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    conatan111

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    conatan111

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    ギャメル、マンドラン、解放軍にて初めての斥候任務。クライブを添えて。

    必要に迫られて、小悪党フェイスを活かした裏切りムーブをやってみせるギャメルを見たかったと申しており…

    敵を騙すには「今回の斥候任務、ギャメルに行ってもらおうと考えているのだが、どうだろうか」
    エルヘイム義勇軍が解放軍に加わってから数週間、いくつかの町と砦の解放戦を共にした。彼らは、華々しい戦果を上げたとまでは言えないものの、十分に戦況に貢献したと言えるだろう。
    現在、解放軍の主だった面々が天幕に集まり、次の戦に向けいわゆる軍議を開いている。アレインがそう言うと、ジョセフとクライブは顔をしかめた。
    「いささか早計なように思います」
    「奴が持ってきた情報が嘘であった場合、戦の勝ち負け、ひいては兵の生死にも関わります」
    「そうだな。しかし、仲間とした以上いつまでも疑ってかかる訳にもいかないし、どこかで判断するべきだろう。それに、斥候班が多いに越したことは無い筈だ」
    ふむ、とジョセフが顎に手を当てた。
    「では、クライブを監視に付けてはいかがでしょうか。それから、他にもいくつか斥候班を出し、情報をすり合わせるとしましょう」
     ふむ、とよく似た仕草でアレインが顎に手を当てる。
    「クライブ、頼まれてくれるか?」
    「かしこまりました」

    そうしてゼノイラの支配下に置かれた町に潜入した、ギャメル、マンドラン、クライブの三名は、大した収穫も無いうちに早々に捕らえられ、地下牢に閉じ込められていた。町娘に酷く絡むゼノイラ兵をクライブがたしなめ、それをマンドランが混ぜっ返し、更にギャメルが派手に煽って騒ぎを大きくしたせいである。ちょっとした乱闘騒ぎになり、酒場の窓とグラスが割れ、椅子とテーブルがひっくり返り、警備兵が出てくるまでの事態となったのだ。
    「あーあ、ここからどうすっかねえ」
    「うまい飯が出てくるといいな!」
    「んなわきゃねーだろ。犬の餌みたいな飯でも、出てくるんなら御の字だ」
     木製の手枷をがちゃがちゃやりながら、ギャメルとマンドランがのんびりと喋る。クライブは煮えくり返るはらわたを抱えて、低い声を出した。
    「貴様ら、何を考えている」
    「それはこっちの台詞だぜ。先にゼノイラ兵に手を出したのは、騎士様、あんただろ」
    「とりあえず、生きて帰れりゃあ、それでいいんだけどよ」
     監房の前に立つ見張りの兵が、槍の石突をどんと鳴らした。三人は口をつぐむ。地下牢の入り口が空き、肥えた男が入ってきた。よく磨き込まれたゼノイラ軍の鎧を身に着け、胸にはいくつかの勲章が光る。この村に逗留しているゼノイラ軍の指揮官か、副官か、はたまた重用されている部隊長か、いずれにしても、ある程度の地位にありそうな男だ。
    「反乱軍の者を捕らえたと報告があったが、この者たちか?」
    「は。きゃつらめ、酒場で騒ぎを起こしており、取り押さえました。見慣れぬ風体であり、反乱軍に与する者ではないかと疑い、捕らえた次第であります」
    「まあ良い。直接聞けば済む話だ」
     言うと、男は腰に提げた剣を抜いた。場違いにも思える笑顔である。刀身がぬらりと光る。ギャメルが、さっと顔を青ざめさせた。
    「助けてくれ!俺は反乱軍なんかじゃない。ただの雇われだ。なんでもする。知ってることはなんでも喋るから、命だけは見逃してくれよお……!」
    監房の檻に取り縋るようにして、ギャメルが哀れっぽい声を出す。
    「ギャメル、貴様!!!」
     激高したクライブが、ギャメルの襟首を掴み、引き倒した。殴りつけられたギャメルの頬から血が飛ぶ。手枷の角が皮膚を抉ったようだった。ギャメルは顔をかばう様にして体を丸めるばかりだ。
     看守が槍の石突で、クライブの胸を突いた。呻いて膝をついた隙に、さっと房の鍵が開き、ギャメルが引きずり出される。ギャメルは咳き込みながら、よろよろと立ち上がった。唇の端から血がこぼれる。
    「武器を捨てろ。こちらに獲物を渡して貰おうか」
    「こんなシロモノでも、俺にとっちゃ高い買い物だったんだぜ」
    「命より高い物などなかろう」
    「まあ、ちげえねえ」
     男に剣を突き付けられて、ギャメルはのろのろと懐から武器を取り出し、地面に落とす。使い古され、刃の毀れた二振りの短剣。クライブは、おや、と目をすがめた。奴が先の戦で使っていた武器は、あんな短剣だっただろうか。
    「あとの二人はどのように致しましょうか」
     ギャメルを伴って地下牢を出ていこうとする男に、看守が後ろから声をかけた。
    「ふむ。よく喋る鼠がいるなら、残りは殺してしまっても構わんのだが……、まあ、この鼠がどれ程喋るか分からんからな。追って通達する。閉じ込めておけ」
    「あぁ、あの金髪は、良いところの騎士様みたいですぜ。生かしておけば、ちょっとした人質にくらいなるかもしれねえなぁ」
     ギャメルは男にそう言うと、小悪党じみてヒヒヒと笑ってみせた。

    「貴様らを信用した我々が愚かだった」
    「本当、友達がいの無い奴だぜ」
    クライブが低く呻く。マンドランは、殊更大きな声でひとりごとのように言うと、ぐっと声をひそめた。
    「あんた、少しあいつに感謝したほうがいいぜ。あのままだったら、指の一本や二本無くなってた」
     クライブは目をしばたく。
    「ま、体力温存といこうや。何があるか分かんねーからな」



    それから数日が経った。「俺の腹時計的には」と言うマンドランの言葉を信じるなら、三日間。太陽の光が差し込まない地下牢では、時間の流れが曖昧だ。看守が時折交替し、更に少ない頻度で食事が届けられる。武器は取り上げられ、二人とも丸腰であった。
     ドアの軋む音がして、地下牢に繋がる扉が開いた。日差しが差す。明るいオレンジ色の光だ。朝焼けか、夕焼けか。
    ドッと鈍い音を立てて、突然看守の体が前のめりに倒れこんだ。見ると、その背中には深々と短剣が突き刺さっている。背後から心臓を一突き。致命傷だ。
    「悪い、遅くなったな。さっさとずらかるぞ」
     ギャメルが立っていた。かしゃんと軽い音がして、立ち上がったマンドランの手から枷が落ちる。クライブは一瞬ぽかんとした顔をした。
    「はは、俺ら、大体こういうのは外せるんだよ。騎士さんのも外してやるから、ちょっとじっとしててくれよな」
     マンドランはクライブの前にしゃがみ込むと、あっという間に手枷を外した。
    (なぜ?最初からこうしていれば、すぐに脱獄することもできたのでは?)
    「あったぜ」
    看守の懐を探っていたギャメルが、房の鍵を開ける。
    「騎士様、剣も使えるよな?この町、槍兵が少ないんだ。お前も、こんなのでも無いよりマシだろ」
     ギャメルが、看守が腰に佩いていた剣を取り上げるとクライブに手渡す。マンドランに渡したのは、鳥獣狩猟用と思しき短弓だ。
    「悪いけど、これも被っててくれ。あんたの小綺麗な格好は、この町中だと良く目立つ」
     ギャメルはクライブに薄汚れたローブを投げ渡すと、足早に歩きだした。
     
     すぐにも追手がかかるかと思われたが、意外にも町の中は落ち着いていた。ありふれた喧騒に紛れるようにすいすいと歩いていくギャメルの背を追う。日は徐々に沈み、辺りは薄暗くなり始めていた。宿屋や酒場、屋台のランプが灯る。ギャメルがひとつの屋台の前で足を止め、店主の女性と二、三言会話すると、包みを三つ持って戻ってきた。
    「まあ、これでも食いながら帰ろうぜ」
    「お、やりぃ!」
     何をのんきな、とクライブは腹立たしくも思ったが、黙っていた。捕らえられていた数日間、まともな食事を取れていなかったし、この町から解放軍の陣営までは、歩いて半日はかかる。持ち込んだ携帯食は取り上げられていたし、何か食事を取るべきであるのは確かだった。
     包みの中身はサンドイッチであった。固くて丸い黒パンに、潰した芋と干し肉が挟んである。パンと芋はぱさぱさで、干し肉はやたらと塩気がきつく、お世辞にも旨いとは言い難い。クライブは、サンドイッチの包みと一緒にギャメルから手渡された、皮袋に入ったぬるい水で口を湿らせながら、なんとかパンを飲み下した。
    「お、こいつは、なかなかひでえな」
    「この町は配給制みたいだが、食材管理の奴がセンスねえな。食料庫に小麦と芋しか入ってなかったぜ。生鮮食品が全然駄目で、どこの飯屋もこんなもんだ」
    「ま、牢屋で出た食事よりはマシだな。騎士さんもそう思うだろ?」
     口をもぐもぐさせながらマンドランが言う。確かに、牢屋で出てきた、半分腐って溶けかけているのに、生焼けでじゃりじゃりする芋よりはマシなのであった。
     
    程なくして町を出た。まだ追手の気配はない。足早に街道を歩く。この調子であれば、朝までには解放軍の陣営に戻ることができそうであった。元々数日間の斥候任務の予定であったとは言え、定時連絡を出せていない。殿下やジョセフ様が気を揉んでいる筈だ、とクライブは思った。
    「なあ騎士様、ちょっとばかり向こうの高台に寄っちゃくれねぇか」
     だしぬけにギャメルが言う。
    「しかし、追手がかかっているのでは?」
    「交代の看守なら、飲んだくれて、おねんねしてるぜ。追手がかかるまでには、もう少し時間があると思う」
    「お前が潰したの間違いだろ~」
     クライブは僅かに迷った。罠の可能性、待ち伏せの可能性、狙撃される可能性。彼ら元盗賊を、疑えばキリがない。
    「まさか俺の偵察を、鵜呑みにする訳じゃないだろ?あそこからなら、町の全域を見られる。それに越したことはねえと思ったんだが」
     疑えばキリがないが、危険を冒してまで脱獄の助けに来たギャメルを、ひとまず信用してみても良いかと思えた。手に馴染む得物では無いが、万が一の時には剣という保険もある。

     確かに、高台からは町が一望できた。
    「俺なら、あそこの見張り台から、ここまで矢が届くな」
     と、マンドランがそう言うので、二人は木の陰にひっそりと身を寄せるようにして町を見下ろす。少し離れた所に立つマンドランは見張りだ。
    「町の出入り口は二か所、見張り台も二か所。バリスタが一台。矢が飛ばないように一応細工はしてみたが、戦闘前に点検されれば修理されるかもしれねぇ。あそこで布を被ってるのは投石器だ」
     ギャメルが各施設を指差しながら、ぼそぼそと説明する。
    「敵の偉いさんは、あっちの建物にいることが多いみてえだな。そう、あの高い煙突の家だ。向こうが食料庫。町民もゼノイラ兵も、似たようなものを食ってる。さっき俺らが食べたような奴だ。あと、酒場の酒、ありゃあ粗悪品だな。手っ取り早く酔えるように、多分、消毒液か何か混ぜてある。まあ、そんなんだから、町民はもちろん、ゼノイラの下っ端兵どもの士気もあんまり高くないぜ。偉いさんがどうかは分からねぇがな」
     端的に喋るギャメルに、クライブは内心で舌を巻いた。人が囚われている間何をしていたのかと思ったが、これは中々、有能なのではないだろうか。もちろん、虚偽が無ければ、という前提だが。
    「まあ、ざっとこんなもんか。急ごうぜ」

     かくして、ギャメルとマンドランは、無事に初斥候任務を終えたのであった。
     むろん斥候隊は彼らだけでは無く、内部潜入、ワイバーンナイトやグリフォンナイトによる上空からの視察、ウィザードやウィッチによる魔術的な探索等、様々な視点から得た複数の情報を、アレインやジョセフ、騎士らが斟酌して戦略を練るのである。その軍議に同席するようクライブに求められ、口論するギャメルとクライブの姿があったという。

    +++++++++++++

    「お前が得た情報だ。直接殿下に報告するべきだ」
    「いやいや、騎士様が伝えてくれたらいいだろ。なんの為にあんたに説明したと思ってるんだよ!」

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