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    kyk_tksn

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    12月1日の我犬で頒布予定の新刊小説サンプルです。
    11月5日より、Xにてお取り置きを受け付けております。

    #零晃
    reiko

    Premium Order!※晃牙くんがお酒を飲める年齢設定になっています。
    ※ドラマの相手役で既婚者のモブ男がでます。

    アイドルになろうと思ったきっかけはなんですか?

    「………」
    近々出演するバラエティ番組の事前アンケート。次の移動までの間に偶然空き時間ができたから、早めに回答しておこうと思って目を通していた。
    「なあ羽風先輩、こういうアンケートって正直にそのまま答えるべき?」
    「ん?どれ?」
    「今度、俺様と羽風先輩が出演するバラエティのやつ」
    「ああ、俺もやらなきゃ。変な項目でもあった?」
    「いや…」
    「嘘つくと、数年後同じ質問に答えたときに矛盾が起きちゃって、ファンの子たちが混乱すると思うよ」
    「だよなぁ…」
    「いいじゃん。晃牙くんが、零くんをきっかけにアイドルを目指したことなんてもうみんな知ってるし」
    「………」
    「長く活動するつもりなら、嘘はつかず誠実に答えるべきだと思うよ」
    「…わかった」
    こんな質問、今まで何度も答えてきた。恥じらいもなくバカ正直に答えてきたけど、最近になってやっとためらいが出てきた。でも、羽風先輩の言うとおり嘘をついてファンのみんなを嫌な気持ちにさせるくらいなら、自分の恥を晒していた方がいい。

    朔間零が、アイドルだったから。



    朔間先輩と新曲について打ち合わせをしていると、ふいにスマートフォンの通知音が鳴った。
    「あ、今日バラエティ番組の放送日だ」
    「ん?薫くんと収録に行ったやつかえ?」
    「そう。テレビつけていいか?」
    「うん。ついでに少し休憩しよう」
    ミーティングルームに設置してあるテレビをつけると、タイミングよく羽風先輩が映った。
    「それでは次のコーナーにまいりましょう!大人気アイドルユニット、UNDEADを大解剖していくコーナー。本日は羽風薫さんと大神晃牙さんに来ていただいています!」
    「よろしくお願いします」
    賑やかに番組が進んでいく。メインゲストだったこともあり、たくさん映っていたし、発言したこともそのまま使われていることが多くて嬉しかった。
    「この時の晃牙の髪型、新鮮でいいのぅ」
    「そうか?」
    「片方編み編みしてる。次のライブの髪型これにしたらどうじゃ?」
    「覚えてたらな」
    収録したのはもう1ヵ月くらい前で、どんなことを話したか詳細まで覚えていなかった。
    だけど、司会者が「10の質問のコーナー!」と声高に言って、ハッとした。
    「も、もう満足した!新曲の打合せに戻ろうぜ!」
    「え?自分が出た番組はいつもしっかりチェックしておるじゃろ?観終わってからでいいぞい」
    「いっ、いいって!」
    「…そう言われると観たくなるものじゃよ」
    質問は流れるように進んでいき、俺様が朔間先輩に見られたくなかった質問にたどり着いていた。
    「次の質問です。アイドルになろうと思ったきっかけはなんですか?こちらは大神さんに回答していただきました。回答はこちら!朔間零がアイドルだったから!」
    恥ずかしくて顔が上げられなかった。キャ~!という観覧客の歓声が恥ずかしさを倍増させた。
    「これを観られたくなかったのかえ?」
    「………」
    「こんなのインタビューで何回も聞いておるけど…」
    「うるせ~!恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ!」
    「そうかえ」
    テレビの向こうの俺様も恥ずかしそうに話していた。朔間先輩に憧れて同じ高校に入学して、アイドルを目指して、UNDEADとして同じユニットで活動できていること。目も耳も塞ぎたくなる気持ちはあれど、テレビを見つめることしかできなかった。
    「我輩と出会っていなかったら、晃牙はアイドルになっていなかったかのう」
    「…あ?」
    「元々アイドルが好きだったわけじゃなかろう?」
    「そうだよ。俺様が好きなのは朔間零で、朔間零がたまたまアイドルだっただけだよ」
    「あのライブハウスで出会っていなかったら…」
    「音楽を仕事にすることはなかったかもな」
    「そうかえ」
    「…なんだよ?」
    「別に。あ、コーナー終わっちゃった」
    「この後はもう俺様たちは出ね~よ。曲づくりに戻ろうぜ」
    「うむ」
    朔間先輩に憧れてアイドルになったことなんて、俺様も、朔間先輩も嫌になるほど知っている。だけど、朔間先輩からこんなことを言われたのは初めてで、なぜか頭に残った。

    突然、アイドル養成学校に入学したいと言い出した俺を、両親は必死になって止めた。時には怒り、時には泣きながら引き止めた。至って普通の高校へ入学し、平々凡々な毎日を送り、大人になると思っていたのだろう。俺だって朔間先輩に出会うまではそれでいいと思っていた。いや、つまんね~けどそれしかねぇって自分の理想に蓋をして納得しようとしてた。

    だけど、そんなときに朔間零に出会ってしまった。

    何度も話し合いを繰り返して、中学の担任まで交えて何回も三者面談をさせられて、何度も何度も両親を泣かせた結果、俺の意志が覆らないことを悟って夢ノ咲学院への入学を許してもらえた。
    朔間先輩はそんな過程を知るはずもないのに、UNDEADとして本格的に始動する頃、両親にきちんと挨拶をしてくれた。ライブの関係者席に両親を招待して、終わってから楽屋に来てもらって、そこでユニットリーダーとして誠実に挨拶をしてくれた。二歳しか年が違わないのに、大人に見えたことをよく覚えている。
    それからもう何年も一緒にいる。毎日のようにこの人のことを考えていた。毎日のようにつきまとっていることもあった。時間を積み重ねて、関係も変化した。今では同じユニットに所属し、同じステージで歌っている。

    あの頃の俺からしたら十分なはずなのに。贅沢すぎるはずなのに。
    いつからか、それだけじゃ満たされない自分がいた。

    (中略)

    「つかぬことを聞くが…薫くんは、晃牙が我輩と出会っていなかったらアイドルになっていなかったと思うかえ?」
    「え?なに急に」
    「どう思う?」
    「え~?まあ…アイドルはやってないかもね」
    「ふむ…」
    「でも、あの子が社会に馴染むのもむずかしそうじゃない?サラリーマンの晃牙くんとか…想像つかない」
    ネクタイを締めてスーツを着た晃牙を想像したのか、薫くんはおもしろそうに笑った。
    「けど、普通の毎日を送っていたら案外ちゃんとそうなるのかもね」
    「スーツを着て挨拶まわりする晃牙?」
    「そうそう。で、なに?なんか変なこと考えてるの?」
    「そういうわけではないんじゃけど…」
    「ふ~ん?ていうか、まさか今の質問、晃牙くん本人にしてないよね?」
    「えっ」
    「うわ~、したんだ。あ~あ」
    「え?なんで?ダメじゃった?」
    「ダメじゃないけどさ、なんか勝手に深読みしてそう」
    「えぇ?けど、その後も普通じゃよ?」
    「なら平気なんじゃない?晃牙くんの繊細な部分って、まだよくわからないんだよね、俺」
    「我輩もよくわからない」
    「ね。あ、俺そろそろ行かなきゃ。零くん夜はオフだっけ?」
    「晃牙にギターを教える約束をしておる」
    「そっか。晃牙くんによろしく。じゃあね」
    薫くんを見送って、コーヒーを一口味わった。真っ黒な水面に、ここにはいない晃牙の姿を思い描く。

    晃牙には、アイドルの素質も才能もある。
    歌もギターも上手で、運動神経もよく、お顔はもちろん整っている。記憶力もよくてファンの顔はすぐに覚える。本人は排他的なのに気が付けば人が集まっていて、自分で野菜を育てたり、動物愛に溢れていたり、知れば知るほど魅力的な人柄で、恵まれすぎた素質と才能だと思う。
    同時に、それらはアイドルじゃないところでも活かせたんじゃないかと思うことがある。そう、例えば、普通の高校に入学して、普通の大学に進学して、普通に結婚して幸せな家庭を築くような。広いお庭つきの赤い屋根のおうちで、奥さんと子どもとレオンくんに囲まれている晃牙は容易に想像できる。彼は、人を幸せにできる子だから。

    そういう未来から少し逸れた道に進ませてしまったのは、他でもない、我輩だ。
    晃牙や、晃牙のご両親や、晃牙の幸せを願う人たちに、申し訳ない気持ちを抱くときがある。

    (中略)

    彼にエスコートされるように手を引かれ、司会者の隣に並んだ。この2人が恋人同士で、ハグやキスをしているなんて想像できなかった。
    っていうか、なんか近くないか。腕がくっつくほど近寄って立つ意味はないはず。それに、いつもなら晃牙が離れそうなのに、なんの疑問も抱かず自然にそうしているように見える。その姿だけは長年連れ添った恋人同士に見えた。
    「大神さんの恋人役ということで、いかがですか?」
    「嬉しいです。もともと晃牙くんみたいな女の子が好きなので感情移入しやすいですし」
    「俺様みたいな女の子…?」
    「素直じゃないところとか」
    「そうなんですね!お二人は初共演ということですが、大神さんの印象はどうですか?」
    「こんなに恥ずかしがり屋で可愛い方なんだって驚きました。共演が決まったときにUNDEADさんのライブ映像を拝見したんですけど、全然違いました」
    「可愛いとか言うなよ!」
    「あと、見た目よりほっぺが柔らかいです。晃牙くん」
    「ぎゃっ」
    急に晃牙の頬をふにふにとつねった。我輩がやったら手をはたき落とされるだろうに、大した抵抗もせずされるがままになっている晃牙に思わず首をひねった。
    「恋人同士なので作中で触れ合うことが多いんですけど、ほっぺが柔らかいのと、あと抱きしめたときに思ったより細いのが印象的でした」
    「きゃ〜!これはドラマがますます楽しみになりますね!」
    「はい!ご期待ください!」
    「サプライズ出演ありがとうございました〜!」
    「えっ、これで終わり!?」
    「うん。次の仕事があるからね。そこでも宣伝してくるよ」
    「そっか。これだけのためにありがとな」
    ご丁寧に晃牙が座っていたイスまでエスコートし、座らせてから彼は爽やかに去って行った。

    トークが終了し、歌披露のためにセット転換をしている間、一旦カメラが止まった。言わなくてもいいのに言わないと気が済まなくて、つい晃牙に話しかけてしまった。
    「…晃牙、なんか我輩のときと全然違った」
    「は?なにが?なんの話?」
    「我輩がほっぺた触ったら怒るじゃろ」
    「怒るだろ、それは」
    「でもさっきは怒ってなかった。手繋がれたのも全然抵抗しないし」
    「あれは…ドラマの話してるときだったから、役に寄った方がいいかなって思って」
    「本当は嫌だった?」
    「嫌…?じゃね〜けど。撮影で慣れたし」
    「嫌じゃなかった…」
    「…なんだよ?」
    「じゃあ我輩のも嫌がらないで」
    「は、」
    反論される前に、頬に触れた。晃牙の頬が柔らかいことなんて、彼が知るよりずっと前から知ってる。晃牙は顔を背けて逃げるかと思ったけど、一瞬驚いたあと不服そうな表情を浮かべたままいい子にしてくれた。
    「………」
    「…な、なんなんだよ」
    「かわゆいのぅ」
    「………」
    「晃牙の頬が柔らかくて、腰が細いことくらい、我輩だって知っておるよ」
    「…なに対抗してんだよ」
    「さあ…?」
    自分でも説明できない。他人が晃牙の頬に触れているのを見たら、我輩も触れたくなったから触れた。それだけ。

    (中略)

    俺はあの時の朔間先輩を何回も思い出して、あれが本当に起こったことだって縋り付いていたいのに、記憶から消したい出来事なんだ、あの人にとっては。
    それなのに、あと二週間も同じ部屋で過ごさせなくちゃいけないのが申し訳なくて、羽風先輩に相談を持ちかけた。この人なら事情を詳しく話さずとも汲み取ってくれるから。

    事務所はすぐに対応してくれて、その日の夜には俺様と羽風先輩の荷物は綺麗に交換されていた。
    「おかえり、大神」
    「アドニス…急にわり〜な」
    「大神が謝ることじゃない。羽風先輩が、朔間先輩と同室の方が打ち合わせとかがしやすいと言ったのだろう」
    「あ…ま、まあな」
    どこまでもお優しい先輩だ。朔間先輩には効かない嘘だろうけど。まあ、あの人は俺様と同じ当事者だし、理由なんて察するだろ。
    朔間先輩はその後もなんで部屋を交換したのか俺様に聞いてこなかった。いつもなら聞いてきそうなもんだけど、聞いたことで俺様が変なことを言い出したらもっと気まずくなるもんな。聞かれなくて良かった。
    聞きたくないほど忘れたいんだな。

    俺は、朔間零に居場所を与えたくてUNDEADを作ったはずなのに。
    勝手に死んでんじゃね〜よ、一緒に生きてくれよって、それこそ勝手な願いを押し付けて。人に頼まれたら断れない性格だからか、別に理由があったのかは知らないが、朔間先輩は本当にUNDEADを居場所にして、今も、これからも生きる場所にしてくれている。
    それなのに、勝手な好意を向けて、あの人からしたら、なかったことにしたい夜を過ごした。俺様が気まずくさせちまった。この過ちから目を逸らして、あの人に気をつかわせて、俺様だけ楽しく幸せにUNDEADとして居続けるなんて許されね〜ってわかってんだ。

    「昨日、ご連絡した件で話がしたいです」
    リズムリンクの会議室にそこそこ偉い人間を呼び出した。俺様が直接連絡することなんて一度もなかったから、向こうもこれまでの経験からどういう用件かわかっている様子だった。

    「ユニットを脱退する場合って、どのくらい前に言えばいいものなんですか」

    これは、覚悟が足りなかった罰だ。

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