日を。自分がストーカーめいている事実については、蓋をした。

     午前中、花京院はエプロンをつけて、家の中で忙しなく家事に勤しんでいた。フローリングを、丁寧にモップで磨いている。家の中は、いつも綺麗だった。花京院がそうやって、メンテナンスを怠らなかった証だろう。二人の部屋を、大切に思ってくれている。その事実が嬉しい。だが、俺は忘れてはいなかった。第三者の可能性。訪問者のために、家を綺麗にしているという、俺にとっては痛すぎる可能性。洗濯、朝食の後始末、部屋の掃除、それらが終わると、花京院はキッチンでコーヒーをいれ始めた。カフェインの取り過ぎは腹の傷に良くないと言ったのに、結構な量、ドリップしている。これから、誰か来るのか。マンションの周りを見渡したけれど、それらしき人間はいなかった。そして、食器棚から、花京院はマグカップを取り出した。二つ。俺と揃いのそれ。なみなみと、二つのカップにコーヒーを注いだ。さくらんぼ柄の方には、少しのミルクと砂糖をひと匙。星柄の方は、ブラックのまま。やはり、誰か来るのか。どくどくと心音が脈打って苦しくなる俺をよそに、その二つのカップを手に、花京院はリビングのソファに座った。ローテーブルに、カップを置く。さくらんぼ柄のカップには口を付けたが、星のカップは、ただテーブルに置かれただけだ。花京院はそのままテレビをつけて、寛いでいる。
     俺は訝しんだ。お前は、何をやっているんだ。花京院はテレビを見たまま、時々笑ったりしている。そして、隣の席を、ぽんぽんと叩いた。その正面には、星柄のマグカップ。洗濯物が乾く頃、花京院はテレビを消して立ち上がった。件のマグカップには、誰も触っていない。ただ、テーブルに置かれたまま、冷め切っていた。空になった自分のマグカップと一緒にそれを持ち上げると、キッチンに向かって片付けようとする。冷めたブラックコーヒーは、シンクに捨てられた。そのままスポンジで洗って、水切り籠に伏せる。俺が先日見た、洗われた二つのマグカップの姿だった。俺の頭の中は疑問符でいっぱいになる。花京院は、何がしたかったのだろう。飲まれることの無かった無駄になったコーヒー。わざわざ、何のために用意したのか。洗濯物を取り込んで畳んでいる花京院を見つめたけれど、答えは出なかった。
     夕食は、ハンバーグ。一人だというのに、花京院は家事の手を抜かない。しかしやはり、おかしかった。ダイニングのテーブルに、二食分、皿が並べられる。付け合わせのサラダとスープ。向かい合うように並べられたそれに、誰かを夕食に呼んでいるのか、と思った。しかし、訪問者は待っても出てこない。花京院は椅子に座ると手を合わせていただきます、と口を動かした。減っていく花京院の皿の上の料理と、コーヒーと同じように冷めていくもうひと組の夕食のメニュー。花京院は、一人だというのに、何やら喋っていた。食べ終わると、花京院は余ったそのもうひと組にラップをかけて、冷蔵庫にしまった。やはり、奴のしたいことがわからない。二日分を同時に作るだけならば、テーブルに並べる必要は無いだろう。花京院の奇行に、心配になる。俺が気を抜いた瞬間に、何やらおかしくなるスタンド攻撃でも、受けたのではあるまいな。もう日も落ちた。今日の監視は終わりにして、それとなく、電話で、異常が無いか聞き出せないだろうか。そんなことを思っていた時。花京院が、俺の寝室に入った。何の用が。間接照明だったが、スタープラチナの目なら、花京院の姿はしっかり見えた。俺のベッドに寝そべる。枕に顔を埋めて、身を捩っている。俺は固まった。花京院が、服を脱ぎ始めた。中途半端にはだけて、肌色がちらちらと見える。シーツにしがみついて匂いを嗅ぎ、自分の下半身に手を伸ばした。それは、紛れもなく、艶姿だった。
     俺は呼吸が上手くできなくなって、スタンドを引っ込めた。何を、何を、見た。花京院の、今日一日の行動。いつもの休日を過ごすと言った。花京院は、家事をこなしながら、まるで、恋人と過ごすように、振る舞っていた。夜は、愛する人のベッドで、一緒に。まるで、そのように。
     俺は自分の頭の中には一切無かった第三者以外の可能性に気がつく。俺は、花京院が好きだった。一緒に住もうと言ったのは、花京院だ。そして二人の距離は。花京院は甲斐甲斐しく、俺の世話を焼いた。ただの友人に、果たしてあのプライドの高い男が、そんな尽くすようなことをするだろうか。俺のあいつに対する感情。そして、知ろうとしなかった、花京院が持つ、俺に対する感情とは。
     二人で過ごした休日を思い出した。ソファに並んで、コーヒーを飲みながら映画鑑賞をした。時々、触れ合った。向かい合って食事をした。花京院は腕を振るってくれて、それを美味いという俺を、優しい眼で見ていた。夜は互いの寝室に引っ込んだが、おやすみと、別れる直前の花京院の瞳を思い出す。暗いから。それを理由に、見えなかったことにした、花京院の視線は、何かを言いたげだった。
     さっき見た光景が、頭から離れない。俺のベッドに縋って、身体をくねらせていた。何を思って、そんなことを。俺がショックを受けた、あのシーツの存在。あれは、まさか、俺を思って。勝手に自分の都合のいいように、物事を解釈してしまう。混乱していた。気がつくと、雑居ビルを後にして、マンションのエントランスに居た。このまま、帰ってしまったら。まずいところに出くわすのではないか。しかし、俺は花京院に訊きたかった。今日の行動全ての、動機を。俺の勘違いだと、笑われたら終わりだ。尻込みしたが、それ以上に、もしかしてを思うと、あいつを放っておけなかった。心音が耳元で鳴る。それに背を押されるように、エレベーターのボタンに触れた。

     玄関に鍵を差し込んで、靴を脱ぐと真っ直ぐに俺の寝室に向かう。ドアを開けると、薄暗い部屋の中で、花京院が俺のベッドの上で乱れていた。俺の存在を目に留めて、大きく見開く。なんで、どうして、言いながら、シーツをかき集めて身体を隠そうとする。俺は距離を詰めて、仁王立ちになって言った。
    「お前、何のつもりで、こんなことをしている」
     動揺していて、言葉選びを間違えた。花京院の肩がびくりと震えた。瞳を潤ませて俺を見上げてくる。責めているわけではないのに、「ごめん」、と小さく空間に声が落ちた。
    「君がいないのをいいことに、勝手にベッドを使った。その、この部屋は、君の匂いがするのに、君がいないから」
     花京院は視線を落とした。
    「肝心の、君がいないから。つい、恋しくなって」
     その言葉に俺は突き動かされて、花京院を抱きしめた。恋しくなって。確かにそう言った。俺を、思って、今日一日を過ごした。俺と共に過ごすように、行動した。二人分のコーヒー、二人分の食事。夜、まるで愛する人と寝るように、ベッドで匂いを求めて。抱きしめる力を強くすると、花京院が苦しそうに声を出した。
    「承太郎、仕事は」
    「そんなもん、嘘だ。今日一日、お前を見てた」
    「え」
     花京院が絶句する。そうだよな、ストーカーじゃあるまいし。呆れられるか、と思って顔を覗き込むと、花京院は真っ赤になっていた。
    「じゃあ、見ちゃったのか。僕の…休日デートごっこ」
     何とも可愛いネーミングに、思わず笑みが溢れる。
    「休日は、俺とのデートの日なのか」
    「そうだよ、君とゆっくりテレビ見て、夕食食べて、それから」
     息を詰まらせている。恥ずかしくて発音ができない、という顔だ。俺は言ってやった。
    「俺のベッドで、二人で乱れる?」
     花京院が吃驚したというように俺を見る。今だって、シーツの下には素肌がある。
    「お前は、そうしたかったのか」
     答えを聞きたい。ずっと、ずっと欲しいと願っていた。けれど過ぎた思いだと、選択肢にもあげなかった。ただ、幸せでいてくれたら。花京院を、一生幸せにできるのが、俺だったとしたら?花京院が欲しがったのが、俺だったとしたら?するする出てくる可能性。それらが、まるで正解であるかのような、この状況。花京院は観念したように、落ち着いた声で言った。
    「君との同居を申し出た時、凄く、ドキドキしてた。OKしてもらえて、最初はそれだけでよかったのに、どんどん欲深くなった。君が、欲しくなった。君を繋ぎ止めたくて、必死だった。いつか素敵な女性が現れて、君がいなくなってしまうまで、君と楽しく暮らしたくて。承太郎が、僕を許してくれるから。実は、夫婦みたいだなって、浮かれてたんだ。一人相撲で、恥ずかしいこと、この上ないんだけど」
     最後の方、花京院はぽろぽろと涙をこぼしていた。ず、と鼻を啜る。俺の身体中を、喜びが走り回った。花京院は、まったく、俺と同じ気持ちでいてくれたのだ。夫婦みたい。俺は結婚したことがないから詳細はわからないが、確かに俺に尽くしてくれた花京院は、よく働く嫁のようだった。そして、旦那が留守の日は寂しいから、さも居るようにおうちデートを演出した。俺が心配した、第三者なんていなかった。あったのは、想像だにしなかった花京院の俺への思いだけだ。
    「花京院」
     花京院は黙ってしまった。俺に引導を渡されるのを、大人しく待っているみたいだった。ならば。
    「結婚してくれ」
     涙に濡れた瞳が、弾かれたように俺を見た。
    「ずっと、ガキの頃から、お前が好きだった。お前が幸せだったら、相手が俺でなくても構わないなんて思った時期もあったが、こうなったら、俺が、お前を幸せにする。これから先の人生を、俺にくれないか」
     くしゃ、と顔を歪ませて、花京院が泣く。俺の胸に顔を擦り付けて、嗚咽を漏らした。
    「僕、でいい?」
    「お前がいいんだ」
     俺の言葉に、花京院が小さく笑う。
    「いい大人が、何年も、何してたんだろうね」
    「まったくだ。こんなことなら、もっと早くに俺のものにしておけばよかった」
     これとかよ。シーツの下に手を滑り込ませて素肌を撫でると、花京院がうっとりと見つめてくる。
    「君が僕で興奮できるか、心配なんだけれど」
     可愛いことを言うので、
    「俺のオカズはもう長年、お前だ」
     ムードもクソもないことを言ったら、肌を撫で回す手の甲をつねられた。
    「プロポーズは、了承してもらえたと取っていいんだな」
     赤い顔をして、うん、と頷く花京院が、愛おしい。
    「次の休日、指輪を買いに行こう。それから、身内だけで、式を挙げよう。お前が形式を求めるなら、結婚できる海外に、籍を移したっていい」
    「承太郎、僕がどれほど混乱しているか、わかるか?いま、そんな、矢継ぎ早に言われても」
    「なるほど、では、すべては明日だ。今夜は、抱きしめて眠っても?」
     花京院は爪先をすり、と動かした。
    「ここは君のベッドだ。君の好きにするといい」
     素直でない、可愛い返事が胸をくすぐる。
     長年の思いが、実は両思いだったと、判明した割には穏やかな心でいられた。ただ心が温かい。すでに、手に入れたかのような生活をしていたから、いまいち真実味に欠けるのだ。これからじわじわと、喜びが広がっていくのだろう。一人相撲。花京院の言葉を思い出す。言われて初めて気づくくらい自然に、俺たちは確かに夫婦であるかのように振る舞っていた。当たり前のように享受していた花京院の世話焼きを、振り返れば何とも恥ずかしく、俺は亭主関白だった。これからは、嫁を甘やかしていきたい。俺たちは、結婚するんだ。それが、嬉しい。形が全てではないけれど、これからは、パートナーと、伴侶と、胸を張って言って繋ぎ止められる。失うことを、恐れることがない。それは、途方もない幸せを意味していた。
     指輪のブランドは、どこにしようか。腕の中で花京院がもぞりと動いて、「ふく、きるから」と言ってきたので。
    「そのままでも、俺は構わないぜ」
     本当は嘘だ。理性を持たせるためにも、今の艶かしい格好を改めてもらいたい。すると下から花京院の手が伸びてきて、ぐき、と俺の顎を押し上げた。
    「ばか、すけべ」
     涙で潤んだ恨めしそうな視線に睨まれて、その手を取って、ちゅ、と手のひらにキスをした。



    end


    おまけ

     もそもそと花京院が服を着る。俺はそれを視界に入れないようにしていた。肌色がちらちらするから、我慢が効かなくなってしまいそうで、かぶり付くのははやすぎる、と己の心を制御した。
     部屋着の花京院は、大層愛らしい。仕事に行く時はいつもしっかりスーツを着こなしていたが、俺とだらだらと休日を過ごす際は、ゆったりとした衣服を身につけていて、そこから覗く鎖骨なんかにいつも胸を高鳴らせていた。身体のラインが見えないダブつきのあるそれが、逆に妄想を刺激して、先ほど見たあられもない姿を思い出しては平静を保とうと深呼吸をする。
    「お前、もう少し、家でもきちんとした格好をしろ」
     その言葉に、服を着込んで振り向いた花京院が眉を寄せた。
    「もしかして、だらしのない僕が、嫌だったかい?君の前ではつい甘えてしまうのも、」
    「逆だ、逆。気の抜けたお前を見ていると、手を出しそうになる」
     ぱち、と一つ瞬きをして、花京院の口角がゆっくりと上がった。
    「君は僕の旦那様になったんだから、手を出しても構わないんだよ」
     少し照れたような、けれど色のある微笑み。言葉の内容に、ぐらりと理性が揺れる。
    「まだ、プロポーズをして了承してもらっただけだ。指輪だって渡してないし、式も挙げていない。次の段階に向かうには早すぎる」
    「君、ひと時代前みたいな男の考え方してるな。今時の若者は、好きになったらフリーセックスが普通だと思うんだが」
     花京院の口から飛び出した直接的なワードが、脳天を痺れさせた。つまりは俺とそれをしたいということか。思わず手を伸ばして掴んだ肩が熱を持っていて、言った後で恥ずかしくなったのか、頬を染める花京院が見上げてくるのに、俺は理性をかき集めて言った。
    「俺はお前には誠実でいたい。その場の勢いなどではなく、ちゃんと準備をして、心構えをしっかりして、足元を整えた後で、お前を手に入れたい」
     俺は真剣だったのに、花京院はブッと吹き出して、けらけら笑いながら距離を詰めてきた。ハンズアップした俺の身体に正面から抱きついて、背に手を当てる。
    「君のそういうところ、凄く面倒くさいけど、凄く好きだ。愛されてるって、実感できる。でも僕ら、ずっと夫婦みたいだっただろう。それにちょっと、色事が加わるだけだよ。大きく変わることなんて、それくらいだろ」
    「まさにその一点が重要なんだ。お前を愛しているからこそ、きちんと段階を踏んでいきたい」
     温かい身体を抱きしめ返すと、腕の中の花京院は身を震わせて笑って、俺を見上げた。
    「僕の旦那様は、頑固で、奥さん想いだな。分かったよ、いたずらに君を誘うのは慎もう。君からの愛の言葉をもっと聞きたい。コーヒーでも飲んで、話をしよう」
    「コーヒーはお前は昼間飲んでいただろう。もう今日は駄目だ。ホットミルクにしろ。俺も付き合う」
    「出た、心配性。でも、嬉しい」
     花京院は、随分と素直になった気がする。これがプロポーズ効果というものなのかは分からないが。優しく微笑んで俺の手を引きキッチンに移動する。俺の言う通り冷蔵庫から牛乳パックを取り出してコンロにミルクパンを置く花京院の背に張り付いて、腹に手を回し密着して動く俺に、花京院はくすぐったそうに笑った。


    おわり
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    きのした

    PASTpixivより再掲

    グッパオンで恋に落ちてる承花を目指した結果。
    ただ、花京院が好きな承太郎の話。
    だって空条氏は、出会った時から花京院に、惚れてましたよね?(曇りなきまなこ)
    承太郎の様子がだいぶおかしいです。頭がお花畑です。花京院も若干ふわふわしてます。
    承花にポルナレフを添えるのが好きです。
    恋する二人とお兄ちゃん おまけつき きっとそれは、一目惚れというやつだった。

     初めて見た時、天女かと思った。羽衣をヒラヒラさせて、怪我をした俺を気にかける。ハンカチを渡されて、胸が高鳴った。細い身体をしならせて去っていくその姿に、このハンカチを返す時、関係を迫ろうと思った。
     運命だと思ったのに、DIOの刺客だった。少々がっかりしたが、これから俺のものにすればいいと、お持ち帰りをする。敵意のこもった鋭い視線も美しかったが、操られていたのだと、洗脳をといた瞬間、その潤む菫色が優しい色をしていて、俺は再び落ちることになる。
     少々プライドが高くて、扱いにくいのだろうか。そう思っていたが、共に過ごすうち、それは奴の背伸びであったのだと気がついた。本来の花京院は、穏やかで優しく、頭が良い分色々なことによく気がついて、相手の先に回って気遣いの態度をとっていた。俺の理想とする大和撫子。
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    きのした

    PASTpixivより再掲

    花京院が心配な病的過保護太郎と、承太郎の愛が欲しい蘇り院の話。
    私はすぐ承太郎を病気にしたがるから困る。
    誤解とすれ違いが大好物です。
    当然のようにアメリカで同棲。
    何年後かは、それぞれの胸の中でお好きな感じに当てはめて下さい。
    ※ほのかに承←モブ表現あり。
    だからお願いそばにおいてね おまけつき 僕は承太郎と、たった一度だけ、抱き合ったことがある。

     あれは、あの旅で、まだ僕が目を負傷して途中離脱する前。その日は敵襲に遭って、スタープラチナを思う様暴れさせた承太郎は、古ぼけた宿に泊まるとなっても、興奮がおさまらないようだった。僕らはキスを交わした。二人部屋で、夜が染み入ってくれば、何も邪魔するものはない。彼は僕を好きだと言った。息継ぎの度、何度も。僕を貪る彼を、僕は愛しいと思っていた。だから僕も好きだと返した。いつもだったら、思う存分キスをした後、疲れた身体を休ませるために手を繋いで眠りについた。けれどその日は違った。
     承太郎が僕を軋む固いベッドに押し倒す。そのまま僕の服を剥ごうとした。僕は打ち震えた。承太郎に恋していた僕は、いつからかその瞬間を待ち望んでいたのだ。承太郎に欲望を向けられていることが、たまらなく嬉しかった。彼の、望むように。僕は積極的に動いて、承太郎と愛し合った。大切な思い出。これから先何があっても、この瞬間の幸せを覚えていれば大丈夫。僕は何にでも立ち向かえる。そう思って最終決戦に挑んだ僕は、DIOに敗北した。だけど、それはきっと、僕の役目だった。メッセージに、どうか気づいて欲しい、そう願いながら、水に沈んでいった。感覚の無くなっていく指先が、勝手に温もりを探す。承太郎。最期に、君とキスが、したかったなぁ。
    18029

    きのした

    DONEすぐに康一くんを頼る駄目太郎の図。
    仗助くんは別に承太郎にも花京院にも特別な感情は持ってないです。ただ、年上の甥について、シビれる〜カッチョイ〜!とは思ってます。
    途中ちょっと不穏ですが、コメディととってもらって間違い無いです。
    コミュニケーション・ロマンス 付き合い始めてから、もう十年を超える。空条承太郎は僕の初めての恋人だった。男同士だけれど、僕らはキスをするし、セックスだってする。愛を囁き合って、互いの気持ちを確かめる。ゴールの無い関係。それを分かっていたから。同居して、伴侶のように振る舞っていても、確約されるものは何もない。僕らは互いの気持ちだけで、繋がっていた。それに不安が無いわけじゃない。でも僕は信じていた。承太郎の愛情を。だから承太郎が僕を愛するが故に吐く嘘や作る秘密を、見て見ない振りをしていた。それでうまくいくはず。そう考えていたけれど、とある事件で承太郎が恐ろしい殺人鬼と闘ったということを後から知らされて、僕は思い知った。
     承太郎の嘘は優しい。でも、残酷だ。僕はいつだって、君を知りたくて、君を守りたくて、君を愛したい。そしてきっと承太郎も同じ想いなのだ。だから噛み合わない。最近ちょっと、承太郎が余所余所しい。どう動けばいいだろうかと、思案していた僕は、とある人物を頼って、ある町に来ていた。承太郎に憧れていて、僕の知らない彼を知っているその子なら、少しヒントをくれるかな、と思ったのだ。単純に、恋愛相談に乗ってくれそうな人物が他にいないという切実な事情もある。電話でポルナレフに話を持ちかけたら、何馬鹿なこと言ってるんだ、と言われそうな気がしてそれだけで腹が立ったので、ダイヤルしかけた指を止めた。
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