Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ksg000ksg

    @ksg000ksg

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 4

    ksg000ksg

    ☆quiet follow

    前回の続きです
    ネロファウネロ(友情より百合風味)(どっちも女体化)学パロ
    ブラネロ♀匂わせ、アレク匂わせ(?)があります。

    屋上にてその日、普通科Dクラスは僅かに騒めき立っていた。何故ならば、いつもなら見かける事のない物珍しい来客が訪れたからだ。
    教室の入り口に立ち、ひょこりと中を覗いているのは特進科の女子生徒、ファウストだった。
    完全に校舎を隔て隔離された特進科の生徒は色違いのブレザーはただでさえ人目を引くというのに、その制服に身をまとった女子生徒が呼び出したのは普通科校舎きっての不良グループに属しているネロだったのだ。
    特進科のブレザーを一切着崩すことなく身にまとった優等生然としたファウストに、校内きっての不良グループに属しているネロ、どう頭を捻ったとしても接点を見いだせない二人であった。
    ネロはクラスメイト達の不可解そうな視線を気にすることもなく、教室の入り口に佇むファウストのもとへと歩み寄っていった。

    「どう?調子は。」
    「お陰様で本調子に戻ったよ。これ・・助かったよ、本当にありがとう。」
    ファウストが差し出した紙袋にはきっちりと綺麗に畳まれた上着のほかに、上品な包装紙に包まれた小箱が入っていることにネロは気が付いた。
    ネロが紙袋の中身に気が付いたのを見て、ファウストはどこか照れ臭そうな表情を浮かべている。

    「その、お礼だよ。良かったら・・。」
    「あー、気ィ遣わせちまって悪いな。けど、ありがたく頂くよ。」
    ネロが差し出された紙袋を受け取り笑うと、ファウストはどこか緊張が解けたようにほっと胸を撫で下ろした。
    昼休みも始まったばかりの時間で、受け取るだけでさっさと帰してしまうのもそっけないだろうかとネロは考えたが、物珍しい来訪者に通りすがりの生徒に視線を投げかけられ、ファウストはどこか居心地が悪そうな素振りを見せていた。

    「そうだ。アンタさ、昼は弁当?」
    「いや、これから購買部に寄ろうと思っていたけど・・?」
    質問の意図がわからず戸惑った表情を浮かべるファウストに、ネロはニッと笑いかけた。
    「そりゃちょうど良かった。じゃあさ、どっかで一緒に食わねぇ?弁当多めに作ったんだけどさ、肝心の食う係がフケっちまって。」
    「ふ、老け・・・・?」
    規範的な生徒であるファウストは聞き慣れない単語に首を傾げた。
    「あー・・サボって・・その、帰っちまったんだよ。それで弁当が余ってんの。よかったらさ、食べるの手伝ってよ。」
    ネロの机の上に置かれた大きなランチボックスの包みは到底一人で食べ切れるものではない。いつもは仲間達と食べていたのだが、昼休みになって彼らが放課後を待たずに帰路に着いてしまったのだ。
    つい数分前までは連絡もせず校舎から姿を消した幼馴染への苛立ちを募らせていたネロであったが、それが却ってファウストを引き留める体の良い理由になってくれた。
    真面目そうな彼女ならば、こちらが困っているのだと言えばきっと断りはしないだろう。
    小狡いやり方だと自覚していたが、それでもネロはファウストを留めたかった。
    ただ一度だけ、通りすがりに世話を焼いただけの間柄だというのに、なぜだかネロは不思議とファウストのことが気にかかってしまっていたのだ。

    「それなら手伝わせて貰うよ。・・けど、どこで食べるんだ?」
    予想通り、ファウストはネロの提案にどこか躊躇いながらも頷いた。けれど、普通科の生徒で溢れる教室の中で食べるのだろうかとどこか不安気な表情を浮かべている。
    ネロはそんなファウストの居心地の悪さ見抜いているのだろう、きょろきょろと遠慮がちに周囲を見回す彼女に向かい笑いかけた。

    「いつも仲間連中と行くとこがあるんだけどさ。今日は全員帰っちまったし、そこで食べようぜ。」
    人の行き来が多いこの場所に居続けるよりも良いとファウストは迷いなく頷くと、学生の弁当にしては大きな包みを持ったネロの後に続いた。
    普通科の校舎のさらに奥へ進むと人影が少しずつまばらになっていく。特進科の生徒であるファウストにとっては初めて立ち入る区域で、きょろきょろと物珍しげに辺りを見渡していた。

    しばらく歩くと、二人は廊下の突き当たりの階段へと行き着いた。ネロは慣れた様子で階段を上ると、薄暗い踊り場に佇む扉のノブを捻る。
    ギ、ギ、と立て付けの悪い錆びた鉄が擦れるような重い音を立てながら開いた扉を潜ると、遮るものもなく突き刺す日差しの強さにファウストは思わず目を細めてしまった。

    「屋上なんて初めて入ったよ。特進科の方には鍵がかかってるみたいだけど普通科は違うんだね。」
    「いや、かかってたんだけどさ。鍵かけても壊して入る馬鹿がいるからって常時開放されるようになった訳。センセーたちも大変だよなぁ、言う事聞かねぇ奴ばっかりでさ。」
    「・・君ね、堂々と入り込んでる張本人それを言う・・?」
    屋上を我が物顔で占領する張本人だというのに、まるで他人事のように教員に同情の言葉を向けるネロに、ファウストはじっとりとあきれたような視線を向けた。
    特進科のファウストにとっては、教師が禁じた場所に入ることなど生まれて初めてのことだった。ほんの少しの罪悪感と、未知の場所への好奇心に僅かに心臓が跳ねている。

    高台にある校舎の屋上には遮ることなく風が吹き抜け、ファウストの柔らかな髪をふわりと揺らし、僅かに高揚して火照った頬を心地よく掠めた。
    「・・気持ちがいいな・・。」
    「だろ?今日は気温もちょうどいいしさ、屋上日和だな。」
    ネロは慣れた様子でフェンスへ近づくとコンクリートの床へと座り込み、大きな包みの結び目を解きランチボックスの蓋を開いた。
    ファウストがランチボックスを覗き込めば、詰められた彩りの良いおかず達が目に入り、思わず感嘆の吐息を漏らした。

    「これ、君が全部作ったの?凄いな・・。」
    「どうも。見ての通り山ほどあるから遠慮しないで食べてよ。」
    女子高生が持参するには大きすぎるランチボックスいっぱいに詰められたおかず達はどれも食欲をそそるものばかりだ。
    ネロが差し出した紙の取り皿と割り箸を受け取ったファウストは、遠慮がちに箸を伸ばした。

    「どれを選ぶか迷うな・・。どれも美味しそうだから。」
    「はは、ありがとな。今日は横から摘まんでくる奴らもいねぇし、ゆっくり選びなよ。」
    遠慮があるのも確かだが、それよりも何品も並んだ食欲をそそるおかず達が却ってファウストを迷わせている。
    いつもならば我先にと一切の遠慮もなく箱の中身を食べつくす相手と昼食を共にしていたネロにとって、蓋を開いた後にも整然とした見た目を保っている弁当を見るのは珍しいことだった。

    「こんなに沢山作るのは大変だろう。それなのに作って貰って連絡もないなんて、きちんと怒ったほうがいいんじゃないのか。」
    「まぁ、そうなんだけどさ・・。アイツ、怒ったってちっとも聞きやしねぇんだよ。」
    呆れつつもどこか優しいネロの表情にファウストは思うところがあったのか、少し照れ臭そうにしながらもはっきりとネロに向かって問いかけた。
    「・・・・恋人なの?」
    ネロが”アイツ”と呼ぶ相手のことを異性だと明言していたわけではない。
    しかし、ごく短い間の付き合いとはいえ彼女が女子生徒相手をアイツと呼び、どこかぞんざいな扱いをすることはないだろうとファウストは考えた。
    それに、ランチボックスに詰められたおかずの量は到底女子生徒が食べる量ではない。唐揚げやカツなどのボリュームのあるおかず達はどう見たって男子生徒の為に作ったものだろう。

    「え!?えー・・っと、んー・・、まぁ・・そんな感じ・・?」
    ファウストの問いかけに、ネロは一瞬頬を赤らめ動揺したような表情を見せるが、すぐに何かを考えこむような微妙な表情を浮かべ、なんとも歯切れの悪い答えを返した。

    「その返事はなんなの・・。」
    はい、でもいいえ、でもないその返事に、ファウストは不思議そうに首を傾げた。恋人ならばそうだと言い、ただの友人ならば違うと言えば良い筈だと、ファウストはその曖昧な返事の理由を今一つ理解できない様子だった。

    (・・ヤる事はヤってんだけどな・・・・。)
    はっきりと付き合おうと明言したことはないが、居心地の悪い自宅から逃れるためにとほとんどの時間を幼馴染である相手の家で過ごし、とっくの昔に男女の関係になってしまっている。
    相手は少なくとも自分以外の女と関係を持っている気配はないが、それも確信がある訳でもない。
    改めて関係性を問われると、当の本人であるネロにとっても自信をもって恋人だと言い切ることは難しい。セックスフレンドと呼ばれるものなのかもしれないのだと、ネロはここで初めて自覚をしてしまった。
    名前のない曖昧な関係は気楽であったが、それを大っぴらにしては良くないということは世間的にあまりよろしくないことだということは理解している。品行方正を絵に描いたような優等生の雰囲気を纏うファウストには特にそうだろう。
    ネロはただ曖昧に言葉を濁しながら誤魔化すようにへらりと笑って見せることしかできなかった。

    「んー・・・・まぁ・・、多分・・恋人?」
    「また君はそんな曖昧な・・・・。」
    「いや、幼馴染でさ。なんか当たり前に一緒にいるからさ、付き合おうって言ったことも言われたこともねぇかなって・・。」
    幼馴染、と言葉を反芻するファウストの表情は、納得がいったようなものに変わっていた。
    「僕にも居たよ、幼馴染が。学校が分かれてほとんど会うこともなくなったけど・・。」
    自らの幼馴染について語るファウストの表情はどこか思い出を懐かしむような穏やかなものにも、通り過ぎてしまった過去に想いを馳せたどこか寂し気なものにも思えた。

    「・・そっか、まぁ学校が変わると色々あるよな。」
    ネロが当たり障りのない言葉を返すと、ファウストは曖昧に笑う。この話はここまでだと、声に出さなくとも二人は互いに察していた。
    何か事情があるのかもしれなかったが、そのことについて深く語り合うにはまだ二人の関係は浅すぎるからだ。


    「・・それにしても、いつもこんなに作ってくるの?二人でだってこんなには食べきれないだろう・・。」
    話題を変えようとしたのか、ファウストは二人がかりで食べてもなお半分以上中身が残る弁当箱の大きさについて言及した。
    「いや、つるんでる連中の誰かしらが摘まんでくるからさ。つい癖で作りすぎちまうっつーか・・。」
    幼馴染を慕う舎弟達が羨むたびに弁当箱に詰め込まれるおかずは増えていき、それでも足りないと弁当箱を大きくしていくことを繰り返し、気が付けばネロが毎日持参するランチボックスは女子高生のものとは思えないほどに大きくなっていったのだ。
    「・・それなのに無断で帰ってしまったのか、君の友人達は。」
    こんなに沢山の食事を作らせておきながら無断で校舎から出ていったことに、ファウストは再び顔も知らないネロの幼馴染への怒りを募らせていった。
    手間暇をかけて作った弁当を食べることもせず、無断で校舎を去ったということから、ファウストの中では名前も知らないネロの恋人の印象は地へと落ち切ってしまっていた。怪訝な表情で見つめられ、ネロは苦々しい表情を浮かべた。

    「いや、別に頼まれてる訳じゃねぇしさ。残った分は夜食わせとけば良いんだしさ。」
    「もっと怒ってみたらいいのに。君はちょっとお人よしすぎるのかもしれないよ。」
    「んー・・けど、俺も最近まで一緒になってサボってたワケだし、他人にどうこう言えた立場じゃねぇっつーかさ・・。」
    ネロの口からこぼれた”サボり”という言葉に、ファウストの瞳がぱちりと瞬いた。先ほどはせわしなく人が行き交う廊下にいたせいで言及する余裕がなかったが、二人きりの状況で聞き返す余裕が生まれたようだった。

    「サボり・・っていうのは何をするものなの?」
    優等生であるファウストにとって、体調不良でもない日に放課後を終える前に学校の敷地を出るということを想像もできないのだろう。未知の世界への好奇心があるのか、首を傾げながらネロに問いかけた。
    「まぁファミレスとかゲーセンとか・・あんまり堂々とうろついてても補導員とかに出くわして面倒なんだけど・・。けどまぁ、今頃揃ってどっかでケンカでもしてんじゃねえの?アイツらバカだからさ。」
    「・・君はなんで付き合わなかったの?」
    今までは一緒に連れ立っていたらしいネロが、今は彼らに付き合わずにいる。仲間達が連絡なく出て行ったということは、彼女がサボりに付き合わなくなったのは昨日今日の事ではないのだろう。

    「まぁ、俺もつい最近まではバカやってたんだけどさ。いい加減真面目に学生やんなきゃなって思ったわけ。いつまでも遊んでらんねぇし。」
    特別な出来事があった訳では無かったが、漠然とした将来への不安が芽生えたのだろう。ある日突然真面目に勉学に取り組まなければと思ったのだ。
    「アイツらも最初はしつこく誘ってきたんだけどさ、空気読み始めたのか最近は声もかけてこなくなった訳。」
    弁当が残るのは困るけど、と笑うネロがまだ半分ほど中身の残った弁当箱へと箸を伸ばす。同年代の女子生徒に比べて上背があり、どちらかといえば筋肉質なネロは平均的な女子高生よりも食事の量は多い。順調に箸を進めていくネロとは対照に、ファウストの食べる手はいつの間にか止まってしまっていた。

    「いいよ、無理しなくて。残りは夜に食べるし。」
    平均よりも小柄で華奢な体躯のファウストは見た目通り、あまり食事量は多くないようだ。そのことはネロも気が付いていたようで、空になった取り皿を引き取った。
    「ご馳走様、美味しかったよ。」
    「そりゃよかった。」
    弁当箱を入れていたトートバッグから水筒を取り出し、プラスチックのコップに中身を注ぐと食事を終えたファウストにそれを差し出した。

    「ありがとう。すごいな、お茶まで用意してるなんて・・。至れり尽くせりだ。」
    「貧乏性なだけだって。」
    コップに口をつけ、ゆっくりと中身を飲むファウストをネロはちらりと横目で眺めた。
    昼食を終え、コップの中に注いだお茶を飲み干してしまえばファウストを引き留めていた口実もなくなってしまうだろう。
    そもそも、彼女は上着を返すためにネロのもとを訪れただけで、こうして隣り合って昼食を共にしている状況自体が不可思議なものなのだから。
    お茶を飲み干してしまえば、特進科の校舎へ送り届けてそれでお終いだ。校舎も違う二人がこの先学校の中ですれ違う機会はそう多くないだろう。
    些細なきっかけで出会っただけの、普通であれば縁のない相手だ。
    けれど、もう少しだけ話をしてみたかった。ネロ自身も何故こんな気持ちになるのかはわからないが、それでも不思議と目の前の少女に惹かれ、引き留めたいと思ってしまったのだ。

    「なぁ。これ、中身見てもいい?」
    ネロは先ほどファウストから受け取った紙袋の中から”お礼”の小箱を取り出した。貰ったものを本人の目の前で開くのであれば許可が必要だろうとネロが問いかければ、ファウストはどこか照れ臭そうにこくりと頷いた。
    包装紙を丁寧に剥がし、濃紺の缶の蓋を開くと、中からは愛らしい猫の形を模したマシュマロと肉球の柄のクッキーが綺麗に詰められていた。
    「よく通っている洋菓子店のものだから、味も美味しいと思うよ。」
    「サンキュ。大事に食べさせてもらうわ。」
    贈り主であるファウストに改めて感謝の言葉を伝えたネロは、手に持った缶の中身を再びじっと見つめた。洋菓子店のものだというそれはひとつひとつが手作りなのだろう、それぞれの顔のパーツや表情が少しずつ違っていて不思議な愛嬌を感じさせるものだった。
    (めちゃくちゃかわいいな・・。)
    ネロの見た目や振る舞いから、こんなにも可愛らしいものを連想することはない筈だ。それならばきっと、これはファウストの好みで選んだものなのだろう。
    生真面目そうな彼女がこんな愛らしいものを選んだというギャップにネロの心はくすぐられ、口の端がむずむずするような感覚に襲われてしまった。
    ネロは小さな笑みを浮かべながら缶の蓋を静かに閉じると、包みなおしたランチボックスと共にトートバッグへと仕舞い込んだ。

    「・・それ、参考書?」
    トートバッグにランチボッスクを仕舞い込む様子を見ていたファウストが、一旦中身を整理しようと取り出した本の表紙に気が付き声を上げた。
    「ん?あー、そう。センセーがこれが分かりやすいって言ってたやつ。」
    サボリの常習犯であったネロがつい数か月前に心を入れ替え、周囲のきっと長続きしないだろうという視線を他所に昼食の後とアルバイトのない放課後の時間を真面目に勉強に費やしていた。
    熱心に取り組む彼女の姿に、いつの間にか教師もあれこれと世話を焼くようになり、勉強が苦手な彼女のために参考書などを進めてくれるようになっていた。

    「まぁ、あんまり捗ってねぇんだけど。バイトもあるし、家だと全然勉強なんかできねぇしさ。」
    「・・?家のほうがゆっくり勉強できるだろう。」
    アルバイトが理由で勉強が捗らないことに関してはファウストも理解が出来るが、家に居ては捗らないというネロの言葉には不思議そうに首を傾げた。

    「んー・・俺んちさぁ、兄弟多いし、うるせぇし、家に居たら家事ばっかやらされて勉強なんかできねぇからさ。せめて学校にいる間くらいは頑張んねぇとって思って。」
    ファウストは予想もしなかった答えに目を丸くした。教育に資金を惜しまない両親のもとに育ったファウストにとって自主学習の主な場所といえば自宅か学習塾だった。家事を手伝うこともあるが、定期テストが近づけばそれよりも机に向かうように促されていた。
    周囲の生徒たちもまた、幼いころから当たり前に勉強の習慣があるものばかりで自宅の環境が勉学の妨げになる家庭があることを知らなかったからだ。

    「放課後も時々残ってんだけどそんなに捗んねぇんだよなぁ。まぁ、元のアタマの問題なんだろうけど。」
    ネロのもっぱらの目標といえば定期テストで赤点を取らない、あわよくば平均点というものだった。恋人未満の幼馴染は留年寸前レベルでのサボりの常習だというのに、要領が良いのか不思議とテストの点数は軒並み問題がないのだ。反してネロといえば、慣れない参考書を懸命に読み込んで、真っ白だったノートにあれこれと書き込んでいるにも拘らず今ひとつ成績の伸びはよろしくない。

    「・・勉強、教えようか?・・君がよかったらだけど。」
    「え、マジで・・!?」
    予想もしていなかったファウストの申し出にネロは思わず声が上ずってしまいそうになった。
    しかし進学を目指しているわけでもなく、ただ赤点の常連から抜け出せさえすれば良いというぼんやりとした目標しか持っていなかったネロにとって彼女の申し出はありがたいが、受けるには躊躇してしまうものであった。

    「いや、めちゃくちゃありがたいんだけどさ、アンタの勉強の邪魔になんねぇ?特進って難しいんだろ、普通科なんかよりよっぽどさ・・。」
    「君の勉強を見るくらい、なんてことないよ。それに・・誰かと一緒に勉強するのは楽しそうだし・・。」
    自分の言葉に照れ臭さを覚えたのか、気恥ずかしさを誤魔化すように俯くファウストの頬には僅かに赤みが差している。
    吹き込んだ風が彼女の柔らかな髪をふわりと浮かせると、前髪と眼鏡に隠れた紫の瞳が顕になる。俯いた瞼を縁取る長いまつ毛をはっきりと見え、その繊細な顔立ちの美しさに思わずネロの視線は奪われてしまった。

    「・・なぁ、コンタクトにしねぇの?顔、見えねぇじゃん。」
    ファウストからの提案への答えを返すよりも先に、無意識のうちに言葉が溢れていた。
    こんなに綺麗なものを前髪と分厚いレンズで隠してしまうのは勿体無い。ネロの真っ直ぐな視線を受け、ファウストの頬が更に赤みを増していった。
    「突然なんなの・・。別に、眼鏡でも不自由してないよ。それに僕が眼鏡を外したところで・・。」
    着飾ることにさほど興味が無いのか、制服も校則をひとつも破ることなく身につけている。反対にネロは校則を守っているところを数えた方が圧倒的に早いだろう。
    自分の格好が人から見て推奨されるものでは無いことも、他人が口を出すべきことじゃないこともわかっているが、それでもこの愛らしい顔立ちが隠れてしまっていることがたまらなく勿体無いと思ってしまうのだ。
    こんなに可愛らしい顔立ちをしているのに自覚がないのだろうかとネロは首を捻る。どこか男勝りに見える印象とは違い、ネロは案外可愛らしいものが好きだった。自分には到底似合わないと遠ざけている可愛らしい洋服も、目の前の少女ならばきっと似合うだろう。
    そんな考えを頭の中でぐるぐると巡らせていたネロは無意識のうちにファウストの厚い眼鏡に指をかけ、するりと引き抜いてしまった。

    「うん、やっぱ可愛い。」
    厚い眼鏡を取り払えば、隠された大きな瞳がはっきりと見える。長いまつ毛に縁どられた大きな瞳はほんの少しだけ吊り上がっていて、やはり猫のような雰囲気を感じさせるものだった。
    「なっ・・!」
    「あ、悪い。勝手に取っちまって。眼鏡も似合ってるとは思ってんだけどさ。」
    かわいいかわいいと頷くネロの言葉に、ファウストは顔を真っ赤に染め唇をわななかせた。
    愛らしい顔立ちや華奢で小柄という可愛らしい容貌を持つファウストだったが、彼女の生真面目な性質の為か面と向かって他人から容姿を褒められることは多くないようだ。
    「そうじゃない!僕なんかに可愛いなんて・・。」
    抜き取られた眼鏡を取り戻し再び顔を隠すように身に着けなおすと、ファウストはすっかり赤くなってしまった頬を隠すように顔を背けた。
    賛辞の言葉に慣れていない彼女は、ネロの言葉にどう返答すればいいかもわからない様子で照れ隠しの言葉を繰り返している。

    「悪い悪い。なんかさ、猫みたいって思ったんだよ。初めて会った時も。」
    猫のようだというネロの言葉にファウストは照れ隠しの言葉をぴたりと止め、そのままぴたりと黙り込んでしまった。
    黙ったままのファウストの様子に、からかい過ぎたのだろうかとネロは不安気に眉を下げながらそっぽを向いてしまった顔を覗き込んだ。
    「もしかして、気分悪くさせた?」
    「・・別に、猫は嫌いじゃないから。」
    覗き込んだファウストの顔は真っ赤に染まっていて、分厚い眼鏡や前髪でも隠しきれなくなっていた。恥ずかしさが許容範囲を超えたのか、僅かに潤んだ瞳が再びネロの心をくすぐったがこれ以上からかってはいけない事を理解していたネロは、思わず口から再び零れ落ちそうになる”かわいい”という言葉をぐっと飲み込んだ。

    「・・それで、どうするの?勉強会。」
    ようやく落ち着いたのか、小さく咳払いをしながらくるりと振り返ったファウストが先程の提案への回答について尋ねる。
    ファウスト自身も心の何処かで過ぎた提案だと感じているのか、ネロを見つめる瞳はどこか気遣わし気に揺れていた。
    迷惑どころか、一人きりではちっとも勉強が捗らないネロにとっては僥倖とも言える有難い申し出だ。不安を取り払うようにネロは悪戯っぽく口の端を吊り上げ、不安気に見上げるファウストに笑いかけた。

    「それじゃ、お言葉に甘えさせて貰うかな。よろしく、“ファウスト先生”。」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😊😊😊😊😊🙏🙏🙏💖👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    ksg000ksg

    DONEネロ♀ファウ♀の学パロ、友情、ちょっと百合風味予定です。(ブラネロ前提)
    短編いくつか書くつもりだったのですが予想外に長くなってしまったので一旦ポイピクに・・。
    近日中にもう一本アップ予定です。
    全て揃ったらしっかり誤字脱字チェックして、まとめて支部にアップします〜

    ※女体化
    ※生理ネタ
    出会いとある日の放課後の事だった。
    ネロは帰りがけに偶然担任教師とすれ違い、ちょうどいいと授業の資料を準備室に戻すようにと言いつけられ、いつもならば殆ど用事のない特進科校舎へ繋がる渡り廊下を歩いていた。

    「物置くらいこっちの校舎にも作ってくれよなぁ・・・・。」
    溜め息混じりにネロは独りごちる。
    ネロの通う高校は学力の高い生徒が集められた特進科とそうではない普通科に分けられ、校舎と制服色ごとはっきり区別をされていた。
    出入口や東西で分けられたそれぞれの校舎には特別用事がなければまず立ち入ることはない。特進科に親しい友人がいるわけでもないネロにとってはまるっきり縁のない場所であった。
    日頃勉強に精を出す特進科の生徒のために教材の類のほとんどは第一校舎の準備室に保管されているらしく、ネロはずっしりと重い資料を抱えそれなりの距離を歩く羽目になっていたのだ。
    3305

    recommended works