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    konekonepie

    @konekonepie

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    konekonepie

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    荊棘(おどろ)さまのおやしろシリーズ(異種婚姻譚さめしし) 土砂崩れ、人死に、先生が完全に邪神。
    贄しょたししくんが神様の村雨先生のところに来てから数年後のシーンを書きたくなったので書いた。
    しょたししくんがなんで金髪碧眼なのか、って言うのがちょっと関わってますが雰囲気で読んでおくれ。

    #さめしし

    消失 静まり返った村を歩く。小さいながらも活気に溢れていた様子も今は何処にも無く、流行り病に侵された人間の嘆く声だけが細く聞こえてくるだけだ。そして、この村は消える。病を齎した長雨が、彼等に最期を運んでくるのだ。
     村の中心にあたる道を歩いていると、一軒の家の前で男が一人蹲っていた。側に水桶があるのを見るに、何度か動く体に鞭打って病人の為に水を汲みに行こうとした、と言ったところだろうか。どうやら家を出た時点で彼自身も力尽きてしまったらしく、か細い息をしながらなんとか生きている。
    「誰、だ……」
     男がゆっくりと顔を上げて私を見たが、私は答えない。答える義理がそもそも無い。それでも男は見慣れぬ私の風体に旅人だと思ったのか、距離を取るように家の壁にもたれ掛かった。
    「悪い事は言わねえ……早く、この村を、出た方がいい」
    「ああ、そうだな。私もこの村に用があった訳では無い。自ら死期を早めた村がどうなるか、興味があっただけだ」
     男は眉を寄せ、怪訝そうな顔で私を見上げる。旅人にしては荷が少ない事には気付かなかったのだろうか。まあ、そんな余力も彼には残っていなかったのだろう。
    「八年前、この村は一人の子供を贄に出しただろう。あれが全ての間違いだ」
    「八年、前……ッ⁉︎」
    「この村の死は、運命の流れの中にある。……しかし、それを憐れんだ何かがいたのだろうな。この村にあの子が生まれたのは、その為だ」
     ——病を遠ざけ、土の波から逃れる為に。
     そう告げた瞬間、男の顔から残り少ない血の気が引いていく。知らずにこのまま死ねば、きっと楽だっただろう。何も分からぬまま病に倒れ、最期は皆揃って土の下だ。苦しくはあるだろうが、諦めのつく最期だろう。
     しかし、それではいけない、と私の中の何かが言う。何故己が排斥されるのか分からぬまま、それでも自分の生に意味があるならと死ぬ為に私のもとへ辿り着いたあの子の中の欠片が、救われないだろうと。
    「……敬、一」
     名を呟いた瞬間の男の表情に、おや、と気になるものがあった。苦悶のような、憎しみのような、そしてその中に薄く、悲しみも見える。
     もしや、と思ったら次の瞬間には、私の唇は深く深く、弧を描いていた。
    「——ああ、そうか。あなたはあの子の父だったか。それならば、私はあなたに礼を述べねばなるまい」
     どろりと体の、器の中から『私』が溢れて滲んでいく。男の顔が恐怖で醜く歪んでいく様を見つめながら、私は心の底からの喜びを露わにした。
     嗚呼、愚かな人の子よ。あの子を自ら手放してくれて、私は本当に喜んでいるのだ。あの美しい幼子は、お前達が手放さなければきっと私のもとに来る事は無かっただろう。
     どんなに虐げられても、どんなに痛めつけられても、きっと故郷を完全に捨てる事は出来なかっただろう。捨てるための力を手に入れるまでの間、生きていられたかも分からない。
    「あなたの子は今、私の社で健やかに育っている。安心して死ぬと良い」
     男の表情が目まぐるしく変わっていく。恐怖、怒り、嫉妬、そしてまた死への恐れと絶望が戻ってくる。
     おおかた、殺したと思った子供が生きて神に庇護され、自分達は病に倒れて死にかけていると言う事実に対して怒りを感じているのだろう。身勝手な理由であの子を捨てておいて、今更勝手なことを言うものだ。
     降り出した雨が山を濡らしていく。じきに、この村は山に飲まれていくだろう。
    「荊棘様、——荊棘様、ッ、どうか、どうか……村を……!」
     恐怖が限界に達した男が平伏しながら絶叫する。私はそれを見下ろしたまま、フ、と笑った。一度口から出た笑みは止まる事なく続き、フフフ、と私は肩を揺らす。
     男の泣き怯え、それでも救いを求めて神に懇願する様を確かに楽しみながら、愉快だ、と目を細めた。
    「私は既に告げたはずだが、聞こえていなかったか。子を案ずることなく安らかに死ぬと良い」
     絶望と怒りと、一人救われた息子に対しての嫉妬が目の前の男から溢れ出す。私を旅人だと思って案じた瞬間の男の面影は既に無く、醜く歪んだ顔を晒した男が一人。
     そのまま打ちのめされてしまったのか、地面に伏せたまま動かなくなってしまった男の心臓が、そう長くはもたない動き方をしているのにも気付いていた。
     彼を残し、雨が降る中、私は私の山へと帰っていく。少しずつ近づいてくる地響きを耳にしながら私は考える。あの村を救おうとした何かには悪いが、これで良かったのだ、と。
     あの子が——獅子神と仮の名をつけた彼が、あの村に居続けて村を救ったとしてもきっとその心は安らかでいられはしなかっただろう。
     私があの村にある程度の恵みを与えてやっていたのは、彼等が正しく私に対して供物を捧げていたからだ。そしてあの子を手に入れた以上、私はあの村からのこれ以上の供物を必要としない。故に恵みも、庇護を与えることもない。
     唯一存在していた救済に至るための鍵を自らの手で放棄し、あまつさえその鍵を異物として排斥し、傷つけた。そんな愚かな人間に対して慈悲をくれてやるほど、私は優しい存在ではない。
     見下ろした山の麓が土の波に飲まれていく。ああ、これで全て無くなってしまったのだ、と目を細めた。
     
     ——心の奥底から湧いてくる喜びに、私は堪えることなく笑いだす。嗚呼、そうだ。全て無くなったのだ。
     人の生きる世にあった獅子神の心を惹きかねないものが、一つ残らず全て消え去った。彼自身は忘れようとしているのかもしれないが、どちらでも構わない。私の為の贄が、私以外のものに心を割く必要は無いのだから。
     
     雨に濡れ、少し体が冷えてしまった。降り続く雨と土の海になった其処から目を離し、私は社へと空を蹴る。
     早く、あの小さくも温かで愛おしい、私の花嫁を抱きしめたい。少し照れたように笑う彼の金糸の髪を撫でて、やわらかな頬に口付けて、あなたを愛していると囁いていたい。
     
     雨は降り続けている。雨音に混じる苦悶の声は、雨雲が去った頃にはもう、途切れて消えていた。
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    takamura_lmw

    DONE桜流しのさめしし、もしくはししさめ。ハッピーエンドです。ほんとなんです。メリバでもないキラッキラのハピエンなんです。信じてください。

    これがずっと出力できなくてここ一ヶ月他のものをなんも書けてませんでした。桜が散る前に完成して良かったと思うことにします。次はお原稿と、にょたゆりでなれそめを書きたいです。
    桜流し 獅子神敬一が死んだ。
     四月の二日、桜が散り出す頃のことだった。



     村雨にその死を伝えたのは真経津だった。
    「——は?」
    「死んじゃったんだって。試合には勝ったのに。獅子神さんらしいよね」
     真経津は薄く微笑んで言った。「獅子神さん、死んじゃった」と告げたその時も、彼は同じ顔をしていた。
    「……いつだ」
    「今日。ボク、さっきまで銀行にいたんだ。ゲームじゃなかったんだけど、手続きで。そしたら宇佐美さんが来て教えてくれた。仲が良かったからって」
     村雨はどこかぼんやりと真経津の言葉を聞いていた。
    「あれは、……獅子神は家族がいないだろう。遺体はどうするんだ」
    「雑用係の人たちが連れて帰るって聞いたよ」
    「そうか」
    「銀行に預けてる遺言書、あるでしょ。時々更新させられる、お葬式とか相続の話とか書いたやつ。獅子神さん、あれに自分が死んだ後は雑用係の人たちにお葬式とか後片付けとか任せるって書いてたみたい。まあ銀行も、事情が分かってる人がお葬式してくれた方が安心だもんね」
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