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    ないし

    @7zmd_

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    ( バンフリ / 82 )

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    ないし

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    自分が愛されることには慣れてなさそうなフリオの話

    ##バンフリ

    【バンフリ】スーパーノヴァ・レムナント 自分との接吻の最中、相手はいったいどんな表情を浮かべているのだろうか。ほんの好奇心から薄目でパートナーの様子を盗み見る。
     バンビとのキスに夢中になるフリオは目をつむったまま、恐らくは無意識に眉根を寄せている。興奮の合間に見せる顔つきがどことなく不安げなのを不思議に思い、つい見入っていたら舌を絡めるのがコンマ数秒とはいえ遅れてしまった。本来なら絡め取るはずだった舌先につつかれてしまい、否応なく相手にもバンビの思惑が知れ渡ることとなる。
     普段とは異なる仕草に感情認識力を有するフリオは非常に敏感だ。蕩けていたゆえか緩慢に開かれる彼の瞼の震えをバンビは黙って眺めていた。落ち着き払っていると言うと聞こえはいいが、今になって焦ったところで遅すぎるという開き直りの態度でもある。愛欲の籠った瞳がまばたきをするたびに理性を宿し、やがて視線が真っ向からぶつかる。動じることのないバンビに反して、フリオは心底驚いたように飛び退いて二人の間には僅かな距離が生まれた。
     陽射しを避けるみたく左拳を目元にかざす、その大仰な動作に合わせてミサンガがゆらゆらと揺れる。割って入った腕はバンビからの眼差しを凌ぎたいだけなのだろう。完全に顔が隠れたわけではないのでフリオがぐっと口を引き結び、羞恥に耐えているのが見て取れる。気持ちを切り替えるためか溢した吐息は未だ生温かく、却ってフリオの恥じらいを加速させていった。
     体内の熱は冷めておらず、頬は上気している。深呼吸を繰り返すことでさえも苦しそうに見えた。今の状態が生殺しであることはフリオ自身も理解しているはずだ。脳裏によぎるのはアイコンタクトの後の不自然な間。自らを窮地に追い込んででも退かなければならない理由がバンビの感情の中にあるのかもしれない。

    「フリオ」

     何かしらアクションを起こさなければ、バンビにまで気恥ずかしい思いが伝播していく。努めて平静を装い呼びかけたつもりだが、この状況下ではどう足掻いても逆効果のようでさらに空気が強張っていくのが分かった。

    「嫌だったのか」
    「そんなわけがないだろ……」

     冗談でもそんなことを言うなとフリオは低い声で唸り、不服そうな眼光を地べたへと向けている。嫌がられているわけではないのはそっぽを向かれる寸前の照れた顔つきで察していた。仮に不快にさせる行為が二人の間に存在しているとするなら、フリオは決してそのままにしたりはせず素直に告げているだろう。それが分からないバンビでもなかったが、彼の調子をこうも狂わせてしまう自らの感情の正体に思い当たる節が全く無かった。
     とはいえ、執拗にウィークポイントを攻めたいわけでもない。優先すべきなのはフリオが落ち着きを取り戻すことであり、バンビはこの騒動の真相についてさほど執着はしていなかった。彼の心身にゆとりが生まれるまではそっとしておこうと引き下がる、そんな姿勢を良しとしないのは寧ろフリオの方だった。こんこんと握りこぶしで何度か額を押さえながら「言う、言うから」と待ての合図を唱え続ける。やっとの思いで発したと言わんばかりの声色はじっと耳を傾けなければ聞き取れないほどに掠れ切っていた。

    「お前に……こんなにも愛されているんだって見えちゃったから、頭が真っ白になった……」

     平時であればもっと上手く説明できるはずなのにろくに言葉も纏まらないと、フリオは頭を抱える。少しずつ呼吸は整ってきているものの、頬は赤らめるを通り越して耳まで真っ赤に染まっている。
     要するに許容量を超えた愛情を一気に浴びたことでパンクしてしまったという。バンビがどれほどフリオを愛しているかなど本人はとっくに知っているはずなのだが、互いの愛を確かめ合う行為を伴いながら体感するのはまた違った感覚なのだろう。溢れ出た自身の感情とそれを受けた相手の感慨を言語化されると、バンビとて顔が紅潮していくのを抑えられなかった。
     あれほど周囲に愛を振り撒いている男が「自分は愛され慣れていない」とでも言いたげに振る舞う。恋人として過ごしているときのフリオはしばしばそんな一面をちらつかせてくる。幼なじみとも相棒とも異なる初心な姿を愛らしいと思う反面、相手が内に秘めているもどかしさをバンビも肌で感じていた。まさにそれが露わになった瞬間に直面して、自分はどうしたらフリオに寄り添ってあげられるだろうか。少なくとも、このままいつまでも照れているわけにはいかなかった。

    「フリオ。無理に俺を見なくてもいい」

     感情の認識もままならず、冷静な判断も下せない状態ではバンビの提案は諦念ではないかと誤って受け取られたらしい。すぐさま異を唱えようと動くフリオの速度を上回る制止をかけ、バンビは真意という名の己の欲望を繋げる。

    「でも、見ていて欲しい」

     フリオに見つめられるのは好きだし、視線を交わすのはもっと好きだ。たとえ自分では直視するのが照れくさい機微まで悟られているとしても、相手がフリオであるからバンビは全てをひけらかしたいとさえ思える。赤みの引かない顔つきで宣言したところで恰好もつかないが、きっとフリオは笑い飛ばしたりはしないしバンビの本心から生じたものだと目を合わせれば理解するだろう。
     フリオが愛されることに慣れていないと感じているなら、より長い時間をかけて教えていくだけだ。無理強いはしたくない。ただ、愛することと同じように愛されることが彼にとっての当たり前であって欲しい。

     はっと息を呑む音が間近で聞こえた。両者を隔てていた日除けの掌もいつの間にか取り払われている。バンビが見つめ返すとフリオは眩しそうに目を細め、何かを噛みしめるように下唇を噛む。もう感情の答え合わせは必要なかった。バンビはその表情を同意と捉え、フリオの頬を包み込んでそっと唇を塞ぐ。ただ体温を重ねるだけの口づけを反復していると、フリオもバンビの後頭部を掻き抱いてその触れ合いに没頭していく。
     徐々に力加減が逆転を始める。フリオが積極的にキスを貪り出したのだ。触れるだけだった唇は明確にバンビを求める意志を持ち、不意を突いたフリオの舌が咥内へと侵入する。舌遣いからは傍若無人に暴れないようにと多少の心配りが窺えるものの、ラブ&ピースに生きる男の稀有な暴挙にバンビの口からもくぐもった声が溢れる。お互い息を継ぐのも苦しくなり、荒々しさを増す呼吸を喉元に留めておけない。じっとりと湿ったバンビの口の端から呑み込むのが間に合わない涎が顎にまで伝っていく。それもすかさずフリオが丁寧に舐め取り、てらてらと濡れた舌先に伝う銀糸で二人は結ばれている。

    「バンビ……っ」

     呼び声はまるで悲鳴のようだった。自分がどんな顔をさらしているかすらも今のフリオにはどうでもいいのだろう。なりふり構わずバンビに縋りつく仕草が褒められるのを待っている子供のように思えて、やんわりと頭を撫でると熱に浮かされて潤んだ瞳がくしゃりと歪んだ。

    「もっと、見つめてくれ……」

     切なる願いは吐息で掻き消えてしまいそうなほどに弱々しい。だからこそバンビは堂々と、お前への愛に嘘偽りなどありはしないとたった一人のパートナーを真っ直ぐに見据える。フリオは一瞬怯んだように瞠目したが、今度は視線を逸らされることはなかった。
     バンビがフリオにしてやれるのはただ一途に誠実な愛を向けることだけだ。真実を映す眼が巡り巡って愛しい人の身を焦がしてしまわぬように、彼の胸中に巣食う歯痒さだけを溶かしていけたなら。そんな想いを込めながらもたれ掛かる体躯を抱きしめ、互いの温もりを持ち寄るだけの優しい頬ずりをした。


    (2025.08.03)


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