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    kyk_kokage

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    kyk_kokage

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    ロアゲタ。

    【ご一読下さい】

    ゴーハ市の治安が悪いです。
    死んでるモブとか出てきます。
    ロア様とゲッタちゃんが法に触れる行動をとります。
    後味が悪いかもしれません。
    (逆にそういった作品が好きな方にはぬるく感じられるかも……)
    でもこんなロアゲタが好きな方もいらっしゃるかもしれない、いらっしゃるといいな。
    お楽しみいただけますと幸いです!

    #ロアゲタ
    roargeta

    毒を喰らわば皿まで7月30日、AM4時。

    夏とはいえまだ暗い早朝、平月太の自室で携帯端末の呼び出し音が鳴り響いた。

    「ん〜……」

    月太は眠さで呻きながら、ベッドの上でもぞもぞと、端末に手を伸ばす。

    「……もしもし……?」
    『あ、ゲッタちゃん。おはよ。ちょっと手伝ってくんない?』
    「はぁ? 今、何時だと思ってんだよ……」

    早朝に似付かわしくない幼馴染の明るい声に、月太は寝起きで呂律が回らないまま答える。

    『朝の4時。とりあえず、オレ様の言う通りに動いて』
    「何言ってんだよ……4時って」
    『ゲッタちゃん。あんまり時間ないから、早く。でも慎重に』

    いつになく真剣味のある声に、月太は「……わかった」と応じて、起き上がった。





    両親を起こさないよう、そっと身支度を整えると、月太は改めてロアに電話をかけ、指示を仰いだ。

    『機材運ぶのに使ってる台車に、まとめて置いてる段ボール箱とか空缶とか乗せて』
    「……なんで?」
    『今日、資源ゴミの日だから』

    意味が分からず、月太は首を傾げた。
    月太から返事がないことで察したのか、ロアが続けて言う。

    『オレ様の言う通りにして。おばさんいつも資源ゴミはキッチンの隅にまとめてるから』
    「なんでお前がそんなこと知ってんだよ」
    『何回ゲッタちゃん家行ってると思ってんの? あと、ダメ元で訊くんだけど、大きい段ボール箱とか、ないよね?』
    「でかいって、どれくらいだよ?」
    『人が入れるくらい』
    「ん〜……ねぇな。あ、これなら遊我が丸くなりゃ入れるかも」
    『それじゃダメ。……いいよ、とにかく全部台車に乗せて。それから、置き手紙書いて』
    「手紙?」
    『こんな朝早くに子どもがいなくなったら、おじさんもおばさんも心配するじゃん。オレ様に呼び出された、ついでにゴミ出しておくって書いて』
    「おう」

    ロアに言われた通り、月太は電話横のメモをちぎってメッセージを書き、リビングテーブルの上に置く。

    資源ゴミを台車に乗せて玄関を出ると、音を立てないように慎重に押しながら、マンション1階のゴミ置き場へ向かった。

    「着いたぞ」
    『持ってきたゴミは捨てちゃって。それから、さっき言った、おっきな段ボール箱探して』
    「おう。……つーかさ、おまえ、これくらい自分でやれよ。面倒なことすぐオレにやらせるけどさぁ」
    『オレ様、今動けないんだよ。……箱、あった?』
    「んー……あ、これとかいいんじゃないか? ソファかなんか入ってたやつっぽい」
    『いいじゃん。じゃあそれ、箱の形に組み立てて、台車に乗せて。で、オレ様がいるとこに来てほしいんだけど』

    ロアの指示を聞きながら、月太は作業を進める。

    『とりあえず第1中の裏門前まで来て。その時、コンビニの前と、2車線以上ある道は通らないこと』
    「コンビニ寄るなってことかよ? オレ、腹減ってんだけど」
    『後でご馳走してあげるから今は我慢してよ。自販機で飲み物買うのはいいよ。まだ日が上ってないのに暑いもんね。オレ様、スポドリ。あ、あとミネラルウォーターもお願い』
    「ロアの分も買うのか!?」

    文句を言いはしたが、月太はロアの言う通りに段ボール箱を組み立てる。
    ロアの我儘に付き合わされるのは今に始まったことじゃない。
    そんなことを考えながら月太は台車を押して移動を始めた。





    AM4時20分。

    外は、まだ暗いものの空は白んできていて、街灯がなくてもぼんやりと物の輪郭が分かる程度にはなっていた。

    「もーすぐ、第1中の裏門に着くぞ」
    『そのまま通り過ぎてまっすぐ進んで、2つ目の角を右に入って。オレ様、そこにいるから』
    「はぁ? なんでそんなとこいるんだよ。しかもこんな朝早くから」
    『ゲッタちゃんが着いたら説明する』

    ゴーハ第1中学校を通り過ぎた先の路地は道が狭くなっていて、しかも物が置かれていたり、ゴミが落ちていたり、ところどころアスファルトやコンクリートが剥がれているので、月太は台車を押すのに苦労した。

    その近くに自動販売機があったので、月太はジュースを買って喉の渇きを潤した。
    しかし、空腹なのは変わらない。
    終わったら絶対腹いっぱい食う、と強く決めた月太はロアの分の飲み物を買うと、また台車を押して歩き出した。

    ロアに指定された角を右に曲がる。
    そこは小さな工場裏のブロック塀に挟まれた路地裏で、通ってきた路地よりさらに狭く、朝の光がほとんど入らないので、かなり暗かった。

    そんな路地裏に、ロアが立っていた。

    ロアはいつものバンドTシャツ姿ではなく、暗い色のオーバーサイズの半袖パーカーを着ていた。
    そしてそのパーカーのフードを目深に被り、細身の黒のパンツにも、いつもの紫のリボンは付いていなかった。
    薄暗い路地裏で、肌の白いロアの、細い腕とフードから覗く顔が、暗がりにぼんやりと浮かび上がっているようで、月太は少し、背筋が冷えるような心地がした。

    「ロア……」
    「あっ、ゲッタちゃん、足元気を付けて」
    「足元?」

    おそるおそるロアに近付こうとして声をかけると、返ってきた声はいつものロアで、月太はほっとすると同時に、全く意識していなかった足元に視線を落とした。

    足元と言われても、まず目に入るのは押してきた台車と段ボール箱だ。
    その先に視線を動かす。
    暗くて、よく見えない。
    確かに何か、ゴミや崩れたブロック塀のカケラとは違う、大きな細長い物があるようだ。
    月太はよく見ようと目を細める。
    すると、だんだん、目が暗さに慣れてきた。

    「え……?」

    見えた物が信じられなくて、月太は3度まばたきをした。

    ピカピカに磨き上げられたローファー。
    縦に真っ直ぐ折り目の入ったスラックス。
    パリッと糊のきいていそうな真っ白の半袖カッターシャツ。
    顔は、暗くてよく見えない。
    おそらく、月太の知らない男の人が、うつ伏せになって倒れていた。

    台車から手を離して駆け寄る――いや正確には、近くなったら怖くなって立ち止まってしまった。
    酔っぱらって寝ているとか、体調が悪くて倒れているのとは違う、と気付いたからだ。

    「こ、この人、誰だよ! 救急車呼ばなくていいのか!?」
    「さぁ? どこかで見た事あるような気もするけど……仕事で見たことあるのか、もしかしたらファンの人かな? どっちにしろ、よく知らない。救急車はいいよ。もう間に合わない。死んでるから」
    「しっ……!?」

    跳ねるように後ずさった月太を気にも止めてないように、ロアは淡々と続ける。

    「で、手伝ってほしいことっていうのが、この人を運んで埋めることなんだけど」
    「はぁ!? う、埋めるって、そんな、死体を勝手に動かしたりすんの、犯罪なんだぞ! というか、ほんとに、死んでんのかよ……?」
    「確かめてみたら?」
    「っ、確かめるって…………」

    ロアの言葉に、月太はちらりと死体を見た。
    目が慣れてきたのと、少しずつ明るくなってきていることで、先程より、よく死体の様子が見えた。
    半開きになった眼、薄く開いた口、後頭部近くに広がる液体は、おそらく、血。
    近くには、同じく液体で汚れた、ブロック塀のカケラが落ちていた。

    「ロア、お前、もしかして……」
    「オレ様が何?」
    「こ……殺した、の、かよ」

    口の中が乾いて、つっかえて上手く話せない月太とは裏腹に、ロアは薄く微笑んでスラスラと言葉を放った。

    「だから、知らない人って言ってんじゃん。なんで知らない人をオレ様が殺す必要があるのさ。たまたま目が覚めちゃったから散歩に来て、そしたら見つけちゃっただけ。多分、酔っぱらって転んで打ち所が悪かった、とかでしょ」
    「じゃ、じゃあ、警察呼ばないと……」
    「やだね」

    月太の言葉を、ロアは冷たく突っぱねる。

    「ここで警察を呼んだらどうなると思う? なんでこんな朝早くに出歩いてたんだって、痛くもない腹探られて? ニュースにもなるだろうね。第一発見者は、大人気小学生ロックバンドロアロミンのボーカル霧島ロア! ってさ。そしてそんなニュースを見たお姫様たちはどう思う? 死体に出くわすなんて、ロア様可哀想、かな? ゴメンだね! オレ様はそんな形で有名になんかなりたくない! 同情なんか霧島ロアに相応しくない……!」

    音量だけ押し殺して、語気は鋭く叫ぶロアに、月太は何も言えずに立ちすくむ。

    「だから、全部なかったことにしなくちゃならない。死体なんてなかった。死体が見つからなければ、誰も何も疑われない。ニュースにもならない。……他に方法はないんだよ、ゲッタちゃん」

    ロアの声は徐々にトーンダウンして、最後は諭すような優しい声音になった。
    それを聞いていた月太は俯いて黙り込み、ロアの言葉を飲みこむと、ようやく口を開いた。

    「……やるしか、ねぇのかよ」
    「その通り。分かってくれて嬉しいよ、ゲッタちゃん。……じゃあ、とりあえず買ってきたスポドリくれない? 喉乾いちゃった」





    AM4時30分。

    ロアが喉を潤した後、二人で死体を持ち上げ台車の上の段ボール箱に入れると、ロアは血のついたブロック塀のカケラも投げるように段ボール箱に放りこんだ。
    そして、月太が買ってきたミネラルウォーターを地面に残る血溜まりにかけて流していく。

    「で、どうすんだよ」

    透明な水と赤黒い血が混ざって路地裏の隅に流れていくのを見ながら、月太はロアに問いかけた。

    「二手に別れて山に行く。ゲッタちゃんは台車を押して、なるべく人に見られないように。オレ様は別ルートで」
    「はぁ!? ちょっと待てよ! なんでオレが!? ロアが運べばいいだろ! せめて、一緒に運ぶ、とかさ……死体と、二人っきりは……」

    口ごもる月太を見て、ロアはからかうように少し笑った。

    「二人っきりって。そんな怖がらなくても、もう動かないんだからさ」
    「う、うるせぇ! じゃあロアが運べよ!」
    「駄目。オレ様は、ここに来るまでに誰に見られてるか分からない。ほら、まさかこんなことになるなんて思いもせずに、ふらっと散歩に来たからさ。それに……」
    「なんだよ」
    「オレ様、目立っちゃうから。服装を変えても、髪や顔を隠しても、キングのオーラは隠しきれないわけよ」
    「馬鹿。よく言うぜ」

    そうと決めてしまったロアを、今までに月太が言葉で説得できたことなどない。
    月太は諦めて大きなため息をついた。

    「しょーがねぇな……で、山だっけ?」
    「そ。マキシマム山で集合ね」
    「マキシマム山? なんでわざわざ」
    「あそこならいつもシャベルが置いてあるでしょ。手で穴掘って埋める訳にはいかないじゃん?」
    「他のところに取りにいったり戻しにいったりすると誰かに見つかる可能性があるから、ってことか」
    「そういうこと。ゲッタちゃん、分かってきたじゃん」
    「うるせー」

    月太は悪態をついて、分かりたくなんかねぇけどよ、と続けた。

    「コンビニ前とか、でかい道とか避けて行けばいいんだろ」
    「そう。多少時間がかかってもいいから、なるべく人に見られないように。まぁ、見られたとしても、何かの作業中かと思われて記憶に残らない可能性は高いし、もし覚えられてたとしても、ゲッタちゃんはオレ様の我儘で呼び出されて、朝早くに家を出る後ろめたさからゴミ出しという手伝いをして、そこでたまたま大きな段ボール箱見つけて、それを使って遊ぼうと思って持ってきた……ってエピソードは用意してあるんだけど、ま、誰にも見られなきゃ、そういう嘘もつかなくて済むわけだしね」

    見つかってしまった時のごまかし方を考えているあたり、全てをなすりつける為に死体を月太に運ばせようとしている訳ではないことが分かって、月太は少しほっとした。

    「マキシマム山に入ったら、坑道までは行かなくていいから。適当なところで山道から離れて隠れてて。シャベルはオレ様が取ってくる。もうカードは取り尽くされてるし、ましてやこんな時間に誰も来ないでしょ。ちょっと遠いけど、行けない距離じゃないし、入っちゃえば他の山より安全だろうからね」
    「了解」
    「じゃ、気を付けてね」
    「ロアもな」

    二人は拳を突き合わせると、路地を出て、歩き出した。





    AM4時55分。

    マキシマム山に辿り着いた月太は、ロアの指示通り山道から逸れて山中に分け入った。
    もうすぐ日の出時間らしく、山の中でも辺りがよく見えた。
    ただ、台車を進めるのに、月太はかなり苦労していた。
    少し台車を押すと、石だの穴だの木の根だのにタイヤが引っ掛かり、その衝撃で死体の入った段ボール箱を落としそうになるのを手で支えることになる。

    そうして汗だくになりながら少しずつ移動していたとき、かすかに音が聞こえてきた。
    耳をすますと、聞き覚えのあるメッセージアプリの着信音だと分かった。
    音は、段ボール箱の中で鳴っているようだ。

    月太は躊躇したものの、結局、箱を開けた。
    中を見ると、折り曲げて入れられた死体のポケットから携帯端末が覗いていて、音に連動して微かに震えていた。
    月太はそれをそっと取り出し、画面を見た。
    「熊」という名前と、応答ボタンが表示されている。

    まさか、出る訳にはいかない。

    じっと眺めているうちに、その「熊」という名前の人は諦めたのか、音はやんだ。
    月太はほっとして、端末を元通りにポケットにしまおうとした時、今度はメッセージが届く音が聞こえた。
    気になって、また画面を確認する。
    同じく「熊」という人からだ。

    『どうして電話に出ない?』

    画面にそう、メッセージが表示される。
    そして端末は立て続けに音を鳴らして、次々と同じ人物からのメッセージが流れていった。

    『下手をうったのか? それでも報告はしろ』
    『もしかして逃げられたか?』
    『まさか、つまみ食いしてるんじゃないだろうな?』
    『そうだとしても絶対にRに傷は付けるなよ』
    『とにかく連絡をよこせ』

    そこで、メッセージの連投は途切れた。

    逃げられた?
    つまみ食い??
    傷は付けるな????

    「このおじさん、釣りにでも行く予定だったのか?」

    月太は首を傾げる。
    しかし考えたところで分かるはずもなく、ちらりと死体に目をやると、明るくなってきていることで半開きになった目や口、血色の悪くなった皮膚等がよく見えてしまった。
    ぞわりと鳥肌が立つのを感じた月太は、慌てて端末を死体のポケットにしまいこみ、段ボール箱の蓋を閉めて死体が目に入らないようにした。
    それからぶんぶんと勢いよく頭を振って気を取り直すと、月太はまた台車を押しはじめた。





    AM5時5分。

    少し進むと山道が見えなくなって、月太はそこから念を入れてさらに数メートル進んだ。
    さすがにこれだけ奥に来れば大丈夫だろうと考えた月太は、台車が勝手に動かないようタイヤを大きめの石で固定して、自分の携帯端末を取り出した。

    “着いた。道から山の中入る時、空のペットボトルを目印に置いてきた。そこから右にまっすぐ来たところにいる”

    ロアの状況が分からない為、アプリでメッセージを送る。
    一息ついて、月太は草の上に座り込んだ。
    夏とはいえ、早朝の山中はかなり涼しく、木々を抜けてきたゆるやかな風が、月太の肌を冷ましていく。

    ちらりと段ボール箱を見やる。
    そこに何が入っているかはよく分かっているのに、つい数分前までその重みと格闘していたのに、実は全部熱帯夜が見せた悪い夢で、何も恐ろしいことなんか起こっていないんじゃないか、そうであればいいのにと、月太はぼんやり考えていた。

    「はー……」

    大きく息を吐いて、膝を抱え込むように丸く座る。
    こうするしかない、というロアの言葉を信じている。
    何もなかったことにするしかない、とロアは言った。
    でも、この人の死を、知りたい人がいるんじゃないだろうか?
    ロアやロアロミンの未来を、優先するのが正しいんだろうか。

    ブブッ、と携帯端末がポケットの中で震えて、月太は息が一瞬止まった。
    取り出して目をやると、ロアからさっきの返事が来ていた。

    “了解。シャベル手に入れたから、もうすぐ着く”

    仕方ない、と月太は自分に言い聞かせた。
    だってもう、こんなところまで来てしまった。





    AM5時15分。

    「やっほー、ゲッタちゃん。随分奥まで来たね」
    「……見つかるよりいいだろ」
    「そうね。じゃ、もうこの辺に埋めちゃおうか」
    「おー」
    「なになに? 元気ないんじゃない?」
    「ずっと死体の側にいて、元気いいわけないだろ。腹も減ったし」
    「それもそっか。じゃ、さっさと終わらせよう」

    月太は、ロアからシャベルを受け取るものの、動かずに立ち尽くしていた。

    「ゲッタちゃん?」
    「……ほんとに、お前じゃないんだよな?」

    どうしても不安が拭えずにそう問いかけた月太に、ロアはまるでやれやれとでも言うように肩を竦めて見せた。

    「疑うねぇ。じゃあ、そんな心配性なゲッタちゃんに、いいことを教えてあげよう。この人の頭、見てみてよ」

    言いながら、ロアは死体の側頭部を指し示した。

    「えっ……あんま、見たくねぇんだけど」
    「いいから。……ほら、ここが傷。頭の左側、上の方。で、この人はオレ様よりまぁまぁ背が高いよね。つまり、もしオレ様がこの人を殴って殺そうとしても、傷はここには出来ない。分かる?」
    「……」

    死体を見て、身長を推察し、月太は頷いた。

    「確かに、そう……だ、な」
    「そ。安心した?」
    「……おう。そうだよな。まさか人を殺す訳ないよな。悪い」
    「いーよ。こんな面倒なことに付き合わせちゃってるオレ様もオレ様だし」

    それはそうだ、と月太は頷いた。
    面倒なことどころではない。

    「あ、そういやさっき、この人のスマホにメッセージ来てたんだけど」
    「…………何を見たの、ゲッタちゃん」

    月太は軽い気持ちで言ったのだが、それに対してロアは、険しい表情でそう問いかけてきた。

    「えっ……なんか、連絡しろとか、つまみ食いしてんのかとか、傷を付けるな、とか……? あとなんだっけ……R……?」
    「それだけ?」

    思いもよらないロアの気迫に圧されて、月太は戸惑いを隠せない。

    「多分……えっと、なんかまずかったか? もし指紋認証とかで開けられるなら、確認できると思うぜ」
    「……いや、いいよ。見たくない。……でもそのスマホ、壊しとこっか」
    「壊す?」
    「うん。どうせ一緒に埋めちゃうんだし、このスマホが見つかる時は死体が見つかる時でしょ。そうなったら、どうせ事件に巻き込まれたって判断される。それならスマホは壊しておいて確認できない方が警察を撹乱できるからね。あとはほら、GPSとかもあるし」
    「でも、どうやっ……て……」

    月太がそう問いかけようとした時には、もうロアは段ボール箱を開けていて、死体の携帯端末を持っていた。
    そしてポイと地面に無造作に落とすと、その上からどばどばとペットボトルのジュースをかけはじめた。

    「ロア……?」

    どことなく、いつものロアらしくない。
    そう思うものの、具体的にどこがどうなのかというところまで言語化できず、月太はただ名前を呼んだ。

    その月太の声が聞こえているのかいないのか、ロアは名前を呼ばれたことに応えないまま、500ミリリットルのジュース全てを端末にかけきった。

    「多めに買ってきておいてよかった。防水じゃなさそうだし、これで壊れるでしょ。あとは念の為にシャベルで叩いておこうか」

    そう言ったロアは、シャベルを高く上げると、その重さにまかせて濡れた端末の上へ勢いよく振り下ろした。





    AM5時45分。

    死体の携帯端末が壊れたことを確認した後、2人は埋める穴を掘る作業に取り掛かったが、慣れない作業に苦労して、なるべく深く埋めるつもりがとりあえず見えなくなればいい、というところまで妥協することになり、それでも終わる頃には日が完全に上って、辺りはすっかり明るくなっていた。

    「あー!! やっと終わった!」

    死体を埋め終えた月太は、そうひと声叫ぶと、勢いよく地面に腰を下ろした。

    「お疲れ様、ゲッタちゃん」
    「腹減ったぁ……とっとと帰ろうぜ」
    「うち、今何があったかな……簡単な朝食ぐらい作れると思うけど、ちょっとしっかりめに食べた方がいいよねぇ。動いてるし、まだひと仕事あるし」

    ロアの言葉に、月太は目を剥いて不満そうに声を上げる。

    「はぁ!? まだ働かせるのかよ!?」
    「監視カメラのデータ。消しといた方がいいじゃん?」
    「うっ、う〜〜〜……」

    ロアの言葉に、月太は不満そうに唸り、そして結局、諦めてため息をついた。

    「簡単に言うけどなぁ……監視カメラそれぞれの管理元に入り込んで、一個一個消してかなきゃなんないんだぞ!?」
    「あ、変に疑われないように、大雑把にやらないでよね。オレ様とゲッタちゃん、それからあの人が映ってる数秒だけを消すこと」
    「め、ん、ど、く、せぇ〜! それ全部確認してちまちま切り取ってくのかよ!!」
    「データが数秒消えても気付かれにくいけど、まとめて大きなデータが消えるとそっちの方面から疑われかねないからね。せっかくこんなに苦労して埋めたのにさ」
    「それは、分かるけどよ……ん? なぁ、どうせ監視カメラのデータ消すんなら、わざわざ埋めに来なくても、見なかったことにしてあの場を離れればよかったんじゃないか? そうすれば第一発見者にはならないから、疑われないし、ニュースにもならないだろ?」

    月太がそう疑問を投げかけると、ロアはふるふると首を横に振った。

    「それじゃ、すぐ死体が見つかって捜査が始まっちゃう。それまでにデータ全てを消せるかどうかの危険な賭けになる。それに、あの人やオレ様がもし誰かに見られてたとしたら、その記憶も薄れずまだはっきりと覚えてるだろうね。で、第一発見者だとバレたら、なんですぐに警察を呼ばなかったんだってさらに面倒なことになる……っていうのが理由なんだけどさ、どうせもう埋めちゃったんだから、今さらじゃん?」

    ロアは悪びれずにそう言い放った。
    そんなロアの様子に、月太は苛立って言い返す。

    「そ、れ、は、ロアが監視カメラの話を先にしなかったからだろーが!!」
    「だから今説明したでしょ? どうせ消さなきゃならないんだって」
    「それをやらされるのはオレだろ!」

    月太が叫ぶと、

    「でもゲッタちゃん、オレ様を刑務所に入れたくないでしょ?」

    そう言って、ロアは悪びれずに微笑んだ。
    その笑顔を月太は苦々しく睨みつける。

    「けっ。子どもは刑務所には入らねーんだよ。つーか、バレたらオレも共犯で道連れじゃんか。……あぁもう、やればいいんだろ、やれば!」

    月太はそう吐き捨てると、折りたたんだ台車を掴んで歩き出した。

    「せめて、カメラの管理元が全部、ゴーハコーポレーションの防犯対策課だったりしねーかな。あの会社ならシステムに入りこんだことあるし……」

    月太はぶつぶつ呟きながら、システムのハッキング方法を考える。

    「あ。データ消すのが終わったら、もし大人や警察に今日のこと訊かれた場合の、応答のレクチャーするからね」

    そんな月太の少し後ろをついていきながら、ロアはしれっとそう言った。

    「まだあんのかよ!? ……くそっ、そうならねーように、カメラデータ全部消すんだろ。やるなら徹底的にやってやらぁ!」





    3日後――8月2日、PM5時55分。

    「ただいまー」
    「あら、おかえり」

    リビングに入ってきた月太に、母親がキッチンで料理をしながらそう返した。
    月太はナップサックをリビングテーブルに置くと、リモコンを掴んでテレビの電源を入れる。
    テレビからは、優雅な音楽とともに車のコマーシャルが流れてきた。

    「月太、テレビを見るってことは、今日の分の宿題は終わってるんでしょうね?」
    「んー……あとで」
    「こら! そう言っていつもしないんでしょ! お夕飯できるまでまだかかるから、その間にやっちゃいなさい。どうせ今の時間たいした番組やってないんだから」
    「……はいはい」
    「『はい』は1回でいいの!」

    母親に追い立てられて、月太は練習で疲れてるのに、と文句をこぼしながらリビングを出ていく。
    電源が入れられたままのテレビは、コマーシャルからニュースに切り替わり、女性アナウンサーがうやうやしく頭を下げた。

    『6時のニュースをお伝えします。本日、ゴーハ市内にて児童ポルノの所持及び販売の疑いで、男女計5名が一斉摘発されました。また、その組織に強く関わっていたとされる、某テレビ局員〇〇氏44歳の行方が分からないものとして、警察は情報提供を呼びけています。最後の目撃情報は3日前の7月30日未明、ゴーハ市内にて。身長178センチで大柄な体格の男性、服装は白の半袖シャツにベージュのスラックス、黒のローファーを履いていたということです。心当たりの方は下記の電話番号……』


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    【指につながるその先は】の続き。
    赤い糸を信じてた家の蔵の中にあった古い医学書の間から、ひらひらと落ちてきた手紙には。流れるような美しい文字で、まるで恋文のような内容が書かれていて。その宛名にソウゲンは驚き目を見開いた。同時に、今の自分が経験したことの無い、あるはずもない記憶が頭の中へ浮かんできて思わずその場へ崩れ落ちた。ドンと膝をつく。青痣が出来るかもしれないと、膝を撫でながら。流れ込んだ記憶に意識を戻し、なんだったんだと、手紙の文字へ指を這わす。宛名には自分の名前が書かれていた。

    『もう、共に過ごす事は叶わないけど、いつでもあなたの事を思って祈るよ。いつかまたどこかで会えるように。』

    その言葉に、あふれ出した記憶はより鮮明になる。ソウゲンという名から、山南敬助として生きるようになった日の事。そこで出会った最愛の人と自分の最後の事。そういえば、幼少の頃に祖父の葬式に来たお坊さんの袈裟を掴んで離さなかったと母に笑われたな、と。記憶の片隅で彼を思っていたからなんだろうと今なら理解できる。すべてが繋がり、非科学的な事が大嫌いなはずの自分が、江戸時代から生まれ変わった人間なのだと根拠もないのに、納得したのは高校に入る直前だった。
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