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    higuyogu

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    POIPOI 76

    higuyogu

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    自ギルド。BL未満。自ギルドのポニシノとショが蕎麦を食いにいこうとしている。縦書きで読んでみたかった。そのうち横書きにするかもね🐀

    世界木3 自ギルド ポニシノとショ 休日 晴れた昼。商店が軒を連ねる大通りを様々な格好の人が行き交う。石で舗装された地面は熱く、青空には入道雲が映えている。南の島は湿度が高い。
     歩みの速さもそれぞれの往来のなか、紺髪を高く結い上げた浴衣の男と、それに続く金髪の少年がいた。少年も髪の毛を高く結っており、Tシャツに短パンの装いである。男の腰には刀が差さっている。
     男はそれなりの速さで人々を躱して進む。仕事のために早歩きになっている者も、昼間から飲んだくれて足物がおぼつかない者もいた。それらを男は気にせず歩く。
     少年も何食わぬ顔でついていくが、たまに遅れる。追うのと目的地に向かうのとでは少々訳が違う、と少年は内心に愚痴をこぼす。小走りで離れた距離を詰めた。
     それにしても今日は自由に歩く人が多い。あまりに男の後ろに割り込まれ、少年の行手は遮られる。男も蛇行して歩いているので、人を躱わすのに苦戦しているのかもしれない。
     だが実際のところは男があえて蛇行して歩いているだけであった。行手を阻まれていたのはむしろ他の通行人の方ですらあったかもしれない。
     男の地味な奇行に少年は気づかない。一生懸命に男を追う。男は灰色の浴衣に紺色の帯を締めている。もう少し派手な色であれば、ちょうど良い目印になったであろう。または群衆に埋もれないくらい背が高ければよかったのだ。
     少年は何度も切り離されそうになる。照りつける日差しは体力を酷く消耗させ、不快だった。
     少年は思い切って灰色の袂を掴んだ。そして手をつなげるほどの近さまで距離を詰めた。男の左肩が顔のすぐ近くにある。ようやく落ち着けそうだ、と息を吐く。もっと早くからこうしておけば良かった、とすら思った。
     しかし男はまた突然はすに向かって歩き出した。少年はまた男に距離をとられ、袂が広がる。
     男が袖を引っ張られる感触に気づいていないはずはない、と少年は不思議に思う。だがそれと同時に、男はあんまり穏やかな性格をしていなかったことも思い出す。とにかくこれではまだ落ち着けない。
     再び距離を詰めた少年は、今度は男の手を握ってしまうことにした。相手の掌に無理やり自分の手を差し入れ、手繋ぎの形にする。想像よりもタコの多い手であった。
     ここでようやく男が首を動かす。歩いたまま少年を一瞥する。灰白色にも見える灰青の瞳が少年を見下ろす。感情を感じない顔だった。
     少年は手を強く握り、視線を下ろす。前を歩く人の背中が規則的に動いている。今は人の流れに乗れているので、避けるために身をひねる必要はなさそうだった。それでも少年は男に体をつけた。どうせまた離されるのだから、別に構わないだろう。
     しかし意外にも、男は腕を払うようなことはしなかった。さらには僅かに手を握り返しさえした。少年は男を見上げる。男には一切振り返る気配はない。
     その時、前方から人の波を逆行してきたらしい者とすれ違った。
     すれ違いざま、男は少年の手を引いて自身の後ろに誘導した。雑さの目立つ引っ張り方であった。周囲をよく見ていない子を叱る親の動きとほぼ同じものだ。
     少年は文句を言うために口を開きかけ、だが思いとどまる。男と共に横並びに直り、そのまま手は繋がれていた。とても嬉しく、少年はいっそう頭を屈めた。



     男が目当ての店の暖簾をくぐる。蕎麦屋だ。少年と繋いでいた手はここで解かれた。
     ここにはギルドの皆と何度か来たことがある。少年もこの店に入るのは初めてではない。店の中は昼時なりに盛況していた。丁度空いた2人がけの席に通される。
    「今日は混んでいますねえ」
    「昼時だからでしょう」
    「選ぶ時間をしくりました」
     茶を提供され、そのまま男は2人前のかき揚げ蕎麦を注文した。
     少年と男は休日にこうして2人で昼飯を食べることがある。頻度はそれなりに多く、最近は兄弟なのかと声をかけられることもあった。2人の顔はそもそも人種が違い、全く似ていない。
     よく食事を共にする彼らだが、この蕎麦屋は普段入る店よりも格が高い。大抵は屋台で買ったサンドイッチを、海を見ながら食べることが多い。
     男はなぜ蕎麦屋に入ったのだろうか。少年はかき揚げを心待ちにしながら、一方でこの疑問の答えを考えていた。
    「それにしてもなんだったんですか、アレは」
    「アレ?」
    「袖掴んだり手を握ったり」
     男は腕組みをして、少し上半身を引き気味に椅子にどっかりと座っている。非難を隠そうとしない声色だった。
    「照れましたか?」
    「なんであの程度の人混みを避けられないんですかね」
    「だって何度も割り込まれるんですよ」
    「わざわざ私の後ろをついてくる必要はなかったんですよ」
    「そ、そうですけど」
     少年は男の言う通りだと思い、言葉をうまく紡げなくなる。はぐれて見失ったら困るから、と言う理由はこの2人の間には成り立たない。少年はギルド内では密偵を担う。少し離れて見失うくらいならば、能力不足が疑われる。男の表情が冷たいのもそれが理由だった。
     男は麦茶を飲み干す。少年は茶碗を持たずに卓の天板をじっと見ていた。単に顔を上げられないだけである。
    「犬を戦わせる娯楽があるそうです。犬合わせだか闘犬だかって言う」
    「はい」
    「あれで犬が交尾の姿勢をとると反則負けになるらしいです。そんで一度その姿勢をやってしまったら、その後も癖になって何回も同じことをするようになるんでしたかね。それを思い出しました」
    「そ、そんな姿勢じゃなかったですよ」
    「なまっちょろけ具合の話をしてるんですが。何に夢中になってたのかは知りませんが周囲も見てない。気持ちよい方に流れすぎではありませんか?」
    「申し訳ございません」
     少年は今まで仲間というものがなかった。とある組織には所属していたが、ただの下っ端の1人に過ぎなかった。同僚と徒党を組むこともなかった。
     少年が今いるギルドに所属したのは、元いた組織の命による潜入のためであった。
     この街には世界樹と呼ばれる大樹が生えており、その根元には地の底、深い海底へ続く大穴が空いていた。この木には様々な伝説があり、街の元老院はこの伝説を解き明かすべく、各地からこの大穴に挑む勇気ある冒険者を募っていた。
     少年を遣わした彼らも、世界樹にまつわる伝説の品々、人智を越える知恵を持ち帰るようにと言った。この街のどこかしらの冒険者の組に入り、彼らと共に得た探索の成果を横流しするのが少年の仕事であった。
     しかしそうして派遣されたのは建前であり、実際は役目を終えた下っ端の処分を兼ねていた。海底への大穴は危険な場所である。凶暴な生き物が多く棲み、冒険者を食らおうと襲いかかってくる。さらには、この迷宮に挑んだ冒険者ギルドは、とある地点で必ず壊滅する。そんな噂まであった。
     だが少年たちのギルドは壊滅しなかった。なかなかくたばらない少年に業を煮やしたのか。ギルドがある程度の深度に到達した頃、少年は派遣元から送り込まれたと思われる者共に狙われるようになる。
     たかだか下っ端の1人を消すために手厚いことをするものだ、と少年は思った。しかし表に出ると誰かが不利になる情報を、この下っ端が数多く目にしてきたことも事実なのである。
     そんな少年に手を差し伸べたのが、同じギルドに所属する男だった。正しくは少年が追われている最中に男が寝ている部屋に飛び込んだのだ。想い人と寝ていた男はひどく不機嫌になったが、その怒りは相手側にぶつけることで発散してくれたらしい。
     それから少年はギルドのリーダーに寝床を押し付けられ、生温い関係を知った。だからこその甘えであった。少年は意識して甘えることをしていたが、最近は無意識での甘えも目に余るほど増えた。男はそれを指摘している。
     今、少年の前に座る男は壁に飾られたお品書きを眺めていた。木の板に墨で書かれた文字だ。木材はやや目が荒いように思われる。
     少年はそんな男を見て少し寂しくなる。いくら甘えるなと言われても、ある程度満足するまで甘えるのが人間というものだろう。しかし男が正しいというのも分かる。もしこの状態でギルドが壊滅するなら、少年は己のことを許せないと思った。
     沈む気持ちを払うべく、少年は口を開いた。
    「そういえば、なんで今日はこの店なんですか」
    「え?ああ、これからのことでも話そうかと思ってたんですよ」
     これから、と言う言葉に少年は内心に冷や汗を流す。
     男はまるで気づかないように続ける。
    「オウミ様がこの島の迷宮に飽きて他の地に移るとしたら、あなたも付いてくるんですよね?」
     『オウミ様』という人物は男の想い人であり、ギルドの形式的なリーダーである。
    「それは、もちろん」
    「そうですよね。そのつもりで聞いてほしいんですが、もしオウミ様がご自身のお国に帰ると言いだしたなら、私は首を斬ろうかと思っているんです」
     少年は男は冗談を言っているのだと思った。だが男は異様に思えるほど穏やかだった。
     男の言葉よりも、凪いだ態度が恐ろしい。この男は自由奔放で他人に厳しく、その上倫理観は緩いのだ。碌なことを考えていない。
    「く、首?どちらの」
    「私のです」
    「自決ということですか」
    「びびらせるためなので違いますが、流石に急所なのでそうなってしまうかもしれません」
     少年の声が震えていても、男はたしなめない。全部悪い冗談なのかもしれない。しかし男はこの手の冗談は『オウミ様』にしか言わない。
    「深く、斬るのですか」
    「でなきゃオウミ様を止められませんよ」
    「もし、それで、オウミ様をお一人だけ残すようなことになっても、よいとお考えなのですか」
    「だからそうなったときはあなたがオウミ様のお世話をするのです」
     少年はずっと男の目を見ていたが、揺るぎなく見つめ返されるだけであった。
     こんな話など聞きたくなかった。それに食事処で血生臭い話をするのもどうかと思う。
    「死ぬつもりではないのですよね」
    「死にたくはありません。無事に生き返りたいです」
    「み、みつうろこさん…」
     『みつうろこ』というのは男が名乗っている名前だ。
     少年はついぞ恐怖に我慢できなくなった。少年は吐き出しそうになる心を静めるために深呼吸をした。卓を見ながら何度か繰り返せば、体は落ち着いてくる。
     そうして男へ向き直ると、相手は呆れ顔をしていた。
    「あなた、そんなで本当に大丈夫なんですか?」
    「申し訳ありません」
    「なんか不安になりますねえ」
     男はそう言って首を傾け、また反対側にも傾けて筋を伸ばしている。さっきからずっとこの調子だ。少年はだんだんとそれに腹が立ってきた。
    「でも、言わせてもらいますが、そんなことをしてみつうろこさんが死ねば、オウミさんも死ぬと思います」
     男が少年を見る。少し興味を帯びた目だ。それが少々おっかない。
    「だ、だって、今のオウミさん、みつうろこさんがいるから生きることを選択していると思います。オウミさんにとっても、みつうろこさんの存在は大きいです」
    「証拠は?」
    「証拠は、ありません。それでも側にいれば分かります」
    「あなたが勝手に投影しているだけとも言えますよね」
    「そう、ですよね。なら勝手に死ねばいいと思います」
     少年は言い切った後に思った。さすがに調子に乗りすぎた。恐ろしくて男の顔など見れたものではない。なんならばこの店から飛び出したかった。
     男も深くため息を吐く。半目で見下ろしても少年は顔を上げてこない。
     しかし男は実際のところ感心していた。この少年に半分自殺の予告をして、「勝手に死ね」と言われるとは思っていなかった。例えそれが少年自身の独りよがりな怒りからきた言葉だったとしてもだ。
     とても清々しい気分になり、笑いそうになるのを堪えていた。今笑わないのは、もう少し少年を怯えさせてやるためである。
     いつまで経っても少年が項垂れたままなので、男の方が先に飽きた。声をかける。
    「タカラブネさん」
     タカラブネと呼ばれた少年が同じ姿勢のまま強張る。普段はラブネ、と略された呼び名で呼ばれているので、何事かとさらに怯えたのだろう。
    「まあごもっともですよ。私が勝手に死ぬか生き延びるかの挑戦をするだけです」
     男は務めて明るい声で語りかける。恐る恐る顔を上げ始めた少年に、そういうところが隙だらけだと冷笑した。とりあえず今は慰める場面なので取り繕う。
    「あなたがそれだけの反応をするなら、オウミ様にも有効かもしれません。まあそれなりの収穫でした」
    「人を振り回して……」
     少年は目を擦り、鼻を啜った。白い肌が赤くなっていたが、男は情け無いという感想以外は何も思わない。


     ようやく蕎麦が出てきた。熱い汁に蕎麦が浸かり、上には揚がったばかりのかき揚げが乗っている。かき揚げは小エビの赤に鞘豆の緑で食欲をそそる。玉ねぎも入っている。
     かき揚げを汁に一度沈め、引きあげてパリパリとするうちに齧る。ざくりとした衣にぷりっとした小エビが出てくる。鞘豆はさっくりとしており、玉ねぎは柔らかい。心地良い噛みごたえだ。衣と小エビの旨みに野菜の甘みがよく合い、油の香ばしさにもう一口と誘われる。
     蕎麦は箸で掬い、湯気をいくらか息で飛ばしてから啜る。汁は魚の出汁がよく効いており、鼻腔いっぱいに香りが広がる。蕎麦は少し柔らかく、熱い汁がよく絡む。麺自体もやはり美味いのだ。もうひと掬いし、癖で息を吹きかけ、また啜る。
     すぐに次をかき込みたい欲求にかられるが、あまり急いで食べるのももったいない。なんとも難しい。かき揚げの汁を吸ったところを齧る。汁を含んだ部分がふるふると柔らかく、舌触り良い。味と香りが染みている。舌に広がる汁気を味わい、噛めばいまだに堅く残っていた衣がシャクリと脆く砕けた。
     2人は一言も交わさずに食べ進める。少年は先にかき揚げを平らげ、それからひたすらに麺を啜っている。男はかき揚げを2回ほど齧った後はのんびりと麺を啜っていた。時折かき揚げを箸で割って食べる。
     少年が先に汁を飲み干した。男はまだ麺を啜っている。
    「美味しかったです。あったかい食べ物ってやっぱり良いですね」
     男は返事をしない。少年は気にせず続ける。卓の上に置いていた腕を胴の前に置き直し、前のめりになる。
    「また連れてきてくださいよ。なんかの褒美とかがやりやすいならオレやりますよ」
     男は満足するまで咀嚼してから嚥下した。麦茶を一口してから口を開く。
    「やですよ。褒美とか」
    「めんどくさいですか」
    「人の懐の心配とかできないんですか」
    「ちっさいな」
     少年が腕を卓から下ろし、椅子の座面を掴んで脚を自由に振る。唇を尖らせた彼に、男はゲンナリしたようにため息をついた。
    「ではもしその取り決めをして、私が一切褒美を与えなかったらどうするんです」
    「ケチですね」
    「病むでしょう。あなたならそうなります」
     男は眠そうな目で少年を観察していたが、相手は分が悪そうに動きを鈍らせたので、再び蕎麦に向かうことにした。
     箸で麺を掴み、啜り切る。蕎麦は美味い。口の中が空になったらまた口を開く。
    「そういうわけです。私って優しいですね」
     少年はその言葉にそっぽを向いた。不貞腐れているのを隠さない。それから少し間が開く。丁度、男が蕎麦を啜ろうとするタイミングで少年が発言した。
    「オレにこうして飯を奢るのも?」
     男は蕎麦を啜った。
     のんびりと飲み込んでから返事をする。少年はつまらなさそうな表情で首を窄ませていた。
    「優しいですよね」
    「みつうろこさん」
    「はいはい。こんなことオウミ様とあなたにしかしません」
    「めんどくさそうに言わないでください!」
    「じゃあ優しいことを言います。早食いは体に悪いですよ」
    「え、あ、そうなんですか。でもオレ忍者だし……」
     少年は赤くなって少し落ち着かなくなる。それからどうすれば体に優しい早食いができるか問いかけたが、男は蕎麦を啜るだけだ。
     男の箸を持つ手は節くれ立っている。手慣れた手つきで食器を操る様は、いつまでも見ていられる気がする。少年は再び卓に両腕を乗せて男を眺めた。
     今は箸と碗を持っている逞しいあの腕は、1本ずつ刀を持つのだ。食事の動きに合わせて筋も動く。啜り方と咀嚼は別にカッコ良くはない。残りのかき揚げを掴んで食べた。あんなに柔らかくなっていたのに落とさず口な運んだのはさすがである。そして目が合うと少し嬉しかった。この人にいつか追いつきたいと思う。
     男は非常にやりづらそうに残りの蕎麦を啜り、汁を飲み干した。


                       終わり!
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    zeppei27

    DONEpkmnハサアオ、カジッチュを渡された後、アオキがハッサクとカジッチュ……とコルサに振り回されるお話。もう少し続きます〜

    前話 #2
    >https://poipiku.com/271957/8137224.html
    リンゴ甘いか酸っぱいか #3 何かに向けて準備をして整えたというのに、いざとなったら取りやめになって肩透かしを食らった心地になることがある。例えば何がしかの試験に向けて、対策を練り覚悟を決め、さあ当日だと思っていたらば直前に取りやめになったとする。すると現金なもので、できたら試験自体がなくなって欲しいと願っていたにも関わらず、過ぎ去った難が起これば無駄足にならなかったのにと憤慨さえしてみせるのだ。どんな結果が伴うとしても、難事に打ち当たった方がすっきりするという見方もできるかもしれない。

     アオキがこの手の経験をすることはあまりないが(せいぜい楽しみにしていた食品の新製品が発売中止になる程度だ)、今の気分は正にこの肩透かしの連続だった。「また様子を見にきます」と言ったくせに、あのドラゴン使いは足音すら聞こえてこない。思えば、彼と顔を合わせるのはいつだって仕事がらみであって、プライベートな時間ではないのだから、仕事の予定が入っていなければすれ違いもしない間柄なのだった。
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