フル傭供養荘園が春であろうと、この場所にはいつも雪が降り積もる。
直接的に寒さを感じることはないが視覚的な気持ちから、参加する者サバイバー、ハンターを問わず衣服を多く着込むことが多い。
着膨れて動きにくくないかと思うと同時に俺自身もいつもの服で居る気にはなれず、上下長袖の中でまだ視認性の高くない物を着ることにした。
とはいえ、あまり、この灰色の軍服は好きではない。
試合自体は俺の肉壁もあって三逃げが確定し、後は俺がハッチ逃げをするかゲートから出るか、諦めて投降するかだったが追いかけてきていたフールズ・ゴールドが突然提案を寄越した。
『どうせ負けで追いかける気にもなれないから、ぐるっと一周してから出て行って』
この言葉通りにする義理はなかったが何となくそれを受け入れた。
負けて嫌な思いのままハンター達の集まりに戻りたくないだろうし、サバイバーとしてこちらにも戻りにくいのだろう。
一人になるにはマップに誰かを残したまま気が済むまで居るほうが手っ取り早い。
俺が同意するとフールズはすぐに赤いストールを翻し、工場の方へと向かっていく。
あちらは確か地下室があったからそこで一人悩むのだろう。
それを見送ってからクリスマスツリー付近の箱を開ける。少し戻って板付近、更に奥へ行って朽ちた壁近く。今日のハッチはここだったのか。
アイテムを三つ抱えて中央より工場の前に行く。工場入り口にある箱も開けてアイテムを置いた。
それから小屋の方に向かって歩きひとつ、月がよく見えるゲートあたりでもうひとつ、月側奥に進んでもうひとつ。計七つの箱を開けてそれをひとつずつ足音に気を付けながら地下室へ運んだ。
注射器、香水、肘あて、マジックステッキ、リモコン、ラグビーボール、ライト。
多様なアイテムを運んでから声をかけると地下室の奥、窪んだ所にいたフールズが顔を出した。
「なに…俺もうやる気ないよ」
「プレゼントを持ってきた」
「……はは、馬鹿じゃないの。俺でもアイツでも使えないのに」
元より悪い顔色が一層落ち込んでいたが足元に散らばるアイテムを見て馬鹿らしくなったのか少し笑った。
左手をかざして俺の近くに金色の大きな石を形成すると、あまり似合わないポーラーハットをその石に被せ置いた。
綺麗ではない床にどっかり座ってアイテムを適当に手に取り遊んでいる。
その横に腰を下ろすと赤いストールがかけられた。
当然俺には大きくて体がすっぽり埋まる。余程その姿が間抜けだったのかフールズはまた笑う。
「あげるよ、それ」
「このマップだとよくこれを着ているな。寒いのか?」
「まさか。…いつか失血死するアンタに被せたかっただけだよ」
冗談か本気かわからない言葉を笑いながら言う。
雪は本物ではなく、気温だって低いわけではない。
だが確かにかけられたストールは暖かく体を包む。
ぽすりと身を寄せてフールズにもたれるとアイテムをいじっていた石の手がこちらに伸びて頬をつつく。
「うわ、うるさいカラスが来た。そろそろ出よう」
「――そうだな」
遠くからカラスが俺を探す声がする。
ガラガラと音を立てて石が崩れたのでちょうどいいとばかりに立ち上がる。
ツリーが飾られているゲートまで見送られ、ストールをそっとフールズに差し出すと身を屈めてきた。
その肩に元通り巻いてやり体温の低い鼻先を擦り合わせると薄ら笑みを浮かべていた口元がわずかに動いた。
「またな。次も泣かないように」
怒られるより先に肘あてを壁に当ててゲートより出る。
次の試合はきっとボロ負けするのだろうな。どちらがとは言わないが。